光が収まった時、コナンは無傷だった。
魔術神ハスターが用意したブレスレットの加護がある限り、コナンには絶対の防御が約束される。
しかし、他の2人はそうはいかなかった。
やはりコナンの近くにいた星の精がもっとも重傷だった。
焦げ付いて炭化した触手に、ボトボトと血を垂れ流すゼリー状の胴体は破裂してしまっている。
しばらくはなんとか空中に止まっていたが。
それはふらりと姿勢を崩し、体を波の打ち寄せる陸地に落下させて細い声を上げた。
「ク……ス……」
「星の精ッ!!!」
明らかに重傷だ
コナンはその場から動かず、手当のための魔術のみを回すことに努めた。
駆け寄りたい。駆け寄って声をかけて触手を握ってやりたい。
どんどんと命を取りこぼしていくばかりのように見えるあの子が心配で堪らない。
ジンは位置が良かったようで、偶然にも岩と銃が即死を防いだようだ。
だがこちらも派手な出血で己の血溜まりの中に倒れ伏している。
こちらも回復をかけるが、星の精と違って人体は脆い。
ジンが生きていられるかは完全な賭けだった。
化け物はしげしげとコナンを見て嘆息したようだった。
【頑丈だ。あの忌まわしき神が用意したのか、それは壊せそうにない】
「……はっ、俺が生きてる限りテメーらの陰謀は潰してみせる。こっちも生存がかかってるんでな」
【そうだな。これはワタシ達とお前達との生存競争だ。ここに住まう子らがどれほどの苦難の歴史を歩んだか、お前達は知っているのか】
コナンは少し息を整えて、平静を装った。
口が渇く。
震える手を握りしめて、必死で脳を回した。
「知らないな。けどたとえ知っていたとして、俺の選択は変わらない。俺の大切な人を殺させはしない」
【ふふふ。だめか。ヒトは情に厚い子が多いから、考え直してくれるかと思ったが】
軽く笑って、化け物は触腕を蠢かせた。
【では、ふむ。あの死にかけは別にいいか。そうら】
「ッ!!!」
再び光が瞬いた。
幾百幾千の術式がコナンに殺到して、檻状に変化する。
コナンの持つブレスレットに干渉しないように、外を取り巻くように動きを封じたのだ。
【100年もすればヒトは死ぬだろう。それまでそこでゆっくりしているといい】
「…………」
コナンは深呼吸した。
動かずに、ただ口端をペロリと湿らせる。
「あんたら、そこにあった船はどうしたんだ?どう見ても人間の文明によるものだと思ったけど」
【ああ、これか。これはその昔、この島に来た女海賊が置いていったものだよ。我々への友好の印と、友達宛の贈り物としてね】
少しだけ言葉がまろやかになる。
この怪物が戦闘になる前に湖の中に引き込んで保護するほどだし、よほど大切なものらしい。
コナンは思わず聞き返していた。
「人間と仲が良かったのか?」
【さあ。あの娘はハズレ者のヒトだったから、そうと言えるかは微妙なところだ。だが、何か一つでも異なれば、我々は分かり合えていたかもしれないね】
ハズレ者同士のシンパシーか。
普通になれなかった者同士、あるいは奇妙な友情と呼べるものがそこにはあったのかもしれない。
いかなる経緯があれば友情に至るのか、そこには多くの誤解と対立、偶然と許しがあったことだろう。
昔を懐かしむように、化け物は目を細めたようだった。
【所詮は、神の戯れというやつだがね】
「…………」
そのように。
どこか憂うような、不思議な声色で語って聞かせてくれたのだった。
化け物がうっすらと笑ってコナンを見る。
【さて。時間稼ぎに付き合ってやったんだ。考えはまとまったかな?】
「…………ああ。きっちりな」
【所詮もうお前にできることは何一つない。話し相手ぐらいにはなってやるから、下手な抵抗はしないことだ】
穏やかな言葉は、すでにコナンが詰んでいることを確信していた。
どこまでも理知的な化け物が、再びずるりと肩まで地底湖に沈んで行こうとする。
ジンの容体が気がかりだ。
星の精も、体液をこぼしすぎてもう意識がないのかぴくりともしない。
そこで。
【────ん、あれは?】
コナンが化け物の眼球に麻酔銃を差し込む寸前、天井に打ち込んでおいた黄衣の術式に気づいたらしい。
あと8秒。
あと少しだから、あと少しなのに。
化け物は憤怒の表情で体を起こした。
【小癪な!!!させはせんぞ!!】
巨大な掌が術式を握り潰そうと伸ばされる。
瞬間、コナンの編み込んだ防壁にぶち当たって、派手に弾かれた。
化け物が激情に顔を歪める。
次に化け物は「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」と凄まじい絶叫を上げた。
その魔力を伴った叫び声に、コナンが全力で編み上げた防壁が崩れ落ちる。
あと6秒。
防壁を再展開。
数秒も持たずに化け物の拳の連撃に打ち砕かれた。
防壁の残骸が魔力の破片となって散らばる。
もう回せる魔力がほとんどない。あと一回再展開しても間に合わない。
「工藤新一!メタンガスを分けろ!」
「っ!!」
起き上がったジンが、全力でマシンガンの入っていたバッグを投げ飛ばしていた。
声が歪だ。先ほどの化け物の絶叫で鼓膜が破れたか、音を拾っていないようだった。
力の入らない瀕死の四肢でハンマー投げの要領で投げたとして、大した距離は稼げない。
落下位置が近い。
ここで爆発してジンの命が助かるかは怪しいところだった。
だがコナンも、その意図は十分に把握した。
もう動くしかない。あらゆる命のために、絶望をもたらさないために。
宙に投げ出される爆弾入りのバッグが地面に接触する前に、全力で術式を回す。
メタンガスだけを上へ押し上げて、全力で防護壁を張った。
殴れば割れるような薄い防護壁だったが、この宮殿の崩壊を避ける力ぐらいにはなるだろう。
そして、起爆スイッチがオンになる。
瞬時に凄まじい熱風と爆発が吹きつけて、ジンの体が岩壁に叩きつけられる、瞬間。
意識を失っていたかに見えた星の精が、触手でもってジンを受け止めた。
最後の力を振り絞り、わなわなと震える触手がジンを包む。
【ぁあああああ!!!痛い!痛いぃいいいい】
残り3秒。
化け物が、爆発により肉の削げた身を曝け出しながら手を伸ばした。
【そんなことは許さぬ!我らの、我らの悲願を、絶対に、ここで途絶えさせぬ!】
必死な叫びが胸を打つ。構っていられない。
術式が握り潰される。
残り1秒。
その様を、コナンが最後まで真っ直ぐにその目で捉えて。
虹色に、時が止まった。
残りの時が過ぎ去らぬままに、世界が一手早く描き変わっていく、
残り0秒。もうカウントに意味はない。
術式が成る。歴史が書き変わる。時がすげ変わる。
それを見に来た時間の大神が、そっとコナンの頭を撫でた。
そうして、コナンの意識は真っ白にかき消えたのだった。
・ヨグ=ソトース
1秒早出しソトース。
まあ多少は大目に見て贔屓してみた。
ズル。全ダゴンがブーイング。
息子のために頑張る微生物をヨスヨスした。
・星の精
重体。死にかけ。ゼリー破れた。
グズッグズッ。
・ジンニキ
重体。死にかけ。モツはみ出た状態でハンマー投げした。