ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ブラックインパクト!〈あの世会議〉

 

 本日は沖野ヨーコの4分クッキングの収録のため、TV局まで来ております。

 

 なお、話を聞いた毛利探偵が、死ぬほど羨ましそうに「良いご身分になったなぁおい!」と俺の事務所にくだを巻きに来るなどしたが、それは別の話。

 最近では俺の事務所で捌ききれず、かつ難易度の低そうな依頼は毛利探偵のところへ流しているのだ。

 向こうも収入が確保でき、俺たちも負担が減る。

 いいお付き合いができていると自負している。

 

 ちなみに出てくる直前、さりげなく降谷さんから「沖野ヨーコのサインをもらってきておいてくれ」と言われた。

 誰か知り合いにファンでも居るのかもしれないが、詳細は不明である。

 含み笑いをする諸伏さんを添えて。

 もしかして公安の人か?まさかな……。

 

 

 そうしてやってきた生放送舞台では、コナン君と諸伏さんが見学としてカメラや機器の後ろ側に立っている。

 見学の人は皆名札をつける決まりらしく、諸伏さんもコナン君もお揃いの青い名札ケースを下げている。

 

 諸伏さんは最近よくTV収録について来ているのだが、いまいち目的は不明である。

 「もしかしたら釣れるかも」なんて言っているが、一体どういう意味なのやら。

 

 さて。

 そうして始まった本番は短いもので。

 体感4分も無いくらいだ。

 

 俺は共演の沖野ヨーコさんの解説にあわせて驚いて見せたり、美味しそうに食べるだけのお仕事だ。

 丁寧にフォローしてもらったので、トチることなく収録を終えることができた。

 

 スタッフさんに「はーいOKでーす!」と言われて、ようやく肩の力を抜く。

 生放送は流石に緊張するからな。

 

 沖野さんがエプロン姿のままこちらを振り返って笑顔を見せた。

 

「黄衣さん、凄く良かったですよ!タイミングもバッチリで!他にもいろんな番組に顔を出してらっしゃって、すっかり業界人ですね」

「ありがとうございます。まだまだ慣れないんですけどね…」

「でも、堂々とされてるように見えました。それだけでもすごいですよ!」

 

 ははは、と俺は気まずく頬をかいた。

 

 大勢の人の前に立つ、という意味ではハイパーボリア時代にたくさん経験したから、その経験が生きてるという可能性がなくも無い。

 

 不可思議に捻れた尖塔が立ち並ぶ大都心のど真ん中。

 道という道全てをみっしりと人が埋め尽くす、マジックパンクな街並みを見下ろし。

 俺ができる限りマイルドに変身した旧支配者ハスターとして顕現すれば。

 人という人が熱狂し、歓喜し、大歓声に街は包まれたものだ。

 

 俺がやや昔を懐かしんでいると、にこっと沖野さんが控えめに首を傾げてこちらの様子を窺ってくる。

 さすがトップアイドルだけあり、所作の一つ一つが実に可愛らしい。

 

「そういえば、この後朝食をご一緒しませんか?黄衣さんに紹介したかった方がいるんです」

「へ、いいですけど……」

「本当ですか!ありがとうございます!!」

 

 ぱあっと顔を明るくした沖野さんは、「じゃあ彼女を呼んできますので、入り口で待っててください!」と言って駆け出した。

 入り口、というのは社員食堂の入り口のことだろう。

 

 諸伏さんとコナン君を連れて、俺たちはしばらく社員食堂前で待つことにした。

 

 社員食堂は7階だ。

 てくてくと歩きながら「一体何の用なんだろうね」とコナン君がぼんやり言うので、俺も「何だろうなぁ」と答える。

 すれ違う人は時代劇の姿をしていたり着ぐるみだったり、実に目に鮮やかだ。

 

 諸伏さんがキョロキョロと辺りを見ながら口を開く。

 

『そう言えば、ゼロに突き返されたあのプレゼン資料、どうなった?』

「考え中。鬼上司のレビュー通るようなものを作ろうと思ったらなぁ。まずビジネス書籍読み込むところからスタートか?」

『ははは。俺は好きだったぞ、あの「あの世構想」』

 

 3日ほど前のことになるのだが。

 あの世の実装案の素案が完成したので、思いつきで資料にまとめてみたのだ。

 

 これまで、こういう企画は大抵俺一人で考えて、実装内容を信者のトップに通達するという方式だった。

 しかし、今はせっかく相談相手がいることだし、知恵を借りるのも悪く無いかと思ったのだ。

 

 そうして降谷さんと諸伏さん、コナン君、明美さんに集まってもらってレビューを求めたわけだ。

 

