ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

58 / 469
警視庁恋物語8〈ハッピーバースデー〉

 

 本日は、ミステリー作家の諸口益貴との対談である。

 

 来月号の雑誌の特集にするということで、雑誌編集者達とともに奥多摩にある彼の別荘まで俺たちは来ていた。

 

 一応、明日朝早くに対談の本番をする予定だ。

 今日はその打ち合わせになる。

 

 俺に同行したのはコナン君と諸伏さん、珍しくついてきた降谷さんの黄衣探偵事務所フルメンバーだ。

 

 一応打ち合わせも一通り終わり、今は本番を待つだけの状態だ。

 俺たちは別荘の客間を二部屋あてがわれた。

 流石に男三人子供一人で一部屋は狭いからな。

 

 俺はぼすりとベッドに横になって、長い呻き声を上げた。

 

「あ゛ーーーーー。疲れた!!コナン君どう思う!?俺上手くやれてたよな!!」

「はいはい。黄衣さんとは思えない頭の回転だったよ。諸口先生も満足してたじゃない」

「なら良かった!!」

 

 俺の叫びに興味無さそうに本を捲りながら、コナン君は椅子に腰掛けたまま読書に耽っている。

 読んでいるのは今回の対談相手、諸口益貴の最新作である。

 俺が対談のために購入した本で、読み終わったのでコナン君に貸した形だ。

 

『しかし凄く神経質そうな人だったな。あれじゃ周囲は苦労するだろうに』

「ああ。それに、あの手の人間は探りを入れるのも重労働だ。僕としてもあまり好ましい出会いじゃないな」

 

 ネクタイを緩めた降谷さんが、コナン君の向かい側に座ってコナン君を観察し始めた。

 降谷さんはニヤニヤしている。

 

 「読書の邪魔しないでくれる?」と迷惑そうに非難され、「いや、小学生なのに難しい漢字を読めるんだなと思って」と意地悪そうに笑った。

 またコナン君を虐めているようだ。

 

 諸伏さんと降谷さんは先ほど隣の部屋からこちらに遊びにきたばかりだ。

 コナン君虐めが目的じゃないだろうが、そろそろ本題を聞くべきか。

 

 俺はベッドから顔を上げて降谷さん達の方を見た。

 

「なあ、今日はどうして対談についてきたんだ?降谷さんも諸伏さんも、今忙しいだろうに」

「ああ、それは組織に報告する実績作りもあるんだが。少し話したいことがあってな」

 

 降谷さんの言葉に諸伏さんも頷いた。

 どうやら諸伏さんも事情は聞いていたらしい。

 コナン君は読書に集中し始めたのか、こちらを気にするそぶりはない。

 

 降谷さんが取り出したのは、小さな黒い箱だった。

 

「これが何かわかるか?」

「んー?」

 

 だるい体を起こして、コナン君の座る椅子の背もたれに後ろからもたれ掛かる。

 

 降谷さんの手の中にある黒い箱は非常に上質で、細かな彫刻と艶やかな材質がしっとりと部屋の照明を反射している。

 

 「ハスターの瞳」を通してそれを見て、俺は息を呑みそうになった。

 非常に緻密かつ高度な魔術がかかっていて、俺でも中を見通すことができなかったからだ。

 

 これだけ執拗に透視を妨害しておいて、蓋を開けることに関しては何も制限していない。

 「中身が知りたければ箱を開けろ」と言わんばかりである。

 

 これは、たぶん……。

 

「中はこう、宝石が一つ入っているだけだ」

「ちょっ!?」

 

 止める間もなく、降谷さんがパカリと箱を開けた。

 

 予想に反してトリガー式の魔術が発動することはなかった。

 中には赤黒い宝石が一つ、金属の帯と支柱に支えられて鎮座しているだけだ。

 

 あ、これは先日ニャルラトホテプとユゴス観光したときに奴が発掘した宝石だ、と俺は気づいた。

 

