ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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クトゥルフ神話TRPGをやろう!終

 

 多少黄色の部屋を覗いてから、白い扉の向こうへ進むことを決めたようだ。

 

 ちなみに、黄色の部屋は棺と鏡のある部屋だった。

 鏡にはなぜか別の景色が映っていて、触っても押しても反応がない。

 その鏡の絵が描かれた棺は3つあり、どれも空っぽ。

 棺の蓋には何かをはめ込む場所がある、と言った形だ。

 

「さて。『歩く妖蛆の目を逸らす』についての詳細説明です。これはMPを人数×発動分数消費します。1人最大10分強の発動になるな」

「先ほど扉の先を覗いた時どこに出たかはわかるか?」

「駅前だね。そこからホテルまで徒歩10分といった感じ」

 

 地図を表示すると、降谷さん達は唸ったようだ。

 

「交通事情が良ければ走って2分程度で到着できるとして、エレベーターで上り下りで2分……ギリギリだな。コナン君はどうする?」

「僕は星の精に掴まって飛ぼうかな。帰りも星の精に体の方も持ってもらうとか。できそう?」

「クス!」

 

 星の精はぐっと握り拳を触手で作ってやる気に満ち溢れた。

 

「では魔術発動だ。主体は諸伏さん。MPは儀式参加者が合計で出していい」

『MPが無くなるとどうなるんだ?』

「0になると気絶するだけ。死にはしないよ」

「この状況で気絶は死と同義だな。1を残して全て投入する」

「僕も」

「なら俺……いや、俺は4残す」

 

 再使用を皆1分はできるように予備を残したのだろう。

 用意周到なことだ。

 

「詠唱は約12秒。儀式中は皆で手を繋いでいることが必要だけど、その後は離れ過ぎなければ効果が持続する」

「なら行こうか。

『扉舐めつつ行きます。ベロベロ。全力疾走準備』

「そういえばまだそれ続いてたね…」

 

 最後の最後は体力勝負。

 俺はダイスを増やして1人二個ずつ配っておいた。

 皆それぞれダイスを手に取り、しげしげと眺めた。

 

「CON(耐久力)×5で2回振ってから、幸運ロールを1回。3回全て成功すれば無事に最短でホテルまで着くよ!」

「僕は?」

「コナン君は代わりに星の精が振ります」

「クスクスッ!クスッ!」

 

 皆がダイスを振って判定を行う。

 ちなみに、星の精はCONが18あるので100面ダイスで95以下が出れば成功だ。

 

「僕は3回成功。耐久力には自信があるからな」

『俺もギリ成功。よかった、ちょっと幸運低いから怖かったけど』

「クスクス………グスッ!?」

 

 おっと星の精、幸運で失敗したようだ。

 星の精の幸運は45。

 100面ダイスで45以下が出れば成功だったが、確かに失敗してもおかしくない数値だ。

 

 ニャルに捕まった可哀想な星の精の幸運値が高いはずがないのよね。

 

「では、コナン君達がブゥンと勢いよく空を飛行していると。不意に角から曲がった通行人に接触します」

「グズッ……」

「あいた。僕吹っ飛ばされちゃうかも」

「ぐに、と革張りのクッションのような異様に柔らかい感触とともに、歩行者に跳ね飛ばされました」

「!?」

 

 幻像として通行人を大映しにする。

 その像は揺らぎ、ニタリと笑い、嗄れた悍ましい声を出す。

 「見つけた」と。

 

 ぶつかったことで、「歩く妖蛆の目を逸らす」が揺らいだのだ。

 

 幻像が崩れ落ちた時、そこに現れたのは1匹の妖蛆であった。

 見た目はアンデッド、だろうか。

 瞼のない眼窩からは剥き出しの眼球が垂れ下がり、巨大な鉤爪のある肉塊の如き手が蠢いている。

 それは間抜けな犠牲者を嘲笑うように、哄笑をあげたようだった。

 

「歩く妖蛆の1匹と、運悪く接触してしまったようだ。SAN値チェックだよ!」

「黄衣さん!ちょっと運悪いだけで即死は不当だよ!!」

『そうだそうだ!俺まだ床ぺろしてるのにこれ以上どう狂えって言うんだ!』

「大丈夫!君らには星の精がついてる!妖蛆も1匹しかいないし!では戦闘だ!」

 

