ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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霧にむせぶ魔女〈猿〉

 

 あれから、翌週の土日に泊まりで大阪観光を楽しんだ。

 

 日程がずれたのは服部君の学校のイベントの都合だ。

 彼の案内してくれた店はどれも絶品で、食い倒れ旅行の名に相応しい旅となった。

 コナン君の笑顔もすっかり回復し、腹も満ちて大満足である。

 

 とまあ、それからは普通に仕事三昧。

 

 本日は群馬県での依頼の帰りである。

 帰り際に依頼者から一泊して行きませんかと誘われたため、翌早朝の帰りとなった。

 

 走るはこの辺の名所である冬名山だ。

 

 朝、冬名山は深い霧に包まれて非常に道が見づらい。

 昔から視界不良による事故も多いらしい。

 

 今日の午前に降谷さん達には仕事があるから無理に出発したが、一般の人は真似しない方がいいだろう。

 

 運転手は諸伏さん。

 俺がフロントガラスに施した霧を透過する魔術により、すいすいと普段と変わらず運転している。

 コナン君が魔術のかかっていない窓から外を覗き込み、「本当に霧が濃いねぇ」とぼんやり言った。

 

 しばらく山道を進んでいけば、警察の検問に突き当たった。

 

 霧に紛れるように誘導棒を振る警官がこちらへ車を止めるよう合図している。

 緩やかに停車すると、呑気そうな顔をした一人の刑事さんが運転席を覗き込んだ。

 

 一瞬うげ!という顔をした諸伏さんが、しかし躊躇した後観念して窓を開ける。

 

「群馬県警の山村警部ですっ!んー、なんだ。みんな男性じゃないですか。それなら………あれ?」

 

 山村警部は大きく目を見開いて、諸伏さんを勢いよく指差した。

 

「あーっ!?ヒロちゃん!?あなたヒロちゃんじゃないですか!?そうですよね!?」

『ははは…久しぶり、ミっちゃん』

「うわぁ、嬉しいなぁ!小学生以来ですもん!こんなとこで会えるなんて!」

 

 諸伏さんの表情は嬉しさと「厄介なことになった」とで半々だ。

 助手席で降谷さんが無言を貫いている。

 コナン君が後部座席から身を乗り出して声を出した。

 

「警部さん、諸伏さんと知り合い?」

「そうですとも!僕とヒロちゃんはいわゆる幼馴染ってやつでね。たった今感動の再会を果たしたところなわけだ!」

 

 「ヒロちゃんヒロちゃん、連絡先交換しよ!」と山村警部はホワホワ笑ってスマホを取り出した。

 降谷さんが居心地悪そうにみじろぎした。

 

 俺もコナン君と共に顔を出して会釈する。

 

「すみません、警部さん。この検問はなにか事件でもあったんですか?」

「ん?貴方は……あ!もしかして名探偵の黄衣ハスタじゃないですか!?TVで見たことありますよ、僕!握手とかしてもらっちゃったりしちゃっても!?」

「はは。もちろん」

 

 なんというか、すごく気の抜ける警部さんだ。

 握手するとブンブンと興奮気味に手を揺らした。

 

 降谷さんが助手席で気配を消している。

 もしかしたら諸伏さんの死の一因が自分にもあることを後ろめたく思っているのかもしれない。

 にしたってそこで気配を消しても意味ないと思うのだが。

 

「んあ。そうそう。ここで検問してるのは実は深ぁいわけがありまして!」

「というと?」

「実は、この山には出るんですよ……恐ろしい魔女が!」

 

 視線が一斉に俺へと集まる。

 俺は素早く皆と念話を繋ぎ、神妙に調査結果をお伝えする。

 

『えー、居ないです。誤報です』

『直接魔女とは言えなくとも、それに誤認される可能性のある怪異は?』

『それもなし。細かいのはいるけど、魔女要素は微塵も無いね』

 

 降谷さんの質問に答えれば、皆がごくりと息を呑んだ。

 コナン君が恐る恐る俺へと問いかけてくる。

 

