さて、やってまいりましたニャル野郎の腹の中へ!
俺はぐるりと幻影を動かして、部屋を薄暗い地下空間へと変貌させる。
冷たい印象を受ける打ちっぱなしのコンクリートの壁は、どこか古典的な刑務所の印象すら受ける。
映像が切り替わり、そこに扉のあることに気がついた降谷さんがすかさず声を上げた。
「周囲に何かしらの敵対的な存在の気配はあるか?扉の向こうも含めて簡易的に調べたい」
「オーケー。ならば聞き耳で判定を出す。わずかな物音や雑踏の中の声などを聞き分ける判定だ。これも、100面ダイスを1人一回振る」
皆がダイスをしげしげと持ち上げた。
このメンツ全員聞き耳も目星も高ェな。というかコナン君地獄耳過ぎる。
目星・聞き耳・図書館の鬼で天然の探索者か何かか?
皆が一斉にダイスを振った。
降谷さん1D100 >> 42
諸伏さん1D100 >> 89
コナン君1D100 >> 13
星の精1D100 >> 4
「諸伏さん以外皆成功だね、諸伏さんは自分の緊張の鼓動でよくわからなかった」
『流石に雑魚すぎる。組織だとこれで死んでた。警察学校に投げ戻されるレベル』
「そういう時のために僕がいるじゃないか。安心してヒロは警察学校でゆったりしててくれ」
『フォローしてくれると思ったのに!一瞬の俺の感動を返して』
俺は星の精がダイスをつつくのを見ながら、補足説明を行った。
「ここでハウスルールの説明をしようか。判定の結果、値が1-5だった場合クリティカル(決定的成功)、96-100だった場合ファンブル(致命的失敗)となる」
「ふむ、通常のルールとは異なるのか?」
「通常ルールは1でクリティカル、100でファンブルだけど、ちょっと値をスリリングにしてみた。こっちのが楽しいし」
「なるほど。となると、星の精はクリティカルとなるな」
たぶん野生の聞き耳が働いてよく聞こえたとかなのだろう。
星の精の耳がどの程度聞こえるのかは知らないが、狩りをする生物だし悪くはなかろう。
「ええとだ。星の精には、今のところこのあたりに怖いやつはいないとわかった!」
「クスッ!!!」
「僕ら星の精と会話できないね。僕は、そうだな。星の精が元気だなってことがわかったことにしよう」
『俺なんて存在すら知らないじゃん。え、これから運命の出会いが待ってるってこと?この状況下で星の精と??』
「黄衣君、僕らは拳銃は持っているか」
「無いね。かろうじてコナン君の寝巻きの腹のところに星の精が隠れてるだけだ」
たくさん動くとはだけてまろび出るかもしれぬ。
言外にそう伝えると、降谷さん達は慄いたようだった。
「コナン君にはどっしり構えててもらおう」「だな。小学生は俺らが守る!」などと気合を入れ直している。
コナン君が解せぬの顔で星の精と「ねー」「クス」と見つめ合った。
「あ、そこでだ。まず星の精に情報共有。この空間に来た時、星の精が特別に知っていることがあります。ごにょっと伝えてもいいけど、わかりやすく思念でデータを送りまーす」
「クス?……ゲタゲタッ!?!?」
「こんな感じ」
「クスッ!クスク…」
「はいそこまで。星の精は喋っちゃダメ。コナン君はクスクス語わからない設定なんだから。身振り手振りならいいよ」
星の精は悩みに悩んでから、グネグネうねって激しく体を捻った。
「!!ッ!!!クス!!!!」
「………すごく必死なのはわかるんだけど、僕ら全然読み解けないや。ごめんね星の精…」
「グズッ!?!?」
全員謎なのか、スペースキャットが量産される前で星の精が謎盆踊りを踊るだけになってしまったようだ。
星の精はのたうち回って悔しがるなどした。
