ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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決戦──変更前

 

 出立前の最後の確認である。

 人気のない埠頭に立ち、俺はしっかりと目線を合わせた。

 

 もう間も無く、クトゥルフが目覚める。

 

「えー、過去の注意事項です。まず時空旅行者だと誰にもバレないようにしてください。バレると俺が後から泣きます」

「バレても大丈夫そう」

「俺が泣く言うとるやろがい。ハスタさんが可哀想じゃないんか」

 

 俺が憤ると、星の精を撫でながらコナン君がクスクスと笑った。

 まあ純粋に俺の仕事が増えるだけだ。

 絶対に守らねばならないわけでもないが、できれば守ってほしいところ。

 

「時空旅行の大敵である犬は出ないから安心してくれ。イ=スパワー。あと歴史改変はしてもいいけど、俺が修正するので無意味になります」

「過去は変えられないってことだね。了解。じゃあ僕らは注意しつつ、神海島の海底宮殿に魔術を仕掛ければいいってことか」

「工夫はしたけど、魔術敷設完了まで三分はかかる。気をつけてね」

 

 敵地でそんな足止めをさせたくはなかったが。

 本来ならその場で5000年は儀式をする必要がある規模の巨大術式だ。

 口惜しいが、これ以上は短縮できなかった。

 

 俺が全力で編んだ、時間と空間、封印と歴史に干渉する大魔術。

 限界まで圧縮したそれは、今現在コナン君のブレスレットをかなり圧迫してしまっている。

 

 さて、短い注意事項も終わり。

 俺の戦闘が始まったらコナン君達を送り込んで、あとは耐久戦である。

 

 準備は終わったし、封印を解くとしようか。

 

 

 マモーさんには連絡済みだ。

 これからクトゥルフが復活すること、なるべく身を守ること、できれば門の創造で遠くに逃げてほしいこと。

 必要なことは伝えたから、無事だとは思うのだが。

 すんごく怯えてたから、うまく動けたかは少し不安だ。

 

 各魔術団体にも同様のお告げを伝えてある。

 黄色の印の兄弟団は人類守護のために動くとのことだ。

 どこまでできるかは正直不明だが、人の被害がわずかでも少なくなるのなら嬉しい。

 

 イ=ス人は基本この時間軸から撤退。

 惑星外に脱出できる種は既に逃げ出している。

 残っているのは星を渡る力のないもの達ばかりだが、旧神は一部迎撃の姿勢を取っている。

 

 漁の神ノーデンスなども、溢れかえるであろう深きものどもの討滅に尽力してくれるらしい。

 俺のいとこで旧神に鞍替えしたサニドは人類の守護をしてくれるようだ。

 

 クトゥルフそっくりなので俺はサニドのことは好きじゃないんだがな。

 前のハイパーボリア滅亡で俺が深手を追って撤退したあと、人類が滅亡しないようこまめに見ててくれたのはサニドだ。

 陰ながら人類存続に助力したサニドには強く出れない。

 普段は深海に自己封印して引きこもってくれてるし、すごくいい奴ではあるんだよ。

 

「じゃ、俺は行ってくるよ。戦闘が始まったら転移を作動させるから、身構えててね」

「黄衣さんも気をつけて。降谷さんもニャルさんも」

「僕は何も問題ありませんよ。心配なのはこの矮小な化身がうっかり消し飛ばされることですね」

「僕は離れたところでダゴンとハイドラを処理する作業に従事するから問題ないはずだ。……はずだよな?」

「囲まれてうっかり死んだら我が夫が悲しみます。死んだらしばきますよ」

「死んだらしばけないだろ……いや僕は復活するからしばけるのか。気をつける」

 

 降谷さんがため息をついた。

 諸伏兄は少しだけ悲しそうな顔をして「ご武運を」とだけ言った。

 無力さを噛み締めているのか、応援することしかできない身を嘆いているのか。

 

 だが待っている人がいてくれるから俺たちも頑張ることができる。

 俺は頷いて、「じゃあ行こう」と声をかけた。

 

 転移を発動。

 

 南緯47度9分、西経126度43分。

 そこに海底都市ルルイエが存在する。

 

