ひまわりの防衛に成功したなり。
現在はSOMPO美術館の応接室にやってきている。
館長さんはかなり困った様子で、所蔵のひまわりが狙われるという話に汗を拭っていた。
また、ベストタイミングでコナン君とも合流できた。
むにゃむにゃと眠そうな諸伏さんに降谷さんが肘打ちを入れている。
ひとまず、閉館を早めてひまわりは金庫の中にしまうことになった。
その時にトラブルは発生した。
一番最初に気づいたのはコナン君だった。
「そこ!何かカードみたいなものが刺さってる!」
「ん?本当だ。すみません、少しふたを上げてもらっていいですか?」
俺の口添えでひまわりの収納を一旦中断。
なんだなんだとざわめく周りを置いて、コナン君が刺さっているカードを取り上げた。
なんと、ひまわりを入れる箱の蓋に刺さっていたのはキッドカードであった。
ロゴマークと共に「ひまわりは頂戴いたしました」の文字が踊っている。
だが。
瞬時にコナン君は眉を顰めた。
「このマークちょっとおかしいよ。探偵事務所に来た予告状ってここにある?」
「コピーならあるけど」
「貸して!」
もはやコナン君の独壇場である。
中森警部が「アンタ、このガキが優秀なのはわかるが手綱は握っといてくれよ」と俺に注意してくる。
俺は愛想笑いで誤魔化した。
手綱握られてるのは俺なんだよなぁ。
コナン君がニューヨークでキッドが使ったキッドカードの材質の違いに着目。
キッドマークも微細な点が違っている点を中森警部に話している。
初めは不審そうだった中森警部も、確かにキッドマークが重ねるとズレていることに気がついたようだ。
TVメディアには出回ってはいるものの、全体像が映ることは少ない。
だが重ねて光にかざせばその違いは明らかだ。
つまり、キッドを騙る何者かがいるということ。
コナン君が頷いた。
「キッドが盗んだように見せかけて、自分のものにしようとしている人がいるんだよ!」
「ふむ……もしそうなら捨ておけんの。ワシのひまわり展を阻む不届き者になるじゃろう」
次郎吉氏が頷き、気炎を上げている。
キッドとの対決に水を差す不届きものとでも思っているのかもしれない。
俺はキッドに念話を入れた。
『で、キッドの立場としては推理あってるん?』
『名探偵の言う通りだよ。あれ俺のカードじゃねぇし。ひまわり損壊の罪までなすりつける気かよ』
部屋の端で警備員のふりをしたキッドが念話越しにぶつぶつ文句を言っている。
まあ、俺はすでに犯人はわかっているんだがな。
いくら人目を盗んだと言っても、ハスターの瞳は過去を映す。
誰があのカードを蓋につけたかなんてすぐにわかると言うわけだ。
しかしひまわりを愛す絵画鑑定士さんが何故ひまわりを壊そうとしたのか。
全くわからんくてちょっとどころでなく謎。
『じゃあ俺、ちょいと姿を現して発破かけるからいい感じに守ってくれ、頼んだぞ名探偵!』
『おいちょっと!』
声と共にキッドが煙幕玉を地面に転がした。
煙と共に姿を現すのは、白いシルクハットという闇夜には派手にすぎる姿の確保不能の大怪盗。
ひまわりを抱えた怪盗キッドである。
「ご明察!私の仕事を邪魔されると困るので、下手な横槍を入れられる前にひまわりはいただいていきますよ!」
そのまま窓を破壊して持ち去ろうとする。
バリン、と派手に破られた窓の窓枠にキッドが立つ。
瞬間。誰よりも早く動いたのはコナン君であった。
コナン君がキック力増強シューズでサッカーボールをシュート。
キッドは直撃を避ける為、青ざめてひまわりを手放した。
凄い、情け容赦ない攻撃だ。
万が一にも絵画が傷つかないように瞬時に絵に防護魔術を張って、その上でキック力増強シューズを使っている。
殺人サッカーボールはキッドの太ももに掠るように僅かに当たったようだ。
キッドは「ギャッ!」と情けない悲鳴をあげて逃げ出した。
そのままハンググライダーで何も取らずに逃走する。
『ばーか名探偵のばーかばーか!!!』
『小学生かよ。オメーがひまわりを守れって言ったんだろ』
『全力でやることないだろ!?すんごい痛い!骨は無事だけど肉もげるかと思った!!』
悪が滅されたからか、降谷さんはこれで手打ちにするつもりらしい。
特に動く様子もなく怪盗キッドを見送っている。
星の精が混乱に紛れてこっそりコナン君に喝采を送っている。
友達すごい!白いのやっつけた!みんな友達のこと褒める!
