ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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番外編:ハイパーボリア観光!〈ティンダロスのイッヌ〉

 

 ふと、薄い鈍痛のようなものを感じながらコナンは目が覚めた。

 

 どうやら己は道の端で街灯に寄りかかりながら寝ていたようだ。

 真っ直ぐにどこまでも広がる白い道が、まず目に飛び込んでくる。

 

 コナンが慌てて左右を見渡せば、段々とその場の異常さが明らかになってきた。

 

「………ッなんだよ、ここ…!」

 

 不可思議に捻れた摩天楼が無数に立ち並び、その一つ一つに環状に取り囲む光が見える。

 光は回転し、絶えず文字を映し出し、闇夜を煌々と照らしている。

 

 摩天楼の根元はこれまた妙で、半透明に揺らいで地面に接していない。

 通行人が建物の根元を自由に通り過ぎ、また奇妙な仕草で建物の中へと入ってゆく。

 

 道はのっぺりと白く割れ目ひとつない。

 雰囲気は大理石に似ているが……あまりにも汚れひとつない。

 

 起き上がり、慌てて周囲を確認する。

 往来の人間がコナンの様子を訝しんで見ている。

 

 道ゆく人々は皆、まるでコスプレのような、妙に細かい意匠を施された服を着ていた。

 コナンから見てもどう着用するのかよくわからない形状の服が多い。

 というか、どう見ても身体から生えている部位がいくつもある。

 

 向こうもコナンの普段着が奇異に映るのか、ジロジロと見られて居心地が悪い。

 

 どこか人目のない場所に行って……と思うが、ここには木陰というものがない。

 建物も巨大な街路樹も、根元が透明で隠れるには不向きだからだ。

 

 どうするか……とコナンが途方に暮れたころ。

 

「ねぇボク。大丈夫?転んじゃった?」

「っあ、その…」

 

 コナンの背後から、二人連れの女性が声をかけてきた。

 

 片方は古代ギリシャみたいな格好で、背中には小さな羽が生えている。

 もう片方は魔法少女じみて猫耳。

 実にトンチキだが、二人ともコナンを見る目は優しい。

 

「先輩、迷子になっちゃったんじゃないですか?この辺、建物がたくさんあるから」

「でもミカ。マップ最近改装されてすごい見やすくなったじゃん」

「マップの見方わからないかもしれませんよ?子供だし」

「まさかぁ」

 

 古代ギリシャみたいな「先輩」と呼ばれた方の女性が、コナンの体を見回して心配そうに眉を下げた。

 

「一応スキャンしとこっか。ボク、いいかな?」

「え?……う、うん」

 

 コナンが頷くと、「先輩」は右腕を出してコナンに柔らかく掲げた。

 その腕にはブレスレットがはまっている。

 

 間違いない、ヴェスパニア王国で見た、あの全生活オーガナイザーと呼ばれる代物だ。

 

 女性は手を掲げたまま、困惑をあらわにした。

 

「……なにこれ。毒物?…効果不明?嘘」

 

 ゲッ、とコナンは内心顔を顰めた。

 どうやら女性はコナンの体調に異常がないか調べてくれたらしい。

 だが現在進行形でAPTX4869に侵されているコナンとしては、少々面倒なタイミングだ。

 

 元の姿に戻れるならば嬉しいが、余計に面倒なことになってしまう。

 

 猫耳魔法少女っぽい「ミカ」と呼ばれた方の女性が眉を顰めた。

 

「毒?やば……マジですか?ともかく、データだけ取って治してあげましょうよ」

「ううん。治せないの。なんか登録がないから肉体の生成ができないとかで」

 

 「先輩」はコナンの目を覗き込んで、優しく問いかけてきた。

 

「ボク、オーガナイザー見せてくれるかな?」

「あ、その…僕持ってなくて…」

「!!!」

 

 そう言うや否や、「先輩」は血相を変えてコナンの服の袖をめくった。

 もちろん、どっちの手にも全生活オーガナイザーなんてつけていない。

 黄衣からもらったブレスレットも、安室の皮を被ったナニカに取られてしまったし。

 

 女性二人は愕然としたような顔をして、サッと顔を青ざめさせた。

 

 コナンは無意識に一歩後ずさる。

 

 「先輩」が生唾を飲み込んだ。

 

「いや、いやいやいや……こんなゴリッゴリの虐待ある?ミカ、神法刑務取ってたよね。どう思う?」

「法制史でなら見たかもレベルの重神法違反ですねー。ニュースどころか教科書に載りますよ。ソッコー神殿に行きましょう」

 

 二人は頷きあっている。

 逃げた方がいいか、とも思ったがそれはやめにした。

 金も身分証も持っていない自分がここで逃げても行き倒れるだけだ。

 ひとまず無垢な子供のふりをして、最低限の衣食住を手に入れねばならない。

 

「えっと。お姉さんたち、何のお話をしてるの?」

「……ボク、大事な話があるから、お姉さんと一緒に来てもらえるかな?」

「う、うん」

 

 差し出された手を大人しく取って、コナンは二人について歩き出した。

 車も走っていないためか、道幅はかなり狭い場所も多い。

 比較的道を歩く人は多く、SFで見たような光の案内看板がその向こうにちらりと見えた。

 

「しっかし、スキャナで登録無しって出たってことは、国民登録が無いってことっしょ。やば。グロ。だってそれ、神様も見てくれてないってこと──」

「先輩。ちょっとデリカシー無さすぎですよ」

「……うん、ごめん。私が考え無しだった。ボク、ごめんね」

「別に僕は、いいけど」

 

 歩きながら会話をしばらく聞いていれば、コナンにも朧げながら話が見えてきた。

 

