ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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怪盗キッドの瞬間移動魔術〈魔女、再び〉

 

 キッドのマジックショー2日目。

 

 引き続き様子のおかしい降谷さんを添えて。

 絶対俺に何か用があると思うのだが、相変わらずそれを口にする気配はない。

 

 1日目に比べて現場は格段に警備が厳重になっていた。

 野次馬はTVカメラとともに締め出され、警官があたりをぐるりと囲っている。

 

 これではあの群衆に紛れて上下する作戦は使えなさそう…だったのだが。

 

 キッドは大量の野次馬を扇動し、彼らに網を無理やり突破させる作戦に出た。

 無数の声を使い分けられるキッドならではの作戦だ。

 おそらくこの後、網を破った野次馬は警察にとっ捕まるだろうが。

 まあその辺は自己責任だ。

 

 そうして俺たちが警察部隊が包囲を解除した後に現場へ入ろうとしたところで。

 

【こちらへ】

「!」

 

 魔術的に呼びかけられ、俺は足を止めた。

 

 どうやら降谷さんも聞こえたらしい。

 コナン君は聞こえなかったみたいなので、「ちょっと用事を思い出した。先行っててくれ」と声をかける。

 訝しげな顔をしたものの、コナン君はキッドを優先したらしく人混みの中に消えていった。

 

 降谷さんが鋭い瞳で俺に視線を向ける。

 

「さっきの声は?」

「たぶん人間以外の生物に呼びかける魔術の応用、かな。俺らに対象を絞って声をかけて来たんだと思う」

「……なるほど」

 

 逆探知は容易だったが、実行はしなかった。

 そこまで敵意はないようだし、相手を警戒させる必要もないと思ったからだ。

 

「相手の目的に心当たりはあるか?」

「無いな。魔術師が俺に声をかけてくるってなら、大抵信仰目的か魔術の教え欲しさだけど。降谷さんまでってのはなぁ」

「僕の正体を知らず、偶然念話に巻き込んだと言う可能性は?」

「それも無いな。術式はちらっと見たけど、明確に降谷さんを対象として含んでた」

「つまり、僕をニャルラトホテプの化身…いや。何らかの怪異と見抜いた上で、声をかけて来たと言う事か」

 

 降谷さんは深刻そうに目を細めた。

 何故にそんなに緊張しているのやら。

 俺が分かっていないことを見抜いたのか、難しい顔のまま降谷さんが口を開く。

 

「相手は僕が外宇宙的存在だと見抜いて呼び出そうとしている。つまり、僕への対応策を持った上でこの場に臨んでいる可能性が高いということだ」

「ほむ?」

「もし相手に敵意があった場合、化身として未熟な僕では太刀打ちできない」

 

 なるほど、と俺は頷いた。

 確かに、魔術師の中には「黒い風」への対抗策を持つ者がいてもおかしくは無いだろう。

 昔から大災害として有名な化身だし、専用退散魔術だって結構あったはずだ。

 

 しかし、俺は気軽にその心配を否定した。

 

「んー、心配しすぎだと思うぞ?」

「何故」

「降谷さんは自分で思ってるより凄いからな、問題ないよ」

「……」

 

 降谷さんは納得いかないような顔だ。

 でも実際そうなのだからしょうがない。

 

 降谷さんの「黒い風」としての存在規模は、実のところ規格外の大きさを誇る。

 恐らく長く俺の隣に貼り付けておけるように、とニャルラトホテプが頑丈に作ったのだろう。

 

 災厄と嵐の化身としての本性をあらわせば、日本全土を軽く覆えるサイズなのは間違いない。

 ハイパーボリアでも、神兵から逃れながら国を覆う結界を生身で越えたそうだが、これまたとんでもないことだ。

 なにせハイパーボリアの結界は当時の人々が作った護国の要にして超高度魔術の結晶。

 

 ハイパーボリア滅亡の際に俺との接続が切れた後も最後の最後まで防波堤となり、深きものどもとダゴンとを滅し続けた対魔の壁だ。

 

 アレを単身生きて飛び越えられるなら、怖いものなんて早々ないだろう。

 

 

 

 

 

 俺たちは声の主に従って、ビルの裏手へと回り込んだ。

 

 そこにはビル側面にもたれかかるように、制服姿の女子高生の姿があった。

 不自然に人が近寄らない空間に、ただ一人悠々と立つ姿が印象的だ。

 人払いタイプの魔術を使っているのだろう。

 