『居るんだ……ねぇどんなの?』

『猿だね。ヘボい。口がないけど喋る。声を聞くと死ぬ。それだけ』

『それだけ、じゃないんだが』

 

 諸伏さんが笑顔で山村警部と会話を続けながら突っ込んだ。

 凄く器用だ。二つの口で別々の言葉を喋っているに近い。

 

 いやでも猿に関しては本当にそれだけだ。

 猟銃で死ぬレベルでヘボいし、魂への干渉は基本的な簡易防護壁で弾ける程度。

 結構数が居るっぽいが、成体はほぼ普通の猿だ。

 

 たぶんパウンドケーキの一つでも放てば一晩で全滅するだろう。

 でもあのパウンドケーキ自生してたら結構厄介だし、比べたら可哀想か。

 

『ともかく、魔女はいない。オーケー?』

『僕、これから探偵やってく自信が揺らいできた…』

『何故に』

 

 コナン君は俺の隣で意気消沈している。

 そんな、神話生物や魔術師による殺人は全体の一割未満だろうし、気にすることないのに。

 

 などとのんびり話している間にも、諸伏さんの華麗なる会話テクニックで魔女のあらましがわかってきた。

 

 なんでも。

 四年前この辺を荒らし回ってた女性の走り屋が、最近になってまた現れたという話のようだ。

 その女性は銀白の魔女と呼ばれ、山村警部自身も祖母の車に乗っている時に遭遇したとのこと。

 

 なお、白いFDと言われたあたりで、諸伏さんとコナン君の視線が降谷さんに突き刺さった。

 降谷さんは心外だと言った様子で鼻を鳴らした。

 

「確かに僕は白いFD乗りだが、ここで走ったことは無いよ」

「ふうん?」

 

 白いFD乗り、と聞いた山村警部の目がキランと光った。

 

「あなた、FD……RX-7乗りなんですか?」

「ええ。ですが、走り屋行為をしたことはありませんよ。単に車の見た目が好きなだけなので」

「へーえ。お高いスポーツカーを見た目だけで乗ってるなんて、怪しいですねぇ…!」

 

 警部は全力かつ軽薄な疑念を向けている。

 降谷さんが銀白の魔女なんて暇なことしている可能性はとても低いが。

 走り屋行為をしてないってことは嘘なんじゃないかなぁと思う俺である。

 

 この前も犯人の車とデッドヒート繰り広げて交通課の由美さんにクソほど怒られてたじゃん。

 

 降谷さんは、そんな嘘を微塵も感じさせない困った顔で眉を下げた。

 

「それに、魔女とやらは女性だったんでしょう?僕は男です」

「単におばあちゃんの見間違いかもしれませんし」

 

 じとー、と山村警部が降谷さんを睨む。

 横から諸伏さんが慌てて助け舟を出した。

 

『みっちゃん、俺は大抵安室と一緒に仕事してるから、こんなに遠くまで車飛ばして通ってたら流石に分かるぞ?』

「あ、そうなんです?なら違うかぁ」

 

 あっさり納得し、山村警部は「せっかく手掛かりが掴めると思ったのになぁ」と残念そうに肩を落とした。

 本当に牧歌的な警部さんである。

 

 山村警部はあっという間に気分を切り替え、諸伏さんに嬉しそうに笑いかける。

 

「でも、そうか。ヒロちゃんは探偵になったんだ!」

『え、あ、ああ』

「あの有名な黄衣探偵事務所で働いてるなんて、嬉しいなぁ。うんうん、僕も警部として!警部として頑張らないと!」

 

 警部って2回言って、えい、えい、おー!と屈託なく気合を入れている。

 

 助手席で降谷さんがすごく卑屈そうな顔をした。

 

「でも、やっぱり朝の検問は気が引き締まりますねぇ。先週ちょっと不幸があってドタバタしたらしいですけど」

『不幸?』

「なんでも、作業中だった地域課の人が突然山に入ってっちゃって。で、それっきり戻ってこないから呼びに行ったら、持病でぽっくり」

『………』

「ま、タイミングが悪かったですよね。倒れたのがみんなの前だったらすぐに救急車呼んでくれたでしょうに」

 

