ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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業火の向日葵〈ニャル扉〉

 

 犯人、絵画鑑定士の宮台なつみが喚いている。

 

 発動しているのは「病をもたらす」というやや珍しめの魔術だ。

 呪詛の性質が強く、本来は対象者が濃密に接触したものを触媒とするのだが、今回は不使用のようだ。

 対象は重篤な感染症にかかった様な症状になり、やがて命を落とす。

 

 犯人に捕えられた公安警察の1人は高熱に意識を失い、ぐったりと力ない。

 

 なるほど、今自分に手出しすれば呪詛の解除はしない、と主張して他を近づけないようにしてるのか。

 道理で、黒い風×1、銃を構えた公安警察×6を相手に膠着状態なわけだ。

 

 この手の呪詛は術者が気絶した程度では解除されないのが常。

 しかもこれは本来的な意味での病ではないから、降谷さんの権能対象外。

 人員の安全を考えれば、要求に従わざるを得ないだろう。

 

 いや、権能拡張で頑張ればやってやれないこともない気もするが。

 人外一年生の降谷さんには荷が重かろうよ。

 

 のんびりと公安の皆様の間を縫って前に出る。

 「失礼、失礼」と言いながら体を捩じ込めば、俺のことを知っている怪異対策課の面々はギョッとした様子を見せた。

 

 急に現れた俺の姿を見て、キッと憎々しげに犯人は険しい顔をした。

 

「はい、はい。もうひまわりは全て退避済み。逃げても無駄だよ。というか、ここも崩壊しかかってるから早く投降してくれ」

「あなたは何も分かってない!あれが破壊されないと全てのひまわりが危ないのに!あの偽物があるせいで!」

「うーん、やっぱり分からん。あのひまわり、全部ゴッホさんが描いたやつだよ」

「嘘!絵画の歴史を何も分かってないあなたが口を出さないで!」

 

 俺は嘆息した。

 俺も多少はあれからゴッホの絵画について調べた。

 どうやら贋作疑惑で幾度か鑑定が行われているらしいが、研究ではゴッホの真筆という結果が出たそうだ。

 当然だ。

 実際本人が描いてたし、俺も見てたからな。

 

 コナン君達が固唾を飲んで俺たちの様子を見守っている。

 火の手は迫っている。早めに終わらせたい。

 

「歴史は確かに知らないけど、ゴッホさんが描いてるとこは俺もきちんと見てたよ。一つ一つ丁寧に仕上げてた」

「何を………」

 

 俺は一つ、指を鳴らした。

 瞬時に呪詛が弾け飛び、犯人は驚愕の眼差しで俺を見ている。

 

 確かに個人呪詛に割り込むのって普通の魔術師には難しいんだが。

 こうやって軽く迂回路を作ってやれば割と簡単に干渉できるんだよね。

 

 すぐさま倒れ込んだ被呪者の公安員さんの体力を回復させてやれば、すぐに目が覚めたのか慌てて逃げ出す。

 実に素早い判断だ。すばらしい。

 

 愕然と立ち尽くす彼女に、俺はゆっくりと言葉を続けた。

 

「絵画は全て本物だ。当時の制作風景を全て見ていた俺が保証する」

「黄色の、まさか貴方、ゴッホが書簡の中で触れていた『大いなる視線』『黄色の、巨大な、私を狂気に連れて行くもの』と何か関係が…」

「えっ待って、ゴッホさん俺が見てたの気づいてたの!?ウッソマジで?超申し訳なかった視線うるさかったろうに」

 

 当時は特にやることもないしダラダラニートしてただけだったもんな。

 ハリ湖で触手のストレッチしながらゴッホさんの制作風景眺めるのが当時のマイブームだったんだよ。

 

 画家ってストレスがあるからか、虚空に向かってよく叫んでるなぁとは思ってたが。

 まさか俺に言ってたのか?

 失せろとか見るなとか。なんかストレスで幻覚が見えてたわけではなく?

