本日は海上自衛隊イージス艦ほたかの体験航海当日である!
俺、降谷さん、諸伏さん、コナン君のいつもの組み合わせである。
何故か蘭ちゃんと園子ちゃん、毛利探偵が居合わせてびっくりしたけれどご愛嬌。
どうやら普通枠で十倍の倍率を突破して当選したらしい。
「すっごい奇遇ですね!」と蘭ちゃんはニコニコして嬉しそうにしてくれた。
もしかしたら危険かもしれないので、俺としてはヒヤヒヤなんだがな。
大会議室で体験中の注意事項の説明を聞く間、降谷さんが情報を共有してくれる。
『今朝、舞鶴湾で不審船が発見された件だが、やはり特殊な通信機器が発見されたそうだ」
『自爆用の爆薬に通信機器か。間違いなく本国との連絡用だな。設定の方は残ってたのか?』
『いや。消去されていた。国家特定は難しいが、想像はつくな』
『なるほど、スパイ天国は嫌になるな、全く』
スパイ2人が通じ合っているが、俺はよく分からなくて置いてけぼりである。
コナン君がのんびりパンフレットを開きながら「あ、そういや大阪の会合に出てた阿笠博士に探偵道具のレビューしとかねーと」と呟いた。
そういえば見覚えのない大きめの腕時計をしている。
降谷さんが興味深げにしげしげと時計を眺めた。
『それは新しい発明品か?僕らは頼んでないが』
『阿笠博士の自由研究。腕時計型念話通信装置。小型のスマホみたいなやつで、内蔵のUSBケーブルからデータの送受信もできる。誰でも機器を通して念話通信できるのが売りらしいよ』
『おい、絶対に外部に漏らさないよう注意してもらわないと困る。誰でも全世界秘匿回線じゃないか』
『俺ら本当に便利に使ってるよな、この念話』
しみじみと諸伏さんが頷くので、降谷さんが憮然として腕を組んだ。
言うて本当は念話も盗聴とかもできるんだけど、そんな知識のある人よほど探さない限り見つからないからな。
そもそもの念話自体難易度が意外と高いし。
俺の念話は盗聴阻害機能付きだから関係ないけどな!
俺鼻高々。
諸伏さんが「流石黄衣!凄い!」と持ち上げてくれる。
より鼻高々。無限に調子に乗る俺である。
そんな俺に全然興味なさそうにコナン君が質問を向けた。
『この体験航海はスマホを機内に持ち込めないことになってるけど、降谷さん達はどうしたの?』
『僕たちは特別に持ち込ませてもらっている。発信すればすぐイージス艦側に探知されるが、事前に伝えておけば問題ない』
なるほど、シンプルな解法だ。
と、そのあたりで不気味な異音がした。
毛利探偵が謎に立ち上がって動揺した様子を見せている。
どうやら船のバランスを保つためのポンプ、中排水装置が海水を吸い込んだ音のようだ。
こんな音がするんだなぁ、船の不思議だ。
その後は本日の目玉、戦闘訓練だ。
イージス艦の心臓部、CIC(戦闘指揮所)の見学と訓練風景見学である。
たくさんの機材とモニターに囲まれて、なんとなくSFチックな気持ちになる。
ハイパーボリアは船の文化があまり発達しなかったから、こういう高度な科学技術を積んだ船は俺としても感慨深い。
人類文明もここまで来たか、的な嬉しさと寂しさみたいな。
子供が成人した保護者の心境が近い気がする。
標的と仮定したものをレーダーで感知して、それを撃墜する訓練のようだ。
どこか俺の魔術の仕組みとも似ていて、人類文明の進歩を感じる。
これ、大まかに言えば、俺の「彼方より来たりて饗宴に列するもの」も同じ仕組みだからな。
魔術と科学という違いはあれど、根底に通ずる理念は一緒なのかもしれない。
そう思うと、少しだけ人の進歩が嬉しくなる。
画面の中のゲームのような丸い点が点滅して、それが命中したことを示す。
観客から歓声と「ゲームみたい!」という声が上がる。
人同士の争いがゲームでは困るが、なるほど確かに、その現実感のなさはゲームじみていた。
そのあたりのことである。
不意に、自衛隊員達がざわめきだした。
不明な熱源を感知したらしい。
この船の艦長──立石艦長というらしい──が急行して、CICの中央に立って指示を出す。
「画面出ます!」と隊員の1人が叫んだ。
アルファ目標、と銘打たれたそれの映像が画面にアップで映し出される。
画面上には、昼の空を焦がすような巨大な業火がぽつりと海に浮かんでいた。
火の精の長、フサッグァだ。
周囲には大量の火の玉、すなわち火の精が舞い踊っている。
催眠性の舞はまだ舞っていないらしい。
観客にも隊員にも気分の悪さを訴えたものはいなかった。
