ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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カルコサ新党一斉検挙作戦

 

 「カルコサ新党一斉検挙作戦」本番当日である。

 

 カルコサ新党の幹部全員は、本日この山間部にひっそりと立つ研究施設に集まっているらしい。

 明後日に控える「神の降臨の儀式」に備えての打ち合わせとのこと。

 

 山を切り開いた広大な敷地に、本棟のほかホール、複数の放棄された不明な実験設備など建物が並んでいる。

 降谷さんによれば、おそらくは昔に黄色の印の兄弟団が何らかの理由で放棄した区域と推察されるという。

 

 放置されほとんどが廃墟と化しており、どこか全体が薄気味悪い空気で満ちている。

 

 俺とコナン君は少し離れた林の中に停められた車内にて、モニターで大捕物の様子を見ている最中だ。

 

「……始まるね」

「うん。俺、こんな大規模な逮捕劇を間近で見るの初めてかも」

「僕もだよ」

 

 コナン君と雑談しながら、のんびりと缶コーヒーをすする。

 

 俺は万が一不測の事態があった時のために呼ばれただけ。

 コナン君は自分からついてきたのもあるが、カルコサ新党が彼の身柄を狙っていたため、事務所に一人で置いておけなかったからだ。

 

 公安の調査段階で彼らがコナン君を「大いなる神子」として付け狙っていることが判明したのだ。

 

 馬鹿なことだ。

 

 モニターをぼんやりと眺める。

 武装した警察官の一団が、本棟の裏口から中へと雪崩れ込んでいく。

 

 周囲の出入り口は全て包囲されており、道路も封鎖済み。

 周囲を包囲する警官のうちいくらかは不可思議な模様の彫られた眼鏡を着用している。

 おそらくこれは公安信者さんが配備したものだろう。

 看破に類する魔術が刻まれており、不可視化や認識回避などの手段を用いて逃亡できないようにとの処置だと思われる。

 

 あれだけの数をこの短期間で作るのは相当大変だったろうに。

 やはり彼女は優秀な魔術師に違いない。

 

 モニター画面を眺めながら、コナン君がぽつりと呟いた。

 

「ねえ、上手くいくと思う?」

「どうだろ。降谷さんが最前線で指揮を執ってるみたいだし、問題はなさそうだけど」

 

 降谷さんの要請で、俺は警官達の装備するバリスティック・シールド全てに魔術的攻撃に対する防護壁を付与している。

 効果は盾を持っているだけで継続し、方向や距離を全て無視して魔術的攻撃を無効化する。

 

 まあ、これはハイパーボリアの時代の神兵なら当然持ってた魔術なので、俺が付与したとか声高に言うほどのものでもないのだが。

 

 コナン君が声の調子を一段、低くする。

 

「黄衣さんにしては厳し目の発言だね。黄衣さんなら『大丈夫じゃない?』とか言うと思ったのに」

「こら。俺をノーテンキ扱いしない」

「───懸念点があるんだよね?」

 

 確信を持った口調だった。

 俺は黙って、視線を僅かに逸らした。

 懸念というほどのことでもないが、不安があったのは確かだからだ。

 

「降谷さんには伝えたの?」

「伝えたよ。でも聞いたところで意味のない類のことだからね。彼も対応に苦慮してるみたいだった」

「それってどういう意味?」

「単純に」

 

 言葉を切って、俺はモニターに視線を戻した。

 

「原始魔術は想像よりずっと理不尽で、狂信者は想像よりずっと狡猾だって。そういう話」

「………」

 

 コナン君もまた、黙ってモニターを見つめている。

 

 ついに、画面の向こうで銃撃戦が始まった。

 

 警官の波に押され、カルコサ新党の構成員達が一人ずつ捕縛されていく。

 想定より数が少ないのか、俺が貰って読んだ書類よりスムーズに制圧が進んでいく。

 

 コナン君が静かに口を開く。

 

「3日前の、東洋火薬の火薬庫から大量の爆薬が盗まれた件。覚えてる?」

「ああ。でもそれ、カルコサ新党とは関係ない暴力団組員の仕業だったって話だけど」

「そうだね」

 

 コナン君が座席の上で膝を抱え込み、両手を合わせて考え込んだ。

 これが彼の思考ポーズなのは分かっているのだが、なんとなく仏様的なありがたさを見出してしまう俺である。

 

