ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ルパコナ〈終幕〉

 

 それからは、事後処理的であった。

 

 ルパン三世とコナン君のタッグは実に見事に王族二名殺害事件の真相を暴いて見せた。

 俺たちの仕事は、せいぜい最後の悪あがきをするジラード公爵の拘束の手伝いをするぐらいのものだった。

 

 その後は無事、蘭ちゃんも円満にヴェスパニア王国から引き渡してもらえた。

 ミラ王女も帰ってきたし、暗殺未遂の件も解決。

 もはや蘭ちゃんを引き留めておく理由も無くなったからな。

 

 俺たちはコナン君と蘭ちゃん、二人して疲れて眠っているうちに「門の創造」にて日本へと送り返した。

 二人とも日本から出国した履歴はないわけだし、通常の方法では飛行機に乗れないからだ。

 

 ルパンから「坊主なら俺らの方で送ってくぜ?」との申し出はあったが、そちらはお断りさせてもらった。

 

 ルパンが蘭ちゃんを含まなかったのは、つまり「ヴェスパニア側は毛利蘭誘拐の件を明らかにして、日本側に責任を取れ」というメッセージだろう。

 これはこれで良い案ではあったのだが、降谷さんから報告を受けた上層部がそれを断った形だ。

 今回の件でヴェスパニア王国との関係を悪化させたくなかった、ということなのだろう。

 

 まあ、実務担当のキース伯爵がかなり忙しそうに各方面と連絡をとっていたから、日本と何らかの別の取引はあったようだが。

 

 

 そんなこんなで一通り処理が完了。

 ルパンもどういうわけか速やかにクイーンクラウンをミラ王女へと返却したから、俺たちは比較的早く空の旅に戻ることができたのである。

 

 ヴェスパニア王国は俺たちの帰国のために、わざわざプライベートジェットを用意した。

 

 日本への誠意を見せるためかもしれないが、なんにせよありがたい。

 本来ヴェスパニア王国と日本をつなぐ直通便は無いから、乗り換えが無い分かなり楽になるし。

 

 そうして。

 空の旅に出てはや10時間。

 窓の外には雲の海がどこまでも広がって、変わり映えのない景色が続いている。

 相変わらず降谷さんも諸伏さんも仕事だ。

 他に乗客がいない分、遠慮なくPCを開いてなにがしかの処理を行っていた。

 

 俺はそんな中一人ダラダラと機内で映画を見ているわけだが。

 それもそろそろ飽きてきた。

 

 ふと、ちょうど良いから、今のうちに降谷さんの異常を確認しておこうと思い立つ。

 

 どうせ帰ってからも降谷さんは仕事三昧だ。

 この航空機内に拘束されている間にやっておけるならそれが一番良いだろう。

 

「ちょっと降谷さん、今時間いいか?」

「ん、ああ。大丈夫だよ。何かな?」

 

 PCから顔を上げ、優しげに小首を傾げて降谷さんは俺へと笑いかけた。

 やっぱり圧倒的におかしいんだよなぁ。

 降谷さんの表の顔、「安室透」っぽいというか。

 普通なら単純に心の距離ができてしまったと考えるべきだが、それにしては俺に対して親身だし。

 

 俺は降谷さんの前まで来て、じいっと降谷さんの魂を確認した。

 降谷さんが困ったような顔で「えっと…?」と俺を見つめ返す。

 

 魂の表層に異常なし。

 ニャルラトホテプによる侵食も進んではいるが、予想の範囲内。

 「瞳」のレンズを何段階か切り替えて、魂の内面を覗き込むこととする。

 

 魂の内側は慎重に見ていかねば、中を傷付けてしまいかねない。

 ゆっくりと一箇所ずつ丁寧に、異常がないか確認していく。

 

「!!!」

 

 俺は中身を確認してすぐ、息を呑んだ。

 

 表層意識に関わる部分が、とろりと溶けているではないか!