 本当は妖蛆は集団で行動するので慈悲なのだよこれは。

 ともかく、まずSAN値チェックの処理に入ろうか。

 

降谷さん1D100 >> 26

諸伏さん1D100 >> 93

コナン君1D100 >> 11

 

「星の精はまだ人の文化に慣れてないのでSAN値チェックはありません。怖い生き物もいるって分かってる野生動物です」

「グズッ」

「そんな不満そうにしないで。というか諸伏さんガラスのハート」

『俺のせいじゃないのに!これ以上狂気ってことはゼロを舐めるより他ないのでは?』

「ぶっ飛ばされたいのか」

 

諸伏さん1D100 >> 86

アイデア70のため失敗。

 

諸伏さん1D10 >> 4

SAN値減少値4。

 

『気のせいだった心底ゾッとしたけど今はそれどころではないと思い直したっぽい』

「偉いぞヒロ!その調子だ!喚いたら置いていくつもりだったからよかった!」

『この邪悪な幼馴染である』

 

 さて。クトゥルフ神話TRPGでは、素早い順に行動することになる。

 それはDEX(敏捷度)を基準とする。

 

「攻撃順は降谷さん、歩く妖蛆、諸伏さん、コナン君、星の精の順になります」

『星の精意外と遅い!』

「クス………」

「星の精が傷ついた。諸伏さん謝って」

「なんでもいいが長引くとまずい。その言い方だとターン制戦闘だろう。1ターン何秒だ?」

「12秒だよ。ちなみに、ダメージを受けず攻撃もしないなら、2ターン凌げば『歩く妖蛆の目を逸らす』の揺らぎが直るよ」

 

 これは術者として体感で分かっていい情報だ。

 降谷さんは瞬時に判断を決めたようだ。

 

「敵がどれだけ体力を秘めているかわからない。こちらは星の精がいるとはいえ無手だ。回避に専念しよう」

「賛成。僕下手したら一撃で引き裂かれちゃうし。星の精に掴まり直して、攻撃の届かないビルの上空、窓の影に隠れるよ」

『俺の素早いステップを見せてやる!』

 

 ではまず降谷さんから。

 

「なにもしない。あえて言うなら、ジリジリと距離を取る」

「了解。では次歩く妖蛆。まだ体勢の整わないコナン君を、星の精に掴まって空に逃げる前に攻撃します」

 

 歩く妖蛆は鉤爪50を2回攻撃する。

 結構強い化け物なのだ。

 

歩く妖蛆1D100 >> 82 失敗

歩く妖蛆1D100 >> 76 失敗

 

「なんでや。功を焦った妖蛆は無様に爪を空振りしました」

「コナン君ってこういうことあるから怖いんだよな。運命に愛されてるとこあると思う」

『俺も同意見』

 

 謎の納得を作り出しながら、俺はブスくれて腕を組むなどした。この使えない妖蛆め。

 次は諸伏さんのターンだ。

 

『俺も距離を取ろう。さりげなく縁石を跨いで敵との間に障害物を作りたい』

「よかろう。相手の攻撃にマイナス補正が加わる。次はコナン君です」

「星の精と飛び立つよ。飛んでるとこ見られたら面倒臭いからギリギリ爪が届かない範囲で、ビルの影に隠れながら」

「了解。なら見つからずに飛べたことにしていい。妖蛆側も人間が飛ぶとは思ってないし」

 

 うまく逃げられてしまったから、あとは諸伏さんと降谷さんだけか。

 

「2ラウンド目。降谷さん」

「もう12秒程度だし、ホテルに向かって走り出す。先にエレベーター呼んでるから後から来てくれ」

『了解。見送ります』

「小癪な。さっき成功してるしCONロールは必要ないや。次、歩く妖蛆。仕方ないので諸伏さんを攻撃。縁石のため命中率が5低下」

 

歩く妖蛆1D100 >> 55 失敗

歩く妖蛆1D100 >> 21 成功

諸伏さん回避 >> 4 クリティカル(決定的成功)

