ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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紺碧の棺〈宿命と到着〉

 

 時が止まったような、絶望的な感覚が支配する。

 

 諸伏景光がクトゥルフの巨大な肩に乗せられ、ゆったりと踊っていた。

 ニャルラトホテプがもじゃもじゃボールな体に人の頭だけを生やして首を傾げて見せた。

 

「なんですあの羽虫。マジでただの羽虫でしかないじゃないですか。今出して何の意味があるんです?」

【…………人質だよ】

 

 その身体は強化も何もされぬまま、ただ「諸伏景光」そのものとして作られていた。

 すなわち、降谷さんが腕を振るたび、ニャルがただ視線を向けるたびに弾け飛ぶ矮小な肉体だということ。

 

 意図は明白だ。

 

 降谷さんが返す刀でダゴンを膾斬りにして、体勢を立て直してから吐き捨てた。

 

【ヒロが惜しければ攻撃をやめろと?随分としみったれた神もいたものだな】

【────我が元に捧げよ。光を捧げよ。外より飛来せし道標、ハスター】

 

 俺は鼻で笑って術式を際装填した。

 

【馬鹿じゃねぇの。俺の光を欲して何企んでんだとは思ってたが、道標と来たか】

【──────】

 

 クトゥルフは俺の光を食って、人間性の一つを獲得した。

 支配欲。

 己が手中に収めたいと欲する、根源的な邪心を獲得したのだ。

 

 別に具体的にどう支配するかとかはない。

 ただ蹂躙して、痛めつけて、破壊して、そこに深きものどもとダゴンとハイドラを置いておくだけの支配だ。

 支配を欲するくせに面倒くさがりだから、最も簡単な支配たる恐怖による支配を好む。

 

 そうして全てを蹂躙し弄ぶことが、この神格の目的である。

 

 ニャルがポポポポーンと呆れた顔をした。

 

「つまり?」

【あいつは俺が「前世と呼ぶ場所」を支配しようと狙ってるんだ。俺の光をその手がかりにしようと思ってんだよ。おおかた、外なる神に邪魔されずに蹂躙できる場所を探してんだ】

「なるほど。……えぇぇ?白痴の夢の外?羽虫遊びのためにそこまで…?」

 

 ニャルはひたすら首を捻って「羽虫遊びは楽しいですけどぉ、そんな真剣になるもんじゃないですよ?マジで言ってます???」と目を回した。

 降谷さんが眉間に皺を寄せて隣に並んだようだ。

 

【僕もそろそろダゴン討滅に限界が来る。加えてヒロを人質に取られたら……動けない】

【オーケー、無理しないように、ヤバくなったら戦線離脱して人類の保護にまわってくれ】

 

 「すまない」と降谷さんが奥歯を強く噛み締めたように唸った。

 風の体ではそれがどんな仕草なのか判別しづらいが。

 それでも、きっと彼にはあまりにも酷なことであった。

 

 諸伏さんが念話で歌い上げる。

 

『来ないのか?こうしている間にも、人間が襲われているぞ?』

【焦んなよ。ボクシングだって1ラウンドごとにインターバルがある。様式美ってやつさ】

 

 そのように軽口を叩いておく。

 未だドン引きしてるニャルにそっと囁いた。

 

【諸伏さんを殺さないように戦えるか?】

「無理ですよそんなの。あんなちっちゃい羽虫、殴った風圧で吹っ飛びます」

【了解。俺がやる。ニャルは俺が編んだ術の維持だけしておいてくれ】

 

 戦闘中に俺が全力で編んだ魔術の制御をポンとニャルに投げ渡す。

 「対無限環境維持システム・アイン」「対侵攻迎撃補助システム・ソフ」「統括戦況把握機構・オウル」の三つからなる巨大術式だ。

 

 ニャルが瞬時に目を回し「キモ!!!!!なにこれ!!」と叫んだ。

 誰がキモいじゃボケ。

 ニャルの有機的な使い捨て魔術のがよっぽどキモいわい。

 

 正面から見据えあったクトゥルフは、俺の数倍はあろうかという巨体だった。

 だが、もはや我々の戦いにおいてサイズはさしたる違いとはならない。

 

 コンマ秒。

 星の数ほどの術式を編み上げて、俺は啖呵を切った。

 

 

【三億年前の焼き直しと行こうか。お気に入りの枕は持って来たか?】

【─────光を寄越せ】

 

 

 

 

 

 

 

 その頃。

 あっさりと海底宮殿本体へと入り込んだコナン達だったが。

 

 今、深きものどもに追われながら必死の城荒らしに勤しんでいる。

 

「爆弾魔かよテメー!!!!あらゆる壁吹っ飛ばして最短で奥まで来る奴があるか!?」

「急ぎだろう。魚相手にチマチマスニーキングミッションなんてやってられっか」

「だからって!黄衣さんに作ってもらった完全防水バッグに詰めてたのアサルトライフルかよ!?拳銃じゃダメだったのかよ!」

「これはこれで必要だが、あの魚を素早く処理するならこっちがベストだ。前の時は貫通力不足で思ったより時間がかかって焦ったからな」

 