 女子高生は黒髪ロングの美人さんだ。

 見覚えのある顔に俺は少しだけ瞬いた。確か、新幹線で爆弾騒ぎがあった時に会った子のはず。

 

「あ、サーヘロンの人。小泉さんだったか?」

「久しぶりね。黄衣の王。それに初めまして、悪辣なる黒い風」

 

 降谷さんは思わず目をみはった。

 そして警戒を一段階上昇させる。体重移動というか雰囲気というか、ともかく雰囲気がエージェントのそれになる。

 

 正体を見破られたからなのだろうが、少し気にしすぎな気もする俺である。

 潜入捜査官としての癖、ということなのかもしれないが。

 

「知り合いかな、黄衣君」

「ああ。前に事件に遭った時に協力してくれた魔術師さんだ。あんときはありがとな」

「いいえ。あの時は私も迷惑をかけてしまったし。贈り物は有効活用させてもらっているわ」

 

 緩く目を細める彼女は、しかし緊張がそこかしこに滲み出ている。

 体が強張っているし、自然体に見えるが実際には魔術でガチガチに体を固めている。

 

 まあ、外宇宙存在二柱揃いぶみと接触しようと言うんだから、備えなんていくらあっても足りないわな。

 

 降谷さんがひとまず安室の皮を被り、爽やかに声をかけた。

 顔は笑顔だが、瞳の奥に冷徹な光が宿る。

 

「それで、僕らに何か用かな?」

「……白き罪人について、お願いにきたの」

「白き罪人?」

 

 降谷さんが困惑に僅かに眉を顰めた。

 俺はそれが直感で、怪盗キッドのことを指すのだとわかった。

 霊の色と性質のことを言っているのだが、降谷さんにはまだうまく見えていないらしい。

 

 俺が代わりに口を出す。

 

「怪盗キッドがどうしたんだ?」

「彼に手を、出さないで欲しいの。出来ればで構わないわ。対価は、私のできる限りのものを差し出すから」

「!」

 

 俺は一瞬息を詰めて驚きを飲み込んだ。

 彼女の周りの大量の防護陣に紛れて見落としていた。

 彼女の足に刻まれているのは、神への隷属と生贄を示す古い儀式の痕跡だ。

 つまり自身を生贄に差し出そうとしているというわけだが。

 

 足は僅かに震え、手は怯えるように握りしめられている。

 

 昨日、俺たちは揃って怪盗キッドを注視した。

 だから二人分の思念がキッドの魂にべっとりと張り付いていたのは間違いないだろう。

 それを見て、小泉さんが誤解するのも仕方ない。

 

 にしても直球で俺たちに話しかけたうえで自分を捧げようなんて、肝が据わりすぎというかなんというか。

 どんな関係か知らないが、よほど怪盗キッドが大事なのだと思われる。

 

 俺は慌ててブンブンと頭を横に振ってそれを否定した。

 

「あ、あ、あ、ごめん小泉さん!ええと、その、俺らは物見遊山で怪盗キッドのマジックショーを見にきただけで、ちょっかいをかける気は無かったんだ!な、安室さん!」

「……ああ。そうだな。僕も黄衣君も、怪盗キッドにさしたる興味はない」

「な!だから捧げ物とかは無しで大丈夫。誤解させてごめん!」

 

 俺は深く頭を下げ、謝罪した。

 こんな若い子にここまで決心させてしまったとは、本当に申し訳ないことをした。

 

 小泉さんはゆるゆると息を吐いて、肩の力を抜いたようだった。

 

「……なら、よかったわ。白き罪人が無事なら、それで」

「それほどまでに心配なら、何故怪盗キッドの犯罪行為を見逃すんです?アレは多くの危険と隣り合わせなはずだ」

 

 降谷さんが安室にしてはやや強い口調で小泉さんへと問いかける。

 中身が少々はみ出しているが、まあご愛嬌か。

 

 小泉さんは肩をすくめて小さく笑った。

 

「そうね。彼の、亡き父の無念を晴らし不死の秘宝を砕く、という志を見守ろうと思って」

「不死の秘宝?」

「パンドラよ。不老不死が得られるというビッグジュエル。ご存知ない?」

 

 降谷さんが押し黙った。不老不死の秘宝。

 

 俺は心当たりが多すぎて、ちょっと悩まざるを得なかった。

 どれのことだ???