 こんなふうに他人に相談するのは初めてで、俺は皆を事務所に集めてワクワクドキドキとA4用紙に印刷した資料を配った。

 

 ペラペラとめくったコナン君の感想は「これ、生きてる人間が見ていい資料…?」だった。

 確かに社外秘の機密資料だが、まあ君らは身内ということで問題ないと判断した。

 

 明美さんは「へえ、良いところそうね。将来志保と移住するのにちょうど良さそう」とのこと。

 

 その隣の降谷さんが資料を眺めたまま黙ったっきりだ。

 目が冷め切っている。怖い。

 

 そうして。

 言いたいことをまとめたらしい降谷さんの第一声は「お話にならないな」、であった。

 

 もうその時の空気と言ったら、素人質問で恐縮ですがが突き刺さった学会に近しい何かすら感じたものだ。

 

 降谷さんがぺっと資料を脇に押しのけ、半笑いで背もたれに体重を預けた。

 凄まじい威圧感と鬼上司感に、俺は恐れ慄いた。

 もう嫌な予感でいっぱいである。

 

 諸伏さんがそーっと「ぜ、ゼロ?黄衣は一般人なんだし、手加減をした方が…」と進言してくれた。

 いつだって諸伏さんは俺の救いの神である。

 

「バカを言え。コイツは他の誰よりも大きい案件を受け持つ管理官だ。それをこんな甘やかしていたから今の問題だらけの現代があるんだろう」

「えっあっ、はい……」

 

 ギロっとナイフのような切れ味鋭い視線が俺を滅多刺しにした。

 

「いいか。警察学校上がりたてのひよっこでももう少しやるレベルの出来栄えだ。お前、人類を管理し始めて何年になる?」

「えっあっえっ、あっ、あの、6億5000万年ぐらいです…」

「ほー!6億年!大先輩じゃないか。それはさぞ様々な経験をしてきたはずだ。……その大先輩の作品が、これか」

 

 嘲笑を伴った大きなため息が俺の心に重いボディブローとなって突き刺さる。

 まだレビューが始まって1分とかのはずだがもうズタボロである。

 コナン君が冷静に資料を確認しながら息をついた。

 

「安室さん、パワハラは良くないよ。黄衣さんは繊細なんだから、立ち直れなくなっちゃったらどうするの」

「でもねコナン君、こういうのを甘やかすと後に響くんだよ。とくにほら、これ」

 

 鋭い眼光が、物理的な威圧感を伴って俺を八つ裂きにする。

 あまりの怖さに俺は半べそをかいた。

 

 そんな俺を哀れにも思わず、降谷さんが怒涛の追撃を開始する。

 

「まずビジョンが明確になっていない。あの世の導入目的は何だ?導入ありきになり過ぎて、他の選択肢を考えていないのはいただけない。それに人類の幸福のためというお題目はいいが、資料を通してブレが大き過ぎる」

「はい……」

「加えて、かなり大規模なリソースを使う企画のようだが、ほかの施策を抑えてそれをあえて今導入するメリットは何だ?もっと他に致命的な問題解決にリソースを割くべきでは無いのか?」

「あっあっあっ」

 

 

 と、まあ。

 俺は大変恐ろしい目に遭ったのである。

 その後も千手観音並みに放たれた拳でフルボッコにされて、俺は会議室の端っこで丸くなって泣いていたのであった。

 その後はしばらくコナン君に「元気出して」と缶コーヒーを奢ってもらったので、チビチビと飲んで心を癒していた。

 

 あまりにも恐ろしい体験であった。

 たぶんSAN値もかなり減った。

 後ちょっとで一時的狂気に陥るところだったに違いない。

 

 思い出して震えていると、ようやく沖野ヨーコさんが戻って来たようだ。

 

 見慣れない女性の手を引いている。

 いや、あの人はTV局で前に見た記憶が…アナウンサーの人、だったか?

 

 アナウンサーの女性はこちらを見て───正確には俺の隣の諸伏さんを見て───一瞬驚愕に目を見開いた。

 

 沖野さんが「お待たせしてすみません!」と頭を下げて、連れて来たアナウンサーさんを前に引っ張り出した。

 アナウンサーさんは一瞬で先ほどの動揺を隠しきり、困惑した表情を作った。

 

「彼女、日売テレビのアナウンサーの水無怜奈と言うんです。私が黄衣さんに紹介したかったのは水無さんのことでして」

「初めまして、水無怜奈です。すみません、何だか急に…」

 

 とはいえ、彼女の様子にはコナン君も気付いたようだ。

 観察の態勢に入ってじっくりと彼女を眺めている。

 諸伏さんもニコニコと人懐っこい笑みを被り、何処となく寒々しい気配が満ちる。

 