 その上で、ごくごく小さな、小骨のように薄く透明な術式が溶けた魂に同化していた。

 

 解析すれば、それが洗脳術式であることがわかった。

 術式は実にアクロバティックかつ芸術的に組まれており、だからこそこんなに小さく魂に同化させることができたのだろう。

 

 魂の内側に付着させつつ、術式自体を透明にさせ潜伏。

 また他の組織を傷付けず、狙った部分以外の人格に全く影響を与えない。

 まさに神業。

 俺ですら真似できない、魔術の極みのさらに最奥。

 間違いなくニャルラトホテプの仕業である。

 

 内容は………えぇぇ?

 俺は思わずあんぐりと口を開けた。

 

 「黄衣ハスタに優しくするように」。

 「黄衣ハスタと親しくするように」。

 それだけだ。マジでそれ以上の意図が何もない。

 

「あの……いい加減なんなのか僕も教えて欲しいんだけれど」

 

 降谷さんが困り顔で立ちっぱなしの俺を見上げてきた。

 横目で諸伏さんが俺らのやりとりを慎重に観察している。

 

「あー、いまから降谷さんにかかってる魔術を解除するから、一応心構えだけしてもらおうと思って」

「!?ッ僕に何か仕掛けられているのか!」

「うん。まあともかく解除するよ」

 

 返事も待たず作業を開始する。

 思考操作の類は自覚するとSAN値が減ることがあるからな。

 深く考えずさっさと解除するのが吉だ。

 

 まず、魂を傷付けず内側へと侵食できる干渉力場を形成。

 洗脳魔術の組成を分析。

 魔術のみを外に排出できるよう、魂の外壁を僅かに変更。

 

 準備が完了したら、いよいよ魂に刺さっていた小型の術式をぺいっと引き抜いて捨てる。

 

 よい、しょと。

 途端、降谷さんの身体がびくんと跳ねた。

 

 とろけていた魂は、術式さえ除去してしまえば自然と治癒するはずだ。

 だが溶けた魂を扇動していた骨子がなくなって、少しの間思考はふわふわするかもしれない。

 

 俺は目を白黒させている降谷さんに声をかけた。

 

「解除完了。どう、変なところはない?」

「……、………穴とかこの辺にあるか?入りたいんだが」

「残念ながら無いですね」

「あーっ、クソッ!何キャラだ俺は!?」

 

 どうやら正気に戻ることができたようだ。

 

 降谷さんが激しく憤り始めた。

 一人称が俺になっている。

 彼の本来の一人称が僕では無いのはわかっていたが、分厚い皮も剥がれるほど大層荒ぶられているようだ。

 

「本来の俺が付き合いづらい性格なのは自覚しているが!アレもアレだ!仲良くなるために己を偽るのは本末転倒だろう!」

『えっ、あの奇行、黄衣と仲良くするためにやってたのか。不気味なだけだったけど』

「うるさい。俺に拒否権は無かった。あーー、駄目だ。思考が回らない。仕事にならない」

 

 降谷さんは背もたれに体重を預けて奇声をあげ出した。

 よっぽどお疲れのようだ。

 まあ昨日から一睡もできていないし、今後も今回の件で動けなかった分の通常業務がたんまりと残っているからな。

 表層意識の一部が溶けた状態でこれだけ喋れることの方が凄いのだ。

 

 しばらく。

 降谷さんは天井を見上げたまま沈黙した。

 

 そうしてぽつりと、独り言に近しい響きで俺へと話しかけてくる。

 

「迷惑だったか」

「……うん?」

 

 みじろぎもせず、降谷さんは天井を見つめたままだ。

 

「君には恩義がある。君にならという信頼もあった。だから俺は本来秘すべき降谷零として接していた」

「……」

「だが、それが迷惑になっているのは俺の望むところじゃ無い。きちんと改めて、」

「まさか。迷惑なんかじゃないさ」

 

 俺は隣に座って同じように天井を見つめてみた。

 広いとはいえ、プライベートジェットの天井をただ眺めるのは実に味気ない。

 

