ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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死亡の館、赤い壁〈再会〉

 

「希望の館?」

 

 休日朝。

 いつも通りに事務所を開けて、仕事中の俺たちである。

 

 最近では珍しくふらりと諸伏さんがやってきて、おもむろに俺に声をかけてきたのだ。

 俺が聞き返すと、諸伏さんは軽く頷いてみせた。

 

『ああ。兄さんが最近気になってる事件らしくて。せっかくだから調べてみたいんだが、いいか?』

「それはもちろん。というか、諸伏さん、お兄さんなんていたんだな」

 

 忘れてるだけかもしれないが、これまで一ミリも聞いたことがなかった気がする。

 

 後ろの机で依頼を片付けていたコナン君に「聞いたことある?」と声をかける。

 PCから目を離さないまま、「初耳」とだけ答えてくれた。

 やはり聞いたことがないようだ。

 

 そう言うと、諸伏さんは後ろめたいような顔をして視線を逸らした。

 

『俺は所詮幽霊だからな。生きてることを伝えるのは、正直迷った。でもゼロはあんなんだし、そろそろ俺も腹を括らないとと思って』

「ハハ…まあ確かに絶対成仏させてはもらえなさそうだけど」

 

 降谷さんの執着を見れば火を見るより明らかだ。

 考えたくないとばかりに諸伏さんが話題を逸らした。

 

『実際のところ、俺はどれくらい現世にいられるんだ?』

「んー、魔術の助けを借りず正気のままとするなら、大体180年くらいかな」

『思ったより長かった』

 

 諸伏さんは目を白黒させたようだった。

 

 最近になって詳しく調べ直したのだが、どうも諸伏さんの魂の強度は類い稀なるレベルで強いらしい。

 あのエイボンほどとは言わないが、それに次ぐ強度だ。

 

「魔術で普通に延命するなら300年ぐらいは持たせられるけど、それが限界だな」

『それ以降はどうなる?』

「魂が崩れて発狂するな」

 

 魂の強度とは、最大SAN値とほぼ同義だと言えるだろう。

 

 俺が魔術を使っても、この最大SAN値までしか回復しない。

 人が神話的事象に踏み込みすぎると魂が蝕まれ、この最大SAN値が減っていく。

 

 最大SAN値が減るにつれて魂が脆くなっていき、0になると溶解する。

 

 諸伏さんの場合は常人なら70とかしかない最大SAN値が、400あるとかそう言う話である。

 時々いるにはいるんだが、新手の神話生物かな?という思考が拭いきれない。

 

 まあもっとも、これはあくまで最大SAN値の話なので、SAN値は普通に減るし、減れば普通に発狂する。

 

 諸伏さんは己の手を見つめて握ったり開いたりを繰り返し、困ったように天井を見上げた。

 

『兄さんより長生き確定かぁ。そりゃ弟なんだし普通だと言ったらその通りなんだが』

「もっと生きることになるかもよ。降谷さんが瓶詰めを仕掛けてくる可能性は高そうだし」

『松田には悪いが瓶詰めはアイツだけにしといてくれると助かる』

 

 くすりと笑って諸伏さんは肩をすくめた。

 ニャルラトホテプは化身も本体も最近どうもヤンデレくさいからな。

 

 ニャル野郎と長年ダチをしていてこういうことは幾度もあったが。

 そのたび俺は「疲れました。探さないでください」と書き置きを残して姿をくらまし、全ての招来・呼びかけ系魔術を着拒にしていた。

 

 すると毎回二万年もするとニャルはべしょべしょに泣き出し、頼むから帰ってきてくれとぐずぐずに喚いて「ハスターとの接触」の魔術を連打するのだ。

 そのあたりで俺が折れて、喚き散らすニャルを宥めすかして帰宅。

 ひとまずヤンデレはリセットとなるのである。

 

 降谷さんがどんな感じになるのかは分からないが、あまりいい予感はしない。

 

 俺はふと思い出して、諸伏さんに問いかけた。

 

「そういや、諸伏さんっていま戸籍とか公安での扱いってどうなってるんだ?」

『戸籍は日色ヒカルのままだよ。一応、職場では「死んだふりをしていただけ」という扱いだから、戸籍も将来的に復旧してもらう予定だけどな』

「なるほど。良かったじゃんか、せっかく稼いだ銀行口座の金が無駄にならなくて」

『それはそう。本当にそう』

 

 諸伏さんは深く頷いた。

 潜入捜査でろくに動かせなかった金が通帳でうなりをあげているとあれば、やはり未練も大きかろう。

 

 諸伏さんがガサガサと荷物を持ち上げ、「じゃ、行こうか」と言う。

 

「うん?」

『だから、さっき言ってた「希望の館」の件だよ』

「え、もう?もしかして急ぎ?」

『俺の休暇が明日までだから、急ぎといえば急ぎだな。まったく、三週間も庁舎で缶詰だったのに、ようやく下りた休暇が2日っておかしくないか?』

「それは明確におかしいけど。まあ、急ぎなら行こうか」

 

 たぶん降谷さんの働き方を見るにそれは公安的には有情な方であると思われるのだが、言わぬが華である。

 

