ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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殺人犯、工藤新一〈瑕疵〉

 

 本日は東都、東奥穂へと行く予定だ。

 

 もうすぐ服部君が探偵事務所まで来るので、彼を一緒にのせて車で現地まで向かうことになっている。

 始まりは、服部君が手紙を受け取ったことからだ。

 

 なんでもその依頼人は工藤新一に用事があるらしく。

 「工藤新一の推理ミスについて話したいから、東奥穂に来て欲しい」との旨が記載されていた。

 

 コナン君ほどの高INT推理オタクがそんな簡単に推理ミスを犯すとは思えないが…。

 まあ、彼も人間であるし、ないわけでは無いか。

 

 神は間違いを犯さぬが、それは神こそがルールそのものだからだ。

 

 

「ゴホッ、ゲボ、ッ」

 

 苦しそうな咳が聞こえる。

 コナン君の体調はイマイチ優れないのか、気だるそうに身支度を整えている。

 一昨日喉がガラガラになったまま、治らないまま出張当日になってしまった形だ。

 

 疲れたのかソファに座り込む彼に近づき、俺はしゃがんで声をかけた。

 

「大丈夫か、コナン君?」

「うん…」

 

 声がしわがれている。これで連れ回すのは流石に可哀想に思う。

 だが謎中毒のコナン君を置いていったら、それこそ恨まれるに違いない。

 

 しかも今回の依頼は工藤新一宛。

 工藤新一の推理ミス、と言うからには彼無しで行ってもほとんど意味がない。

 

 旅行バッグを抱えて別室から持ってきた諸伏さんが、元気のないコナン君の様子を見て顔を顰めた。

 

『なあ。この際だし、黄衣に治してもらったらどうだ?』

「まぁそうだな。ほれ」

 

 返事を待たず、パチンと指を鳴らす。

 変に遠慮されても困るからな。

 

 それと同時に術式が展開し、APTX4869の影響を除いたコナン君の体の不調全てが修繕される。

 基本は細かな時流操作と因果の更新による治癒である。

 加えて、変化後の時流を縫い留めて現在の時に繋ぎ直す処置を施した。

 

 もちろんティンダロスの猟犬出現対策もバッチリだ。

 尖った時の神ミゼーアの方も俺のことは比較的黙認してくれるので、面倒な心配事もない。

 

 その昔は敵対的だったのだが、尖った時に追放されたニャル野郎を回収しに訪れているうちに態度が軟化したのだ。

 縦横無尽に暴れてたもんな、ニャル野郎…。

 

 車に荷物を積み込んでいたはずの降谷さんが、ひょいと俺の手元を覗き込んだ。

 

 そして「凄まじいな。どうやったんだ?」と問いかけてくる。

 

 俺はくるりと手を回し、ゆっくりとわかりやすく閲覧用魔術式を目の前に展開してやった。

 円柱型の魔術式がずろろろろ、と人の身長分ぐらいの高さまで伸びる。

 

 降谷さんはギョッとしてのけぞった。

 

「これは、読み解くだけで子々孫々かかりそうだな」

「まぁ、コナン君のブレスレットを迂回して回復する専用の術式だからな。そりゃ多少は複雑にもなるさ」

「な…!」

 

 驚く降谷さんの様子に鼻高々になる。

 胸を張っていれば、降谷さんが引き気味の笑顔でブレスレットと術式とを交互に見た。

 

「あの宇宙戦艦みたいなの、迂回とかできるんだ…」

「宇宙戦艦て」

 

 術式を視覚的に見たならまあ、宇宙戦艦かもしれんが。

 コナン君が「俺は何を持たされてんだよ」などとぼそりと呟いた。

 そりゃ宇宙戦艦だろ。

 宇宙的脅威が攻めてきても対抗できる、と言う意味で。

 

 コナン君がソファから立ち上がり、全身で伸びをした。

 顔色が良くなっている。術式は成功したようだ。

 

「ともあれ。ありがと黄衣さん!喉楽になったよ!」

「良かった良かった。体調不良で外出は辛いし」

 

 「ところで、安室さん何持ってるの?」とコナン君が疑問を口にする。

 安室さんは見覚えのない書類の束を手にしていた。

 探偵事務所の書式とずいぶん違う。どこの書類だろうか。

 

「ああ、前に工藤新一が解決したという、東奥穂の事件の警視庁の記録のコピーだよ。推理ミスというから何かと思ったが、特に不審な点はなかったんだよね」

「それ持ち出していい資料?」

「もちろんダメな奴だよ」

「安室さん」

 

