ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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本当に聞きたいこと〈日本の闇〉

 

 帰りの車の運転手は降谷さんだ。

 

 朝、不機嫌な荒ぶる降谷さんだったが今は比較的落ち着いている。

 助手席には人身御供として諸伏さんを据えた。

 

 俺は最後列でパウンドケーキを見張るという最重要任務を任されているので動けない。

 パウンドケーキは車内でも元気に鳴き喚いたため、「頭が変になりそうなんやけど」という服部君の苦情を受けて防音処置が施された。

 

 出発前、俺以外の全員が「捨てよう、車に乗せたくない」で意見が一致したのだが。

 せっかくニャルが丹精込めて作ってくれたケーキを捨てたくなかったのだ。

 

 なにより、捨てると野生化して手に負えなくなりそうだし。

 

 服部君が、おすすめの店のURLをコナン君のスマホに連投しながら声を上げた。

 

「それよりなんやあの刑事さん、おどおどしよって。ホンマに頼りになるんか」

「風見さんだっけ。なんだかすっごく怖がってたよね」

 

 コナン君が半笑いをしながら頷いた。

 

 やってきた風見刑事とやらは、荒ぶり火を吐く降谷さんを前に、怯えて逃げ惑うばかりだった。

 たしかに、服部君が不安に思うのも無理はない。

 

 降谷さんが工藤新一案件のための処理で呼んだということは、彼は当然公安警察としての部下になるだろう。

 いや、降谷さんは警察庁警備局警備企画課と言ってたし……直属の部下ではなく、警視庁の作業班の方になるのか?

 正直その辺は俺もあまり詳しくない。

 

 ともあれ降谷さんの指示で動く人間のはずだ。

 

 その降谷さんが悍ましい祟り神と化して暴れていたら、そりゃ挙動不審にもなるだろう。

 急に上司に呼び出されて会議室に行ってみたら上司は激怒していた、みたいなシチュエーションだ。

 俺なら急な腹痛で退出してたところだ。

 

 降谷さんが貼り付けたような明るい声を出す。

 

「大丈夫だよ。風見さんはああ見えてしっかりした刑事さんだからね。何も心配いらないよ」

「隣で諸伏さんが明らかに黙祷してるけど本当に大丈夫?」

「ヒロは考え事してるだけだから問題ないよ」

 

 コナン君の問いかけに、降谷さんは殊更明るい声を出した。

 諸伏さん、手を合わせてナムナム言いながら考え事するんか。

 

 そんなことを話しているうちに車は高速へ乗り、車はスピードを上げる。

 

 降谷さんの運転は、彼が不機嫌であればあるほど安全運転になる。

 そして機嫌が乗ってくると、突如として超危険な曲芸をしだすという厄介な性質がある。

 

 低空飛行を続ける彼の機嫌に伴い、車は法定速度をきっちりと守って左側でゆったりと高速を走っている。

 良いことだ。いや、よくないこととも言う。

 

 さて、そんな中である。

 

 追い越し車線に不審な車が現れた。

 ガードレールに車体の右側面をこすりながら、ギャリギャリと音を立てて走り続ける異様な車だ。

 

「寝ているのか!?不味いな…このままだと他の車に突っ込みかねない!」

 

 いち早く気付いた降谷さんがクラクションを鳴らすが、起きる様子は見られない。

 服部君が「なんかおかしいであの運転手!」と叫ぶので俺もよく見てみる。

 

 俺は思わず息を呑んだ。

 HPの残存数値がゼロだ。

 つまり死んでいると言うことに違いない。

 いや、すぐさま蘇生措置を行えばギリ生き返る可能性もあるけど、基本死んでると言っていい。

 

「あの運転手もう死んでるぞ!急病か何か知らないが、いくら呼びかけても無駄だ!」

『っなんだって!?ゼロ!前に出て止めてくれ!』

「了解、しっかり捕まってろよ!」

 

 俺たちの車をぶつけてあの暴走車を止めるつもりらしい。

 ああ俺のハイエース!

 

 俺は口答えせず黙ってケーキの箱を押さえた。

 このまま大事故になるくらいなら、俺のハイエース君がどうなろうと尊い犠牲というものだろう。

 ああ……。

 

 ともかく、ムチウチになるといけないので、服部君の首周りに魔術をかける。

 

 他のメンバーは基本物理無効だから、服部君には殊更気を配らねばなるまい。

 首周りに光が一周して、意図に気付いた服部君が「助かるわ黄衣サン!」と礼を返してくれた。

 

 ハイエースが滑らかに不審車の前に回り込み、そのまま接触する。

 車内にガクン、と激しい衝撃が走った。

 

 箱の中で困惑したパウンドケーキが「チギィ?」「ぎゃああああ?」と変な声をあげている。

 声が簡易的な防音魔術を貫通している。

 少しパウンドケーキが育ってきたようだ。

 