 

 俺の動揺をどう受け取ったのか、犯人は顔を青白くして一歩後ずさった。

 分かってくれたなら、大人しくお縄についてほしい。

 

「そんな、じゃあまさか、本当に───」

 

 

 ヒュッと、彼女がもたれ掛かった扉が開いた。

 

 中は、乱杭歯がずらりと並んでいた。

 

 

 倒れ込んだ犯人をそのままあっさりと飲み込んで、バタン!と扉が閉まる。

 レイクロック美術館の扉に擬態していたそれは、服の端を扉の端に残して、もぐもぐと咀嚼する様子を見せた。

 

 一拍遅れて、怪対課の新入りさんがキャァアアアアア!と悲鳴をあげた。

 俺は慌てて扉をバンバン叩いた。

 

「このニャル!!ペッしなさいペッ!犯人食べない!もうこの件は触れないって言ってたじゃん!約束じゃん!」

【ギャハ。ギャハはハハハハハは!!!】

「知能低い怪異のふりしない!その姿でも喋れることわかってんだからね!」

【…………】

 

 扉に浮き上がってきた巨漢な肥満体の男の顔が、プスーと鼻息だけで返答した。

 犯人を返すつもりはないらしい。

 というかなんでそんな不細工の男を扉の前デザインにしたんだ。

 400kgはありそうな超超超デブの面持ちだぞ。

 

「コラ!!!怒るよ!今日の手作りデザートなしにするよ!」

【!?!?!?】

「ほら、返して。別に人間の1人ぐらいいいじゃんか」

 

 険しく皺を寄せた扉の顔は、モゴモゴと口の中を転がすそぶりを見せた。

 そしてしばらくしてから、ぺっ、と中のものを吐き出す。

 犯人が着ていた服だけだ。

 

 俺は激しく扉を叩いた。

 

「こらーーー!!!中身!中身が大事なんだよ!服だけ出してどうすんだよ!!」

【……ギャハ。ギャハハ】

「知らんぷりしないの!おいニャルそろそろこここじ開けて…ッア゛ーーー!?」

 

 不意に開いた扉に俺も落下。

 哀れにも俺は不細工なニャル扉の丸呑みになった。

 

 「黄衣さんッ!!!」とコナン君が切迫した声をあげてくれる。

 優しい……俺はニャルに爪先しゃぶられただけだけど……。

 

 と、言っているうちに本体も引き摺り込まれてしまった。

 何本も触手を毟られ、激しくもぐもぐされる。

 全身ヨダレだらけになったあたりでなんとか脱出できた。

 

 俺はヒィヒィ言いながら扉から無理やり這い出て力尽きた。

 

 なんで俺の触手食うんや。そんな美味いんか。

 うーん、そんなに美味しいなら俺の触手下処理して売りに出せば珍味として定着するかな。

 無限に再生するし、SDGsを意識した意識高い系食材として売れるかもしれん。

 

 そんなくだらないことを考えつつ、傍に抱えた犯人を持ち上げ直す。

 

 だいぶ齧られて魂がぐしゃぐしゃだが、俺が仮に治療したからギリなんとかなるだろう。

 とはいえ、目が覚めてもちょっと責任を問うのは難しそうだ。

 

 激怒ニャル相手に命があるだけ儲けもんと考えてくれ。

 というか宮台さん全裸やんけ。バスタオルだけでも巻いてやろう。

 

「はぁ……凄く触手食われた。もうベットベトだし。ニャルいい加減にせぇよ」

【ギャハギャハ!ギャハハはは!!!】

 

 高笑いを残して、シュンッと扉は普通の扉に戻った。

 ニャルが退散したようだ。

 

 あの姿は単に気分の問題だろうが、俺との交渉はしないという意思の表れだったのかもしれない。

 つまり絶対に犯人を弄んでやると思ってたか。

 

 はあ、と俺はため息をついた。

 

 もうパチパチとした火の手はすぐそこまでやってきている。

 変なタイムロスをしてしまった。

 もう撤退せねばまずいだろう。

 

 降谷さんが駆け寄ってきて、俺に問いかけた。

 

「無事なのか黄衣君!」

「めっちゃ触手喰われたけど無事。犯人は……あー、病院で過ごしてもらうとして。もうニャルはいないから扉を潜っても大丈夫。食われないよ」

「………君たちが食われた後だとくぐるのに凄く勇気がいるな。だが、そうも言ってられないか。総員退避だ!」

 

 掛け声とともに、覚悟を決めた他の面々が決死の表情で扉をくぐる。

 キッドが涙目だ。

 

 そうして、俺たちという最後の脱出者が扉を出て。

 事件は一旦の終息を迎えた。

 

 俺たちは犯人確保に成功し、巨額をかけたレイクロック美術館は初日で大炎上、崩壊するという憂き目に遭ったのであった。

 

 

 

 

 降谷さんのスマホが震えている。

 マナーモードのそれを降谷さんが取って、静かな表情でいつも通りに声を出す。

 

「……なに?ヒロが倒れた!?」

 





・星の精
いつまで経っても友達が美術館から出てこない。
動かないに…なった……?
友達が………?
無事最後に出てきたコナン君を見て大号泣。
干物になるまで泣いた。

・ヒロ
急に入った別の公安任務についてた。
ばたり。
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