ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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絶海の探偵〈神域の魔術とは〉

 

 立石艦長の許可はすぐに下りた。

 心配そうではあったが、「犯人がまだ怪異を召喚して抵抗してくる可能性がある」と聞いておとなしく受け入れたようだ。

 

 乗客の安全を第一に考えたらしい。

 艦内に紛れ込んだテロリストが民間人を人質に逃亡、なんてあったら醜聞にも程があるからな。

 

 今、客達は甲板での宝探しゲームであちこちに散らばって船上の旅を思い思いに堪能している。

 

 コナン君がユウキ君をこっそり呼んで、何やらパンフレットのようなものを見る犯人から引き離した。

 犯人は気づいていないようだ。

 ユウキ君がうるうると瞳を潤ませて涙を堪えている。

 

 そのあたりで、全体アナウンスが放送される。

 

 『諸事情により、宝探しゲームは中止になりました。皆様、1階会議室にお集まりください』と打ち合わせ通りの文言で客達へと呼びかける。

 

 同時に、残っている客へと隊員らが呼びかけて、部屋に入るよう促した。

 

 そこでようやくユウキ君がいないことに気付いた犯人が焦りの様子を見せたようだ。

 隊員の目を盗んで周囲を探し始める。

 

 人が半分ほどはけたあたりで、俺は男の背後から声をかけた。

 

「お子さんをお探しですか?」

「!!……え、ええ。すみません。小学生ぐらいの子供なんですが、少し目を離した隙にどこかへ行ってしまったようで。ご存知ですか?」

「あなたのお子さんですか?」

「え、ええ。はい」

「赤の他人から、人質を兼ねて攫った子供ではなく?」

 

 男が一瞬目を見開いた。

 緊張の糸が引き絞られ、どこか疑うような窺うような声色で返事をする。

 

「嫌だなぁ。なんの話ですか?」

「雨宮勇気君のお父さんに関しては、今救助隊を向かわせています。今大人しく投降してもらえれば荒っぽい真似はしませんよ」

「…………ふざけやがって。客に紛れてガキを保護したのは褒めてやるが。炭化死体がご希望か?」

 

 嗜虐的な笑みで持って、男は重心を落とした。

 さて。お手並み拝見である。

 

 男が口の中で短い言を二、三、ワンフレーズに圧縮して口頭詠唱する。

 恐らく口内を魔術で弄って、最短で詠唱を終えられるように調整してあるのだろう。

 ほぼ秒にも満たない早技で召喚工程を完了させる。

 

 現れたのは、100ほどもいる炎の精の群れである。

 ガス状の生命体は直接攻撃を無効化するが、火の玉程度のサイズしかない弱い生き物だ。

 水をかけられた程度で沈黙する。

 炎の温度は割と高く、戯れ合う気持ちで人を灰にする危険なもの。

 

 召喚魔術としては恐らく人類最速レベルだろう。

 フサッグァの召喚なんて大技をしてなおここまでの余裕があるとは。

 まったく、悪用するには惜しい力である。

 

 昼の空の下ではほとんど目立たない柔らかな炎だが、人を燃やすには十分だ。

 他の自衛隊員が気付く前に処理するつもりなのだろう。

 

 炎の精が俺の方へと殺到する。

 

 俺は一つ頷いた。

 瞬間、俺に触れる直前にパチンという軽い音と共に全てが霧散する。

 まるで幻か何かのように炎の精が消え失せ、男が目を見開いた。

 

「ッ!?!?!?」

「割り込み干渉と送還対策が弱い。ダメじゃないか。召喚をメインウェポンにするならその程度しっかりしてないと」

 

 「馬鹿な!?」と混乱したまま犯人が畏れを含んで再び詠唱をする。

 

 今度は攻性魔術のようだ。

 この構成は「死の呪文」、別名「炎の破滅の呪い」だろう。

 対象を燃やし尽くすまで消えぬ炎を放つ、クトゥグア系列の呪文だ。

 それにしても素晴らしい速度とMP消費軽減である。

 原始魔術の欠点を補い、簡易さをそのままに極めて古エイボン式魔術に近しい性能まで持ってきている。

 

 破滅の炎が俺を包み込む。

 男が高笑いした。

 

「……ッおかしな防護アイテムを持っていたようだが、貴様もこれで終わりだ…!」

「見事、見事。構成の堅牢さも素晴らしかった。腕がいいんだな」

「!?!?」

 

 スルスルと炎が俺の手の中に集まっていく。

 圧縮されたそれを握りつぶして掻き消す。

 

 お遊戯会としてはなかなかの完成度であった。

 褒めてやらねばなるまい。

 

「でも、上を目指すなら物質を燃やすだけで満足してちゃダメだぞ。『死の呪文』はきちんと扱えば魔力防壁も魂も、形なき概念も燃やせるんだ。こうやって、こう。みえるかな?」

「………ぁ、……!!!」

 

 人差し指に灯すように、同じく「死の呪文」を構築する。

 低温の炎だが、これはニャルでも「熱っ!?」って言うことだろう。

 

