芦屋のひまわり。
第二次世界大戦の芦屋空襲で焼失したとされるひまわりだ。
それがニューヨークのオークションに出品されるということで、マモーさんは実にホクホクした顔をした。
「あのかつての大戦の時の絶望は計り知れませんでしたよ。気づいた時には戦争状態で保護することが難しく。そのまま焼けたと聞いた時は、もう。失意のあまり全てのひまわりを手放しましたとも」
「え!?マモーさんひまわり持ってたの!?」
「もちろんですとも。我が神の招来を成す唯一の手がかりでしたから。それが後一枚というところで焼失。現人類はどこまで獣なのかと……ええ、私も未熟だったということです」
コナン君の驚いた様子に、しみじみとマモーさんが頷いた。
そこには、当時どんだけマモーさんが狂乱したかというのが滲んでいる。
俺は側で聞いて激しく恐れ慄くなどした。
今は笑い話になる程度に昇華されているようで何よりである。
俺はせめてもの償いにその場でミニチュアひまわりのキーホルダーを具現化して、七つマモーさんに手渡した。
「これ、ハスター招来の機能があるひまわりの精密ミニキーホルダーです。マモーさんの持ち物に付けるにはちょっと安っぽいかもしれないけど」
「!?!?!?良いのですか!?」
「どぞどぞ。俺が行方知れずになったらそれで呼んでね。いつでも行くよ」
「神よっ………!」
マモーさんは素早く軽率に号泣した。
控室のパイプ椅子の上で震えて、そのまま胸ポケットに刺した愛用のボールペンにキーホルダーを全てつけた。
ジャラジャラ女子高生ファッションである。
誇るようにキーホルダーだけ胸ポケットの外に出して、良い具合に見えるように位置を調整する。
なんか大変申し訳ない気持ちになってくるファッションである。
すごく品のいいオーダーメイドの高そうなスーツにガチャガチャのキーホルダーがじゃらり。
もっと高そうなデザインにすればよかった…!
同じ部屋には、俺たち以外にも6人ほどの人員が待機している。
今回、鈴木次郎吉氏がひまわりの運搬と保護のために呼んだスペシャリストたちだ。
ここはニューヨークのオークション会場控室。
鈴木次郎吉氏が予定通り芦屋のひまわりを落札したら、そのままそこでひまわり展の開催を発表することになっている。
そして日本へとラッピング飛行機でひまわりを輸送するのだ。
レイクロック美術館による、「日本に憧れたひまわり展」。
それ専用の美術館を建設するということ自体とても豪胆な、次郎吉氏らしい企画だ。
ちなみに、マモーさんも一部建設に出資しているらしい。
鈴木次郎吉氏を紹介してほしいと言われて俺も顔つなぎで立ち会ったが。
なかなか話が合った様子を見せていた。
財界の強豪同士、わかり合える部分があったのかもしれない。
……いや、「お主、やるな」「貴方も意外と腕がいい」みたいなバトル漫画みたいな空気だったけどさ。
和気藹々としていると、その中の1人、チャーリー警部が声をかけてきた。
チャーリー警部はニューヨーク市警の警部さんだ。
神経質そうにメガネをあげて、俺に対して静かに目を細めている。
「君とは一度話をしてみたいと思っていた。日本の怪異対応の第一人者、黄衣ハスタ」
「ははは。絵画の護衛は初めてだから、正直緊張してるよ」
「この芦屋のひまわりがアノマリー…日本で言うところの怪異品ということなのか?」
「まあ。でも害はないぞ?発動もしない。特定儀式に用いることで化け物を呼び出す成功率を上げる効果が期待できるって程度かな」
「なるほど。流石は専門家だ」
お堅い口調でとっつきづらいが、真面目で誠実な人であることは伝わってきた。
俺を称賛する言葉も嘘がなく、実直な人なのだろう。
お、遠くでざわめきと槌の音が聞こえる。
どうやら芦屋のひまわりの落札が決まったようだ。
諸伏さんがスマホで見ている中継によると、無事に鈴木次郎吉相談役が落札を終えたようだ。
三億ドルでの落札かぁ。
元太君に一生分のうな重がプレゼントできそうだ。
普段慎ましやかな生活をしているため、なんだか想像力が貧困に陥ってしまっている。
金持ちが普段どんな豪遊を行なっているか、マモーさんに聞いたらわかるだろうか。
いやだめだな。マモーさん豪遊じゃなくて投資に使うタイプだし。
さて、そろそろ俺たちの出番が近づいてきている。
会見の時、俺たちは7人のサムライとして紹介される手筈になっている。
一応、黄衣探偵事務所の代表は俺だけだ。
俺以外のメンツは登壇しないから、スパイがカメラに映る心配もしなくていい。
マモーさんは純粋にひまわりを見にきたのと、次郎吉氏とレイクロック美術館の今後の運営について協議する予定のようだ。
俺が軽く髪を整えたり準備をしていると、降谷さんがそっと低く小さな声をかけてきた。
「この落札で米国の動きは見られなかった。ハスター招来の機能に気づいてないのか、気付いた上で無視しているのかは知らないが」
「気付いてないんじゃないか?絵画魔術を見抜くのってめちゃんこ難しいからなぁ。音楽魔術より難しいぞ」
「なら……念の為後日情報共有をしておいた方がいいな。変な軋轢は作りたくない」
絵画魔術は絵の具の色と材質、位置情報、キャンバスの生地等複雑に絡み合って魔術式を形成する特殊な形式だ。
初めから魔力のこもった材料を使用しない限り、発動するまで術式の視認は困難。
マモーさんですら大戦の時まで気づかなかったぐらいだ。
一般の魔術師が気づくのは至難の業だろう。
俺招来のアーティファクトが国外流出して黄色の印の兄弟団は悲しむかもしれないが、そこはまぁ我慢してもらうしかない。
俺招来の時、このひまわり7枚を掲げることで多分俺は80%ぐらいの確率で来るからな。
ひまわりを見に来るというか、たぶん狂信者の集いなんだろうなヤダなーと思いつつでもせっかくひまわり揃ってるしたまには行くか、みたいな。
俺招来のアイテムとしては相当確率UPが優秀だと思われる。
他はソシャゲのガチャのピックアップ確率ぐらいがせいぜいだからな。
SSRハスターピックアップ召喚!
うむ。くだらないこと考える前に早く現場に行こう。
俺はいそいそとタイを直して、皆と共に会見会場に向かったのであった。
・大戦時のマモーさん
ひまわり焼失で完全に闇落ちしてた。
宇宙開発で「ハスターに会いに行く」という結論を下したのもこの頃。
大国を操り宇宙開発競争へ誘導。その技術を密かに開発させていた。
愚かな猿どもとこれ以上居るのは苦痛が過ぎる。
私は神に会いに行く。その中にある、永劫の楽園へと還るのだ。
マモーさん「私も尖っていた時期があったと言うことですね」(恥ずかしげ)
・7人のサムライ達
なんで控室に大富豪おるん?オークション会場行かなくていいの?と疑問に思っている。