 諸伏さんが、ゆっくりと山村警部に視線を合わせる。

 車内が奇妙な緊張感に満ちている。

 

『その警官は、どうして山に入ったんだ?』

「さあ、お花を摘みにとかじゃないんですかね。あ、でも山に入る直前妙なことを言ってたとかなんとか…」

『……なんて?』

「『猿の声が聞こえる』って」

 

 剃刀のようなゾッとする鋭さの視線が降谷さんから放たれた。

 対象は俺だ。

 

「黄衣君」

「………了解」

 

 俺は人差し指を小さく回した。

 それだけで、この辺りの山々を覆う大結界が姿を現す。

 

 日本国民に被害が出たからには、生かしておけない。

 その意思は俺も分かる。

 彼らに悪意はないが、俺も人の神なので。

 

 山村警部が不思議そうな顔で俺たちを見ている。

 

 柔らかく拳を握る。

 大結界を縮小。捉えた猿を、「ハスターの瞳」が検分する。

 やはり普通の生物だ。人にとっては恐ろしいが、悪意はない。

 

 きいきいと鳴き声に混じって、人語のような呪いの叫びが聞こえる。

 彼らの種族の攻撃手段なのだろう。

 

 そのまま、ぱたりと結界を閉じる。

 空間ごと消去したから、己が死んだことも気づく前に逝けたはずだ。

 

 俺が頷くと、諸伏さんが山村警部へと笑いかけた。

 

『じゃあ俺たちは行くよ。またな、ミっちゃん!』

「ええ!また連絡しますからー!」

 

 諸伏さんが、山村警部に軽い別れを告げて車を発進させる。

 俺はゆっくりと口を開いた。

 

「猿処理完了。もう一匹もいないよ」

「よかった。……めちゃくちゃ怖かった…多分俺今蘭より怖がりだと思う…」

 

 コナン君が素直に怯えている。

 諸伏さんも否定せず視線を逸らしているし、皆よっぽど猿が怖かったらしい。

 

 降谷さんが据わった目でこちらを睨んできた。

 

「君の脅威度判定は信用できない。が、君しか頼れないのも事実。後日、国内の異常存在を全て洗い出してくれ。公安で精査する」

「えっそんな大事…?アレ野犬ぐらい…わかった。でも公安だけで現地調査する時は気をつけて」

 

 俺が口答えしようとしたらまた視線が突き刺さったので、素直に了承する。

 一部は調査に行ったらパンデミックになる可能性もあるからな。

 

 降谷さんは大きなため息をついて「規模によっては新部署を設立する必要がある、か…」と言葉を漏らした。

 

 コナン君はすかさず「僕それ小説で読んだことあるよ」と返したのだった。

 





•猿
絶滅済み。
この地方では「人呼び猿」と言われていた。
昔から猟師や林業従事者の間で知られていたもので、「山で誰かに呼ばれたらすぐに下山すること」と口伝がある。
今では過疎化が進み、老人が稀に知っている程度。

山に爺婆を捨てて、もう捨てられたことにも気づかないほど呆けた婆が、息子を呼んでおおい、おおいと叫んでね。
それが何日も何日も、ずっと山から聞こえて。
息子はそのうち頭がおかしくなって死んじまったが。
婆はまだ息子を待ってて、おおい、おおいと呼んでるんだって。
あたしゃそう聞いたよ。

・黄衣ハスタの見解
その怖い話は事実無根ですね。
アレは普通に神話生物っぽい猿です。
 
•コナン君
ホラー苦手になった人。
蘭ちゃんと一緒にホラー映画を見た場合は蘭ちゃんに抱きついて震える。
実際いる可能性があると思うと流石に無理。

•公安の新部署
漫画や小説で幾度も見たことがある気がする神話生物や魔術事象専門の新部署。
まだ構想段階。
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