 不老不死を実現するだけなら方法はいっぱいある。

 昔からその手の研究は事欠かないし、ゾンビだって工夫すれば不老不死だし。

 魂が崩れても肉体さえ無事ならいいとする説もあるし。

 

 俺はふむ、と首を捻った。

 

「なるほど。亡き父の無念って?」

「彼の父親が、パンドラを狙う組織に殺されたそうよ。本当に殺されたのかは、定かではないけれど」

「ほむ。そう言う組織って世の中にいっぱいあるんだな。ふる、安室さんの案件と一緒のやつかな?」

「………一応、軽く探りは入れておく」

 

 降谷さんが苦々しく頷いた。

 ついでに俺のことを鋭く睨みつける。降谷呼びが口から飛び出しかけたのがダメだったらしい。

 俺は軽く陳謝のポーズを取った。

 もうこの場で本名を隠す意味なんてないと思うんだがなぁ。

 

「ともかく。お互い憂いはないってことで。解散しよう」

「ええ。……あなたは本当に優しいのね。魔術の神」

 

 小泉さんは口元だけ緩く上げるような笑みを見せて。

 そのまま背を向け、振り返らず夜の街へと消えていった。

 

 その後ろ姿を見送ってから。

 降谷さんがため息つく。

 

「頭の痛い謎が増えた。怪盗キッドと敵対する、不老不死を狙う謎の組織か」

「少なくとも黄色の印の兄弟団の関連じゃないぞ?」

「何故そう言い切れる」

 

 じろりと疑うように睨みつけられたので怯みながらしどろもどろに答える。

 

「黄色の印の兄弟団はハイパーボリアの系譜だ。不老不死が無理なのは知ってるはずだし」

「人は忘れっぽい生き物だ。長い年月のうちに忘却したのかもしれない」

「まぁそれを言われると痛いんだけど」

 

 降谷さんは若干遠くを見てから、静かに瞳を閉じた。

 何かを想うように、憂いを帯びた顔が都市のネオンに照らされる。

 或いはただの幻想でしかない、不老不死という夢に思いを馳せていたのかもしれなかった。

 

 ポケットに手を突っ込み、降谷さんが軽く足踏みした。

 

「そういえば松田さんはどうしたんだ?」

「首にかけて持ち歩いたら松田がゲロゲロに酔ったんだ。探偵事務所に置いてきた」

「あー、なるほど」

「それより。彼女、マークするべきか」

「ん?」

 

 冷徹で無機質な目で、降谷さんが温度のない声色で話し出す。

 

「魔術は危険だ。例えるなら、秘密裏に個人が銃を所持しているようなものだ。現状管理する法も体制も整っていないが。有事に備え、先んじて情報を集めておくべきだろう」

「一理あるような気はするけど。俺ちょっとそういう高度に政治的なことには口を出さない信条で」

「ダメだ。君には個々の魔術的脅威度の評価を下すアドバイザーとしての役割がある」

「無いですけど!?いつのまに決まったのそれ!?」

 

 既に降谷さんの脳内では管理体制が確立されつつあるらしい。

 恐ろしいことだ。また暗黒降谷さんがぬっと顔を出し始めている。

 

 俺はしょっぱい顔になって、ひとまず拒否する言い訳を絞り出す。

 

「というか、俺は古エイボン式なら対応できるけど、原始魔術の類はあんまり詳しく無いぞ?」

「原始魔術…耳慣れないな。どう言ったものだ?」

「さっきの小泉さんの使ってたやつ。うーん、加持祈祷とか、占いとかみたいな」

 

 古エイボン式はハイパーボリアの時代、賢者エイボンの手によって生み出された。

 

 魔術文字を円柱状に積層していき、高度かつ低コスト、超スピードで発動する。

 基本的には発動に全生活オーガナイザーを使用する必要があるほど、複雑な術式だ。

 

 対して、原始魔術はハイパーボリア崩壊後の原野から始まった。

 

 迷信、過去への憧れ、祈り、呪詛。

 そう言ったものが場当たり的に重なってできた、始まりの魔術。

 それは大抵非効率的で、血生臭く、莫大な犠牲を要求する割にリターンが少ない。

 だが、やろうと思えば気軽に踏み出せる闇の御技である。

 

 降谷さんが目を細めて、値踏みするような視線を向ける。

 

「つまり、脅威度は低いと言うことか?」

「いや。単に一子相伝の秘伝のタレみたいなもんで。彼女は割とやると思う」

 

 古エイボン式にも理解がありそうだったし。

 もしかしたらハイパーボリア時代に逃げ延びた人が魔術を復活させようと独自で研究してた家系、とかかもしれない。

 