諸伏さんはぼんやりあくびを堪えて立ち尽くしている。
…………。
いくら疲れているとはいえ、なんだか諸伏さんの様子がおかしいような。
喧騒が収まって、あとは美術館下に集まるメディアの対応のみだ。
あっという間にメディアに取り囲まれた次郎吉氏は、コナン君をうまく宣伝塔に使ったようだ。
キッドから再び名画ひまわりを守った!黄衣探偵とキッドキラー!7人のサムライ!とカメラが派手にフラッシュを焚く中で次郎吉氏が高笑いしている。
キッドキラーは少し前から呼ばれるようになった呼び名だ。
コナン君はやけにキッドと因縁があるからな。
なんだかんだ対応してたらついた名前らしい。
次郎吉氏は二度にわたって名画を怪盗の手から守ったとして、自信をカメラの前で表明している。
SOMPO美術館の館長さんからもひまわり貸し出しの確約を得られたようだし、ひとまず順調に進んでいるようだ。
あとは、絵画鑑定士さんに少し話を聞くとしようか。
不安そうな彼女がトイレに立った隙を狙って、暗い廊下で後ろから声をかける。
「失礼。絵画鑑定士の宮台さん。貴方、魔術師ですよね」
「………ええと、なんの話ですか?」
誤魔化されたので、俺は肩をすくめた。
あんな堂々と魔術を使っておいて、なんの話はないだろうに。
「幽体の剃刀。見えない刃による攻撃だ。キッドがサッカーボールで体勢を崩したからひまわりは無事だっただけで。本来なら取り返しのつかないことになっていたな」
「ッ………それがわかる貴方なら理解できるでしょ!?あんな悍ましい偽物はこの世に在っちゃダメなの!あれがあるから本物のひまわりも危険視される!」
必死の形相に、俺はパチクリと瞬いた。
悍ましいってのはともかくとして。
偽物って、あれは全部ゴッホさんが描いたものだ。
俺が実際描いてるとこ見てたわけだし。
「どう言う意味だ?アレが旧支配者招来の絵画魔術になっていることを言っているのか?」
「あの偽物2枚があるせいで、ひまわりは危険な魔術品になった!私がひまわりを守らなきゃならないの!」
「??????」
わからん。不定の狂気とかだろうか。
七枚一組でしか絵画魔術として成立しないから一部破壊して他を守ろうと言う話だと思うが。
別に2枚目と5枚目は偽物じゃないし、この二つのせいで魔術品になってるわけでもない。
俺は理解に苦しんで、ひとまず咳払いをした。
「ともかく。ひまわりを狙うのはやめてくれ。飛行機の爆弾が貴方の仕業かは知らないが、まだ被害者は出てないしふんわり着地させられる」
「…………」
「このままなら俺も見ないふりをできる。頼んだぞ」
そう言って、黙って俯く彼女に背を向けて場を離れる。
後ろから刺されないかすごく不安だったが、攻撃してくることはなかった。
これで思い直してくれるといいのだが。
そのあたりで、すっと門から出てきたチャーリー警部が話しかけてきた。
「……彼女はマジックユーザーなのか」
「たぶん。でも法的に立証することはできないぞ?」
「分かっている。米国においても、マジックユーザーへの対処に関してはかなり難航しているからな」
日本において問題になるのと同じように、アメリカでも法整備の遅れが指摘されているようだ。
日本では最後は伝家の宝刀「ハスターが言ってた」が使えるが、国外ではそうはいかないからな。
声を潜めてチャーリーさんが耳打ちする。
「アノマリーを呼び出す成功率を上げる、だったか。マジックユーザーが破壊を決意するほど危険なのか?」
「人類種を容易に滅ぼしうるとしたら?」
「!?」
例えばの話になるが。
俺がちょっとうたた寝をしていて、うっかり無防備にひまわり召喚で地球に来たとする。
瞬時に地球上には時速2300km以上の破滅的な暴風に見舞われて、人類文明は灰燼に帰すだろう。
「まさにひまわりだ。いつも太陽の方を向いている。太陽は人にとって不可欠だが、地上に顕現したら人は滅ぶしかないだろ?」
「………ひまわりを守る我々は間違っていると?」
「いや。この絵画が至宝であることは確かだ。きちんと管理できるなら、悪意を持つ者が現れないなら、怪異が軽率に呼びかけに答えないなら。取っておいた方がいい」
「困ったな、ここで破壊するのが正解に思えてきた」
チャーリー警部が嘆息した。
そしてスマホを取り出し、「本国に連絡する。私1人では手に負えない」と言い切った。
今後アメリカが美術館所蔵のひまわりの警備の厳重化に乗り出してくれると嬉しいなと思っての発言だったが、チャーリー警部も上手く上に話してくれるようだ。
絵画魔術はまだ未解明な分野も多いから、これを機に人間側でも研究をしてくれたら嬉しいなと思うなど。
俺も一時期絵画魔術にハマっていた時期もあったけど、ほんと難しいんだよね。
建築魔術もそうだけど。
それに、きっと米国ならひまわりを破壊はしないだろう。
頑張ればハスター招来の絵画魔術を読み解ける人材が揃っているし。
強大な力は手元に置いておきたいタチの人が多いからな。
芸術とは、人が生きた証そのもの。
なるべくなら愛して、永劫に保存しておきたいものだ。
それらはいつだって失われがちなのだから。
俺たちみたいに不滅の形を得られないものか、悩ましい限りである。
人そのものに不滅を付与できたら一番いいのだけれど。
俺は臨時の会議室になった部屋に戻って、はぁと肩を落とした。
コナン君がぶらぶらと暇そうに思考を巡らせている。
「また研究、再開しようかなぁ」
「……ん、どうしたの黄衣さん。何か言った?」
「怒られそうだからなんでもないことにしとく」
「変に正直なの何。白状しないと怒るよ」
「やだやだ思想と信条の自由への抑圧を許すな!」
俺は喚いて逃げ出すなどした。
この時が素晴らしすぎるので、未来が怖くなっても仕方ないと思いませんか。
また一人ぼっちになるのなんて耐えられないと思いませんか。
あっ、まってニャルさん待って語弊がありましたすみませんでした!
人間、人間縛りの話です座って、ね、おねがい…!
・ニャルニャル
素早く憤って立ち上がった。
僕がいますけど何か不満でも!?!?
羽虫がいい!?はぁ???????
・犯人
ひまわり厄介ファン魔術師。
というか、ひまわり厄介ファンやってるうちに魔術を習得した人。
あの黄衣とか言うやつ……絶対殺す……。(ガチ殺意)(爆弾用意)