ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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そうして全ては虹に染まる

 

 純然たる殴り合いは、やはり俺の方が不利である。

 

 「魂の撃滅」を付与した触手を使って、並の旧支配者なら十度は倒れる攻撃を行なっている。

 それでも、無限によって増強される奴と削り合うのは、果ての見えない登山の如く。

 魔術による牽制を含めても、どうしても押されがちになってしまう。

 

【このっ、いい加減倒れろ!】

 

 俺が長い年月、旧支配者との喧嘩の果てに編み出した触手拳法を繰り出す。

 

 無数にある可変の触手を限りなく効率的に叩き込むことを極めた型だ。

「魂の撃滅」を込めたインファイトでの一撃を相手に決めれば、クトゥルフはタタラを踏んだようだ。

 

 相手が物理法則を超えたあらゆる動きをすることを想定した、魔術を併用した構えである。

 ニャルとの喧嘩にも使える出来は比べるもののない究極だと自負している。

 

 だが。

 シンプルかつ反則的にクソ強い「無限」の権能により、奴は踏みとどまった。

 

 最初と同じ、いや、それよりもなお増幅した無限によって、クトゥルフが咆哮する。

 自己回復に優れる奴はひたすらに硬くタフ、魔力の尽きぬ要塞の如きものだ。

 

 前の時は罠に嵌めて封印したが、もう同じ手は二度と通用しない。

 現に戦闘中不意をつくための海中の罠をもう踏み潰されてしまっている。

 

 その上、いたずらに動く諸伏さんをなんとか避けながらの攻撃になる。

 クトゥルフは余波を気にせず突っ込んでくる。

 それによってグロテスクに吹っ飛ばされた諸伏さんは、次の瞬間無限の権能によって再生されるのだ。

 

 諸伏さんが今生きているのは、クトゥルフの匙加減ひとつ。

 まったくもって嫌になる。

 

 クトゥルフが唸り声の狭間で俺に宣言した。

 

【光を寄越せ。この世に支配者は我一人でいい】

【バーカ。アザトースの触手でもしゃぶってろよ。諸伏さん返せ】

 

 この通り全然会話する気がないから、俺も罵倒を返すしかない。

 ニャルが「そろそろこの術式捨てていいですか。なんか頭痛くなってきそうなんですけど」と触手をぶらぶらさせながらいる。

 

 人類保護機構アイン・ソフ・オウルは維持するだけで結構複雑な操作を要求するからな。

 

 ニャルならこの程度の処理で頭痛がするわけがないんだが、単純に面倒臭過ぎて頭が痛くなってきたのだろう。

 ニャルは猫の如きものだから、面倒臭いに直面するとすぐ調子悪くなるのだ。

 

 降谷さんはあまりに一杯一杯すぎて会話する気力がないらしい。

 無言でひたすら目に映るダゴン全部をぶっ殺し続けている。

 

 均衡が崩れるのはもう間も無く。

 俺は叫んでSAN値回復魔術を叩きつけた。

 

【諸伏さん!正気に戻れ!あなたの本心はそんなものじゃないだろ!】

「本心だよ。全部憎かったんだ」

 

 諸伏さんが嗤う。

 どこか妖艶に、どこか諦観を滲ませて。

 

「なんで俺だけなんだ。どうして俺だけこんなことになるんだ。俺は悪くないだろ。なら誰が悪かったんだ」

 

 そこにどれほどの苦痛がこもっているかは、俺にはよくわからない。

 

 両親を目の前で殺されたトラウマか。

 幼馴染と比べて、兄と比べての劣等感か。

 死後の苦しみは想像を絶するが、果たしてそれが原因か。

 

 それらは全て諸伏さんのせいではないし、諸伏さんなら人を責めるようなことはしない。

 

 諸伏さんを避けて、ふたたびクトゥルフを殴りつける。

 産み落とされたダゴンが陸地に向けてただ盲目に進軍していく。

 黒い風が降り立って、素早くその首を風の鎌で刎ねた。

 

 諸伏さんが、渦巻く黒い風を愛しさすら感じる双眸で捉えた。

 

「つまりだ。この世が悪かったんだ。悪いものは一掃しなけりゃならない。だから」

【桜だったな】

 

 一瞬の空白。

 

 いつのまにか、激闘のうちに朝日が昇っていたらしい。

 雲の切れ目から、「東天に昇る、かげりのない、朝日の清らかな光」が差し込んでいる。

 

 それ即ち旭日。

 その形から桜の代紋もとも呼ばれる、人の安全と営みを守る意思そのもの。

 

 しばし手を止めた黒い風が、己の姿を風で形作る。

 きっと懐かしいであろう姿をとって、少しだけ若い形となった彼が諸伏さんに微笑む。

 

【教場旗。ヒロのデザイン、カッコ良かった】

「──────、」

 

 波飛沫が朝日に煌めき、桜吹雪のようにキラキラと輝いているようにも見えたかもしれない。

 

 彼らの過去に立ち入れない俺ではわからない話だ。

 きっと多くの困難があって、同じだけ多くの友情と多くの思い出があったはず。

 

 過去に紐づいた感情は、時として現在を裏切るほどに濃く強い。

 諸伏さんが硬直して、しばし目を見開いた。

 

