緑の部屋の中は、本の棚のオンパレードであった。
ずらりと並んだ本棚が人を威圧するように高く整然と並んでいる。
「そうだなぁ、見た感じ米花図書館の開架ぐらいあるんじゃないかな。高い10段ほどもある本棚には梯子もついているぞ」
『床ペロしながら数冊手に取ってみよう。ぱらり』
「どうぞ。手に取った本二冊です」
そう言ってハードカバーの本を二冊その場で創造して手渡す。
諸伏さんがパラパラと見て目を瞬かせた。
『自伝?………待て、この著者の名前をリストと照合したい!ゼロ!リストの名前覚えてるか?』
「これは、間違いない。18行目の人物の名前だ。同姓同名、ということも考えられるが」
『自伝の締めがおかしな夢の話になってる。本人だろうさ』
降谷さんが幻影の書庫を見渡してため息をついた。
やはりその分量に懸念を示しているようだ。
「20分で分かるところまで1人でざらっと調査する、というのは可能か?つまり軽い当てずっぽうだが」
「できるよ。1人でいい?」
「他の部屋を先に調べたほうがいいだろう。書籍を探そうにもとっかかりが必要だし、時間も限られている」
『じゃあ俺が調べよう。様子変だし休むという名目で。連携取りづらいし置いとくべきだ』
「僕は怖いの出たら星の精けしかける役かなぁ。後早く記憶取り戻したい」
別行動、ということのようだ。
クトゥルフにおいて通常別行動はあまり推奨されない。
だが、こういう場面では無いわけではない。
特に今はタイムリミットまであと一時間しか無いわけだし。
「じゃあまずは別行動の降谷さん達に焦点を合わせようか。どの部屋に行く?」
「じゃあ白とかどう?縁起が良さそうだし」
「そうだな。では白で頼む」
降谷さん達が耳を澄ませる仕草をした。
俺はふむ、と考えてからこのように発言した。
「ならそうだな、コナン君が耳を扉に引っ付けたことで気付いたんだが、扉は冷たくひんやりしている。金属みたいだ」
「ッ!……密閉性は?」
「動かせば分かるよ。開けるかい?」
「星の精を先頭に、慎重に扉を開ける」
ボクシングポーズでシュッシュと触手を繰り出す星の精を置いて、幻影の扉をゆっくりと開いていく。
その厚さは金庫の如し、ゴムや特殊な機構を挟めばとても音なんて通らないだろう。
その先には。
「これは……先ほどの木守市の街並みか?」
「夜の普通の街並みに見えるね。人通りは少ないけど、元々連続失踪事件で人通りは少なかったみたいだし」
平和な木守市の街並みが広がっていた。
穏やかな姿は一見これで家に帰ることすらできそうに見える。
星の精がハッと気付いたように焦りだした。
事前に情報を渡しているから星の精は知っているが、ここには怖いものがいるからな。
コナン君の腕を引っ張り、星の精は触手で大きなバツの字を作った。
「クスクスクスッ!!!」
「え、ダメ?あ、そっか。さっき何か黄衣さんから聞いてたもんね…何か危険があるのかもしれない。戻ろう、降谷さん!」
「そうだな。あれほどの扉で封鎖しなければならないものが潜んでいる可能性もある。一旦僕たちの泊まるホテルに行ってみたい気もするが、ひとまず謎を解いてからでいいな」
扉をバタンと閉めて、元の四角いコンクリートの部屋へと戻っていく。
実に賢明な探索者達である。
この罠に引っかかってコモリオムの民がたくさん犠牲になったというのに。
「じゃあしっかり扉を閉めたところで、次はどの部屋に行くかな?」
「残り時間は?」
「入ってから10分ほど経ったことにしようか」
「了解。なら次は赤い部屋だ。血をイメージして印象は良くないが」
そう言って指差した赤い部屋は、相変わらず物音ひとつしない。
中を映し出せば、そこは外と同じのっぺりしたコンクリートの壁と床で囲まれた部屋となった。
正面には小さな檻と、散らばったドス黒い痕跡。
そして散らばった古めかしい鉄の水筒が3本ほど。
「この色、ここがコンクリートだとしたら間違いなく血痕だね」
「水筒に残っている匂いを嗅ぐ。おそらく血液だろうが確証は得たい」
「明らかに鉄臭いのは分かるよ。降谷さんなら、振らなくてもそれが血液だと分かる」
「だろうな」
皆わかってるとは思うが、ここは星の精の監禁施設だ。
星の精参加とあって急遽、ニャルのペット飼育場を模して作ってみた。
悪夢が思い出されるのか、星の精がしおしおになってコナン君を包んで震えている。
うーむ、ちょっと星の精のリアルSAN値に影響を与える仕掛けだったかもしれない。
正直すまんかった。
そのあたりでふと、コナン君が幻影の一部を指差して叫んだ。
「ねぇそこ、その入り口近くの血痕、不自然に途切れてない?黄衣さんアップにして!」
「あいあいさー。というか俺が目星ポイントとして作ってあった場所ことごとくリアル目星してくやん。いいけどさ。ほいさほいさ」