 降谷さんはテヘペロ、という顔をした。

 ニャル野郎にどんどん似てくるやんけ。

 

「大丈夫。この場で読んだら黄衣君が焼き捨てるから」

「俺かい」

「だって建物に燃え移らず瞬時にこの量の紙を燃やせるのは君だけだろう?」

 

 降谷さんは爽やかに俺へウィンクした。

 良いからやれ、ということらしい。

 

 ともかく、事務所のメンツでざっと回し読みしていく。

 内容におかしなところは見当たらない。

 コナン君がミスしたというほどだから、俺では見抜けない可能性の方が高くはあるが。

 

 降谷さんは呆れたようにため息をついた。

 

「見ての通り、警察の動きになんら不審な点はない。とはいえ手紙の差出人の名が屋田誠人であることを考えるとな」

『要らぬ誤解をしている可能性が高い、か』

 

 言葉の先を補足したのは諸伏さんだ。

 誤解?と俺が首を傾げたのだが、誰も何も言ってはくれなかった。

 

 みんな気づいてるんならなんか教えてくれよ。

 

 と、そのあたりで事務所入り口のチャイムが鳴った。

 どうやら服部君が到着したらしい。

 

 勢いよく入ってきた西の名探偵服部平次が声を張り上げる。

 

「よー工藤!元気しとったか!」

「服部、もうちょっとこう、隠す努力をしような」

「お!風邪治っとるやないか。ええこっちゃ。昨日電話した時はなんや風邪にカッと効くええもんでも持ってった方がええか思たけど、この調子なら今日の調査もバッチリやな!」

 

 近寄ってしゃがみ込み、バシバシとコナン君の肩を叩く。

 コナン君は半笑いで、「悪い奴じゃないんだけどな」とでも副音声が聞こえてきそうな表情だ。

 

 そして「あ、これ大阪土産や」と言って軽く肉まんの箱をくれた。

 ありがたくいただいて、冷凍なので事務所の冷凍庫の中に保存しておくことにする。

 

 意外とこの辺丁寧で欠かさないのが服部君である。

 俺も見習いたいところだ。

 

 ちなみに、松田さんは事務所でぐっすりお休みである。

 持ち出すとすぐ酔うし、魂の力が足りず起床時間も短め。

 そうすると娯楽が足りないため、今後のことを見据えペンダントの中を改修する計画を立てているこの頃である。

 

 

 

 

 そんなわけで皆でハイエースに乗り込み、走ること2時間。

 

 到着したのは小さな村であった。

 

 役場に問い合わせると依頼人は既に半年前に失踪しているとのこと。

 何が起こるか予想がついているのか、皆の表情が暗くなる。

 

 加えて工藤新一の名を出すと、村人は露骨に態度が悪く非友好的になった。

 一人状況がわかってない服部君が「なんやねん感じ悪いやっちゃ」とむくれている。

 もはや彼がこのパーティの清涼剤みたいなものだ。

 俺は変な失言をしないよう極力無口だし。

 

 役場を出て、降谷さんがやや表情を落としたような顔で言葉を落とした。

 

「確かに、これは君のミスだな。コナン君」

「………」

「やりたかったことは分かるが、やるなら徹底的にやるべきだった。これでは要らぬ諍いを招くだけだ」

「……そうだね」

 

 コナン君はぼんやりと前だけを見つめ、首肯した。

 後悔か、悲しみか。

 よく分からないが、コナン君が深く憂いていることは確かだった。

 

 俺はいよいよ我慢できず声を上げた。

 

「というかそろそろ何が起こってるか教えて欲しいんだけど」

「せやせや!自分らだけ分かったような顔しおってからに!」

 

 二人の非難を浴び、いよいよ話す気になったらしい。

 内容は、大まかに言えばこんな内容であった。

 

 一年前、ここの村長夫婦が殺害された。

 強盗事件のように見えたが、それを工藤新一が無理心中だと見抜いた。

 理由は村長夫人の不貞行為。

 しかし、それを公にすれば夫婦の息子が不義の子との謗りを受ける。

 

 そのため工藤君は警察と一計を案じ、末期癌による自暴自棄が理由と動機を偽った。

 

「だがそれを村人に見抜かれては無意味という他ない。情報操作とは完璧であって初めて意味を成す。違うか?」

「安室さんの言う通りだ。工藤新一は失敗した」

 