同情的だが容赦のないコナン君が「星の精がなんか凄く暴れてるなと思ったかな」と総評を下す。
星の精はへこたれて、元気なくソファに垂れ下がってしまった。
降谷さんが幻像を見回して眉間に皺を刻んだ。
「この空間の見た目は映像に準拠していると考えていいのか?」
「そうだよ。赤い扉、緑の扉、黄色の扉、白い扉の四つが四方にある。ぱっと見てわかるのはそれくらいだね」
「待って。この部屋の映像、四隅にある壺が一つだけずらした跡が見える。埃の跡が丸く見えてるでしょ。あれ調べたいんだけど」
コナン君がそのように言うから、俺は感嘆の声を上げて対応した。
「やっぱリアル目星決めてくるなぁ。本当は色々段階踏んでわかることなのに。良いとも、調べると、壺の下からこんなものが出てくる。よいしょ、受け取るが良い!」
「ん、重っ!?ほんとに純金じゃないよね!?」
コナン君に手渡したのは金に輝く小さなメダルのようなものだ。
表面にはコナン君の横顔が刻まれていて、裏面には血文字で「おかえりなさい」とペットリとした文字が張り付いている。
現代日本語なのはハイパーボリアに準拠しているからだ。
この辺、他言語を取る意味がなくて味気ないのよね。
コナン君がむむむとメダルの裏面を見ながら思い悩んだ様子を見せた。
「やっぱり僕はここに一度来たことがあるんだね。みんなに渡して見せるよ」
「ッほんとに重いな。金だろこれ。というかこの裏面の日付、片方は生年月日だとしてもう一つは……黄衣君。作中現在日時はいつだ」
「2026年2月18日だね。夜中の23時ごろとしようか」
『一週間前。コナン君の記憶喪失タイミングとも合うな。記憶喪失になった日付はわかるか?』
「コナン君は2月19日に自分の記憶喪失が発覚していたことを知っててもいいよ」
「ならやっぱり。これは僕の前に来た時の持ち物だ」
降谷さんが「前日の日付。金メダル。現時刻は23時」と情報を列挙する。
コナン君はハハハ、とゲンナリした様子で笑った。
「もしこれが『ゲームクリアを祝うメダル』だったとして、ゲームのタイムリミットは今日中という可能性が出てくる。日付を越えたら何が起こるのかは考えたくないね」
「猶予は一時間か。旦那さんがトイレに立った時刻も聞いておくべきだったな」
『メダルがここに隠されてた理由は知りたいな。あえて少年が意図を持って隠したのかもしれないし』
すごい勢いで推理が出てくるんだよなぁ。
俺色々ヒントを与えてくつもりだったんだけど、このままだとギミックも何もなくクリアされてしまいそうな気持ちにすらなる。
まだ各部屋にすら入ってないんだぞ。
ホンマもんの探索者はこれだから扱いづらい。
俺はごほんと咳払いして問いかけた。
「じゃあ、君らの行動を問おうか」
「念のためもう一度扉の向こうに聞き耳を立ててから順番に突入だな。どこからにする?」
『変な想像の働かない緑から行こう。赤は不吉だし。』
「いや、それを言うならどれも不吉じゃない?別に緑でいいと思うけど」
「クスクス」
「よし、じゃあ緑で行こう」
緑とはまた、無難なところを選んだな。
俺は緑の扉を大映しにした。
「ルームクリアリングか。無手が辛いな。本当は星の精を先頭に出来ると嬉しいんだが」
「開示する?この状況下だし、一定程度有用だと思うよ」
「そうだな。明確な火力だ。敵の音がしないとはいえ、どこから現れるかはわからない。ヒロはどう思う?」
『俺もいいと思う。あとは持ってくれ俺の正気…ってやつなだけで』
諸伏さんが拳を握りしめたり
隣で星の精もぐっと触手で握り拳を作って決意を新たにしている。
星の精がみんなを守る…!