アップにした画像を浮かべてやると、それをコナン君と降谷さんが食い入るように見つめた。
暇になった諸伏さんが星の精の触手で三つ編みを作っている。
お菓子のリボンを再利用して即興でリボンゴム作成。
おお、可愛い星の精(?)になったようだ。
「これは……やっぱりモールス信号だよね。欧文だ」
「なるほど、上のマークは国旗か!」
「『E221』。安室さん、あの書庫の棚の記号覚えてる?」
「え226、たしかにひらがな一文字数字三桁だったな。図書館の請求記号に似た形の」
「決まりだね。書庫に戻ろう!」
ちょっと星の精にかまけている間に推理が終わっていた件。
最初からこの高INT軍団相手には時間稼ぎにもならないとはわかっていたけれど。
でもダイスの振りどころがなくてちょっと悲しみ。
そんな今日この頃。
「じゃあ場所を移して緑の扉の部屋へ。諸伏さんの処理に移ろう」
『おっしゃ!バリバリ情報出すぞ!』
「まずは書庫探索の結果です。図書館で振ってください」
「図書館……これか。よいしょ」
1D100 >> 48
図書館55のため成功。
「よろしい!諸伏さんはここにある本は全部、誰かの自伝だということがわかっていい」
『嫌な推理していい?ここから出られないやつみんな本にしちゃったとか』
「僕も予想するなら、コナン君も本にされかけたせいで記憶がないんだと踏んでいる」
「たぶんあの血文字僕自身のメッセージだよね?記憶を失う前の。星の精の檻の取手にも血がベッタリついてたし。メダル隠したのも僕じゃない?誰かが気づくようにわざと一個だけ壺をずらしてから下に置いたんだ」
名探偵はやめてもらっていいかな────。
俺は沈黙!それが正しい答え!な顔をしつつ、ゲームの処理に戻った。
「結構時間に幅があるみたいで、昔の本は和綴だったり崩し字だったりしてるよ。その中に興味深い本が一冊あったんだけど」
『ほう。どれどれ』
「自称深淵の技術の使い手さん。本のタイトルは『いかに吾輩は偉大なる術師へと至ったか』。終始パチモン臭いけど読ませる文章力の逸品」
『この局面に何読んでんの俺。気になる読みたい』
奴らは歩く妖蛆。
唾棄すべき人の敵である。
その身は弱く武器で斬りかかれば殺せるだろう。
だが、私には偉大なる深淵の秘技がある。
下記の文言を口ずさみ、神に祈りを捧げれば奴らの目を欺くことが可能だ。
奴らは多い。
注意してかからねばなるまい。
まあ、そのような感じのことが書かれている。
もちろん本は具現化はしない。
ガチの魔術書になっちゃうし、本題から逸れすぎちゃう
「そんなわけで、諸伏さんは魔術『歩く妖蛆の目を逸らす』を習得しました!」
『楽しく学べる超有用書籍だった!』
「狂気に陥った人間が使うのか…不安でしかない」
降谷さんが渋い顔をしているが、その辺はまぁ巡り合わせである。
「加えて魔導書を読んだことで1D2のSAN値喪失です。まだ諸伏さんは半分与太話を疑ってるからSAN値の喪失幅が低め」
『おお、また2も減ってしまった。あとはゼロ達が調べてきてくれた「え221」の本だな。著者名江戸川さんで、2は確か歴史とか伝記。うむ』
「別にその付け方はしてないけどぉ、というかその付け方だと221番まみれになっちゃうでしょ。偶然だよ偶然」
そんなふうに俺は口を尖らせつつ、コナン君に本を手渡した。
「本はこんな感じ。けど持った瞬間空気に溶けるように消えて、コナン君の方に吸い込まれちゃうかな」
「え、もしかして記憶戻る感じ?」
「戻る感じ。戻った内容は本を読んでみてね」
実のところ、コナン君は脱出に成功しているとも失敗しているとも言える。
脱出条件は黄色の部屋で特定の行動をすることなのだが。
そのためには白い部屋に入って歩く妖蛆の追跡を退けねばならない。
コナン君は純粋なスニークミッションでそれを成したが。
ギリギリで時間をオーバーしてしまった。
コナン君は悪あがきに入手したメダルを隠し、血の暗号を残して星の精を解放した。
そのような筋書きである。
コナン君にそれを聞いた2人が慎重な顔をしたようだ。
何を聞くべきか吟味しているのかもしれない。
降谷さんが目を細めて、怜悧な表情で問いかけた。
「その脱出に必要な特定の行動とはなんだ?」
「夢の主人を黄色の部屋にある大きな引き出しの中に入れること」
つまり、白い部屋の先にいる自分を連れてくることだよ。
コナン君の言葉に、2人は息を呑んだようだ。
・コナン君の伝記
実は星の精についても書かれている。
床にある水筒に入った血をやったらすごく懐かれたとか、芸も覚えるとか。
実は迷い込んだ人間用のメンタルカウンセリング用にニャルが用意したペットという設定。
荒んだ心に小さい触手をどうぞ。
次でTRPG編ラストのつもり。