ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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クトゥルフの呼び声

 

 ふわふわとした夢の中で神に会った。

 ゆらゆらとした深海の底で手を伸ばす。

 

 それこそが、己の求めていた在り方だと一目で分かった。

 両親が死んだあの時から、無自覚に求めていた欠落そのものだと魂で理解した。

 

 初めから己は神に仕えるべくデザインされていたのだと、納得とともに歓喜した。

 

 

 景光がこの幸運な気づきを得られたのは、どうやらいくつかの幸運が重なったからのようだ。

 

 まずは年月の経過。

 順調に神の器として育った景光は、幸運にも霧散することなく現世にとどまることができた。

 そうして力を蓄え、十分な魂の強度を確保。

 神を迎え入れる準備が整った。

 

 次に神への捧げ物の儀式。

 一年に一度、若い魂を神に捧げる儀式が行われ、それは景光を経由する形で成り立っていた。

 しかし術の性質上、眠っているものは捧げ物を受け取ることができない。

 これまでは神の代わりに景光が受け取っていたわけだが。

 

 偶然にも器の完成とともに景光も神と同じく眠りについていたため、捧げ物の受け取り手がいなくなった。

 宙ぶらりんの捧げ物が景光と神の間に滞留して。

 縁の強化として効力を発揮した。

 

 最後に神海島にある深きものどもの封印解放機構。

 それは儀式の最中に爆破されて不発に終わったが、力の一部は神の袂に入っていた。

 

 

 

 

「そんなわけで、俺は正式に神の子となって、神の声を聞いて神海島の不発だった封印解放機構を再発動したってわけだ。どうだ、なかなか働き者だろ?」

 

 諸伏さんが誇るように胸を張った。

 穏やかでいつも通り、優しい面持ちだ。

 

 空の鼓動は一旦は治ったが、まだ鳥肌の立つような感覚が背筋に走る感覚があるのだろう。

 降谷さんが顔を青ざめさせて一歩後ろに下がった。

 

「ひ、ろ……?お前、起きて、……何を、言って」

「あ、ゼロ。どうだこの肉体!神様に貰ったんだ。いい感じだろ?」

 

 くるくると服を見せるように回ってその身体を主張する。

 どうやら肉体を付与されたようだ。

 

 珍しいことだ。

 クトゥルフならその程度簡単にできるだろうが、羽虫如きに褒美を与えるやつじゃないのに。

 

 俺は口端を舐めてから、ゆっくりと口を開いた。

 

「で、クトゥルフの元に向かわずに、肉体を与えられた上でここに来たのは理由があるんだろ?」「無粋だなぁ、今結構感動的なシーンなのに。人類種が拝む最後の夜だ。ゆっくり会話してもバチは当たらないぞ?」

 

 諸伏さんはクスクスと無邪気に笑う。

 そこにはやはり底知れぬ悪意が滲んでいて、どうにもゾッとするような違和感をもたらしていた。

 

 精神性があまりにも俺たちの知る彼と違う。

 クトゥルフの影響を受けていることは間違い無いだろう。

 あのタコから引き剥がしてから元に戻るかは、賭けになりそうだ。

 

 諸伏兄が静止を見てなお止まらず、無防備に一歩前に出た。

 

「景光。目的を聞きたい」

「………兄さんがそう言うなら」

 

 諸伏さんは少しだけむくれるような顔で唇を尖らせた。

 

「俺は黄衣と親しいから、神様に説得を任されたんだ」

「説得?」

「ああ。黄衣が大人しく神様のものになるなら、この星の羽虫は殺さないでいてやるってさ」

「!」

 

 俺氏、タコに貞操を狙われてる件───!