 そのまま、俺たちはTV局のビルの食堂の社食へと入った。

 

 メニューはひととおり揃っているが、俺はラーメンを選んだ。

 朝からラーメンという気がしないでもないが、

 

「それで、なぜ俺に会いに?」と本題に切り込むと、水無さんはやや言いにくそうに口ごもった。

 沖野さんに促されて、おずおずと話し出す。

 

 どうも、2ヶ月前から水無さんは家にピンポンダッシュを仕掛けられているらしい。

 時間は決まって毎週土曜日の朝6時半。

 一度水無さん本人が犯人を捕まえようと待ち構えていたのだが、扉を開けても誰もいなかったらしい。

 

「水無さん、前から気味悪がってて。だから黄衣さんには水無さんの家に行っていただいて、解決してもらえれば良いと思ったんです!」

 

 明るい声で言ってはいるが、水無さんは……ふいに雰囲気を変えて、懇願するような顔で俺を見た。

 

 ほんの少し目を細めて、何か意味深に微笑む。

 そして「そうね。お願いできないかしら」と言葉を続けた。

 

 

「もし時間があればで、構わないのだけれど」

 

 

 

 

 

 水無さんの自宅はここから歩いて行ける距離にあるらしい。

 

 少し忘れ物を取りに行ってくる、と言って水無さんが場を離れた隙に、コナン君が諸伏さんの服の裾を引っ張った。

 

「で、誰なんだよ」

『なにが?』

「とぼけんなよ。あの顔は間違いなく、アンタが死んだはずの人間だってことを知ってる顔だった。そんなの、組織の人間か公安の関係者ぐらいだっつの」

『まあ、な』

 

 諸伏さんはおもむろにコナン君を抱き抱え、そっと耳元で囁いた。

 

『コードネームはキール。オールマイティに殺しから潜入までこなす、組織の幹部だ』

「!!!」

 

 その静かな、しかしどこか毒のある声色に、コナン君は肩を強張らせて諸伏さんへと視線を向ける。

 

「TV局のアナウンサーなんかやってるのは、その立場を利用するためか」

『だろうな。詳しくは知らないが、組織の命令で潜入してた可能性が高い』

「なら、アンタが生きていると奴らに誤解されたら面倒なことになるんじゃねーか?」

『面倒は確かだが、正直致命的なダメージにはならないな』

 

 諸伏さんはくつくつと笑って少しばかり悪質な笑みを浮かべた。

 

『俺は実際死人だし、毒でも爆弾でも弾丸でも、俺は殺せない』

「巻き込まれて俺が死ぬっつーの!」

『大丈夫大丈夫、というか、そもそもの話』

 

 諸伏さんが悪戯げに笑って、コナン君を下ろした。

 そしてそのままコナン君の口にシィと人差し指を当てる。

 

『奴の本名は本堂瑛海。CIAの諜報員だ。口止めは容易だよ』

 

 ぱちくり、とコナン君が瞬く。

 普通に俺が口を挟む隙がない。

 というか、俺のINT〈知性〉では会話のテンポについていけないという悲しい事実がある。

 

「もしかして、初めからそのつもりで?」

『いやぁ。会えるかは正直運だったからな。それらしい事件にはいつも付いていって、向こうから接触できるよう匂わせはしてたんだが』

「つまり、公安としてCIAの諜報員さんに話があったってことか?」

 

 話の流れがイマイチわからんが、ともかく諸伏さんは水無さん目的で俺の収録にたびたびついて来ていたらしい。

 諸伏さんはコナン君と内緒話を続けている。

 

『話っていうか、協力体制が築けないかと思ってな。ゼロとは事前に示し合わせてたんだ』

「安室さんの正体も教えるの?」

『まさか。他国の潜入捜査官をそんな信頼するわけないだろ。教えるのは俺の立場だけさ』

 

 うっそりと陰鬱に微笑み、諸伏さんは言葉を落とした。

 

 俺がコナン君に「潜入捜査官って性格悪くなきゃ務まらないのかな?」と囁くと。

 コナン君は「多分ね」と頷いた。

 

 そして同時に諸伏さんから無言のゲンコツを喰らい、俺たちは悶絶したのだった。

 





・あの世実装プレゼン資料
 学生レベルの出来(降谷談)。
 パワポで作られており、おっ、これいいんじゃね?と思った案が取り留めもなく書き連ねてある。
 なお、魔力も時間も無限にあるので、コストパフォーマンスの概念は無い。
 競合他社もいないため強みや売り、差別化のための理念なども無い。
 重要なシステムは思いついた順に実装され、特に予告なくメンテに入る。
 致命的なバグが長年放置され、その間にも謎の新機能が実装される。
 降谷氏「運営としてあまりに許されない」
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