ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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殺人犯、工藤新一〈終─愛の困ったケーキ非誤字〉

 

 翌朝。

 

 朝食前に、俺たちは諸伏さん達の部屋に全員で集まっていた。

 夜明け頃に抜け出そうとした工藤新一を諸伏さんと降谷さんが確保したらしく。

 一悶着あったそうなのだ。

 

 執拗に外出を妨害する降谷さん達に、ようやく俺たちが工藤新一が偽物であることを見抜いていたとわかったらしい。

 豹変して手近な花瓶を掴んで襲い掛かろうとしたようだ。

 まあ、そんなものでやられる潜入捜査官ではない。

 逆に軽く行動不能にしたとのこと。

 

 知らせを受けた俺たちが降谷さん達の部屋に入ると、部屋は無機質な緊張感に包まれていた。

 部屋の中央で、結束バンドで縛られた工藤新一(偽)がこちらを睨んできている。

 

 降谷さんがひどく冷徹な視線でそれを見下ろした。

 

「どうする?そのまま傷害未遂で片付けるか?」

『あ、一応駐在さんは既に呼んでるから安心してくれ』

 

 俺と一緒に入って来たコナン君に諸伏さんが明るめの声を出した。

 諸伏さん達から連絡が入った段階で、コナン君は向こうから呼び戻してある。

 「門の創造」を使えば米花町との往復なんて一瞬だからな。

 

 コナン君は憂いをなみなみと湛えた瞳で首を振った。

 

「ううん。もう一度本当のことを話す」

「……人は信じたいもののみを信じる。既に伝えるよう手配してあったんだろう?無意味だと思うが」

「それでも、だよ」

 

 降谷さんはそれを止めはしなかった。

 偽物君が掠れた声で敵意をあらわにする。

 

「お前たちはあの工藤新一を庇うのか!あの嘘つき探偵の罪を知ってて!」

「ん?」

 

 俺が偽物君を不思議そうに見つめれば、彼は憎悪に燃える瞳で叫んだ。

 

「そうだろう!僕を捕らえて、110番もせずに内々に駐在を呼ぶだけ!工藤新一に汚名がついたら困るからだ!名誉のことしか考えてないクズどもが!」

「………違うよ」

 

 コナン君が後ろから進み出て、偽物君の言葉を否定した。

 偽物君の顔に動揺が走った。

 

 コナン君の顔は工藤新一そのものだ。

 鏡と向き合って飽きるほどその顔を見た偽物君なら、コナン君を工藤新一の血縁だと思うのはすぐのはずだ。

 

「なんだ、お前」

「新一兄ちゃんとは親戚同士なんだ。新一兄ちゃんは忙しくて来られなかったから、代わりに僕がこの村に来たんだ。山小屋に閉じ込められてたのも僕だよ」

「!!!」

 

 一瞬偽物君はショックに顔を歪めた。

 彼には弟がいるようだから、コナン君にその影でも見たのかも知らない。

 

 しかしその顔は一時的で、次第に醜悪に歪められた。

 

「それは残念だったな。親戚の不手際で閉じ込められて。恨むんなら『新一兄ちゃん』を恨むといい」

「別に、恨んでないよ」

 

 コナン君は悲しさを隠すように静かに顔を伏せた。

 

 と、その時扉がノックされた。

 駐在さんが到着したようだ。

 入るなり、部屋の中で工藤新一が拘束されている状況に慄いたらしい。

 思わず疑問を口にした。

 

「こ、これは…?」

「わざわざすみません、ここまで来ていただいて。貴方には証言者になっていただこうかと思いまして」

「証言、者?」

 

 疑問に答えたのは降谷さんだ。

 なんのことかわからないのか、駐在さんが不審そうに眉を顰めている。

 降谷さんはそのまま工藤新一(偽)を警察に引き渡そうとしていたはずだが、コナン君の意向を聞いて方針転換したらしい。

 

 コナン君が偽物君の前で、ゆっくりと口を開く。

 

「まず、新一兄ちゃんの推理を伝える」

「っ、」

「村長が癌で自暴自棄になって殺人事件を起こしたというのは嘘だ。本人も、警察も、承知でそう公表した」

 

 深い憎悪が膨れ上がり、ギラギラと抜き身の刃のような危険な輝きをもってコナンを睨みつける。

 言葉はないようだった。

 いや違う。殺してやる、と獣のような息遣いが聞こえた。

 

 諸伏さんがいつでも飛び出せるように少しだけ重心を移動する。

 