 凍えるような降谷さんの声を、コナン君は否定しなかった。

 諸伏さんも無関心に話を聞いているだけだ。

 公安としての常識、のようなものなのかもしれない。

 

 ふむ、と言う顔をした服部君が安室さんをジロジロと見た。

 

「なんや、秘密警察みたいなこと言うやんか」

「えっ?なんのことだい?僕は一般論を言ったまでだよ?」

 

 おお、瞬時に降谷零の営業が終了したようだ。

 そしてペカペカの笑顔で服部君を激しく威嚇し出した。

 こういうとこ時々雑なんだよな、降谷さん。

 

 後退した服部君がコソコソとコナン君に近寄る。

 

「おい工藤、前からおもっとったけどなんやねんあの兄ちゃん!ごっつ怖いわ!」

「いやー、安室さんは安室さんだぜ?」

「そら分かっとるわ」

 

 不毛な会話の後ろ側で、話に飽きた諸伏さんが草むらにしゃがみ込んでバッタを捕まえている。

 「お!バッタだ。この辺は東京だけどやっぱ自然豊かだなー」じゃないんよ。

 

 あまりに自由。

 俺はほっこりして、「あっちの奥の木にカブトムシもいたぞ」と教えておいた。

 

 

 

 

 

 ともあれ、次の手は考えねば。

 

 それに関してはコナン君が手紙の主に呼び出されているっぽいので、それに乗ることを全会一致で承諾。

 

 山小屋に一人で来てくれ、との旨が記されていたらしく。

 コナン君はそれを利用して手紙の主を吊り出すつもりらしい。

 

 明らかに罠だが、まあ殺されそうになろうとブレスレットさえあればコナン君は無事だろう。

 俺自身としては…ちょっとばかし不服だが。

 

 「工藤、気ィ付けぇよ」と服部君が真剣な眼差しをコナン君へと向ける。

 やっぱり彼らは気の合う友人同士という感じで、俺も嬉しくなってしまう。

 

 コナン君を一人で行かせ、俺たちは森の中に姿を隠す。

 尾行がいないかは公安二人が入念に確認してくれた。

 

 少し遠く、何かあったらすぐに駆けつけられる高台に陣取り、コナン君が山小屋に入っていくのをじっと見つめる。

 

 すると、すぐ道の脇の木陰から出てきた不審な男が、コナン君の入った山小屋の扉を閉めたではないか!

 そして外側から南京錠をかけて、そのまま走り去っていく。

 

 その犯人の姿は、どう見たって工藤新一その人であった。

 

「なんやあいつ!?工藤が二人お、っ、っ!!」

 

 服部君が驚きに目を見開いた。

 声が漏れるといけないので、後ろから素早く飛びついた諸伏さんが口を塞ぐ。

 

 はっと我に返った服部君が諸伏さんの笑顔に萎縮しながら、声を潜めて言った。

 

「気軽に分裂なんぞしよってからに!アメーバかおのれは!」

「服部君アメーバは笑うからやめよう」

 

 それが彼なりの冗談なのは分かるが、軽率に腹筋に効くからやめて欲しい。

 諸伏さんがふーむと首を捻った。

 

『アレは誰だ?』

「分からんなぁ。少なくともコナン君…工藤君じゃないと思う。変装でもない」

『変装じゃない?なんでそう言い切れる」

「APP(容姿)が…あー。前提として、俺は常に人の能力を数値化して見てる」

 

 改まって教えたことはない。

 だが、諸伏さんならそれに近い能力を俺が持ってることに察しはついていたかもしれない。

 

 俺のその言葉だけで言いたいことに察しがついたのか、諸伏さんは納得したように頷いた。

 

『……なるほど。マスクで変装すると、見た目と数値がズレるわけだ』

「そう。あの男の数値は本物の工藤君にかなり近かった。整形とかじゃないか?」

 

 それまで黙ったままだった降谷さんが、するりと目を細める。

 怜悧かつどこか冷たい印象を受ける表情だ。

 

「だが、そんなことが可能なのか?整形は詳しくないが、知己が見間違えるほどの容姿に、顔全体を作り変えるなんて」

 

 しんと場に沈黙が満ちる。

 俺はんー、と唸ってから、考えうる可能性をあげた。

 

「在野の魔術師かもな。他人そっくりに肉体を変化させることは、魔術を使えば難しくない」

「そないなことして、何を企んどるっちゅーんや」

「流石にそこまでは。ただ少なくとも、後ろ暗いことであるのは間違いなさそうだ」

 