 

 いやふざけてる場合じゃないな。

 やはりクトゥルフの狙いは俺、正確には俺の中の光だったということだろう。

 

 俺は嘲笑とともに肩をすくめた。

 

「馬鹿な。奴がそんなくだらない約束守るわけないだろ。断る」

「あーあ、残念だな。神様も、『羽虫を助けるために無為に光が消費されるのは避けたい』って嘆いてたのに」

 

 まあいいや、と諸伏さんは軽く諦めた。

 話は終わったということらしい。

 くるりと背を向けたので、今まで愕然と黙っていた降谷さんが風となってゆく手に立ち塞がった。

 

「……ヒロ。それを聞いてタダで帰すと思うのか」

「ああそうだ、ゼロにも言わなきゃならないことがあったんだった!なあ、黄衣が負けたらゼロも移籍してもらえることになったんだ!」

「は?」

 

 何を言っているのか分からない、と言う顔の降谷さんに、諸伏さんは嬉しそうな様子で言い募った。

 降谷さんの顔色が悪い。真っ青だ。

 

「ほら、ゼロってニャルさんから黄衣に所属を変えただろ?そんな感じで、俺の神様の化身に変えてもらうんだ!そうすればずっと一緒にやってけるだろ?」

「断る。人類は守る。黄衣も渡さない。お前の神は地球から追い出す」

「強情だなぁ」

 

 少しだけ寂しそうに目を伏せたようだ。

 諸伏さんは振り返って、諸伏兄に笑いかける。

 

「兄さんはどうする?兄さんなら殺さないって約束できるよ」

「生憎と、人類が滅んで1人生き残る趣味はありませんので」

「そうか。………はぁ」

 

 ため息とともに。

 背後からグシャリ、と言う生々しい肉の潰れる音が響く。

 

 咄嗟に振り返ると、外守一が頭部を柘榴のように弾けさせてくしゃりと地面に頽れていた。

 片手を伸ばした諸伏さんの指先からは、権能を放射した形跡が見える。

 

 一番近くにいた諸伏兄が半身に返り血を浴びながら、眉一つ動かさずに問いかけた。

 

「彼はクトゥルフの信奉者で、今回の復活の立役者だと思いましたが」

「個人的に気に食わないし、もう用済みだってことだからな。兄さんだってコイツのことは好きじゃないだろ?」

「個人の好悪で人に手をかけたりはしませんよ」

「はは、兄さんはやっぱ俺の理想の兄さんだよ!」

 

 上機嫌そうに笑い声をあげて。

 そのまま阻害の権能を深く纏った。

 

「兄さんは殺さない。神様の復活まであと数時間だ。また会おう」

「ヒロ、待つんだ!」

 

 降谷さんの静止も虚しく、諸伏さんは俺たちの前からかき消えた。

 

 

 場に沈黙が満ちる。

 

 日はどっぷりと暮れて、ただ頭部のない死体だけが河原に転がっている。

 早く処理しなければ、見つかって大事件になってしまうことだろう。

 

 降谷さんがギリ、と歯を鈍く噛み締めながら喚いた。

 

「どういうつもりだ!君ならあの危険因子をみすみす逃すことはなかったはずだ、黄衣君!」

「落ち着いて。あんな小さな端末、逃したところで誤差だよ。それよりクトゥルフの復活をどうするかだ。日の出までには間違いなく封印が千切れる」

 

 俺はやや早口で言い訳をした。

 本当は諸伏さんに酷いことをしたくなかっただけで、もっと言えば現実逃避していただけだが。

 降谷さんはそれを理解して見ないふりをしてくれるようだ。

 しばし激情を堪えたあと、大きな息をついて項垂れた。

 

 コナン君が鋭い瞳で俺を見上げた。

 

「まさか黄衣さん、人間を人質に取られたからって身売りするなんて考えてないよね?」

「しないしない。俺が光を取られたら、人にとって第二の危険な旧支配者になるだけだし。そもそも言った通りクトゥルフに敗者の約束を守るなんて概念はない」

 

 しかしどうするか、本当に困った。

 封印は全力で回して今のこの状況だ。

 無限の権能を持つクトゥルフが起きて封印を破ろうとしている以上、それを抑え続ける術はない。

 だから俺は奴を眠りに落として、権能を使う意思のない状態へと固定したのだから。

 

 降谷さんが「今警察に届ければあまりにロスだ。一旦隠蔽してくれないか」と死体を指差した。

 俺は頷いて、軽く諸伏兄の血を落として隠蔽魔術をかけてやる。

 

 降谷さんはそのまま公安に電話するようで、スマホを取り出した。

 

 俺が沈黙のままに深く悩んでいると。

 