 俺と一緒に鉱山を借り切って発掘体験をしたのだが、奴は実に大はしゃぎであった。

 人間程度まで知覚と魔術を制限して、どちらが先に上質な石を発掘できるかと競い合ったわけだが。

 結果は奴の勝ち。

 その時に奴が掘り出した宝石がこれだ。

 加工はされているが間違いない。

 

 俺はちょっと迷ってから、降谷さんに聞いてみることにした。

 

「……これ、どうしたんだ?魔術的アーティファクトに間違いない代物だけど」

「この間庁舎で仮眠をとっている時、アレに貰ったんだ」

 

 降谷さんは眉間に深い谷間を刻んで、悩ましそうに俯いた。

 

「アレに夢の中で呼び出されて、突然『ハッピーバースデー!』だと言って側溝のヘドロ掬ったみたいな味のケーキを食わされて」

「ニャル野郎が本当にすまない……」

「いや、別に良いんだ。それで、『誕生日のお祝いに!』と渡されたのが、これだ」

 

 降谷さんは手の中で箱を開けたり閉めたりと弄んでいる。

 

 しかし、ニャルラトホテプは意外と降谷さんのことを気に入っているようだ。

 わざわざ人間のふりをした上で、プレゼントまでしているのだから。

 かなり愛着を持っているのは間違いない。

 

 とはいえ、降谷さんのことを羽虫として気に入っているわけではない。

 通常、外なる神や旧支配者は化身を「自分の一部」として認識する。

 

 だからこれも「面倒な侵食作業が終わった自分自身へのプレゼント!」ぐらいの意味合いだ。

 もっと詳しく言うなら「いつも着てるお気に入りの服に、旅行で買った思い出のブローチをつけてみた!」とかだろう。

 

 降谷さんが俺に視線を合わせ、不機嫌そうに口を開く。

 

「それで、このアイテムの効果はなんなんだ?魔術が掛けられているようだが、俺では術式がうまく読み解けないんだ。俺自身に害はないのは分かるんだが」

「お、もうそこまで読めるようになったんだ。凄いな」

「君が教えてくれたからだろう。わかりやすかったよ」

「どっちかと言うと教本が優秀だったおかげだな」

 

 少し前から、降谷さんには魔術の手ほどきを行っている。

 本人の申し出もあったし、ニャルの化身が魔術も使えないのは格好がつかないからな。

 

 俺は対面でのQ&Aを挟みつつ、ハイパーボリア時代の魔術基礎理論の教本データを降谷さんへ渡しておいたのだ。

 昔のデータが「ハスターの瞳」のクラウド部分に残っていたから、サルベージしてPDFに変換しただけだが。

 

 「教育」はハイパーボリアにおける主要学問の一つだ。

 魔術により脳に直接刻み込むのか、魂の方がいいのか、脳の自然な記憶能力を使うべきなのか。

 

 この教本は、長年議論されたその技術の粋だ。

 幼いハイパーボリア人が必ず学ぶ、魔術基礎をまとめたもの。

 それこそ、拙い俺の説明を補って余りある強力な学習効果を発揮したことだろう。

 

 ぶすっとした顔でコナン君が口を挟んだ。

 

「僕には教えてくれなかったのに安室さんには教えるんだ」

「いやぁ、降谷さんはこう、特殊な事情があるから…」

「それは分かってるけど」

 

 コナン君はそれ以上何も言わなかったが、ぷくりとむくれているのは明白だった。

 ニヤァ、と降谷さんが意地悪そうに笑みを作った。

 

「羨ましいんだ?コナン君、そうだろう?」

「はぁ!?違いますけど!?」

「素直じゃないなぁ。仕方ないか。まだ小学一年生だもんね?」

『ゼロ。小学生を虐めるのはどうかと思う』

 

 うーん実にニャル仕草である。

 諸伏さんに嗜められ、降谷さんも残念そうに矛を収めたようだ。

 コナン君がぶつぶつと文句を言いながら読書に戻る。

 

 俺は咳払いをして、話を本題に戻した。

 

「ええと、それは輝くトラペゾヘドロンって言って、効果が二つあるんだ」

 