 その隙を狙って、全力の捕縛魔術をクトゥルフに打ち込んだ。

 クトゥルフが魔術を打ち払うのに0.5秒もいらなかっただろうが、俺のこれは特別製。

 1300万層の反復共鳴により、結界を打ち払った片手を強く拘束する。

 これで一分は持つはずだ。

 

 もう片腕と、触腕の大半を切り落とす。

 切り落とした端からそれはダゴンとなって、陸地へと進軍していく。

 

 もうすでに多くの都市が戦線を突破した怪物たちによって蹂躙されている。

 これ以上人が死ねば、過去改変の負担が大きくなりすぎる。

 

 降谷さんが、諸伏さんと向かい合った。

 

「お前が自分の死を前にしてなお、それでも人を守ろうと誓った時。俺は負けたと思ったよ。お前ほどの奴は居ないって。お前は本当にすごいって、そう思ったんだ」

「……嘘をつくなよ。ゼロほどの負けず嫌いが大人しく負けを認めるはずがない」

「負けを負けのままにしておかなければいいだけの話だ。───だからお前が死んでから」

 

 

 必死で。

 お前が命をかけて助けた価値のある人間になろうと、俺はしていたんだ。

 

 

 それは掛け値なしの本音だった。

 絶望と、慟哭と、それでもなお悲しみを踏み越えんとする決意とに満ちた声。

 

「俺とのメッセージの送信履歴が残ってた。お前は俺を守ろうとして死んだんだろ、ヒロ」

「……………」

「ありがとう、俺を助けてくれて。俺を救ってくれて。お前のおかげで、俺は生きてる。あのビルの屋上でどれほど苦しかったか、俺にはわからないけれど」

 

 真っ直ぐに諸伏さんを見る。

 

「でも俺は、お前の親友で居たいんだ」

 

 風が、諸伏さんをクトゥルフの肩から攫う。

 

 

 

「ゼロはさ、いつも乱暴なんだよ」

「最初からわかってることだろ。お前は大人しく俺と来ればいいんだよ」

「………確かに。ちょっと難しく考え過ぎてたかもな」

 

 

 

 切り落とし続けた腕と触腕が、ついに痺れを切らしたクトゥルフによって10倍に膨張して肉塊のまま溢れ返った。

 

 だがそれと同時に、待ちに待ったその時がやってきたらしい。

 

 

 荒れ狂う波にエンジェル・ラダーがかかっている。

 それが瞬時に虹色に染まり、極彩色に包まれていく。

 

 コナン君達の術式が完了して、それが歴史に影響を与え出したからだ。

 吹き出した虹色の泡が全てを飲み込み、包み込んでいく。

 

 あとは術式通り、物事は大神の手に委ねられる。

 

【悪いなクトゥルフ。今回は俺の勝ちだ。ゆっくりじっくり眠ってな】

【……………お前は、私のものだ】

【死ね】

 

 クトゥルフが目を閉じる。

 全てが遅きに失することを知って、もう戦う気はないようだ。

 

 俺は疲れて言葉が出てこず、シンプルに悪態をついた。

 ああ、朝日が昇るまで約十時間半。

 ひたすらに戦い続けて、もはや何もかもすっからかんだ。

 

 疲れ果てた俺が体勢を崩すと、ニャルが慌ててやってきて俺を支えてくれた。

 拡張した触手ボールに人間の頭だけ生えていて、その姿はちょっと間抜けに見える。

 

 虹色に染まる視界の中、ニャルが笑う。

 

「無茶しすぎですよ。あんな羽虫諦めればそれで済んだ話だったじゃないですか」

【そんなわけにはいくかよ、アレ見ろよ】

 

 眼下では、素早く風で攫い上げた諸伏さんと、降谷さんが向かい合っていた。

 俺はニャルの頬をそっとなぞって、その触手に口付けした。

 

 降谷さんが、握手を求めるように諸伏さんに手を伸ばした。

 

「お前ばっかりついてないから、俺がいるんだ。助けぐらい求めてくれよ。友達甲斐のない奴と思われるぞ」

「はは。………自分の実力を信じてやまないとこ、ゼロらしいな」

 

 クトゥルフが過去に引き摺り込まれ、眠りに引き摺り込まれていく。

 奴と諸伏さんを結ぶ魔力的回線が途切れたその瞬間に、俺は用意していた術式をぶち込んだ。

 

 まだ諸伏さんはちっとも正気とは言えないだろうに、その穏やかさは、過去のそれそのものであった。

 

 

 俺も瞳を閉じて、ニャルラトホテプを抱きしめる。

 全ての時は書き変わる。

 

 

 偉大なる父上の御許にて、再誕するのだ。

 





・諸伏さん
色々うだうだ言ってはいるが、根本的には洗脳発狂状態なだけなので手引いて引っ張るだけでいい。
ゼロ渾身の「ウルセェ!行こう!」が炸裂して浄化された。
所詮は降谷さん全肯定BOTよ。

・ニャル
映画ラストラブロマンスみたいな絵面に勝ち誇って、そばで見てる副王にダブルピースした。
副王は表面を波立たせ、時間を屈折させて中指を立てるポーズをした。
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