「では、真相はどうだったのか」

「ッ……!」

「犯人は、やっぱり村長で間違いなかった」

「嘘をつくなガキ!!」

「でも動機は違う。癌はきっかけに過ぎなかった。幸せな家庭を崩壊させたのは、血液検査で発覚したある事実だった」

「口をッ、閉じろ!!」

 

 コナン君が激昂する工藤新一(偽)を見下ろして、悲痛さを押し殺すように平坦な声を出す。

 

「夫婦の息子である日原大樹は、村長と血が繋がってなかった」

「………は?」

「改めてDNA検査してもいい。村長もたぶん、病院の結果が信じられなくて独自で調べたんじゃないかと思う」

「は、待てよ、それはどういう…」

「きっとそれで、間違いなく日原大樹が己の息子でないことを知って。彼は凶行に及んだ」

 

 不義の子、托卵行為。

 まあ俗にそう呼ぶあれである。

 

 偽物君は青ざめ、唇を震わせて俯いた。

 こんな子供の言葉を簡単に信じるなんて、根が素直なのかもしれない。

 それとも、死の間際の村長の言動に、思い当たる節があったのか。

 

「う、そだ…」

「この事実を公表すれば、最も不利益を被るのは日原大樹だ。だから一計を案じ、警察と共謀して死因を『癌による自暴自棄』と偽った」

「嘘だ!!!そんな、嘘だ!!」

「ただし、村長一家の養子であった貴方には、真実を伝える手筈になっていた」

「僕は聞いてない!!」

 

 偽物君が絶叫した。

 後ろで駐在さんが僅かに動揺に体を揺らしている。

 話の流れから、彼の正体が日原誠人だと気付いたのだろう。

 

 駐在さんが困惑と動揺を混ぜた顔で口を開いた。

 

「まってくれ!君は、誠人君なのか?」

「っ……」

「たしかにあの高校生探偵に言われて、誠人君には去年伝えたよ。でも思えば、誠人君はショックのあまり心ここに在らずと言った感じだった気もするが…」

 

 いよいよ、彼は言葉を失ったようだった。

 これだけの整形をするのはさぞ大金がかかったろう。

 金の出所は亡き村長の遺産だ。

 それを食い潰し、ただ無意味に人生を浪費しただけとあっては…まあ、同情するより他ない。

 

 コナン君は僅かに口を開いて、何も言わずに閉じた。

 後悔を伝えようとしたのかもしれない。

 でも、それが己の自己満足にしかならぬと思ったのだろう。

 

 降谷さんがさして興味もなさそうに、偽物君へ声をかけた。

 

「現在、本物の工藤新一は命を狙われている。僕の知り合いの刑事さんに保護してもらえるよう連絡したから、君はここで待つんだ」

「え、……?」

「僕らへの攻撃行為を法に訴えることはしない。その代わり、君は指示に従ってしばらく身を隠せ」

「はい、え?」

 

 急に話の流れが変わったせいで、偽物君が目を白黒させている。

 まあこちらとしてはそれが一番の本題だからな。

 それもまた仕方あるまい。

 

 空気が暗過ぎたためか、そろそろ服部君も我慢が効かなくなって来たようだ。

 「なぁ、ここここここナン君、大阪来るんいつにする?」と引き攣った笑みで話しかけた。

 

 コナン君はぶっすりとしたまま答える。

 

「……今日」

「おう!ほんなら朝飯食った後急いで大阪戻るで!」

『君らフットワーク軽過ぎだろ』

 

 諸伏さんが静かに突っ込んだ。

 

 そんなわけで。

 不意に呼び出された降谷さんの部下さんがよろよろと旅館まで到着するのは、2時間ほど後のことになる。

 

 

 

 

 

 今、この村に向かって車を走らせているのは降谷さんの部下さん───名前を風見と言うらしい。

 

 到着した彼に工藤新一(偽)を引き渡せば俺たちの仕事は終わりだ。

 

 俺たちは朝食を食べた後、偽物君を駐在さんに任せて休憩タイムに入った。

 駐在さんも思うところがあったのか、自分から見張り役を買って出てくれたのだ。

 おそらく今頃、偽物君に詳しい当時の経緯を説明している頃だろう。

 

 もう片側の部屋に集まり、俺たちはダラダラと畳の上でだらけている。

 

 その間ずっと服部君が大阪観光弾丸トークを繰り広げるものだから、コナン君もだんだん気分を持ち直して来たようだ。

 明るい表情が増えてきた。

 

