ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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原作開始

 

 引越しはすでに完了。

 俺は米花町の高級住宅街に立つ、セキュリティの充実したマンションに移ってきていた。

 

 勿論家賃はバカ高いが、諸伏さんに「お前は命を狙われている自覚をしろ!!」と怒られたので仕方なくだ。

 手に入れた金を魔術で組んだ未来観察型の自動デイトレード魔術で運用して、ささっと500倍ほどに増やして対応した。

 達成感も何もないから二度とやりたくないが、露天程度で家賃を払い続けられないのは確かだ。

 

 なんとかして収入を増やす方法はないものか。

 そんなふうに頭を悩ませる今現在である。

 

 ちなみに、本日の露天の売り上げは1万円ほどだ。

 

 俺の雑貨屋は、最近になってちょこちょこ売れるようになってきた。

 SNSで密かな話題になっているらしく、店を訪れる人が絶えないのだ。

 怖くてエゴサはしていないが……。

 それでも、頻繁に東都中で位置が変わる屋台だというのにわざわざ探して買いに来てくれる人がいるくらいだ。

 ありがたいことだ。

 

 そんなわけで今日の営業も終了し、黒服たちを掻い潜っての帰り道である。

 

 諸伏さんがふよふよと俺の隣を浮遊しながら、眉間に皺をよせて話しかけてきた。

 

『なあ、そのおかしな効果のあるペンダント、本気で大丈夫なのか?』

「大丈夫って、何が」

 

 諸伏さんは一瞬鋭い目で俺を観察して、次の言葉を吟味したようだった。

 さすが本物のお巡りさんなだけある。

 取り調べされているような感覚に、自然と姿勢を正してしまう。

 

『悪用の恐れは無いかって話だよ。あのネックレスには魔法がかかってるんだろ。それを犯罪に使う人間が現れたらどうするんだ』

「だから何度もそれは大丈夫だって言ってるだろ」

『どうしてそんなこと言い切れる』

 

 険しい顔をした諸伏さんに、俺はついむすっと口を噤んでしまう。

 まさかここまで信用がないとは、心外だ。

 俺が人類に害悪となるものをばら撒くはずがないのに。

 

 こうなれば、手っ取り早いのは実演だろう。

 ネックレスを一つ取り出し、手の中で転がした。

 これには遠見の魔術が込められているから、実演にはぴったりだ。

 

 俺はネックレスを掲げて諸伏さんに向き直った。

 

「例えば、このネックレスは遠隔地を映し出せる力がある。それを見知らぬ女性の入浴姿を映し出すのに使ったとする」

『ふむ』

 

 諸伏さんが頷いたのを確認してから、ネックレス握り込んで念じる。

 対象は、今日の昼にネックレスを買いに来た名も知らぬ女性さん。

 なんとなく後ろめたい気持ちになるが、どうせ映し出される前に警告が入るからいいだろう。

 

 瞬間。

 びりっとした感覚と共に機械音声のような無機質な声が俺の内側に響き渡った。

 それを諸伏さんにも魔術的に共有しておく。

 

【現在人類の倫理に反する使用を検知しました。直ちに使用を中止してください】

 

 諸伏さんがビクリと飛び上がって「うおっ!?声、一体どこから…」と辺りをキョロキョロした。

 うん、セーフティは正しく作動しているようだ。

 

「すると、こんなふうに警告が聞こえるわけだ」

『なるほどな……警告を無視したら?』

「そういう場合は第二段階に移行する」

 

 もう一度握り込み、もう一度女性の入浴姿を映し出そうと思念を送る。

 次第にペンダントが熱を持ち、色がドス黒い赤に変じて───。

 

 俺の肉体を構成する血液が、一斉に硬質化して針のように内側から肉体を貫いた。

 

【違反者を検知しました。神罰適用。Feaster from Afarへアクセス…成功しました。判決:死刑】

「うぉぉお痛ァァアアアア!!!あ゛ーー、痛、うう、こんなふうに物理で罰が降る感じだよ…!」

『うわぁああ大丈夫か黄衣!?!?すっごい出血してるんだが!?』

「痛いけど大丈夫。痛いけど。俺に死とかそういう概念ないし」

 

 痛みを堪えながら顔についた血を拭い、ころりと手の中でペンダントを転がした。

 

 太古の昔から俺は趣味でアーティファクトを作ってきたのだが。

 どんなに慎重に渡す人間を選んでも、どこかで悪用されるのが常だった。

 そこで、セーフティを設けることにしたのだ。

 

「その時代の倫理観に従って、人類の総意をもとに罪の重さが決定する自動神罰機構だよ。俺の作ったものを悪用すれば報いを受ける」

『……なんでもアリだな、魔術って』

 

 諸伏さんが梅干みたいなしわしわの顔で肩を落とした。

 びっくりさせてすまんな…。

 

