ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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殺人犯、工藤新一〈死羅神様〉

 

 俺たちは工藤新一(偽)を追って、一年前殺害された村長の屋敷へと来ていた。

 

 彼は交番のお巡りさんを連れて、ぼんやりと現場を見て回っている風を装っている。

 話によると、偽物君自身がここに来たいと言い出したためお巡りさんが付き添ったらしい。

 

 工藤新一(偽)はこちらに気付いたのか、困ったように身を固くした。

 

「貴方達は…?」

「ああ。失礼。俺たちは君の知り合いの探偵だよ。事情は聞いているよ。災難だったね」

 

 代表して俺が声をかける。

 風邪で喉が枯れているようだ。

 声が工藤新一のものでないことを誤魔化すためだと思われる。

 

 一応、内々での相談の結果、騙されたふりをすることを決めている。

 

 服部君は演技が挙動不審すぎるため口を開くことを禁止。

 また、犯人がどこまで見ていたか未知数なため、念のためコナン君は近くで隠れててもらっている。

 

 俺は彼に穏やかに声をかけた。

 

「何があったかは知らないが、もしかしたらこの村の住人となにかあったのかな。どうやら君は随分と恨まれているようだし」

「………」

「そいつの自業自得でしょ。天罰が下ったのよ」

 

 不意に話に割り込んできた女性の声に、俺と偽物君は振り返った。

 

 そこには見覚えのない若い女性が立っている。

 降谷さんがすかさず笑顔を貼り付けて「おや、貴方は?」と朗らかに前へ出た。

 

 女性は値踏みするように目を細めて、フンと息をついた。

 敵意を隠していない。

 

「村長の養子の誠人君って子がいてね、その同級生よ。私も村長にはお世話になってた」

「それでは、昨年の事件ではさぞ心が傷まれたでしょう」

「そうね。おまけにコイツが村長一家に汚名まで着せて」

「ああ。それなら伺いましたよ。工藤新一の推理ミスですね?酷いものだ!」

 

 降谷さんがニコニコと、わざと声高に工藤新一を非難した。

 この雰囲気に慣れてしまった俺からしたら、演技臭いというか嘘臭いというか、なんか嵌められそうみたいな危機感の募る声だ。

 

 気を良くした彼女が表情を僅かに緩める。

 その直後、降谷さんが嗤った。

 「ただ」と、粘着質に滴り落ちる甘い毒のような声色で目を細める。

 

「どうして警察は信じたんでしょうね。そんな見え透いたミス」

「……そんなの、工藤新一が有名人だからでしょ」

「なるほど。無能な警察と嘘つき探偵が、揃いも揃って病院の聞き取り調査一つまともにできなかった、と」

 

 「な、にが言いたいのよ」と女性がたじろいだ。

 降谷さんは相変わらず笑顔で、薄っぺらい言葉を吐いた。

 

「いえ。少々呆れていただけです。同業者として、あまりにも粗末なのではないかとね」

 

 普通に聞けば、同じ探偵として推理ミスを犯した工藤新一を責めているようにも聞こえる。

 だが真の意味は、盗聴器を持って外で聞いているコナン君に「雑な仕事しやがって」と叱責する意味が大きいのだろう。

 

 なんというか、高校生相手に厳しすぎるのではないかと思う。

 たぶん公安基準のトップエージェントとして活躍して欲しいから指摘しているのだろうが。

 求めるレベルが高くて困る。

 コナン君は後で美味しい外食に連れて行こう。

 

 と、そこでさらに来訪者が現れた。

 「あら、随分と人が多いのね」と言いながら部屋に入ってきたのは年配の女性だ。

 どことなく狡猾そうな、抜け目ない色を滲ませている。

 

 ねぶるように工藤新一(偽)を見た後、視線を俺へと移した。

 

「東都新聞記者の河内深里よ。高名な名探偵の黄衣ハスタにあえて光栄だわ」

「これはこれは。初めまして」

 

 かなり居心地が悪い気持ちになりつつも、俺は笑顔で挨拶することができた。

 新聞記者さんは俺の若干の固さに気付くことなく、どこか含むような口調で勝手に話し出す。

 