俺は素早くSAN値防壁を画面に展開する。
艦長が呆然と画面を見つめて口を開けた。
「これは……一体……!?」
『神よりの警告である。あれは炎の怪異。近づいた場合1100度程度の熱量攻撃がある。有効打は放水、または高圧電流。60リットルほどの放水が直撃すれば撤退する。物理攻撃は効かない』
「っ!?!?」
俺の念話を受けて、艦長さんが勢いよく周囲を見渡した。
誰が話しかけてきたかわからなかったからだろう。
乗客の中に俺の姿を認めて、その上でこの声が己の脳内に響いているのを理解して、艦長は息を呑んだようだ。
事前に海上自衛隊の方から共有があったようでなによりである。
何か言いたげにしたので、直感的に返事ができるように返事のための念話イメージを送信する。
『このように思念を送り出すようにすれば、言葉にせずとも伝わる』
『……この艦の消火器機は自身の内部の消火に使用するもので、遠方の敵に放水するようには作られていません。水が届くよう接敵した場合、敵の攻撃はどのようなものが想定されますか?』
『炎の渦を出力するだろう。本体と同程度の熱による遠隔攻撃である』
『っ、撤退するしかない…』
『炎の怪異、フサッグァは1日に一光年程度のスピードで移動する能力がある。撤退は現実的ではない』
どんなに頑張っても追いつかれるはずだ。
となると、観客を怯えさせず、何も予定外のことはなかったと見せかけるには……。
素人考えではあるが、俺は提案をすることにした。
『通常兵器にて攻撃するといい。演習するように。観客への見せ物のように。俺が加護を与えよう。それはすべからく祓われる』
『!!!っ、ありがとうございます…!』
ここはすでに戦場である。
ここまで黙りこくるだけで、もうすでにかなりの時間的ロスになっている。
疑問もたくさんあるだろうに、素早く判断を下した立石艦長は、62口径5インチ砲での砲撃を指示した。
慌ただしい隊員達の声とともに、艦砲射撃が準備されていく。
艦砲がぐるりと回転。
対象、すなわちフサッグァに向けられる。
フサッグァは人間と交信できる程度の知能はあるはずだ。
それでも特に何も言わず、何も対処せずつっ立ったままのは、たぶん召喚主に「ここで船を待て、近づいたら攻撃しろ」としか伝えられていないからだろう。
艦砲が発射される。
フサッグァはそれに構えるそぶりもない。
本来その程度のものに防御姿勢を取る理由もないからだ。
だが。
俺が加護を宿した段階で大きく炎が揺らめいた。
まさかこの星に許可なくやってきて俺が動かないとでも思っていたのだろうか。
……いや。
まあそう思っても仕方がないかもしれない。
クトゥグアだってフォーマルハウトへの侵入者にとやかく言わないから、その基準で考えていた可能性は大きいだろう。
俺が特に侵入者に厳しいだけだ。
「魂の撃滅」が込められた砲弾が直撃する。
フサッグァはこちらまで響くような大絶叫を上げた。
そのまま、ものすごい速さで地球上から撤退する。
あまりに早いため、画像では掻き消えたようにしか見えなかったぐらいだ。
逃げ足早ェんだよな。
「アルファ目標、消滅しました!」
隊員の声と共に、観客達に安堵の声が広がる。
あたかも訓練だったかのように担当官の井上さんが「これにて、戦闘訓練を終了致します!それでは皆さん、こちらへ進んでください!」と案内を出した。
降谷さんが「対応を任せてすまないな」と念話で俺に声をかけてくる。
コナン君も頷いて降谷さんの服の裾を引っ張った。
『この艦を事故に見せかけて撃沈することが狙いだったのかな?』
『……まだ何も言えないが。あれほどの怪物を召喚できるとなると、そうであってもおかしくはないか』
まだまだ召喚者には謎が残されたままだ。
俺はすでにその人物がこの船に紛れ込んでいることを知っているが。
どちらにしろ、狙いまではわからない。
面倒なことこの上ないわけである。
・フサッグァの受難
犯人「祖国のため、イージス艦の情報盗んでやるやで!」
フサ「地球に来て?あの危険なとこやろ?大丈夫やろか…?」
犯人「へーきへーき!おいでよ!」
フサ「ここで待て?ええけど…人間傷つけるのは嫌やで?あの超有名狂人に絡まれてまうし」
犯人「ちょっと鉄の塊燃やすだけだし!大丈夫!」
フサ「そんなら…お、なんか来た。近づいてちょろっと火をつけるだけ……」
フサ「ギャアアアアアアアアアア!?!?」
フサ「おそとこわい」