「……でも、やっぱり変だよ。あのヤクザの人はどうして突然火薬なんて盗んだんだ?頭領に成り代わろうとしてたって言うけど、しっくりこない」

「どこが?」

「巳狩り組は武器密輸してたんだよね。なら、危険を冒して縁もゆかりもない火薬に手を出すより、拳銃とかを集めて配下に配る方がずっと効率的だよ」

「ふむ。たしかに」

「おまけに逮捕後、火薬は盗まれた量の四分の一しか手元になかった。捕まりそうだったから捨てたって言ったけどほんとかな。計画も凄く杜撰で逮捕もすごい早さだったし」

「つまり?」

「………人を操る魔術って、あるの?」

 

 恐れを多分に含んだ顔で、コナン君はこちらを見た。

 信じられない、信じたくない、悍ましいと体全体で訴えている。

 

 俺は頷いた。

 

「もちろんあるよ。ポピュラーな魔術だ」

 

 

 警官が最奥の部屋に踏み込んだ。

 一団を指揮する、防護服姿の降谷さんの姿が見える。

 

「それって降谷さんに伝えた?」

「気付いたの今だよ」

「じゃあダメかぁ」

 

 瞬間。

 建物全体が眩いまでの爆破の閃光に包まれた。

 

 遅れて、この車にまで爆音と爆風が襲いかかってくる。

 鼓膜を揺らす大音響と、千切れさせんばかりに木々を揺らす爆風。

 

 「安室さんッ!!!」とコナン君が叫んで走り出そうとする。

 それを俺が手で制した。

 

「黄衣さんっ!すぐ行かないと安室さんが!それに警察の人も!」

「大丈夫だってば。ほら、画面見てよ」

 

 この画像は俺が「ハスターの瞳」をモニターに繋いで映しているものだ。

 だから爆発が起きようと、特に関係なく彼らの様子を映し続ける。

 

 爆発によって着火した炎と煙が、何処からともなく現れた黒々とした風に運ばれて消えていく。

 

 黒い風は建物全体を包み込んでいた。

 あれほどの爆発だったと言うのに、建物はまるでその形を失っていない。

 警官達も無傷だ。

 爆発の衝撃で倒れ伏してはいるものの、体を包む黒い風によって目立った傷はない。

 

 己を包む異様な黒い風に気付いたのか、一部の警官が悲鳴をあげた。

 

 これだけの人数全てを、降谷さんはあの一瞬で完璧に守り切ったらしい。

 外の人員も含めて作戦参加者全員に死傷者なし。

 

 ただし。

 流石に己の権能である疫病までは制御できなかったらしく、喀血し痙攣する警官も出始めている。

 

 凄まじい侵食速度だ。

 これだけでかの「黒い風」がどれほど強大な化身であるかが理解できる。

 

 俺は少し手を振って、風の内部に疫病排除の魔術を構築してやった。

 これで不幸な事故も起きなかろう。

 

 コナン君が画面を動かして何か探している。

 

「降谷さんはどこ!?」

「ん。あ、ここにいる。上空。おお、ガチギレしてらっしゃる…」

 

 降谷さんは現場の上空200メートルに浮かんでいた。

 

 ニャルラトホテプの化身「黒い風」たる本性を完全に露わにして、彼は呪詛の言葉を吐き散らかしている。

 

 見た目は黒い竜巻の塊だ。

 それがぼんやりと人型を成しているような気がする、と言った感じ。

 黒い風の権限により空は荒れ、急速に悪化した天候が不潔な雨を齎し始める。

 

 おそらく雨雲は首都圏ぐらいは軽く覆っていることだろう。

 気象庁が困惑しないといいのだが。

 

【は、はははハははハは!!】

 

 黒い風が哄笑を上げた。

 おそらくカルコサ新党に一杯食わされたのが本気でプライドに傷を付けたのだろう。

 

 よく見ると魂が若干変質している。

 どうやら完全顕現している間、身体に合うように魂が少し組み変わる仕組みになっていたらしい。

 ニャルラトホテプも思ったより繊細な仕事をするものだ。

 

「ねぇ、これ降谷さん正気だよね…?このまま大暴れしないよね…?」

「うーん、ちょっと危険かも。ここまでキレたニャルラトホテプの化身と会ったことないから分からんけど」

 

 ちゃんと降谷さんは犯人を生かして捕まえることを覚えてくれているだろうか。

 不安でならない。

 

 警官達を覆っていた風が本体の元へと帰っていく。

 黒い風が地上に降り立ち、辛うじて降谷零とわかる気がするようなシルエットを模った。

 

 近くにいた警官の一人が咳き込み、呻きながら起き上がる。

 見覚えのある刑事さんだ。

 あれはたしか公安の風見刑事、じゃなかったろうか。

 