「しかし恐ろしいものねぇ。そこの高校生探偵君の推理が間違っていたとしたら、真犯人がまだ捕まっていないということと同義でしょう?」

「そうですね。それを確かめるため、俺たちはここへ来ましたから」

「ふふ。もしかしたら貴方達も無駄足になるやもしれませんよ。超自然的なものなら捕まらなくて当然ですから」

 

 諸伏さんと降谷さんの顔に緊張が走った。

 俺はわずかに首を傾げて質問した。

 

「というと、何かお心当たりがあるんですか?」

「村人はみんな噂しておりますわ。村に伝わる民話の守り神である、死羅神様が真犯人だったのだと」

「死羅神様、ですか」

 

 そういえばまだ、今回の事件の魔術調査をしていなかった。

 俺は事件現場を中心に、魔術の痕跡や神話生物の跡が残っていないかを広域探査する。

 死羅神様というくらいだから、付近の山々も含めて、いつもより広範囲に魔術の網を広げた。

 

 すると一件、ぼんやりと反応があった。

 この付近の山の一つに神話生物っぽい気配がある。

 

 まあ、会話が終わってからゆっくり伝えればよかろう。

 

「なるほど。それが本当かはともかく、そろそろ一旦俺たちは旅館に帰ります。時刻も遅くなって来ましたし」

「あら、そうねぇ。もし有益な情報を掴んだら私にも教えてちょうだい」

「ははは。それはお約束しかねます」

 

 素早くかつさりげなく、降谷さんと諸伏さんが工藤新一(偽)の両脇を固めた。

 「じゃあ、俺たちの旅館に案内するよ。俺たちは君と一緒に来たんだ。覚えてるかな?」と諸伏さんが無邪気そうに見える笑顔を作った。

 

 工藤新一(偽)は動揺しながら、少し焦ったように口を開く。

 

「すみません。…少し、この屋敷を一人で回ってみてもいいですか。何か思い出せるかもしれないので」

 

 逃げ出そうとしてる、にしては様子がおかしいような。

 俺が困惑しているうちに、

 素早く諸伏さんが偽物君の前に回り込んで肩を叩く。

 柔らかいが、どこか有無を言わせない雰囲気だ。

 

『いやいや、記憶喪失なんてことになったのに、すぐそんなに根を詰めたら体に良くないだろう?』

「でも…」

『いいから。心配せずに今日はゆっくり休もう。記憶探しは明日でもなんとかなるだろ?』

 

 随分と押しが強い。

 「では、お先に失礼」と言い置いて、俺たちが階段のある方に歩き出す。

 新聞記者さんが俺たちの背に駆け寄って、ニヤニヤと悪質な笑みを浮かべた。

 

「ごめんなさいね。少しいいかしら」

「ええ?なにか」

 

 記者さんは工藤新一(偽)へと近づいて、優越感に目を細めたようだった。

 

「そんなので本当に誤魔化した気になってるなんて、笑っちゃうわ。まさかバレてないとでも思ってないでしょうね?」

「!!!」

 

 困惑しているように振る舞ってはいたが。

 間違いなく偽物君は全身が強張ったようだった。

 

 

 

 

 工藤新一(偽)は確保した。

 これでひとまず一息はつけるだろう。

 

 旅館は二部屋取っているから、降谷さん達と一緒の部屋で寝てもらうつもりだ。

 彼らなら一緒の部屋にいて被疑者を逃すなんてことしないからな。

 

 念話グループを作って、先ほどの事について偽物君にバレないように密談する。

 

『聞こえるー?心の声で返事してー!』

『うおっなんやこれ!?頭に声が聞こえよる!』

『便利な密談スペースでーす。これから工藤新一君にバレずに今後について相談するわけだ』

 

 服部君が「魔術っちゅーんはほんま便利なもんやな…」と感嘆の思念を漏らした。

 ちゃっちゃと本題に入ろう。

 

『新聞記者さん、何を掴んでるんだと思う?』

『現時点では不明だが、工藤新一が偽物であることを理解している可能性も否定できない』

 

 悩ましそうな声で答えたのは降谷さんだ。

 コナン君もそれに同意する。

 

『僕もそれは思った。偽物は確保してるから危害を加えられる可能性は薄いけど…変な記事にされるのは困るかな』

『もちろん野放しにはしないさ。間違っても「本物の工藤新一が偽物を糾弾した」なんて出回ってもらっては困るからな』

 

