ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ルパコナ〈ハイパーボリアの残り香〉

 

 あれから30分。

 ルパンは新しいおもちゃを前に試行錯誤を続けていた。

 

「おじさん、どう?何かわかった?」

「いやー。たまげたねこりゃ。トンデモねーお宝だったらしい」

 

 子供の問いかけに、ルパンは両目を閉じたまま座禅姿で返事をした。

 

 ルパンがただのブレスレットだと思っていたそれは、驚くほど多機能なSFじみた代物だったのだ。

 腕につければ脳内に仮想モニターのようなものが浮かび、思念で自由に操作が可能。

 

 表記は全て日本語だ。

 古代王国ハイパーボリアの公用語は日本語だから、これは予想通り。

 

 ちなみに、現代日本で日本語が使用されるようになった経緯には、さまざまな裏があると噂されている。

 古代から邪神を信仰する島国だったとか、ハイパーボリアの生き残りが流れ着いていただとか。

 

 少なくとも、アメリカを裏から支配する「黄色の印の兄弟団」が戦後GHQを通して日本に干渉していたのは間違いない。

 

 なんにせよ、この古代機器の読解には苦労せずに済みそうだ。

 

 少し触れば、それが現代のスマホに当たるものであることはすぐにわかった。

 

 というより、スマホこそがこの古代のアイテムを模して造られたのだと理解せざるを得なかった。

 基礎的な機能の上に、無数のアプリケーションが乗る設計デザイン。

 その上で、補助としてAIが横断的に使用者を補助する。

 現代のスマホをより洗練させた、驚くべきアーティファクト。

 人類は3億年かけて、ようやくかつての栄華の始まりに手をかけた、ということらしい。

 

 ルパンは、思考を読み取ったAIのガイドに従い、健康管理アプリらしきものを開いた。

 

 そこにはボタンが一つと、何も表示されていないグラフらしきものが並んでいた。

 

 ボタンを押せば、不意に体が軽くなった。

 同時に、自身の体に関するレビューのようなものが浮かび上がる。

 

 人体の復元治療の完了を確認しました。

 肺に悪影響の蓄積あり。生活を見直しましょう。

 非常に外傷が多く、また長くアプリによる治療の痕跡がありませんでした。

 重大事案の可能性あり。すぐに最寄りの神殿に立ち寄ってください。

 

「……なーるほど?」

 

 ルパンが己の服をペロリと捲れば、そこにあったはずの銃創の治療痕が綺麗に無くなっていた。

 ベンチで寛いでいた次元が「おい、どうした?」と声をかけてきたので、「なんにも。気にすんな」と返事しておく。

 

 どうやら身体のあらゆる不調を治癒する機能のようだ、と当たりをつける。

 もしかしたら身体を「新しいものと挿げ替えている」のかもしれない。

 

 背中にひやりと嫌な汗がつたう。

 

 次はマップ機能らしきものを開いてみる。

 

 ごちゃごちゃしていて見づらいはずなのに、頭の中にするりと使い方が入ってくる。

 思考に直接入り込まれたような不安感。

 

 そのまま脳内地図に意識を向ける。

 試しに昔盗んだままどこにしまったか分からなくなっていた宝石の在処を探そうとすれば、1秒もかからずそれは発見できた。

 ロンドンの第八倉庫の隅でひっそりと埃をかぶっていたらしい。

 地図では不明瞭な細かな位置も、映像として直感的に理解できるときた。

 

「ふむ、ふむ」

 

 「いい加減どうなのか教えてよ!」と子供が非難してきたが、「もうちょっと」とそれを押し留める。

 

 最後に、不気味なハテナマークが歪んだような紋章のアプリだ。

 最も重要な機能らしく、AIのガイドにも一番上に「更新してください」とのお知らせが浮かんでいた。

 

 開いた瞬間、ブレスレットがチカチカと軽く瞬いて、脳内に案内が流れ出す。

 

『「Feaster from Afar」との再接続を開始……成功』

『最新の国民情報取得……失敗。データベースの更新ができませんでした。仮登録の扱いになります。ご注意ください』

『権限再登録。一般-仮。一部機能が制限されます』

『重要なお知らせ:神の加護が限定的になります。正式な加護の付与は、情報統括神殿の窓口をご利用ください』

 