 悩ましそうに諸伏さん肩をすくめた。

 

『とすると、アレは手紙の差出人である屋田誠人の可能性が高い、か。工藤新一を閉じ込めて、本人に成り代わって」

「あとは工藤新一の名誉を失墜させるだけだな」

 

 皮肉げに降谷さんが笑った。

 

 そして頷き合う。

 ひとまずコナン君の救助、次に偽工藤新一の確保だ。

 念のため、降谷さんに確認を取る。

 

「なあ、あの逃げた偽物は捕まえなくてよかったのか?」

「あちらは問題ないよ。偽物は目立たなきゃ意味がない。だからすぐに村人の前に姿を現すさ」

「なるほど」

「ただ、救助が気取られたら犯人が姿を眩ましかねない。コナン君の救出は慎重にしてくれ」

「ほほう。なら魔術で幻覚かけつつやるか」

「とはいえ、僕なら本物はすぐ殺すが。念のため死を確認できるよう監視カメラを仕掛け、身包みを剥いで山小屋に火をかけるだろう。最低限、本物には身元不明遺体になってもらわないと安心できない」

「兄ちゃん実はスジモンとかじゃあらへんよな?」

 

 服部君のツッコミに強く咳払いし、降谷さんは再びペカペカの笑顔を浮かべた。

 今日ゆるゆるだな降谷さん。疲れてんのかな。

 

「ともかく。そうしないということは本人を生かす意味があるか、ごく短期間成り代わるだけのつもりなのか。あるいは…」

『直に殺す気概がないから餓死してくれれば御の字と思っているか』

「ああ。だから、出来れば最初の一件の後に捕まえたい。しょっぴく理由があって、かつこちらのダメージが最小になるように」

 

 まだ今捕まえても工藤新一コスの変人というだけになってしまうということらしい。

 山小屋に子供を閉じ込めるだけでも結構殺人未遂臭いが、「こんなところに人がいるなんて気付かなかった」とか主張されたら厄介なのは違いない。

 

「ま、せやな。推理より、しょっぴく方がもうちょいムズもんやしな。ほなそろそろ工藤を助けるとしよか」

 

 うむ、と頷いて「お任せをー。本物の瞬間移動をご覧あれー」と言いながら魔術を発動。

 キッドのマジックも凄かったが、俺の本物も結構すごいぞ。

 

 魔術「門の創造」。

 これは二点間を繋げる空間の穴である。

 本来これを通過する時魂に軽微な損傷が起こるが、俺が作る門はほぼどこでもドアみたいなものだ。

 どんな所でも繋ぐ魔法の門。

 

 作成した転移門に手を突っ込んで手招きする。

 コナン君は突然のことに動揺していたが、おっかなびっくりこちらへと渡ってきた。

 

 同時に山小屋に幻影を生み出す魔術を発動。

 中にコナン君がいるように偽装する。

 

 転移門を潜って出てきたコナン君に、服部君がしょっぱい顔をして文句を言った。

 

「工藤、瞬間移動なんぞお前どこにノックスの十戒を置き忘れてきたんや」

「うるせー。ホームズはこうも言ってる。不可能を…」

「除外していったもの以下略」

「略すんじゃねぇよ」

「でもこれは流石に除外される不可能側の事象やろ」

「そうとも言う」

 

 高校生組がコントしている。ほっこり俺。

 

 諸伏さんが「大丈夫か少年、怪我はないか」と優しくコナン君と目線を合わせてしゃがみ込んだ。

 

「うん。犯人は見た?」

「もちろん。ちょっと面倒くさい感じの案件になったけどな」

 

 俺たちの目撃したもの、そして考察と相談の結果を伝える

 コナン君は静かに目を伏せた。

 

 

 湖で裸の工藤新一が保護されたとの報告があったのは、そのすぐ後のことである。

 





・在野の魔術師
一般的な皮膚の兄弟団所属の美容外科を営む男性。
腕がいいと評判。
価格も抑えめ、アフターケアばっちり、SAN値減少なし。
本人も現在の生活に満足している。
ただ、一応兄弟団への義理もあるため、お客さんに皮膚の兄弟団のビラを配っているようだ。

・皮膚の兄弟団
ニャルラトホテプの化身、皮膚なきものを信仰する小規模集団。
ハイパーボリア時代からあるが、主神の羽虫への興味が薄すぎて全然信徒が増えない。
最近ビラ配りを始めたが、印刷代が重くのしかかったためすぐ止めることになる。
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