 通常、ここの住人は皆あの全生活オーガナイザーと呼ばれるブレスレットをつけていること。

 そのブレスレットをつけてないとしたら、それは三種類だけ。

 人に化けている怪物か。

 重罪を犯した罪人か。

 ブレスレットを取り上げられた被害者か。

 

 怪物ならばブレスレットが反応するため、すぐにわかる。

 罪人は、ブレスレットを取り上げられるほどの罪を犯した人間はここ8000年出ていない。

 とするなら、あとは犯罪被害者だけだ。

 

 コナンは今、史上稀に見るレベルの犯罪被害者と勘違いされているのだ。

 

 これは困った、とコナンは内心辟易とした。

 当座を凌いで安室と合流する予定が、これではしばらく身動きがとれなくなりそうだ。

 やはり逃げるか。

 いや、あまりに文明圏が違いすぎて逃げるに逃げられない。

 

 コナンが悶々としているうちに、神殿とやらは目の前になっていた。

 

 和風、と言っていいかもしれない。

 コナンもよく知る神社の拝殿の形をした屋根に、真っ黄色に塗られた壁が対照的だ。

 周りには蝶の形をした光が舞っていて、入り口を明るく照らしている。

 その根元はやはり透明で、その下を自由に行き来できるようになっていた。

 

「ここが神殿だよ。来たことあるかな?」

「いや…」

 

 コナンが首を振ろうとした、その時である。

 

 不意に、背後から強い殺気と視線を感じて振り返る。

 飢えた獣に人の悪意を足したような、怪物じみた殺気だ。

 

 同時に町中の明かりが突如赤へと変化し、けたたましく警報音が鳴り響く。

 

【災害の発生を検知しました。災害の発生を検知しました】

【種別:神話生物の侵入】

【皆様、指示に従って冷静に避難を開始してください】

 

 コナンの目の前で、向かいの建物の角から滲み出した煙が、大きな大きな影を模って実体化していく。

 すえたような、酷い匂いが辺り一帯に充満する。

 

 現れたそれは、あまりに冒涜的だった。

 緑のビルが絡み合って四つ足になったような、凄まじい見た目をしている。

 大きさは体高だけで8メートルはあるように見えた。

 

 それは白い石造りの道を体重だけで割りながら、唸り声をあげている。

 

 コナンは背筋が凍りついた心地だった。

 死ぬかもしれない。

 だが、こんなところで死ぬわけにはいかない。

 

 強く手のひらを握りしめ、コナンは緩く息を吐いて冷静になろうと努めた。

 息を吐き切れば、幾分か体に熱が戻った。

 

 「先輩」の服の裾を引っ張り、逃走を促す。

 

「お姉さんたち!逃げるよ!早く!」

「えっ、あっ、う、ん……!やば、あれティンダロスの猟犬じゃん」

「ッ先輩その子抱えて全力疾走!その子加護ないんだから追いつかれる!」

「あ、そうだ、ごめんボク!」

 

 「先輩」がコナンを持ち上げて走り出した。

 凄まじい速さだ。前に見た安室の全力疾走より早いだろう。

 

 「ミカ」が走りながら後ろを振り返り、顔を顰めた。

 猟犬とやらは間違いなくこちらに意識を向けていた。

 

「先輩!ティンダロスの猟犬って!?」

「昔に時間系の工事現場で時々出たやつ!たくさん死んだって前の職場で習った!」

「なるほど!」

「今は法改正されて工事体制が見直されたから出たことないって!」

「出た時の対策は!?」

「しらない!あと大きくても2メートルぐらいの奴って習ったからアレはちょっと大きすぎ!」

「先輩使えない!!!!」

 

 コナンは猟犬を見ながら歯噛みした。

 奴がこちらへ向けて走り出したからだ。

 他の逃げ惑う歩行者をちらりともせず、真っ直ぐにこちらへ向かっている。

 

 いや。これは違う。

 こちらではない。

 江戸川コナンを、狙っているのだ。

 

「お姉さん離して!」

「無理!食べられちゃうでしょ!」

「なら高く上に放り投げて!」

「えぇ!?」

「いいから早く!」

 

 猟犬が舌なめずりしている。

 口も舌も無いが、その悪意だけはありありと伝わってくる。

 

 戸惑いながらも「先輩」はひとまずお願いを聞いてくれた。

 思いっきり高く放り投げられたコナンは、そのままの体勢でサッカーボールを射出する。

 着地は考えない。考えている暇はない。

 

 狙うは猟犬。

 キック力増強シューズの出力は最大。

 

 チカチカと眩く嘶くシューズでもって、全身全霊を叩き込む。

 

「いっけぇぇええええええ!!!」

 

 ジャスト。

 バチバチと電光を纏うボールは、至近距離まで迫っていた猟犬の鼻面に食い込んだ。

 

 思いっきりタタラを踏んだ猟犬が、暫し沈黙する。

 

 そして。

 ティンダロスの猟犬は「クゥン…」と可哀想な犬みたいな声を出してしょげかえった。

 口がないのにどこから声が出ているかはわからない。

 酷く傷ついているように此方を非難がましくチラチラと見た後。

 

 それはするりと煙となって、その辺の角っこへと吸い込まれていったのだった。

 

「………助かった…?」

 

 コナンは、キャッチしてくれた「先輩」の腕の中でつぶやいた。

 

「この子ヤバない???」

 

 目を剥いた「先輩」がコナンを凝視しているが、それはひとまず気付かないふりをしたのだった。

 

 

 





・ミゼーア
ヒンヒン言いながら帰ってきたイッヌをたくさんヨシヨシした。
邪悪なニャルラトホテプめ…許さん…!
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