 ふっと身体が一段軽くなった。

 軽くその場でジャンプしたり腕を回したりしてみる。

 

 正確な程度はわからないが、身体能力が上がっているようだ。

 五感も明確に分かるほど鋭敏になっている。

 

 他にも色々ありそうだが、なんの設備もないここでは検証しようがないだろう。

 

「……神の加護、ねぇ」

 

 ルパンはついつい難しい顔になった。

 

 なんとも、全体的に気に食わない香りが漂うお宝だ。

 間違いなく己にとって有用で、世界でもまたとないお宝なのは確実なのに、食指が動かない。

 

 全てにおいて手取り足取り。

 未知も危険もまるでない、ゆりかごのような鬱陶しさを感じたためだ。

 

 何となくため息をついて、おもむろに子供と肩を組んだ。

 「うわっ!?何!?」と子供が迷惑そうな顔をする。

 

「ホントどうなってんのこれ。ガキンチョ分かる?」

「分かるワケないでしょ。僕はこれ黄衣さんに渡されたから着けてただけだし」

 

 子供の言葉に嘘はなさそうだ。

 しかし、それだけでもないようなので無造作に追求しておく。

 

「でも、何も聞かずにずっと着けてたのは、機能に察しがついてたから、だろ?」

 

 子供は鋭い視線をルパンへと向けた。

 

 随分と賢しらで、面白い子供だ。

 子供の皮をかぶってはいるが、見た目通りではないのは一目瞭然。

 揶揄ったらさぞ楽しいはずだ。

 

「……まあ、僕の身を案じて作ってくれたのは察してたよ」

「作った?くれたんじゃなく?」

「そうだけど」

 

 思わずルパンはパチクリと間抜けに瞬いた。

 

 ルパンが現在身につけているこれは、ハイパーボリア時代の遺物だ。

 ハイパーボリアは現代とは比べ物にならない高度な文明を築いた幻の王国。

 

 そんな異物と同型で、しかも干渉し合うようなものを作れるとなると、やはり只者ではない。

 なにせ、莫大な資料と共に研究を続けるカルコサ新党の連中すら、当時の技術の5%も解明できていないはずだからだ。

 

 いくら現代の技術と似通った部分があるとはいえ、そもそもの文明基盤が異なるからだ。

 それは当時「魔術」と呼ばれていた、未知のエネルギー源を用いる技術。

 

 魔術に対して石器時代程度の知識しか持ち合わせていない現代人類が、そんなものを作れるはずもない。

 

 子供はまじまじと見るルパンの視線に気後れしたのか、むっつりと反抗的にルパンを見上げた。

 

「それより、そろそろ名乗ったらどうなの。どこの誰とも知らないおじさん?」

「あらま、こりゃ失礼」

 

 改めて姿勢を正して深々と一礼する。

 わざとおどけたようにウィンクして、右手を差し出した。

 

「俺はルパン三世!世界を股にかける大泥棒だよん」

「ッ!!………ルパン、三世。そっか。おじさん、泥棒だったんだ」

「そのとーり」

 

 子供は挑戦的に睨め上げるような視線を向けた。

 実に小生意気で好ましい。

 

「じゃあ、そのブレスレットも盗んだもの?」

「もっちろん。金庫の中に閉じ込められた哀れなこいつを助け出してやったのは2年くらい前だったっけ?」

「窃盗罪。悪いことしたら捕まるよ、おじさん。ほら、僕が返しておくから」

「やだね。こーんな綺麗な宝石ちゃんをみすみす手放すわけ、」

 

 それはまったくの偶然だった。

 子供の伸ばした手が、偶然ルパンの手に当たった。

 それだけだ。

 

 瞬間、ルパンのブレスレットが目まぐるしく色を変えた。

 

【全生活オーガナイザーを使用者以外が無断で着脱させる行為は、神法145-2により厳しく罰せられます】

【警告を受けた国民は、速やかにオーガナイザーの指示に従ってください】

 

 沈黙。

 子供が大きく目を見開いて硬直している。

 

 次元にも聞こえていたらしく、「おいルパン、なんださっきのは」とタバコを吸いながらこちらへと視線を向けた。

 