 俺たちから少し離れて、コナン君がゆったりとついて来ている。

 別にどれだけ離れていても念話は通じるが、離れる意味もないからな。

 コナン君が質問を投げかける。

 

『どうするつもり?』

『公安の方で作業する予定だ。東都新聞には作業員がいる。そちらは問題ないだろう』

 

 話が途切れ、居心地の悪い沈黙が落ちる。

 諸伏さんと降谷さんは念話で喋りつつも同時に工藤新一(偽)へ優しく声をかけている。

 不審に思われないためだろうが、器用すぎて俺では真似できない。

 

 コナン君が暗い空気を誤魔化すように明るい声を出した。

 

『ところで、死羅神様って言ってたけど、それっているの?』

『いるよ』

『!?!?!?』

 

 複数の驚愕する雰囲気が反響した。

 少し説明不足だったか、と俺は少しだけ反省する。

 服部君が恐る恐る口を開く。

 

『や、ヤバないか、それ』

『いやいや、死羅神様が犯人なわけじゃないから。事件とは完全に無関係だから安心して』

『……でもいるんやろ』

『いるね』

 

 コナン君を含めた全員が沈黙してしまった。

 なんでや。いる時はいるやろ。

 

 死羅神様は、非常にうっすらとした旧神だ。

 

 旧神とは地球で発生した土着の神格存在で、たいてい肉の体を持たない。

 代表的なのは漁の神ノーデンスだろう。

 人類に友好的なこともままあるが、基本は恐ろしい存在である。

 

 そんな中でも、死羅神様は非常に弱っちい。

 幽霊に毛が生えたみたいな存在で、目を合わせると正気度喪失は起こるっぽいが、だからなんだ程度の存在感だ。

 

 本気を出せば殺人事件ぐらい起こせるだろうが、する意味も理性もないだろう。

 

 降谷さんが緊張感に低くなった声を絞り出した。

 

『僕たちがそれに危害を加えられる可能性は?』

『森に踏み入ったら低確率で会うかも、ぐらい。会ったら目を逸らして逃げる。これでオーケー』

『討伐は可能か?』

『できるけどそんな意味あるか?…いや、うーん。山に出るクマみたいなもんだし、被害防止にはなるか』

『クマか』

 

 困ったように復唱してきた。

 

 そのとおり。

 この手のものは昔から山に出て、出会った人を襲い、食ったり食わなかったりする。

 毛色の違うクマさんである。

 対処法はちょっぴり面倒なことが多いが、それを守ればほぼ100%助かるのでクマさんより無害まである。

 

 コナン君は大きなため息をついたようだった。

 

『うん……事件に関係ないならいいか…。というか僕今夜どこで寝よう』

『俺が一旦米花町のマンションに送るよ。朝迎えの穴をあけるから』

『それが一番いいかな。せっかく着替え持ってきたのに』

 

 憂鬱そうなコナン君の声は気落ちしていて、やはり降谷さんに激詰めされたのが効いているように見えた。

 

 服部君がわたわたとコナン君には話しかける。

 

『そんな気にすんなや工藤!大阪来るか?俺美味いたこ焼き屋知ってんねん!』

『行く……』

『おうおうこういうんはな、美味いもん食って寝るんが一番や!食い倒れや!』

 

 やっぱり友情って素晴らしい。

 そう思う俺なのである。

 

 そろそろ俺もニャル野郎の出禁を解くべきか…。

 





・死羅神様
ガチホラー系旧神。
旧支配者に過小評価されてる。
目があった人間の魂を溶解させる怪異であり、祟りと呪いの性質も持つとても怖いナニカ。
もちろん退治などできないし、人間は死ぬしかない。
正しい対処法が失伝しているが、棲家の山から出てこないのが不幸中の幸い。
再開発等で山がなくなってからが本番となる。
古代の超高度魔術王国ハイパーボリア基準だと普通のクマさん。
人里に出てきたら可哀想だけど駆除するぐらいの感覚。

・工藤新一(偽)
しばらく山で過ごしてて死羅神様に一度も出会わなかったグッドラックボーイ。
……ではなく、彼が根城にしていた山小屋に、古い儀式の痕跡が残っていたから。
でも後1ヶ月も遅かったら遺体が湖に浮かぶことになってた。

・ニャル野郎
目が期待に輝いている。
お詫びにパウンドケーキも作った。
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