 輝くトラペゾヘドロン。

 ニャルラトホテプの化身を召喚するアーティファクトだ。

 奴自らがこれを作ることもあれば、信者が作ることもある。

 だから姿形も効果も結構なブレがあって、俺はそれらを総称して「輝くトラペゾヘドロン」と呼んでいる。

 

 中でもこれは非常にシンプルな術式構成をしているようだ。

 

 俺は輝くトラペゾヘドロンを降谷さんから受け取って、箱を開けて中の宝石へと視線を向ける。

 じっと見つめていれば、脳内に俯瞰するように降谷さんの姿が浮かんだ。

 同時に、降谷さんが目を見開く。

 

「ッ!!!」

「視線、感じたろう?これを見てると遠くから降谷さんの姿を覗き込むことができるんだ」

「……それは少し厄介だな。阻害することはできないのか?」

「不届者が使うのが嫌なら、見られた瞬間直接叩けば良い。これ、降谷さんも覗き返せるし」

「ほう」

 

 降谷さんは意識を集中するように目を閉じた。

 赤黒い宝石の向こう側に、スカイブルーの瞳が映り込む。

 

「なるほど、不思議な感覚だ。君の姿が見えるが…目が三つに増えたような気になる」

「もう一つの効果はもう降谷さんも感じてると思うけど。他人が箱を開けたら降谷さんはその場に跳躍できることだ。ちょっとやってみると良い」

 

 諸伏さんにトラペゾヘドロンを渡して指をさす。

 諸伏さんはいそいそと部屋の端っこに寄っていって手を振った。

 

「ああ。これは……こうか?」

『!!』

 

 瞬間、降谷さんの姿がブレて、ワープしたように諸伏さんの背後に現れた。

 うまくできたようだ。

 

「ふむ。ひとまず風見に渡しておくか」

『それはいいな!連絡の許されない状況で、バーボンの情報をリアルタイムで伝えられるのはかなりの強みだ』

「それに、危険な時の緊急脱出手段にもなるのは大きいな。具体的な運用は追々考えよう」

 

 満足げに話し合う降谷さんと諸伏さんの姿を見ながら、俺はちょっとだけ口籠った。

 

 そうっと。

 「降谷さん」と声をかけて、まっすぐに彼と向き合う。

 

「聞きたいんだけど。あなたの本名はなんだ?」

「……?ニャルラトホテプだが。いや、もっと正確にはその化身の黒い風、になるのか」

 

 降谷さんは訝しげな顔をして答えた。

 隣の諸伏さんが息を呑む。

 

 ハッピーバースデー。

 彼は真の意味でニャルラトホテプの化身、黒い風に成ったのだ。

 そう思えば、彼の変質は本当に驚くほど最低限だ。

 

 ────まあ、俺もある意味共犯だしな。

 

「そっか。まあ、そうだよな。いや、なんとなく聞いただけだ。気にしないでくれ」

「…なら、いいが」

 

 降谷さんは訳がわからないという様子で、助けを求めるように諸伏さんを見た。

 諸伏さんは奥歯を噛み締めた後、笑顔を作った。

 

『もうそろそろ寝るか。明日は朝早いし。な、「ゼロ」』

「……そうだな」

 

 夜ももう更けた。

 本日はどんよりと曇り空。

 カーテンの向こう側では、雲に隠れて月もよく見えないだろう。

 

 俺たちの部屋から出ていく二人の姿を見ながら、コナン君はただ静かにページをめくっていたのだった。

 

 

 ミステリー作家諸口益貴の死体が発見されるのは、翌朝のことになる。

 





・ニャルラトホテプの化身「黒い風」(?)
美しい青年に化けた意思ある疫病の大嵐。
変化時のステータスは人間に準拠するが、HPがゼロになると変化が解けて大嵐の本性が顕になる。
時には探偵として探索者に近付いてきたりする。
目星・聞き耳・図書館等探索技能、交渉技能が鬼強いので仲間にいると心強い。
本性が顕にならなければ、の話だが。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。