 男は、現実を飲み込むのにしばらくの時間を要したようだ。

だんだんと、犯人の表情が絶望に染まっていく。

 

「おま、おまえ……!」

「さて。炭化死体になる件だけど。焼き加減に希望はある?」

「…っ待て!?とり、取引だ!お前ほどの魔術師がこんな小国にいるのは勿体無い!私と共に来ないか!?当局は歓迎するはずだ!」

「おお、逆勧誘。この展開は初めて。でも残念、俺の化身がこの国の熱烈ファンなのでお誘いは受けられないな」

 

 俺は火をふっと放った。

 男が情けない悲鳴をあげて身を縮め、己の体に咄嗟に防護壁を纏う。

 ここまで動揺してなお咄嗟に防護魔術が使えるとは、生粋の戦闘系魔術師だな。

 スパイや軍人にピッタリというか、そういうとこでしか使い道がないというか。

 

 その防護壁をビニールのように一瞬で溶かし尽くし、炎が男の体に触れる。

 

 「ひっ!」と恐怖に引き攣った声が響く。

 瞬時に炎が手錠、足枷へと変わって男をガチガチに拘束した。

 男を燃やし尽くすことなく、赤黒い色をした手錠がガチャリと金属の擦れる音を立てる。

 

「えー、逃げようとしたり魔術を発動しようとすると、その拘束具は本来の姿を取り戻し、貴方を燃やし尽くします。神妙にしましょう」

「………ッ」

 

 どさり、と緊張の糸が切れた男が腰を抜かして座り込んだ。

 術式が見えるだけに、よほど恐ろしかったらしい。

 

 召喚に特化しているのも考えものだ。

 ここまで腕のある魔術師なら、普通俺の正体に気づいて見た瞬間に戦意喪失しているだろうに。

 いまだに恐るべき腕の魔術師としか思ってないみたいだし。

 まあ、ダメ押しはしておくべきか。

 

 俺は男の耳元で囁いた。

 

「旧支配者に刃を向けて命があるその幸運を噛み締めるといい。わかるだろう?」

「!?!?ま、さか。そんな、………嘘だ。あの者らが、人如きの真似など」

 

 俺の瞳を覗き込み、その向こうに無理解のソラが見えたのかもしれない。

 男は息を飲み、大きく震えて。

 

 それっきり、愕然とした顔で沈黙したのだった。

 

 

 短い攻防が終わり、拳銃を構えた自衛隊員らが駆けつけてくる。

 彼らにスパイを引き渡せば俺のお仕事は終了である。

 

 あの手のスパイが単独で動くことは稀なため、協力者も探さねばならないが。

 まあひとまず、これ以降に俺が出る幕はなかろうよ。

 

 俺がダブルピースで降谷さん達の元に向かうと、降谷さんが気味悪そうな顔で出迎えてくれた。

 

「相変わらず意味不明なまでの魔術の腕だな。折り紙でサグラダファミリアを折ってるみたいなものだろうに」

「降谷さんは鶴折れるようになった?」

「『門の創造』のことを言っているならまだだが。いいんだ。俺は日本中にあらかじめ風を満たしておけばノータイムで転移できるのと同義だ」

『と、言いながら日夜練習して失敗して変なところに放り出されてるゼロなんだ』

 

 ほっこりした顔の諸伏さんを、降谷さんが恥ずかしそうに睨みつけている。

 コナン君が後ろで大泣きする勇気くんを慰めている。

 怖かったろうに、酷い犯人であることよ。

 

 降谷さんがやや訝しげに口を開く。

 

「なぜあんなに時間をかけた?君なら話す手間すらなく一瞬で奴を捕らえられただろう」

「自信を折っておこうと思って。ハイパーボリア後の魔術師って、『自分は人類より上なんだ!』みたいな意識が強いから、同じ魔術の土台で自信を折れば比較的おとなしくしてくれるかなと」

「なるほど。それは確かに、有効かもしれないな。魔術の神である君にしかできないのが癪だが。僕は君の化身だろう。パパッと使えるようにならないのか?」

「なりませんね。俺も宇宙三個分の研鑽の結果だし。頑張ってください」

「僕が上手くなる前に人類が滅びそうだ」

 

 降谷さんが大きくため息をついて肩を落とす。

 萎れる降谷さんには申し訳ないが、そこはまぁ、頑張るしかなかろうよ。

 

 そのように、スパイ騒ぎは一旦の落ち着きを見せたのであった。

 





・死の呪文(破滅の炎の呪文)
クトゥグアの抱擁とも呼ばれるが、クトゥグアは全然関係ない。
ハスター版は低温の小さな炎だが、ニャルに飛ばすと「あっつ!?我が夫が虐めてくる!」って怒る出来。
人間にはかなり難しいかも。一族が何千年も研磨を重ねる必要がある。
普通のやつを飛ばすと「なんですこれ?」って言いながら火でムニュムニュ遊ぶ。

・ハスターの歌
ハスターとは全然関係ない。
術者の歌声を聴いたものの肉を沸き立たせ悪性の膿に変える呪詛系魔術。
「俺の名前を変な魔術につけるのやめて!!!」
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