 

「ステップを踏むようにひらりとかわしました。あまりに華麗なので妖蛆は思わずつんのめって転けました。どしゃり」

『ダンサー俺。このまま華麗に逃亡』

「よかったね、怪我なくて。と言うか時間って今大丈夫?」

「あと30分ぐらいあるから余裕だと思う。みんな行動早いねん」

 

 みんなで読書に耽ることも想定してたんだがな。

 瞬時に時間制限に気づいて最速で行動してるから時間が余る余る。

 

「では無事にホテルの自室に侵入できたことにしよう。ちなみにこの空間、夢の主を連れてくることを想定してあらゆる鍵がかかりません。だから妖蛆相手に籠城しても死にます」

「ピッキングの手間が省けたな。カードキーだと面倒だし、ホテルスタッフを言いくるめて鍵を開けさせることも考えたが」

「鍵かかっててもなんとかしようとするの強い…」

「それが仕事だからな」

 

 うむうむと頷く諸伏さんに、俺は若干引き気味になった。

 

 コナン君もよく僕トイレーの悪用をして人の家に侵入してるけど。

 探偵って、違法を見つけるために違法に生きてる生き物だよな。

 

「では、不自然にするりと開いた部屋の中に、皆の寝静まった体が見えます」

「……?魘されていないのか?」

「たぶん、魘されるのは殺される時だよ。タイムアップが来るとあのゾンビの巨大な奴が来るから、それで魘されるんじゃないかな」

「ああ、なるほど。コナン君がやられた奴」

 

 降谷さんがやや思考に没頭しそうになって、慌てて首を振ってそれを中断した。

 今はそれどころではない、ということらしい。

 こういう切り替えもプロなんだよな。

 

「ともかく背負って戻ろう。時間がない」

『ロスタイムありの体一つ背負った帰りかぁ。死ぬ死ぬ』

「ちょっと待って。僕試したいことがあるんだけど」

 

 2人を引き止めたのはコナン君の発言であった。

 何かずっと考える顔をしていたが、推理を回していたらしい。

 とん、と指で机を優しく叩いてから、怜悧に細められた目を開ける。

 

「体を持って、ここの洗面所の鏡に押し付けてほしい。多分それが正しい帰還方法だ」

「!!なるほど、あの棺のマークはここから入れと言う意味か!あの鏡に反応がなかったのは、一方通行だっただけ!」

『俺話についてけてないんだけど、今黄色の部屋の話してる?』

「ともかくヒロも含めてそうしよう。それなら魔術の時間制限の問題も大きく解決する!」

 

 皆、黄色の部屋のギミックに気づいたようだ。

 

 黄色の部屋にはこのホテルの部屋の洗面所と繋がった鏡が置いてあったのだ。

 そこから体を転移させられる仕掛けになっている。

 

「では、体を押し付けた瞬間、光り輝いてあなたとあなたの持つ体は元のコンクリート造りの部屋に移動していました。もちろん、そこは黄色の扉の部屋だ。鏡と三つの棺が見える」

「よし。入れようか。棺のデザインに違いはあるか?」

「どれも全く同一だね」

『よしよし。これで俺の床ぺろともおさらばだ』

「諸伏さんのは十一時間続くから朝起きてもそのままなんじゃないかな」

『激鬱』

 

 愉快な会話を聞きつつ、俺は棺の映像をアップにした。

 そこに、輝く白い液体が泡のように浮かんでくるのをムービーとして流す。

 

「金メダルならぬ虹メダルが生成されるよ。横顔と、生年月日と、クリア年月日が記されている。それは不可思議に輝く虹色をしている。ホイどうぞ、クリア記念に」

「時間の神みたいな色してるんだが。本当に大丈夫かこれ」

「悪いもんではないから平気。ではエピローグに入ろうか」

 

 あなた達が部屋を出ると、中央の部屋には螺旋階段が現れていた。

 その先はよくわからない。

 あなた達は、その先に現実が待っているのだと直感できていい。

 

 ………ん?本を持って帰りたい?

