ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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絶海の探偵〈畏れ、敬い〉

 

 本日は、最近恒例政府御用達の秘密のお部屋で話をしてるなり。

 

 相手は自衛隊情報保全隊員さんである。

 階級は海上自衛隊一等海佐、バリバリのお偉いさんで、名前は藤井七海さんと言うそうだ。

 

 俺はいつも通りあまり余計なことを喋らず後ろで座しているスタイル。

 堅っ苦しい正装の白のローブでバサリと椅子から垂らしている。

 

 降谷さんもまたハイパーボリアの正装だ。

 色違いの同型衣装。コスプレっぽいと降谷さんには不評だが、アトラック=ナチャの糸で俺が織った一点もの。

 

 そんな俺たちを見て緊張する藤井一等海佐が慎重に口を開いた。

 

「今月7日に発生した自衛隊員への暴行事案について。我々は、何者かが怪異を用いた疑いがあると考えております」

「概要はこちらも把握しています。隊員の意識消失、短期記憶の喪失。こうも多人数でガスの疑いも無いとなると、怪異を想定するのは当然ですが。それを『何者かが主導している』と考える理由がおありですか?」

 

 降谷さんの静かな問いかけに、藤井一等海佐は頷いて印刷した資料を開いた。

 

「全員、所属はイージス艦ほたか。偶然未遂に終わりましたが、犯行と時刻を前後して、内部データにアクセスしようとした経歴も残っています」

「荒っぽい犯行だ。腕のいいスパイではありませんね」

 

 降谷さんはゆるりと唇で弧を描いてせせら笑った。

 美しい、ゾッとするようなニャルニャルしい笑みだ。

 

 他国のスパイに対して苛立っているのだろう。

 加えて、ここまで派手に動き敵側に動きを捕捉されているスパイを本職として見下してもいるのかもしれない。

 

 怖い怖い。

 隠れ潜むのは俺も苦手なので、なんとなく居心地が悪くなる。

 藤井一等海佐が数枚の監視カメラの画像データをタブレット上に映し出した。

 

「これが撮影された犯行当時の映像です。カメラが暗く不鮮明ですが、どうぞ」

「………」

 

 動画には、火の玉のようなものがいくつもゆらゆらと揺らめいている。

 それは集団で相手を催眠状態に誘うダンスを踊り、ゆらめき、その神秘性を示しているようだ。

 この映像を見るだけでも、弱い人間は眩暈を引き起こすことだろう。

 

 それ即ち炎の吸血鬼。

 旧支配者クトゥグアの奉仕種族である。

 

 俺はややあってから口を開いた。

 

「炎の精。あるいは炎の吸血鬼と呼ばれるものだ。旧支配者クトゥグア、もしく炎の精の長フサッグァ信仰の者が呼び出したのだろう。炎の精は比較的弱く、扱いやすい」

「……危険性はあるのか?」

「水をかければ消せる程度の羽虫だ。だが、該当魔術師を捕える時自暴自棄になってヤマンソを呼び出されると面倒だ」

 

 炎の精を呼び出せるということは、同系統魔術であるクトゥグアの召喚は可能と見ていい。

 基本あれは生贄の量の違いだけだからな。

 

 ヤマンソはクトゥグアの別側面……管理されない本能そのものだ。

 クトゥグアの招来に失敗すると現れて、全てを貪欲に食い尽くす炎である。

 

 本能しかないから本当に面倒なやつなのだ。

 本体のクトゥグアさんをボコってもどうしようもないし、消しても消してもあらゆる物質を燃やして復活するし。

 

 物質を撤去して何もない無の空間を作って、そこで地道に火を消すしか無い。

 

 降谷さんは深刻そうな顔をして眉間に皺を寄せた。

 藤井一等海佐がきょとんとした顔で首を傾げる。

 

「水をかければ……それはどの程度の?」

「1匹につきバケツ三杯程度でいい。だが、奴らは多く、大抵群れる。延焼もあるゆえ、消防車をお勧めする」

「……となると、念のため消火設備の確認をする必要がありますね。とかく、追い詰めずに隙を見せずに対応いたします」

 

 彼女は頷いてここまでの話を素早くメモしたようだ。

 

 今回の事例は実に難しい案件になりそうだ。

 魔術師が何を考えてイージス艦を狙っているかはわからないが。

 もし本当に他国のスパイだとしたら由々しき事態である。

 魔術を使った犯罪、怪異を国家ぐるみで兵器化している案件とも言えるかもしれない。

 

 まったく、火遊びもほどほどにしてほしいものだ。

 気まぐれこそ少ないが、クトゥグアは慈悲深い神ではないのだから。

 間違って文明ごと燃やされてしまっては取り返しがつかないのに、軽々に手を出さないでほしい。

 

 藤井一等海佐が憂いを帯びた顔で俯いた。

 