「単純にニャルの野郎が勘違いしただけだ。俺はいつもの降谷さんのパワハラ男具合、嫌いじゃないぞ?」

「……酷いな、そんなふうに思ってたのか」

『パワハラ不機嫌激情家男だもんな。女子からの評価は「本当の本当に顔しかいいところがない」だったし』

「ヒロは黙ろうな」

 

 諸伏さんが入れたヤジは真実というか急所だったらしく、降谷さんは憮然とした。

 

「え、何それ詳しく。絶対伝説の地雷男として女子の間で名を知らしめてる奴じゃん」

『そうとも。数々の女子が「顔がいい」という理由で付き合い始め、同じだけ「顔以外があまりにもクソ」という理由で別れていった』

「本当にあった怖い話じゃん」

「ヒロ。ベアハッグがお好みか?今の俺なら魂ごと鯖折りできるが」

 

 降谷さんが青筋を立ててキレ始めたので、諸伏さんは素早く作業に戻った。

 俺がくすくすと笑うと、降谷さんは不服そうにため息をついた。

 

 学生時代、彼は随分と暴れたらしい。

 気性の激しい人だし、そりゃまあさもありなんといったところが。

 翻って俺はどうなのか、と思うと若干の虚しさを感じざるを得ないが、それは仕方あるまい。

 

「なんにせよ、降谷さんに信頼してもらえて俺も嬉しいってことだ」

「そうか。ならよかったよ」

 

 ふっと笑って、降谷さんは窓の外へと視線を移した。

 雲海がずっと向こうまで続いている。

 日本に着いたら、またいつもの日常へと戻る時間だ。

 

 俺は少しだけ肩を回して、伸びをした。

 

「あ、それと。どうかコナン君への公安式折檻は控えめな方向で御検討を…」

「嫌だなぁ、僕はただの事務員ですよ?公安が彼をどう扱うなんて分かりっこありませんよぉ!」

 

 にこー!とペカペカの笑顔で降谷さんは心のシャッターを勢いよく閉めた。

 本日の降谷零の営業は終了してしまったらしい。

 

「そこを何とか!」

「あはは。公安には黒い噂も絶えないですからねぇ。怖いですよねぇ。あ、あくまで一般的な話ですよ?」

「コナン君んんんんん!!お慈悲を!お慈悲を!」

「うーん、そうですねぇ。問い詰められる前に洗いざらい正直に自白して謝罪したなら、追求の手も緩まるんじゃないです?僕は部外者なので知りませんけど」

「コナン君にはよく言って聞かせておきます…」

 

 そのようにふざけ合っていれば、諸伏さんが膨れて近くへと無言で寄ってきた。

 ジェラシーらしい。

 『ゼロのゴリラ…伝説の地雷男…』と謎の文句を呟いている。

 

「やめてくれ。今は頭が回らないんだ。というかこの副作用、いつまで続くんだ?困るんだが」

「一時間ぐらいで治るから安心してくれ」

「そうか、ならしばらく仮眠を取るとするか。ヒロはその間対応頼んだ」

『了解。俺の知ってるありったけの噂を黄衣に吹き込んでおく』

「やめろ!!九割悪評じゃないか!悪夢を見そうだ!」

「あ、多分悪夢は見るぞ。術式解いたからニャルが見にくるはずだから」

「………映画でも見るか。何が良い?ジブリでいいよな」

『希望を言う間もなく決まってしまった…』

 

 そのように、空の旅は過ぎていったのであった。

 





・降谷零
友情が重い男。
実は諸伏景光が死んだことをまだ引き摺っており、諸伏の魂に己と同じ永遠を付与しようと画策している。
もし拒否されたら無理やり魂を瓶詰めにして取っておくつもりの、かなり立派なニャルラトホテプ。

・諸伏景光
降谷の計画を知っていて、仕方ないから付き合ってやろうと思ってる人。
瓶詰めにされても仕方がないなで許すタイプ。

・ニャルラトホテプ
良い化身にはご褒美をあげましょうね。
友人の魂を永遠にする?
いいですとも。ええ。やり方は知人が実際にやっていたので知っています。
────ふふ。
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