コナン君が大きく頷いて、星の精の触手を2本とって振り回した。
「ここで!僕の!可愛いお友達を紹介します!星の精ちゃんです!拍手!」
『わーパチパチ。白目剥きながら拍手します』
「同じく」
「ゲタゲタゲタッ!!!」
星の精が誇らしげに仁王立ちになった。
「ではSAN値チェックのお時間です。なんの脈絡もなく懐から本物の触手お化けを出したぞこの子!降谷さんは1/1D4、諸伏さんは1/1D10のSAN値チェックです!」
『大きい大きい大きい一回で5削れたらアウトなんだろ!!俺の奇行がそんなに見たいか!』
「意外とこれ写真見といて正解だったな。合計値は高めだが分散できるのが強い」
「僕の友達そんなに変かなぁ。僕わかんなーい!ねっ星の精!」
「ゲタッ!」
失礼しちゃうわ!と星の精がプリプリ怒っている。
降谷さん1D100 >> 62
現在値67のため成功。1減少して現在値66に。
諸伏さん1D100 >> 83
現在値55のため失敗。
諸伏さん1D10 >> 7
7減少して現在値48に。
部屋に沈黙が満ちた。
沈鬱な様子で諸伏さんがギギギ…と俺に顔を向ける。
『どうすんのこれ。俺発狂してしまったんだけど』
「ヒロ、お前のこときっと忘れないから…!」
『ヤダヤダ見捨てないで化けて出てやるからな!』
「そこ、僕の横で際どいジョーク飛ばさないで」
コナン君がとても迷惑そうに顔を隠した。
星の精が諸伏さんを覆うようにガバリと巻きついて全身でヨシヨシしている。
ヒゲ、悲しまないで。星の精がついてる、ってことらしい。
星の精のせいではあるのでもしかしたら一種のマッチポンプかも分からん。
「まだ諦めるな!アイデアロールを振ってもらいます。ようは『何か深淵なことに気付くかどうか』だね」
「気づいてはいけないことに気づいてしまった!ということか。よし、どれどれ」
諸伏さん1D100 >> 22
アイデア70のため成功。
諸伏さんは両手で顔を覆った。
『本当にどうすんだよこれ。本当に。気づいちまったんだけど。星の精で宇宙の深淵の仕組みにな!』
「ブフッやけくそ笑うからやめてくれ。いいなこれ、後で松田も入れてこのゲームやりたい」
「仕方ない。第二回を乞うご期待。まずは一時的狂気表を振るよー。10面ダイスを一つ振ってくれ」
長期の一時的狂気表。
1D10 >> 8
支離滅裂、妄想、常軌を逸した振る舞い、幻覚など。
効果時間。
1D10+4 >> 11
11時間。
「えー、何やら支離滅裂な妄想状態になりました。効果は今から十一時間続きます。具体的な狂気の内容は諸伏さんが決めてもいいよ」
『じゃあ仕方ないな。床舐めます。味覚とは…人の中で最も鋭敏な感覚…味覚が全てを理解せしめる……』
「やめて!?星の精の教育に悪いこと見せないで!」
『ベロベロベロベロ』
立派な狂人が完成してしまった…。
まあいいか。見た目は酷いけど実害のある発狂ではないし。
ツボに入ってしまったのか、無言で降谷さんが悶絶している。
まあともかく、あとは四つの部屋の謎を解くだけだ。
本当の「鏡合わせのコモリオム」はこの10倍以上の分量のある仕掛けで、これはそのうちの一部をわずかに抜き出しただけだが。
あんな少年ジャンプなら全50巻ぐらいになりそうな大冒険してられるかよ。
俺は手持ちのギミックを吟味しながら、どう流れを持っていこうか思案したのだった。
・鏡合わせのコモリオム
全ての課題をクリアしてメダルを集めれば現実に帰還できる仕組みだった。
異界もシティ形式になっていて、漫画『今際の国アリス』に似る。
巻き込まれたほぼ全ての国民が死亡したが、一部帰還者あり。
ジンニキみたいな鍛え抜かれたハイパーボリア民がいたようだ。
・ジンニキ
プロ探索者。プレイして初めてその偉大さが分かる。