あれから、多少の騒動はあった。
大まかには船の注排水口から人の腕が発見されたことと。
竹川と呼ばれているスパイの協力者が関空から本国に逃げ出そうとした件があるか。
まあ、両者とも俺が出張るまでもない普通の事件だ。
俺は優雅にイージス艦の部外者立ち入り禁止スペースを見学させてもらって。
その間に降谷さんとコナン君が頭脳をフル回転させて解決したわけである。
俺が「イージス艦に興味がある」って言ったら、犯人逮捕のお礼に特別に見せて貰えたんだよな。
俺は人間じゃない神だし、背後関係がないのは確定だし見せても問題なかろうという判断だったのだろう。
新しい水上戦闘艦の導入も米国と共同で進んでいるというこぼれ話を聞きつつ。
いろんな場所を案内されて、俺は充実の時を過ごすことができた。
最後は艦長室で話を聞きながら、ふむふむと450分の1スケールでこの船を具現化した。
俺のせめてものお礼だ。
艦長が目を丸くして問いかけてくる。
「この『ほたか』のミニチュアですか?」
「ええ。どうぞ、案内していただいたお礼です。この船の完璧な写し身となっていて、一方向ではありますが船と連動して不具合を知らせます。船に不明な不調が出た時このミニチュアを見てくださいね」
「!………ありがとうございます」
艦長は両手でおずおずと受け取ってくれた。
なんとなく困ってるようにも見える。ちょっとお礼が軽すぎたか。
一方向同期だからミニチュアが破損しても問題ないようにはできている。
しかし同期が完璧だし、ガワを開ければ船員の動きも把握できる作りだ。
不具合は部位が赤く光って知らせてくれるし。
大まかにどこが傷んでいるかなどもすぐに把握できるようにもした。
材質にもこだわったし、飾って楽しんでもらえると嬉しいな。
ともかく、そんな話をしている間にも事件は万事解決していた。
俺達はお礼を言って客達に紛れて下船。
帰りの車で、降谷さんがため息をついてぼやいていた。
「あの男が吐いた件が少し厄介でな。この後黄衣君達を事務所に置いてから僕らは警視庁に行かせてもらう」
『お仕事の時間だな、すぐにどうこうって話じゃないけど、面倒極まりない』
「なにがあったの?」
コナン君の質問に、降谷さんが不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「あの手錠の威圧があるからかペラペラと吐いたんだが、どうもあの国は魔術の軍事利用に力を入れているらしくてな」
「………つまり、今回の犯人みたいな人間がこれから定期的に出てくる可能性がある?」
「ああ。奴も国に魔術知識を提供していたらしい。一朝一夕では人員育成はままならないとはいえ、今後頭の痛い問題になってくるだろう」
人対人、国対国の戦いで魔術が使われる危険性。
これは地味にあまりこれまでの歴史で見なかった戦いになるだろう。
ハイパーボリアでも縁のない分野だったんだよな、軍事魔術。
他国という存在がなかったし、外敵には俺が出てたから、他の生物を傷付ける経験自体が稀だった。
あまり人同士で争って欲しくないのだが、これもまた人の業というものか。
俺はううむと後部座席で腕を組んで、疲れてうとうとしている星の精を撫でるなどした。
「国単位だと正直現代兵器の方がコスパがいいから気にならないんだけどな。この情報が流出してテロに使われると凄く厄介だぞ」
「身一つで破壊と呪詛を撒き散らす、人間型の爆弾が例えば航空機内で炸裂したら、か。考えるだけでため息が出るな」
「魔術は人の洗脳と変装にも優れてるぞ!逆にいえば、現時点でも脳疾患の治療と美容は超得意範囲だ!」
「光と闇すぎる。いっそ禁止しろともいえない」
降谷さんが心底うんざりしたように肩を落とした。
コナン君がやや心配したように眉を下げる。
「魔術のテロ対策や軍事的脅威の排除ってなると、昔の人どうしてたの?」
「ハイパーボリアにはそんな怖いこと考える人はいないのでノーガード。その後の歴史では、国によっては建物自体に魔術に対するデバフを組み込んでたところもあったみたいだよ」