 「行こうかコナン君」と声をかければ、コナン君が「うん」と返事をしてPCを畳んだ。

 あんなに集中しているように見えて、しっかりこちらの話を聞いていたらしい。

 

 場所は長野ということで、今から行けば着くのは夕方だろう。

 

 車に乗り込み、運転は諸伏さんがするとのことで遠慮なく助手席に座る。

 

 コナン君はスマホを見ながらまた作業を始めた。

 諸伏さんも降谷さんも忙しい状況だとどうしてもコナン君に負担が集中してしまうのが難しいところだが。

 なんとかするべきか、と少し頭を悩ませる。

 

 

 道中、雑談がてら諸伏さんの兄について少し話を聞くことができた。

 

 もともと東都大学法学部を主席で卒業して、しかしキャリアの道を蹴ってわざわざノンキャリで長野県警に乗り込んできた変わり者。

 おまけに色々暴れたらしくて所轄に飛ばされたという曰くつき。

 

 経歴を聞く限りとんでもないじゃじゃ馬に聞こえる。

 だが、諸伏さんが言うには「いつも沈着冷静で頭の切れるやり手」とのこと。

 それは右京さんとかの具現化なんよ。

 俺は少し会うのが怖くなるなどした。

 

 

 

 

 

 車を飛ばして、見えてきた屋敷は大きく立派だった。

 とはいえ、流石に別荘のためかつて見たストラディバリウスの件の音楽一家の家よりは小さく見える。

 

『一応、この家の前で待ち合わせの約束なんだけど……あ、居た居た』

 

 諸伏さんは入り口の先へ行って横の駐車スペースに車を止め、小走りで駆け寄っていく。

 

 俺達も慌てて車を降りてその後を追った。

 

『兄さん!久しぶり!』

「お前も健勝そうでなによりだよ、景光」

 

 屋敷の前に立っていたのは、長身に整えられた髭のある、理知的な瞳の男性であった。

 彼はほんのりと優しく目元を綻ばせ、諸伏さんへの挨拶を返した。

 実の兄というだけあり、顔立ちが諸伏さんがそっくりだ。

 

 諸伏さんも肉親との再会に満面の笑みを浮かべ、無垢で無邪気な笑みを浮かべている。

 どことなく子供っぽく、いつもの飄々とした様子とは異なって見える。

 

 もしかしたら俺たちの見ていた彼は、潜入捜査のために必死で取り繕った姿であり、これこそが彼の真実なのかもしれないと、俺は少しだけ思った。

 

「それで景光。彼らが?」

『!うん、兄さんに紹介したかったんだ。こっちが黄衣ハスタで、この子が彼が面倒を見ている子の江戸川コナン君』

「そうか。……私は諸伏高明。景光がお世話になったようで、感謝します」

 

 諸伏兄が深々と俺たちに頭を下げた。

 ギョッとしたのは俺の方だ。彼には助けられてばかりで、俺がこんなふうに感謝される謂れはない。

 

「いえいえ、俺は別に何も…」

「死んでなお現世を彷徨い苦しむ景光を、貴方が人の世に戻してくれたんでしょう」

「!」

「あのままなら、景光は最も大事だったはずの親友を手にかける化け物に成り果てていたかもしれなかった。今、私が景光に再会できたのも貴方のおかげだ」

 

 諸伏兄が顔を上げて、真っ直ぐに俺を見つめる。

 俺は気圧されてつい視線を逸らした。

 

 諸伏さんてば、どこまで話したかと思えばほぼ全部をお兄さんに伝えていたらしい。

 間違いはないのだが、少し大袈裟というかなんというか。

 恥ずかしいのでその辺は控えてくれると助かる。

 

「あーっと、ところで、希望の館で起きた事件についての話なのですが」

「それは詳しくは中でご説明しましょう。どうぞこちらへ」

 

 俺の苦し紛れの話題逸らしに乗っかってくれた諸伏兄は、優しげに目元を緩めたままだ。

 

 諸伏兄にスマートに案内され、俺たちはひとまず希望の館内部へと足を踏み入れることになったのであった。

 





・諸伏高明
電話で全部事情を聞いた。
たぶん夜中に3時間ぐらい話したと思われる。
にわかには信じられないが、弟の真摯な口調に嘘はなかった。
ならば兄として信じなければならない。
すると、同時に辿ったと思われる弟の悲惨な死を思い、ぞっと背筋を恐怖が伝った。
希望の館は単なる口実。
一刻も早く唯一の肉親に会いたかった。

・ヤンデレニャル
定期的に来るイベント。
旧支配者ハスターは夜逃げして父たるヨグ=ソトースの袂にそっと隠れるので、辿り着けないままニャルはべしょべしょに泣き喚き最終的にリセットされる。

・降谷さん
インシデント対応中。
バーボンの通常任務とカルコサ新党対応とインシデントが全部重なって帰れない。
ジンから迷惑電話も来た。
変な漁村?僕は知りませんけど???忙しいんで切りますね!!

・ジン
キャンペーンシナリオを黙々とこなしている。
多分中盤山場に差し掛かったところ。
アメリカのマサチューセッツ州にある漁村まで辿り着いた。
据えたような嫌な匂いが漂っている。
住人は皆生気がなく、常に何かに怯えるようにビクビクしている。
今回は一際やばいヤマになるかもしれない。
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