 無事車同士が接触してしまえばこちらのものだ。

 降谷さんがゆっくりとブレーキを踏んでいく。

 俺は魔術で素早く発煙筒と停止表示機材を具現化し、車の80メートルほど後方に出現させた。

 追加で人の認知を惹きつける機能を追加。

 これで見落としなども無いだろう。

 

 幸運なことに車はすぐ後ろを走っていた一台だけで、その車も不審な車のことは把握していたようだった。

 

 車を止めると、探偵諸君が一斉に車を飛び出す。

 俺もパウンドケーキを持ったままゆっくり車を降りた。

 パウンドケーキはさっきの衝撃が怖かったのか、小さく文句を言うようにモゴモゴ言っている。

 

 諸伏さんはケーキを持って降りてきた俺から素早く距離をとった。

 まあ、コイツはたぶん幽霊も食うので妥当な判断である。

 

「どう、コナン君。何かわかった?」

「うん……この人、首を絞められて殺されてるみたい」

「しかも殺されたんはさっきの今や。走ってる車ん中でな」

 

 難しい顔をして降谷さんも頷いた。

 走行中絞殺された被害者の車に、同乗者はいなかった。

 まるで魔術のような話だ。

 とはいえこれは魔術ではない。

 

 首を振ると、余計に険しく、しかしどこか挑戦的な笑みを浮かべて探偵達は目を細めた。

 

 

 

 

 

 現在。

 先ほど高速道路入り口で会った高木刑事と佐藤刑事に連絡し、車の流れを止めてもらっている。

 

 被害者が持っていた通行券から、同時刻に高速道路に入った車を特定。

 その後細かな推理。

 容疑者を三名にまで絞り込むのは、まさにあっという間だった。

 さすが、四人も高INTが揃うと壮観だ。

 

 俺はその間車内でパウンドケーキをつまみ喰いしていたから、ほぼ蚊帳の外だ。

 今回は西の名探偵である服部君がいるし、俺が出しゃばる理由は薄いだろう。

 

 やはり味は馬糞より酷いなにかであったし、隙あらば沢山の手を生やして紙皿から逃げようとする。

 黙々と食べていくと、残りわずかになったパウンドケーキが悲痛な声をあげて泣き出した。

 己の死期を悟ったようだ。

 

 せっかくニャルが俺に作ってくれたものだし、残す理由はない。

 そのままペロリと完食。

 胃の中でパウンドケーキがメチャクチャに暴れているのが微笑ましい。

 

 落ちた粉が寄り集まって決死の形相で逃げ出そうとしたので、魔術で入っていた箱ごと燃やし尽くした。

 

 その辺りでドアがガバリと開き、諸伏さんが中を覗き込んだ。

 後ろには降谷さんの姿がある。

 

『おーい、解決したってさ!』

「あ、ほんと?良かった良かった。犯人誰だって?」

『被害者の車と走ってた女性だよ。車内にあらかじめ仕掛けを施していたらしい。まぁ、そのことに被害者も気づいていたから半ば自殺だな』

「なるほどな」

『こりゃ、今日大阪に行くのは難しそうだ』

 

 日はもうほとんど暮れていて、青紫の深い色合いが夜闇の向こう側に僅かに残っているに過ぎない。

 家に着いたら、服部君には事務所の仮眠室を貸してあげた方がいいだろう。

 

「あれ、コナン君達は?」

『佐藤刑事と雑談してる。俺らはひと足先に帰ってきただけだから、じきに二人も来ると思う』

「ほむほむ」

 

 降谷さんが運転席に乗り込んで、何かを確かめるようにステアリングを撫でた。

 このハイエース君もこの後板金屋行きだろうと思うとやはり悲しい。

 

 そしておもむろに振り返り、降谷さんは俺の方へと声をかけた。

 

「そういえば、カルコサ新党の方の対処は終わったか?」

「今日で全済みでーす。全然聞いてくれなかったけど」

「だろうな」

 

 降谷さんの反応は素っ気なかった。

 

 俺は約一週間かけて、カルコサ新党の党首と幹部全員に呼びかけた。

 凶行を止めること、そんなこと俺は望んでないこと、本国に帰り、平和に暮らすこと。

 しかしながら相手は発狂した狂信者である。

 

 俺の声を連日聞き、舞い上がって「神は我らを選んだ!!」とか言い出して余計に勢いづいてしまっただけだった。

 主神の話ぐらい聞いてくれよ。止めろっつったやんけ。

 

 毎晩3時間近く夜更けまで頑張った俺の気持ちをどうしてくれんだよ。

 

 俺が深いため息をつくと、諸伏さんが「ドンマイ」と優しく声をかけてくれた。

 降谷さんは興味なさそうに目を細めるだけだ。

 

「カルコサ新党は黄色の印の兄弟団の下部組織だろう。そちらから統制はできないのか?」

「無理…というか、うーん、なんて言ったら良いかな」

 

 俺は若干言葉に迷って、慎重に口を開く。

 