「我々が憂慮しているのは、今月20日に控えるイージス艦ほたかの体験航海なのです。単なる中止では国民に何かあったのかと不安を与えかねません。できれば、通常通り開催したい」

「なるほど。我々に参加してほしいと。相談以上のことをするからには、今後我々に便宜を図っていただけると捉えても?」

「はい。これは自衛隊組織の総意とお考えください」

「わかりました。引き受けましょう」

 

 さらりと合意をとって話を合わせる。

 事前に確認していた事項でもあったから、この辺は特にあれこれ詰めることは無い。

 こうして降谷さんの権力が日に日に増大していくんだよなぁ。恐ろしい。

 

 短い会合を終えて、藤井一等海佐が一礼して部屋を出ていく。

 扉が閉まり切って足音が遠ざかっていくのを確認してから、降谷さんがネクタイを緩めてため息をついた。

 

「率直に言ってどの程度危険だ?そのヤマンソとやらが呼び出されたら」

「え。当然人類史焼却ですけど。俺が大火傷しながら頑張って大部分を消し飛ばしたら国家焼失で済むかなぐらい」

「なんで召喚禁止にしないんだ」

「クトゥグアと同じ通常召喚ルートに割り込んでくるからだよ。単体禁止にできない。他の旧支配者はハスターの瞳のデバフ機能で嫌がってくれるから、例外枠なんだよ」

 

 ただでさえ本能だけしか無いみたいな旧支配者にあって、クトゥグアの本能、ヤマンソは割と異質だ。

 もう本当に燃やすことしか考えてない。

 俺の権能全封じデバフを物ともせず突入して何もかも燃やそうとするし。

 ボコっても無視してとにかく燃えるだけ。害悪。悪口たくさん出てくる。

 

 炎タイプは別に意識してなくても生命に危害を加えてあかんのよな。

 

 というか生物にとって自分が有害と気付いてない奴が多いというか。

 炎の精も無邪気に遊ぼうと近寄って人間を燃やしたりするし。

 

 降谷さんは「考えただけで頭が痛いな」とため息をついたようだ。

 

「ともかく、どこの国の所属か知らないが、該当魔術師は術を使う間も無く制圧すればいい。情報を吐かせられないのは残念だが」

「まあな。スパイとしての腕はともかく、炎の精を召喚できる知識はあるわけだし。下手なことさせないのは重要なことだ」

「……まさか国家ぐるみで教えてて、その実運転で日本に派遣したとか無いだろうな?」

 

 自分で言っていて最悪すぎたのか、降谷さんがゾッとしたような顔で肩を震わせた。

 俺は両手で顔を覆ってメソメソする。

 

「無いと信じたい。もしそうだった場合、人類を守るために該当国は念入りに潰さねばならぬ…まったくイタズラ好きなネコチャァンよな」

「可愛く聞こえる表現やめてくれ。一ミリも可愛いポイント無いだろ」

 

 人間、昔から火遊び好きだから……。

 

 なんにせよ、俺たちは20日に海上自衛隊イージス艦ほたかの体験航海に参加することになった。

 それ自体は楽しそうだし、コナン君も楽しめるしいい知見になるに違いない。

 

「それにしてもあの自衛官さん怯えてたね……」

「当然だろう。美國島の件は民間人が近づかないように海上保安庁と海上自衛隊が共同で管理することになったんだ。つまり、内情も知っていると言うことだ。引かれてるにきまっている」

 

 そっけなく降谷さんが肩をすくめた。

 「神の名を気軽に考えていた連中をノーコストで一掃できて楽ではあったが」と皮肉げに笑う。

 

 俺は余計にメソメソして縮こまった。

 

「ネコチャァンに怖がられた……」

「いいことだろう。畏れは神の一側面だ。一神教の神ですら、時に理不尽に災いを起こす。人との節度ある関係のため、あれは有用なやり方だった」

「めっちゃシステマチックに褒めるやん…俺としては人間を甘やかすのと同じ延長線上の行為なのに」

「その事実の方が怖いんだが。神はどこまで行っても怪異という雰囲気を強く感じさせる」

「なにゆえ」

 

 俺はベソベソと丸くなった。

 なんにせよ、人間と平和にやっていけるならいいことだと思うしかない。

 

 これから会うたびに顔見知りのお偉いさんに恐怖されるのだと思うと、今から触手全部縮れそうだ。

 俺はブルーな気持ちで、ブツブツと降谷さんには文句を言うのだった。

 





・藤井一等海佐
今回の一件の責任者としてやってきた。
美國島の魚人地獄の件は海上保安庁、海上自衛隊の中でも有名であり、激怖神様、神って名前の怪異としてわりと政府を震撼させている。
そのため神との折衝の役割を「押し付けられた」とも言う。
恐ろしい神だ。悍ましい神だ。敬い、祀り、恐怖して遠ざけねばならない。
やっぱりあれは神だった。
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