 大阪に着く頃には夕方になるだろう。

 降谷さん達とは米花町で別れて、大阪で一泊するのが良いかもしれない。

 

 ああ、そういえば、と俺は思い立って降谷さんに声をかけた。

 

「降谷さん、ちょっといいか?」

「なんだい?」

 

 やや公安みのあった昨日と違い、どこか安室透感が戻って来た柔らかな雰囲気だ。

 畳の上で寝転がりながらスマホを見ているように見えるが、多分スマホで細かな仕事をしているのだと思われる。

 

 俺は咳払いして寝転がる降谷さんに向き直った。

 

「そろそろニャルの奴の出禁を解こうと思って。もう良いぞって降谷さんの方から伝えてくれないか?」

「!!!」

 

 降谷さんの体が硬直した。

 そして次の瞬間、降谷さんはぱあっと花が綻ぶような笑みを浮かべた。

 

「ようやくですか!ようやくですか!!待ってましたよ僕は!マイベストフレンド!!」

「むぎゅ」

 

 降谷さんは跳ね起きて、俺へと飛びかかって手加減というものを知らない全力のハグをした。

 俺でなければ全身の骨が煎餅よりバキバキに割れていただろう。

 明らかにニャルである。

 

 ニャルはそのまま俺に勢いよく頬ずりした。

 キスするぐらいの勢いだった。

 体は降谷さんのそれであり、ここはコナン君達も見ている公衆の面前であり。

 つまり降谷さんの尊厳の危機であった。

 

 俺は冷静にニャル野郎を引っ剥がし、距離を取った。

 ニャル野郎はきゅるんと乙女のように恥入り、もじもじした。

 繰り返すが体は降谷さんである。

 やんのかオラ、表出ろコラ。

 俺は素早くいきりたった。

 

「怖……工藤、あれ、あれ……怖…」

「服部、語彙力なくなってるから」

「いや言うて…なんやねんあれ…」

 

 高校生組が部屋の隅っこで息を潜めてこそこそ話をしている。

 気持ちはわかるが、この状態でも降谷さんには意識も記憶もあるから後で〆られるぞ君たち。

 

 そんな周囲の羽虫達の反応を全く気にせず、ニャルラトホテプは今思いついたような顔で背後から何やら取り出した。

 

「ねえ、僕、貴方のことを思ってプレゼントを持って来たんです」

「うむ。不穏な滑り出しだ。どんなの?」

「手作りパウンドケーキです。たっくさん愛情込めて作ったんですよ?」

 

 頬を染めて恥ずかしそうに渡されたのは、ケーキを包む折りたたみ式の紙箱である。

 

 ただし、中からは「ギェェエエエ」「ギョォオオオオ」と叫び声が漏れ聞こえている。

 俺は無言で天を仰いだ。

 

 素早く箱の周りに精神防御壁を展開して、次いで有害物質飛び散り防止用の130層の結界を張り巡らせた。

 ニャルが前に俺へと作ったケーキは、見るだけで人間のSAN値が全損し、異臭を嗅げば人体がスライム状に変貌して周囲のものを無差別に貪り食うようになる代物だった。

 

 ワクワクを隠さず、目を輝かせてニャルラトホテプはこちらを見ている。

 今すぐ感想が欲しいようだ。

 

 俺は覚悟して箱の蓋を開けた。

 

 色は……普通のパウンドケーキに見える。

 だが、残念ながらこのパウンドケーキは叫んでいた。

 無数にある口全てから苦悶の声を漏らし、時折人語のようなものを吐き出している。

 

 ニャルがそれを取り出し、持って来ていた皿に取り分けて俺の前においてくれた。

 

「さ、召し上がれ♡」

 

 ニャルラトホテプは蕩けるような笑みで、俺にアーンをした。

 重ね重ね言うが体は以下略。

 

 俺は腹を括って、体内に防御兼消化補助用術式を展開した。

 鋭角だけで構成されたパウンドケーキを前に食べた時の反省を生かした形だ。

 

 フォークの上で叫ぶパウンドケーキを、ゆっくりと口を入れて咀嚼する。

 

 おお、少なくとも食べられる味だ。

 馬糞と下水を合わせたみたいな味だが、少なくとも俺に対して攻撃的ではない。

 

 ほろほろ崩れる食感もいい。

 崩れた端から口が生え、俺の口内に噛み付いてくるものの、そこまで脅威ではない。

 