 降谷さんはしばらく考え込んだあと、「まあ、いいか」とポツリと言葉を落とした。

 保留、ということらしい。

 俺もそれに乗っかって声を上げる。

 

「そろそろコナン君のところに戻るとするかぁ。今頃怒ってるかもしれないし」

「そうだな。……あ、あれ。キッドじゃないか?」

「ホントだ!」

 

 降谷さんが指差した先にキッドが見えた。

 白いハンググライダーがギリギリで網を飛び越え、街中に消えていく。

 

「復讐、か」

 

 ポツリと呟いて、降谷さんは小さく消えたハンググライダーの影をずっと目で追っている。

 

「え、なに。また暗黒降谷さん?」

「その呼び方寝耳に水なんだけど詳しく聞かせてもらっていいかな」

「なんでもないっす」

 

 じっとりと目で追求してくる降谷さんから視線を逸らしながら、俺は歩き出した。

 

 復讐はとろけるような、全身を蝕む甘美な味がする。

 それは俺もよく知ってる。

 

 今だってほら。

 水底に沈む奴の怨念を思うと、胸がすく思いがするのだ。

 

 

 

 いい感じで話がまとまったかに思えた帰り道。

 降谷さんはおもむろにとんでもないことを言い出した。

 

「……聞き忘れてたんだんだが、例えばの話、アレ…ニャルラトホテプが君に『好きだ、付き合ってほしい』って言ったらどうする?」

「ん?もしかしてあの野郎また自分で自分に魔術キメてアッパラパーになって暴れてる?ごめんな降谷さん迷惑かけて」

 

 俺は素早く謝罪の体勢に入った。

 奴の代わりに謝るのは慣れている。

 降谷さんは苦笑してそれを否定してくれた。

 

「ああいや、そういうわけじゃないんだが。と言うかなんだそれ」

「時々あるんだよ。暇過ぎて。最近は無いけど、30億年ぐらい前はよくあった。俺のところに来て『融合しよっ♡』とか言ってセクハラした挙句俺の触手の三分の一を齧って食ってそのまま飛び出してバカ火力魔術辺り一面に撒き散らして銀河団三個くらい消し飛ばしたとか」

「宇宙災害かな?」

 

 そうだよ。

 俺は深く頷いた。

 

 奴に齧られた箇所は再生にしばらくかかったし。

 俺がねぐらにしてた星は消し飛んだし。

 目を覚ました奴はなんも覚えてない上に酔い覚ましとかいって俺の次の住処に入り浸って俺の育ててた植木をめちゃくちゃにした。

 

「あ、ええと、付き合ってほしいって言われたらだっけ」

「うん」

「無いだろ。お願いですからお帰りください案件だろ」

 

 降谷さんは沈鬱な顔で押し黙った。

 明らかに苦しんでいる。

 

「………あーっと。その。黄衣君の好みのタイプは?」

「話の流れ謎なんだが。そうだなぁ。優しくて、笑顔が可愛くて、隣を歩いてると安心できて、守ってあげたくなるタイプ、かな」

「なるほど。一旦持ち帰って検討させてもらうよ」

「どう言う意味それ???」

 

 降谷さんは安室の皮を被って爽やかに笑うばかりで、俺の質問に答えようとはしなかった。

 

 マジでなんだったのか。

 降谷さんの奇行は始まったばかりである。

 





・原始魔術
クトゥルフ神話TRPGで言うところの普通の魔術。
効果はイマイチだが、すぐ覚えて使えるインスタントさが人気。
古エイボン式はあまりに高度すぎて割と失伝気味。

・降谷さん
帰りに地下街の本屋で恋愛指南本と少女漫画を大量に買って読んだ。
枕の下に敷いて寝たら、夢の中でニャルが読んでた。
ニャルラトホテプのあまりの芽の無さに、このままでは自分が女体化されかねないと強い危機感を抱いている。

・ニャル
「お願いですからお帰りください」は聞こえなかったことにした。
献上された羽虫の交尾の本について真面目に読むこと数時間。
広がる大宇宙。謎に次ぐ謎。ラブロマンスとは。結婚の闇とは。
その謎を探るべくアマゾンの奥地に向かったニャルはそのまま帰ってこなかった。
己の頭がおかしくなってきたことを感じ、ニャルラトホテプは顔を上げた。
自分は…可愛いおんにゃのこ…?(お目目グルグル)
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