 ポン!と小さなクラッカーのような破裂音が響いた。

 パリコレみたいな奇抜なモノクロの衣装を身に纏ったニャルが、派手に手足をバタバタさせながら現れたのだ。

 

「ニャルラトホテプ参上しました!殴っていいタコはどこですか!?」

「おうニャル、いいところに来た!まだタコは封印中だけど、俺のこと狙ってるらしい。一緒にボコろう!」

「はぁ!?!?我が夫を!?!?」

 

 目ん玉飛び出そうな勢いでニャルが憤慨し始める。

 やる気十分、屈伸して腕を回してアップを始めたようだ。

 

「我が夫を僕から取ろうなんて大きく出ましたね。みじん切りにしてフォーマルハウトに撒いてやりますよ」

「それはクトゥグアさんが迷惑するからやめようね。というか、人間は滅ぼさないように」

「無理じゃないです?地球上で完全顕現して戦うんでしょう?」

 

 ニャルは困惑してもっともなことを言った。

 それは、確かにその通りだ。

 

 クトゥルフとの正面対決なら、間違いなく俺の方が上。

 俺も手傷は負うが、危なげなく勝利できる。

 そこにニャルが加わればもっと確実。ボコボコにできる。

 

 問題は、クトゥルフがこの地球上にいると言うことの一点のみ。

 

 今回のクトゥルフは前回と違って俺の弱みが人間だと気づいている。

 恐らくは攻撃の合間になるべく人間を狙ってくることだろう。

 

 そうなれば間違いなく、制圧より先に人類を大量に殺されてしまう。

 

 俺はニャルをヨスヨスしながら思考を回した。

 

「クトゥルフは優先的に人間を殺そうとするものとする。その時、人間を存続させつつクトゥルフを退去させるにはどうしたらいいと思う?」

「えぇ……星が砕けない程度に最速でぶちのめしても9割死にますよ羽虫なんて。前やったように地球を避難させるんじゃダメなんです?」

「封印中は使えないのと、……諸伏さんを置いていくことになる」

 

 クトゥルフの端末を体内に入れるわけにはいかないからな。

 逃走先がバレて、さながらGPSつけたまま逃げるようなもんになってしまう。

 

 それと……クトゥルフ側が俺の意図を理解して地球にしがみつけば、この目論見はうまくいかない。

 根本的に旧支配者が地球とそこに住む人間に興味がないから成立していた作戦だ。

 しがみつかれないよう、タイミングは慎重に図らねばならない。

 

 ニャルラトホテプは早くも飽き始めたのか、コナン君をウリウリ引っ張りながらどうでも良さそうにした。

 

「ならもうここの羽虫は諦めて、新しい星で羽虫を養殖すればいいじゃないですか。僕にくれた結婚指輪。あれ、この星の微生物の再現機構があるでしょう。あれでまた育てればいい」

「………」

 

 それは嫌だ、と言うのは流石にわがままが過ぎた。

 

 でも間違いなく嫌だった。

 人間の滅びなんて受け入れたくない。死んでほしくない。悲しみを見たくない。

 だって、だって。

 だって俺も人間だ、こんなに沢山親しい人がいるのに!

 

 「黄衣さん」と静かなコナン君の声が落とされ、ハッと俺は顔を上げた。

 

「わ、悪いコナン君、なんかあったか?」

「思考を回すのは悪いことじゃないけど、思い詰めるのは良くないよ。考えを出し合おうよ、そのためにみんながいるじゃない」

 

 にこりと、優しい笑みが俺を捉える。

 俺は少しだけ肩の力を抜き「ごめんコナン君、ありがと」と答えたのだった。

 





・ジンニキ
ここにいたらやばい!と直感。
神海島からなんとか脱出した。
そそくさと魚たちが宴を始めたので、料理担当を始末して食料を強奪して逃走。
潜伏して機を窺った後に盗んだ遊覧船で魚を轢き殺しながら走り出した。
どこに逃げてもやばい気しかしねぇ!!

・ヨグ=ソトース
息子に呼ばれるかなって思って待機してたのに呼ばれなくってがっかりして泡がくすんだ。
ヨグ=ソトース(グレイッシュトーン)
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