 他にも爆発の影響の少なかった外部作業班の警官が、起き上がって慌てて状況の確認を始めたようだ。

 無線に叫んだり、救急車を呼んだりと慌ただしい。

 俺達のいる車の周囲を固める警官も、爆発音に動揺して騒ぎ出している。

 

 風見刑事は喧騒の中周囲を見渡して、誰かを探すようにふらつきながら歩き出す。

 

「降谷さん……ぐ、一体何が、状況を……」

【風見。無事か】

 

 そこに黒い風が音もなく降り立ち、背後から話しかけた。

 

「ひっ!?な、何だこれは!?くる、来るな!!」

【何を言っている?俺だ風見。銃を下ろせ】

 

 風見さんだけではない。周囲の警官が恐怖に皆揃って拳銃を取り出した。

 無理もない話だ。

 恐怖のあまり乱射しないだけ、彼らは警察官として心身ともに鍛えられていると言っていいだろう。

 

 黒い風はその様子に心底困惑しているようだった。

 

 というか、今の黒い風は人語を喋っていない。

 だから風見さんに通じるはずがないのだが、本人は気付いていないらしい。

 

 だが、完璧にキレていると思ったが予想以上に冷静だ。

 降谷さんはあんなに激情家なのに潜入捜査なんてよくやってられるなとは普段から思っていたが。

 強烈な怒りを抑え込む強大な理性もまた、降谷さんの長所らしかった。

 

 グツグツと煮え立つような口調で風見さんに指示を出す。

 

【それより至急東洋火薬の件を調べ直せ。黄衣にはこちらから魔術的調査を依頼しておく。ここは囮だ。さっさと撤退するぞ】

「やめ、ひ、くるな!くるなくるな!!」

【お前本当に何を…】

「くるなぁぁああぁあ!!」

 

 風見さんが拳銃を発砲した。

 位置的に同士討ちを恐れてか、周囲の警官は拳銃を向け続けるだけで発砲しようとはしなかった。

 本当に統制された人たちだ、と感心してしまう。

 

 しかし黒い風に銃弾は効かない。

 全弾撃ちつくし、ガクガクと震えながら風見さんが後ずさる。

 銃弾が風の塊を通り過ぎ、その軌道を歪められて地面に弾痕を残す。

 

 最も信頼する部下からの攻撃に、黒い風は呆然としたようだった。

 

【……え……風見…?】

「ばけ、バケモノ…!」

 

 そこでようやく、降谷さんは自分の姿の異様さに気付いたようだ。

 

 ゆらりと体が揺らめく。

 彼が完全に黒い風となったのはこれが初めてなのだろう。

 言い知れぬ絶望、恐怖のようなものが滲んでいる。

 

 硬直する空気の中。

 シュルシュルと己の姿を変化させて、降谷さんは人の皮を被り直していく。

 一瞬ののち、そこにあったのは普段の降谷零そのものであった。

 風見さんの目が驚愕に見開かれる。

 

「………え、」

「悪かった。少し冷静さを失っていた。怪我はないか、風見」

「あ、え、降谷、さん?え…?」

「撤退だ。いくぞ、後方で動いてるヒロにも状況を伝えてやってくれ」

 

 降谷さんが返事も待たずに歩き出す。

 

 彼が一杯一杯なのはあまりに明白だった。

 あんなに大勢の人間の前で元の姿に戻るなんて。

 

 俺はちょいちょいと風見さん以外の全員に記憶操作を施して、不審な黒い風が空の彼方へ逃走したように記憶を改竄した。

 黒い風顕現自体を隠すと少し大掛かりになりすぎるし。

 あとは降谷さんに任せるとしよう。

 

 しばらくことの次第を見守っていたコナン君が、怜悧に細めた青い双眸で俺を見た。

 

「ねえ、良かったの。ああなる前に風見さんを落ち着かせることぐらいできたでしょ」

 

 咎めているようにも、気遣わしげにも聞こえる声色だった。

 俺は頬をぽりぽりとかいてから。

 

 軽くこう答えたのだった。

 

 

「こういう人間との距離感の取り方は、実地で覚えていった方がいいからな」

 





・黒い風
怒りと悲しみと自己嫌悪で頭がどうにかなりそう。
雨雲は首都圏を覆いつくし、そのまま拡大を続けている。
あの蛆虫ども絶対殺す。違った。絶対牢獄にぶち込む。

・風見さん
SAN値がガクッと減った。
思考が追いつかない。
恐ろしい。悍ましい。信じられない。
人の皮を被った化け物が、警察組織に紛れ込んでいたというのか。
混乱のあまり、まだ自分が守られたことに思い至っていないようだ。

・公安信者さん
やっぱあの野郎ニャルラトホテプやんけ!!!(憤怒)
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