「んー、古代王国のなんかの法律に触れたっぽい?」

「へぇ、お宝が自ら警告を出すたぁ洒落てるじゃねぇか」

 

 ルパンは己のブレスレットを見下ろし、記憶を浚った。

 

 確か、古代王国ハイパーボリアは理想郷とされ、犯罪はほとんど存在しなかったと言われている。

 だが、この程度の警告で犯罪を抑止できるとはとても思えない。

 

 もっと仕掛けがあるはずだ。

 

「なあガキンチョ。ちょっと俺のブレスレット取ってみてくんねぇ?」

 

 子供はギョッとしてのけぞった。

 

「え、絶対やだけど?この流れで喜んでやる人間なんていないよね???」

「ふーん、良いのかなぁ。悪い泥棒おじさんからブレスレットを取り返さなくてもぉ」

 

 子供はムッとして頬を膨らませた。

 しかし、ここで引けばブレスレットは永遠に返らないと理解したらしく、くしゃくしゃな顔をしてルパンに再び近づいてくる。

 

 正義感も強いようで、実に面白い限りだ。

 くつくつと笑えば、ますます膨れてルパンの足を蹴っ飛ばした。

 

「何か起きたらルパンおじさんのせいだからね!」

「オーケーオーケー。んじゃま、頼んだ」

 

 子供がするりとルパンの手からブレスレットを取り外す。

 再び警告が鳴ったが、それだけだ。

 ブレスレットは何の抵抗もなくルパンの腕を離れた。

 

 瞬間。

 腹の底がシンと冷えるような、不快な違和感で満たされる。

 やばい、と瞬時に悟った。

 

 逃げなければ。多分一番まずいのは子供の方。

 抱えて横へ飛ぶ。だめだ。

 それではまるで意味がないと直感が大音量で警告している。

 

 次元が銃を構えているのが見える。

 

 次の瞬間、景色の白黒が反転した。

 ルパンと子供以外の時の流れが停止したのか、音も動きも、気配すらも感じられない。

 

【神法への重大な違反を検知しました。違反者の全生活オーガナイザーを化身『Feaster from Afar』より除外……失敗。神兵への自動通知…失敗。神罰システム接続……成功】

【罪状を分析中。判定:軽微。神殿機関による教育を推奨。身柄を一時保護します】

 

 少年を囲むように光の檻が出現して。

 しかし瞬時に、檻はガラスの割れるような音を立てて砕け散った。

 

 少年のブレスレットが、呼応するようにチカチカとわずかに光を発している。

 

【拘束に失敗しました。権限のコンフリクト。例外処理……完了。処理を終了します】

 

 反転していた景色がフッと色を取り戻した。

 子供がぺたり、と尻餅をつく。

 

 マグナムを構えたまま固まっていた次元が、再び動き出した。

 

「おい!?今のは一体なんだ!」

「……いやー、ちょっとばかりオイタし過ぎた、みたいな?」

「はぁ!?」

 

 子供を助け起こせば、とてつもなく恨めしい顔をされた。

 当然だ。あれはルパンも死んだと思ったぐらいだ。

 あそこまで全身総毛立つような感覚は久しぶりだった。

 

 ひとまずしゃがみ込んで視線を合わせ、不二子ちゃんを思わせるキュートなポーズをした。

 

「缶ジュースいる?ガキンチョ」

「自首してくれるならそれでいいよ」

「おじさん高級でうまーい店知ってるから、それでなんとか」

「やだ」

 

 誤魔化すように子供を肩車すれば、ボスボスと叩かれた。

 





・犯罪
 基本的には犯罪に至る前にカウンセリングや福祉、物質的豊かさで止めてたタイプの社会。
 もし犯罪を犯した場合、真っ先に神との接続を切られ「神に見捨てられる」ため、恐怖そのもの、絶対的禁忌として扱われた。
 警告が出ることすら酷く忌避され、神法は子供の頃からみっちり脳に仕込まれたようだ。

・ハイパーボリアの文化
 魂が個人を規定するものとされ、肉体の置換は頻繁に行われていた。
 ファッション感覚。マッチョになったり美女になったり。
 身体能力も自由自在のため、スポーツはカーレースみたいな感覚で親しまれた。
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