「カルコサ新党は、黄色の印の兄弟団から追放された人間の集まりなんだ。正気を失って、教えを守れなくなった人間の集まりというか」

「……処罰するには情が邪魔する、ということか」

「というより、明日は我が身、ぐらいのイメージかな。だから黙認してる」

 

 ………もっとも。

 カルコサ新党の人員の入れ替わりの早さを見るに、一定期間を置いて正気に戻れなかったら「処分」されているのは間違いないが。

 

 降谷さんがチラリと俺を見て、感慨なく言葉を落とした。

 

「現在、君永課長の指示のもと一斉摘発計画が進んでいる」

「おうよ。俺にも異論はない」

「そこで障害になってくるのが黄色の印の兄弟団の日本勢力だ。課長が押し留めてくれているが、既に幾度も横槍を入れられている」

「ん。ならそっちもお告げ入れておくよ。邪魔するな、がいい?協力しろ、がいい?」

「今更変に首を突っ込んできてもらっても困る。こちらを邪魔しなければそれでいい」

「おっけ」

 

 降谷さんは肩をすくめ、皮肉げに笑った。

 声色が憂いを帯びている。

 

「こうして黄色の印の兄弟団を相手にすると、いかに日本社会に奴らが根を張っているのかがよく分かる。財界、政界。奴らは裏から日本を支配しているんだ」

「いやぁ……それは流石に俺の指示じゃないぞ」

「だが、君の声ひとつで日本は思いのまま動くだろう」

 

 そう言われれば否定はできないが、少しばかり複雑な心地になってしまう。

 

 彼らは日本をかつてあった「神の国」にしようとしている節がある。

 長い時間をかけて、理想郷を取り戻さんとする執念が、この国には見え隠れする。

 

 降谷さんは正面を向いてヘッドレストに頭を押し付け、不機嫌そうに少し唸った。

 

「僕がこれから長い時をかけて警察機構を手中に収めたとする。だが、それだけではとても日本を守ることはできないだろう」

『え、ゼロそんなこと考えてたのか?』

 

 びっくりしたように諸伏さんが顔を上げた。

 降谷さんはむっつりしている。

 

「仕方ないだろう。僕だって現場の方が好きだが、このまま兄弟団を通して米国の操り人形はゴメンだ」

『いや普通に黄衣に協力して貰えばいいだけじゃないか?』

「それは………なるほど」

 

 ギラリとした視線が俺を捉える。

 俺は小さく縮こまった。

 

「君がいれば、そうか。主従関係は逆転する。世界各国を影から操作する主人こそが日本となる。僕は君と手を組み、治安維持に専念すればいい」

「ニャルラトホテプの化身と俺が共同統治する国とか厄ネタ以外の何者でもないんよ…」

 

 俺の素直な感想を、降谷さんは一笑に付した。

 今日も暗黒降谷さん節が全開である。

 

 降谷さんの機嫌が上向いたのか、若干声が明るい。

 

「そのうちヒロにもポストを用意しよう。僕がきちんと隅々まで掌握できてからになるから時間はかかるが。すまないな」

『ははは…俺、それまで生きてられるかな。いや生きてるって表現でいいのか?』

「勿論生きてるさ」

 

 冗談めかして苦笑いする諸伏さんに、降谷さんが固い声を出した。

 どこかのっぺりとした、悍ましい響きを伴って、暗い双眸が諸伏さんを捉える。

 

「ヒロは俺とずっと一緒にいるんだ。松田も。二度と手放しはしない。絶対に」

『………ゼロ』

 

 うーん闇深闇深。

 ヤンデレ系ニャルラトホテプとか俺に止められる気がしない。

 本体のニャルが変なことを学習する前に降谷さんには正気に戻ってもらいたいものである。

 

 ガラッとハイエースのドアが開く。

 乗り込んできたのは高校生組だ。

 

「ん、なんやお通夜みたいな空気出しよって」

「ごめんね遅くなって」

「いいっていいって。ナイスタイミング。じゃあ全員集まったし、行こうか降谷さん」

「……ああ」

 

 ボロボロの車がゆっくりと発進する。

 どこか硬直した空気を伴って、我が家に到着するのも後少し。

 

「というかあのおっそろしい悲鳴が聞こえへんのやけど。どうしたんや黄衣サン?」

「ああ、待ってるうちに全部食べたんだ。もう無いよ」

「うっへぇ!美味いとか言うとったけど、ほんまかいな」

「馬糞と下水合わせたみたいな味だな」

「………それは食いもんちゃうで」

「そう言う説もある」

 

 服部君は半目のまま無慈悲に「それ以外の説は無いわ」とピシャリと言った。

  

 空気が弛緩し、やっぱり服部君は流石だなと思うなどした。

 





•ニャルラトホテプ
親友が手作りケーキを完食してくれてビッグラブ。
浮かれホテプ。
化身がハスターと共同作業で愛の巣を作ろうとしているって聞いてトゥンク…ってなった。

•降谷さん
そんなつもり毛頭無いが(ガチギレ)(嘔吐)(渾身の祟り神化)
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