 かつて、深きものどもがハイパーボリアを攻めるための拠点として使った場所だ。

 そこに俺がクトゥルフを押し込んで、深き眠りの封印を施した。

 今では多くの深きものどもの住まいにもなっていて、遺跡の周りには真新しい街が築かれている。

 

 その石造りの捻れた街並みは、海底から浮上して暗闇と荒波の中塔のようねじくれて伸び上がっていた。

 どこか怨念じみた空気が打ちつける波に紛れて薫ってくるようだ。

 

 ニャルがやや悩ましそうに息をついた。

 

「とりあえず僕が我が夫を守りながらほどほどに殴ります。我が夫は羽虫を守りつつ時間稼ぎする、でいいですよね」

「ああ。悪いなニャル。つまらないことに付き合わせて」

「構いませんよ、いつものことじゃないですか。僕らは唯一同士。こんなの愛のうちにも入りません」

 

 にこりと、溢れんばかりの愛の滲んだ顔でニャルが笑う。

 俺はニャルと正面から向かい合って、ゆっくりと抱きしめた。

 強く、人の流儀で、しかし確かに愛を分かち合うように。

 

 降谷さんが迷惑そうに眉を顰めた。

 

「僕もいるんだが。今にもハリウッドシーンの濡れ場が始まりそうな空気を出すのはやめてくれ」

「おっと失礼。この辺にして始めようか」

 

 ニャルが不満を爆発させて俺の触手に齧り付いた。

 どうどう。どっちにしろクトゥルフの対処が優先だからそう暴れるでない。

 

「アクセス権限照合開始。承認、内部ロック解除。三重機構封印解放。再照合、承認。極大神格封印術式─────解除」

 

 パチン、と軽い音が響く。

 波音にかき消され、それは俺たちの耳に響くことはなかった。

 

 だが。

 代わりに瞬時に、鯨の鳴き声のような高く響くような嘶きが耳を穿った。

 

 俺が外に張った五つの巨大SAN値防壁が瞬く間に粉砕される。

 

 波動が届く前に結界を再展開。

 全世界の人間を発狂せしめるであろうその攻撃を、ギリギリで防ぎ切る。

 挨拶代わりか、忌々しいことだ。

 

 石造りの街から立ち上がる影がある。

 巨大な、あまりにも巨大な姿が、無限を纏って大きく大きく翼を広げる。

 

 形だけの翼、タコに似た触手のある頭部。

 鉤爪のある手足は凶悪そうで、長く伸びた触腕が背中から蠢いている。

 

 それは間違いなく俺を見て、醜悪に嗤った。

 

 

 

 瞬間、凄まじい爆音と共にクトゥルフの頭が吹っ飛んだ。

 

 本来の無形の触手に戻ったニャルが、クトゥルフの頬に直接攻撃をぶち込んだのだ。

 頭が吹っ飛んだ程度で旧支配者が死ぬはずもない。

 吹っ飛んだ肉が全てダゴンとなり、ギシギシと歪な咆哮を上げながら動き出そうとする。

 

 攻撃の余波で高層ビルほどもある高波が発生、俺が慌てて地上を襲う前に

 打ち消した。

 

「降谷さん!肉片ダゴン頼んだ!俺は残党処理と環境保護と精神防壁、全世界の深きものどもの対処をする」

「無茶を言うな!あれ全部神格レベルのサイズだぞ!」

「できる限りでいい!減らしてくれ!」

 

 時空間転移発動。

 ジン、コナン君、星の精を過去の負担の少ない場所へと転送する。

 

 再びニャルの攻撃が炸裂。

 雲霞の如きダゴンの群れが産み落とされ、その全てが「無限」の権能を纏って進み出す。

 

 クトゥルフの目が細められた。

 凄まじい規模の権能の放出を確認。

 「無限」を生物に向けて単純に放出する荒技だろう。

 魚が、甲殻類が細菌が、「無限」に耐えられず歪に変容して破裂する。

 

【はっ、対応済みだっつの!】

 

 俺は本性を露わにして、巨大な空飛ぶイカの如き姿で吠えた。

 人類を無限の肉塊に変える気だろうが、そんなもん三億年前から重々承知してる。

 