 いいけど。ああなるほど、被害者の痕跡ね。

 

 時間がないから五、六冊程度だけだけどね。

 4人で手分けして被害者リストにあった名前の日本人の本を持って帰れたことにしよう。

 

 目が覚めると朝だった。

 午前6時。枕元には本と、虹色に奇妙に輝くメダルが置いてある。

 

 あなた達はどこか遠い嘲笑を聞くだろう。

 

「クリアおめでとうございます」

「あなた達が初めての完全クリア者です」

「娯楽としてはなかなか楽しめました」

「またの挑戦をお待ちしております」

 

 

 ってね。

 

 

 

 

「というわけで、ひとまずエンドだよ『鏡合わせのコモリオム』!ゲームご参加いただきありがとうございました!」

 

 俺が自分でヒューパチパチと盛り上げると、意外と白けず降谷さんがうむうむと頷いてくれた。

 

「ルールは簡易だが、とっつきやすく自由度が高い。演習にもってこいだな」

『貴重な対怪異の思考訓練になるし。妖蛆とかいうゾンビはこのゲームのために黄衣が考えたやつか?』

「いや実在の宇宙生物。性能もマルっとそのまま。人間に化ける。相手の精神を吸い取る」

『俺今一番SAN値減ったかもしれない』

 

 謎に怯えられてしまった。

 いやわざわざ嘘生物出す必要もないし。

 俺はとりあえずデブリーフィングに移ることにした。

 

「事件はお察しのとおりニャルの起こしたものだよ。神社乗っ取って人を密閉空間に招いて遊んでたの」

「鏡合わせのコモリオム……かつてハイパーボリアの都コモリオムを震撼させた大事件。私も昔習いましたとも」

 

 そのように言って茶を持って来たのはマモーさんだ。

 コナン君が「実際にあった事件なの!?」と驚愕した顔を見せる。

 

「おそらくは実際にあった鏡合わせのコモリオムのごく一部でしょう。生存者は何年も夢の中でもがき苦しんだと聞きますし」

「マモーさんが生きてた頃の出来事だったの?」

「まさか。私が生まれたのは首都がウズルダロウムに移って何百万年も経った後の話です。私の感覚ですと、歴史的大事件、のようなものですね」

 

 ニコニコと茶を並べて、マモーさんが感心した声を出した。

 

「それにしても一部とはいえ邪神の戯れを初見でクリアしてみせるとは。流石、神の寵愛を受けている方々ですね」

「………まぁ僕の場合……身に覚えがあったからな。なんというか……その」

『主催者側だったもんな、ゼロ。デスゲームの』

「ところで作中の僕、なんでメダル隠したの?」

「あれ実は魂と連動しててね、時間が来て中に押し入って来た歩く妖蛆の長から隠すために壺の下に置いたんだよ」

 

 コナン君は妖蛆の長に嬲られながら瀕死で階段を登ったと言う設定。

 なお、メダルは取られると大変な目に遭う。

 

 考えたら腹立って来たな。

 妖蛆如きがコナン君を嬲る?ありえなくない?

 

 そんなことをつらつらと語ったら、降谷さんが大きく頷いて俺をまっすぐ見た。

 

「実践に即したシナリオ10本ほどと、ルールのまとめを作ってくれ。怪対課の教育で使う」

「急に無茶振りするやん。実践に則したってことは割と理不尽死にゲーになるけど!?」

「現実で死ねばそれっきりだからな。死んで覚えられるなら何よりだ」

「おお……修羅のゲームが完成してしまう…」

 

 まず替えのキャラシを10枚ほど作っておかなければならぬだろ。

 ニャルゲームは割と生存の芽があるように作られているのだが、普通の怪異はそんな親切じゃないし。

 初見殺しわからん殺しなんのその。

 

 俺は散っていく架空の命にナムナムしつつ、どんな設定を選定しようか考えを巡らせたのだった。

 





・公安用演習ゲーム「クトゥルフ神話TRPG」
神から下賜された自らそのもののキャラクターシートを使い、実在の怪異に立ち向かうゲーム式演習
意外と楽しいが、現実でそれだけ死ねると言う意味である。
その後、公安の方で負傷したら行動マイナス補正、部位欠損、定時報告点等細かく厳しいルールが追加されていく。
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