 ガチャコン!とマガジンを挿入し直して、ジンが舌打ちした。

 星の精が隣でぐるぐる巻きにした深きもの一匹に凄んだ。

 

「クッス…!」

「ひっ、ひぃいいい!喰わないでくれ!合ってる!この先が神の間だ!」

 

 星の精の乱杭歯に涙を流して怯える深きものに、星の精はやさぐれたまま拳を突き出した。

 

「グスッ」

「ゲフゥ!?……な、なぜ……」

 

 バタリと倒れ伏した深きものを、ジンが情け容赦なく地下迷宮の奇妙な文明でできた用水路へと流す。

 哀れな深きものはどんぶらこと流れていった。

 

 ジンが特に感慨もないまま口を開く。

 

「このまま真っ直ぐ入って、古びた帆船のあるスペースが最奥だ。入り口に妙な仕掛けがある。解除できるならしたほうがいいだろう」

「ん?………あれか。了解、3秒でぶっ壊してやるよ!」

「ならこれを持って先に行け。俺は魚どもの数を減らしておく。入り口に仕掛けろ。俺が入ると同時に入り口を塞ぐ」

「無限に爆薬出てくるじゃん。わかった、気をつけろよ!」

 

 言いたいことはいろいろあったが、そんなもの全部後回し。

 今は爆弾を持って走るだけだ。

 

 扉の周辺には悪質な呪詛のようなものが滞留していた。

 

 どうやら侵入者の居場所を送信する類で、加えて多少の不運をもたらす効果もあるようだ。

 致死性のものではないが、持続力を主としていて非常に厄介。

 だが黄衣が定期的に出してた「日刊解呪パズル!」の1割にも満たない簡素な作りだ。

 

 走っている間、1秒以内で速攻解除する。

 

 霧散した術式の間を駆け抜ける。

 入り口を開けて扉に爆弾を仕掛けて、起爆スタンバイ完了。

 

 背後からは断続的に銃声が響いている。

 

「星の精、ジンが駆け込んできたら急いで扉から離れるんだ。いいな!」

「クス!」

 

 瞬間、喧騒がこちらに駆けてくる。

 全力で駆けるジンの背後から、化け物どもの怒号が聞こえてくる。

 だが流石ジン、多人数相手に手慣れているのか、かなり余裕をもってジンは扉を潜った。

 

 すぐに追っ手が追いつく前に爆薬を炸裂、崩れ落ちた岩によって行手が塞がれる。

 

 

 ジンが乱暴に汗を拭ってアサルトライフルを下ろした。

 言葉少なに奥に進む姿に、自分たちがようやく目的の場所に来たことを悟る。

 

 ジンはずっと上を見上げた。

 

「あの船だ。この天井いっぱいに描かれた妙な壁画と、船。これが神の復活の要とやらだろうよ」

「…………ッ!」

 

 天井には、壁画のようなものが幾重にも描かれていた。

 

 お世辞にも綺麗なものではない。

 ぐちゃぐちゃで子供の落書きにも似ていて、肉眼で読み取れるものはなにもない。

 ジンの言っていたことが確かなら、きっと天井付近にはメタンガスが溜まっていて、近づけば危険もあるのだろう。

 

 だが何よりも、コナンの目を奪ったものがある。

 

 降り注ぐような、あまりにも巨大な術式が、天井をみっしりと覆っていた。

 何百年、何千年、何万年かけて築き上げたものなのだろうか。

 あまりに緻密なそれをコナンは読み取ることができそうにないほどに、濃密な魔術の香り。

 

 ただ時を幾重にも重ねて、子々孫々と繋いできたのだろう。

 術式はつぎはぎで、数多の深きものどもの手によって描かれて来たことだけは確かだった。

 

 その下には、何かの希望を象徴するように船が一隻、ただ海中の湖で浮かんでいる。

 

 コナンは慎重に、ゆっくりと。

 船の方へと歩き出した。

 

 

「黄衣さんからもらった術式を展開する。3分、時間を稼いでくれ」

 





・深きものどもの歴史
苦難の歴史。三億年の迫害の歴史。
あの悍ましい神が、我々をこの星の海の深いところへと隠れ潜むよう強要した。
見つけ次第殺され、資源も乏しく文化すら持てない苦しみ。
己のものでない祖先の罪で殺される絶望。
そんな中、船に希望を象徴させて、クトゥルフ復活の望みを託した。
「どうかあの船のように、自由に海を泳げる世界が来ますように」

・人類保護機構アイン・ソフ・オウル
戦闘中に作った戦闘負荷の軽減と人類保護を目的としたシステム。
すんごい規模の魔術。
ニャルも「キモ」以外の言葉が出てこなくなる整然としたデザイン。

・ヨグ=ソトース
愛息子の晴れ舞台!!がんばえ!!!!
(戦況ガン見)(虹色ピカピカ)
ニャル「副王の視線ウザ…」
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