 飲み込んだそれが唾液と混じり合い、変な新種の神話生物になって胃の中で暴れるが、それだけだ。

 どうやら食べたものに寄生するものらしく、胃壁に穴をあけようとしては術式に阻まれている。

 

「ニャル」

「はい」

「お前、料理上手くなったな…!美味しいよ!」

「っ……!!」

 

 そう言うと、ニャルは感極まったように俺の腹に頭突きを食らわせて来た。

 ゴロニャンと甘えているふうにも見えるが、体は以下略。

 

 まあ、このぐらいニャルの料理がマシになってくれたなら俺としては嬉しい限りだ。

 少なくとも味という概念がある物体だったし。

 この程度なら本体で食べる分には術式も必要ないかもしれない。

 

 俺は胃壁に爪を突き立てて喉から這い出して来ようとするパウンドケーキを飲み込み直し、胃の中で圧殺した。

 残りのパウンドケーキが絶叫をあげている。

 コナン君と平次君が身を寄せ合って震えているのが見えた。

 

『え……それ……』

 

 諸伏さんが絶句してパウンドケーキを凝視している。

 見られていることを察知したパウンドケーキから手が生えて、ずるずると諸伏さんに近づいていく。

 

 パウンドケーキは「ヒロ…ヒロ…」と呪詛のように諸伏さんの名前を呼んでいる。

 諸伏さんが絹を裂くような悲鳴をあげた。

 

 俺が生えた手を引きちぎれば、パウンドケーキはそのまま動くのをやめた。

 実におとなしい。

 

 その上、人類が見ても聞いてもSAN値は僅かしか減らないようだ。

 本当に素晴らしい。俺は感動に涙ぐんだ。

 

 ニャルは照れ笑いのままおずおずとこちらを見た。

 

「この場で全て食べます?」

「いや、朝食食べたばっかだし、家に帰ってから食べるよ。消費期限はどのくらい?」

「2億年ぐらいは持つはずですが、一週間ぐらい経つと逃げ出そうとし始めるんですよね」

「そりゃちょっと足が速いな。気をつけるよ」

「ふふ。逃げたらまた僕が作りますから。気にしないでください」

 

 可愛らしく(?)控えめに微笑んでニャルは箱にパウンドケーキをしまった。

 悲鳴が箱の中に入り、くぐもって聞こえるようになる。

 

 というか今日のニャルはどうもテンプレな乙女っぽい仕草が多いが、どうしたんだ?

 

「では、僕はこれで。また…会いに来ても良いですか?」

「?おう。というかお前、いつも好きな時に来るだろうが」

「その。迷惑ではないかなって」

 

 ニャルはやや憂いを帯びた瞳でこちらを見た。

 殊勝なニャル野郎とか怖いだけだから、俺としてもいつものこいつのままでいて欲しいところである。

 

「嫌ならとっくに言ってるっつの。なんだ、怖いことでもあったのか?」

「………ふふ!いえ。なんでもないです。では!」

 

 それだけ言って、ニャルラトホテプは退去して行った。

 しんと部屋が静まり返る。

 降谷さんがくたりと俯き、次いで震え始めた。

 

 あまりの羞恥に声も出ないらしい。

 そこで『安室透子ちゃん?』と余計なことを言った諸伏さんが降谷さんの逆鱗に触れた。

 

「……っ、…っ…っ!」

『待て待て待て鯖折りは、鯖折りはやめるんだ!!』

「……ッ…!」

 

 荒ぶる邪神となった降谷さんが諸伏さんを抱え上げて振り回している。

 服部君が「ナンマンダブナンマンダブ」と縮こまってお経を唱えた。

 まだ箱の中のパウンドケーキは絶叫している。

 

 あっ、俺はこの間に死羅神様を退治して来よう。

 そう思い立って、そそくさと部屋を後にする。

 コナン君がいないと思ったら、備え付けのトイレに隠れているようだった。

 僕トイレー事後報告。

 やはり罪深きは邪神である。

 

 

 そうして。

 到着した風見さんの第一声は「…なにか…カルト教団の…儀式…?」であったとか、そうでなかったとか。

 





•死羅神様
ナレ死。
 
•パウンドケーキ最新作
人を取って食うタイプのパウンドケーキ。
逆に言えばそれだけなので、有害度は低め。
ハスターが食べてもお腹を壊さない優しい出来栄え。
実はこのパウンドケーキはパウンドケーキの赤ちゃんで、しっかり成長してから食べるともう少し厄介。
足が生えた頃に走り回ってるやつを捕まえて下処理してから食べるのが一番美味しい。

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