古い遺跡などに時折見られる構造だ。
アザトースの姿を御簾の後ろに隠して、声が届きにくいようにする魔術機構というべきか。
必要MP増加などデバフをかける機能があったんだよな。
助手席で諸伏さんが興味深そうに瞬いた。
『日本にはないのか?』
「生憎見たことないなぁ。日本、旧神が多かったからか対神魔術は多いけど対人ってちょっと未発達だよね」
社とかは世界に誇れる魔術建築なんだけど。
地鎮祭の類とか、各地に残るお祭りとか、大部分が旧神を鎮めるための実用的な魔術ばかりだ。
今は怪異の認知度が高くなって地域のお祭りが見直されているが。
生活と密着している上、封印強化魔術だから使用しても効果が実感できないものも多いため、失伝してしまったものも多いと聞く。
降谷さんが難しい顔をして気が進まない様子を見せた。
「他国との共同研究となるとな。できれば君の知識は公開したくない」
「怪異対策部分に絞っての公開ならいいんじゃないか?『ハスターに祈りましょう』な部分も結構あって再現性ないし」
「再現性が無さすぎるのも困る。日本が軽く見られる」
「難しいなおい」
俺がむむむと眉間に皺を寄せた。
日本の魔術って魔術とは認識されてないものが多い……使い手自体それを魔術だと思ってないものが多いから、知見を集めるのが大変なんだよな。
逆を言えば、それと意識してない民間人でも、その手順さえ大まかにあっていれば発動する工夫に満ちてると言えるけど。
本当に日常と共にある魔術、人の生活に溶け込む魔術だ。
普通ここまで溶け込むと魔術的意義を失うんだが。
ここまでなぁなぁの形になっても効果を失わないとは、かつての術師がいかに「それを絶やさない」ことを重要視していたかが分かる。
いや。
そりゃ絶えた瞬間、接待が途絶えてお怒りの旧神復活だもんな。
必死にもなるか。
俺はピンと指を立てて提案した。
「ならもう、困った時の小泉さんだろ。彼女絶対西欧キリスト教圏の魔術師が祖だし。日本に定着する前の情報が多少は残ってると思う」
『へぇ、西欧の魔術か。なんか本場って感じだかな』
「西欧の旧神は基本封印ではなく打倒されてるからな。これはこれで結構すごいんだ。もうほぼ完璧に失伝しちゃってるけど。俺も当時は協力したなぁ」
『打倒?できるのか?』
「旧神は旧支配者と違って不滅じゃないからな。実体はないけど削り続ければ霧散するよ。実は一神教の根源って、この旧神の打倒という人の身に過ぎた偉業を達成するための………あ、寝た」
よしよしと撫でていた星の精がついにカクンとへたり込んでグウグウ寝息を立て始めた。
はみ出た触手をポッケに押し込んで、コナン君が星の精を撫でてやる。
「たくさんはしゃいで疲れたみたい」
「写真いいの撮れた?」
「星の精は船の手すりに留まってる変な虫の写真がお気に入りだったよ。凄く見せてきた」
「反応に困るやんけ。イージス艦とってやれよ」
まあ、子供の感性は自由ということか。
俺のミニチュアイージス艦も大事にしてくれるといいな。
降谷さんがジトリと俺を睨め付けてきた。
「ところで、僕たちがいない間変なことしてないだろうな」
「してないよ。艦長にCIC見せてもらったお礼にミニチュアイージス艦プレゼントしただけだよ」
「魔術製の?」
「そんなすごい魔術かかってないよ。船の異常把握と全員の位置把握ぐらいの効果だけだよ」
「それだけか。ならよし」
「やった!許された!」
『ゼロ、神経が麻痺してると思う。立派なガチ怪異品だからな』
諸伏さんのツッコミに、降谷さんは梅干しのような顔をしたのだった。
・ミニチュアイージス艦
耳をすませると甲板の船員の声も聞こえる。
取り扱い説明書付き。
老朽化の箇所や傷んでいる箇所、損傷箇所などもわかる。
ぱかっと簡単に解体できるようになっていて、敵や負傷者にも色がついて判別可能。
盗難防止機能付き。
船から降ろしても効果は続くため、遠隔での状況把握用にも利用可能。
・対旧神魔術
一神教にて特化された、神の敵を討ち払う技術。
対悪竜魔術とも。
正しく撃滅した時、その人物は聖人として列せられたかもしれない。