 権能に干渉するように「有限」の理を魔術で編んで散布。

 権能と魔術なら、魔術の方が強大だ。

 それはアザトースの理論であるからして、単なる個人的な夢である権能とは強度が違うからだ。

 

 霧散した「無限」は、しかしバケモノへと変えた魚達を操って外へと侵攻させていく。

 どうあっても地上の人間を殺したいらしい。

 

 俺は叫んだ。

 

【来い!来い!ビヤーキー!我が奉仕種族よ!地球を守れ、人を守れ!忌まわしき無限の徒を刈り取るのだ!】

 

 馬の嘶きに似た声が降り注ぐ。

 ビヤーキーの召喚/従属。

 

 八億体の一斉召喚だ。

 その全てにSAN値防壁と姿隠しの魔術が付与してある。

 物量に対抗するなら物量が一番簡単だ。

 それらは一斉に海へと飛び込み、異形と化した魚達へと食いついた。

 

 降谷さんが黒い風の本性を露わにしながら、それでも劣勢に喘いでいる。

 

【ックソ、埒が明かない!吹っ飛ばしても吹っ飛ばしても再生する!終わりはないのか!】

【無い!ニャル、ぶち破りすぎるなよ!ダゴンが許容量を超えるとあれがくる!】

「あれじゃわかんないです!ああもう、力の加減面倒くさい!全力で殴っちゃダメですか!?」

【星が終わるでしょうが!!】

 

 クトゥルフが、ここに来てようやく人語を口にした。

 

【───我が奉仕種族よ。人を襲え。光を毀損せよ。奴の戦意が削がれるように】

【!】

 

 俺は奴の権能が地球環境を破壊しないように手一杯。

 「無限」があらゆる環境、すなわち地球の自転を大気の重さを、塩分濃度を、化学反応速度を。

 無限に変化せしめんと荒れ狂っている。

 サニドも助力してくれているが、そんなのごく一部だ。

 破壊は易く、守ることはこんなにも難しい。

 

 頼んだ、コナン君達。

 

 どうか、どうか成し遂げてくれ。

 

 

 

 

 

 江戸川コナンは上を見上げた。

 

 一瞬の浮遊感の後、虹色のトンネルのようなものが現れたからだ。

 

 どこまでも続くそれは、パチパチと弾ける虹色の泡でできている。

 奇妙な視線。

 それはこちらをじっと見ながらコナン達をゆったりとした動作で送り届けていた。

 

 コナンはびっくりして姿勢を正した。

 

「うわ、黄衣さんのお父さんだ」

「?????奴は目のチカチカする虹色の泡から生まれたって意味か?」

「ニャルさん曰く、子煩悩な父親なんだって。いつも黄衣さんにお世話になってます。偉大な父君だって聞いてます」

 

 コナンはひとまず礼を失さぬようぺこりと頭を下げた。

 人間の礼儀なんて解するとは思わないが、念のため礼儀正しくしておくのは悪いことではない。

 

 ニュッと虹色のトンネルの壁が伸びて、コナンの頭をちょっとだけヨスヨスと撫でた。

 そしてシュンッとトンネルの壁に戻る。

 

 ジンは背後に宇宙を背負った。

 「クス…」と星の精がちょっと怖がってコナンの懐で震えて、そして隣のジンも見てまた震える。

 

 コナンは少し笑って肩をすくめた。

 

「悪ぃな、なんかオメーのこと星の精は忘れてるみてぇでさ」

「興味ねぇ野郎の顔を覚えるもんでもねぇしな。別に構わねぇよ」

「クス?」

 

 星の精は忘れてる?この銀髪見覚え………ない!

 怪しい奴!星の精はこんなやつ知らない!

 

 星の精は強情なようだ。

 

 そうしている間に、出口が見えてきた。

 

 

 運命の時が、始まるのだ。

 





・サニド
いとこ。光もぐもぐ勢。
人間に対しすごく慈悲深くて、一神教の神ぐらいには人類を助けてくれる。
一神教の神くらいには人非人。

・ヨグ=ソトース(上機嫌)
息子が「偉大な父」って言ってたって!
さすが息子、弁えた微生物を飼ってるなぁ!
ヨシヨシしようねぇ。
ちょっと心が持ち直した。
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