 出来心で悪事を働いてしまう前にきちんと警告も入れるようにしてあるし、よっぽど事故は起こらないはずだ。

 判断が難しい事例の場合は俺自らが神罰を与えるか否かを決定する「神判の時」モードを搭載しているし。

 

 これの元は俺が3億年の昔に作った、地球を環状に取り巻く超巨大魔術システム「彼方より来たりて饗宴に列するもの(Feaster from Afar)」になっている。

 神罰は働こうとした悪事の規模に応じて拡大していく仕様だ。

 その規模によって際限なく神罰も肥大化していくから、下手をすると人類が滅ぶ……恐れもある。

 が、まあ現在のところそこまで派手に悪用する奴は出てきていないし、大丈夫だろう。

 

 流石にそんな人類を滅ぼすほどヤバい悪事を働くやつはいないと思われるし。

 

 血を魔術でするりと溶かし、てくてくと夜道を歩く。

 今日は米花公園で露天を開いていたのだが、やはり周囲が高級住宅街なだけあって道ゆく姿も上品な人が多かった。

 夜道もなかなかに明るく街灯で照らされて、この辺が整備されているのを感じさせた。

 

 そのとき。

 

 ふと、生垣の角から走り出てきた子供が出会い頭に俺の足に派手にぶつかってきた。

 

「うぉっ、……大丈夫か君!?」

 

 反動でひっくり返る小さな姿に、俺は慌てて助け起こした。

 

「っ、怪我はないか………って、いつぞやの蘭ちゃんの彼氏君じゃないか!」

「ってて……あ、あの時の露天商の人!」

 

 見れば、彼はアスファルトの上で転けた影響で少しばかり手足に擦り傷を負っていた。

 頭に包帯も巻いているし、なんともはや満身創痍。

 心配になって、俺は手のやり場がなくて右往左往した。

 治してやりたいが、あまり魔術に頼りすぎるのも良くないし。

 

「確かシンイチ君、だっけ。ごめんな、立てるか?」

「え、ええ…こちらこそすみませ……じゃなくて!」

 

 ガバッと立ち上がり、シンイチ君は混乱のまま叫んだ。

 

「どうして俺が蘭と一緒にいた奴だと分かったんです!?俺、今ガキの姿ですよ!?」

「そりゃまぁ、その。あれだよ。勘とかそういうの」

「適当すぎません!?」

 

 シンイチ君は目を白黒させている。

 

 いや、俺から見れば時間の連続性からしても魂のあり方からしても自明のことなのだが…。

 とはいえ、科学的な説明はできないので勘でゴリ押すしかないのが辛いところだ。

 

 話を誤魔化すように咳払いして、俺はすっかり小学生みたいな姿になったシンイチ君の姿を上から下まで確認した。

 

「それにしてもその姿どうしたんだよ。父上に手出しでもしたのか?」

「父上……?」

「あー、いや。なんでもない。さっきのオフレコで」

「TV取材じゃないんですからオフレコとかそういうの無いですけど」

 

 シンイチ君がジトっとした目線を向けてくる。

 いやマジで関係ない話だったっぽいから忘れて欲しい。

 

 しかし、見れば見るほど奇妙な状態だ。

 彼の肉体は限定的に時が巻き戻っているのだと思われる。

 魔術的事象に極めて近いが、それだけでは説明がつかない点もいくつか見受けられる。

 はっきり言って、こんなもの見たことがない。

 

 その作用の仕方は父なる大神ヨグ=ソトースの御技に近いが……どうにも違和感があるし……わからん。

 

 諸伏さんが「知り合いの子か?」と俺に話しかけてきたので、テレパシーで「前に客としてきてくれた高校生君だよ」と返事しておく。

 

 なお、その言葉に諸伏さんは「何を言っているんだお前は」という顔をした。

 仕方ないだろ事実なんだから。

 

「ひとまず話を聞くよ。怪我も手当したいし、俺の家に一回来るといい」

「え、いいんですか!?っ、いや、それじゃ迷惑をかけて…」

「いいからいいから」

 

 俺の手を取りかけたシンイチ君は、途中でその手を止めて悲痛な顔で立ち尽くした。

 どうやら巻き込んでしまうことを危惧したようだ。

 つまり事件性ありってことで。

 

 俺は彼の様子に少しだけ嘆息した。

 

 確かに俺と彼はチラリと顔を合わせただけの薄い関係だ。

 危険なことに巻き込みたくない気持ちもわかる。

 

 だが、俺だって危険なことに巻き込まれて困っている子供を見捨てるほど人でなしになった覚えはないのだ。

 

 俺の家も大概安心できる場所とは言い難いが、少なくとも彼自身が思考を整理する時間は必要だろう。

 

 固く立ち尽くした彼の手をとって、俺は「こっちが俺の家だから」と言ってシンイチ君に笑いかけた。

 彼はその瞳を揺らして「でも」と言いかけたので、もう一度「いいからいいから」と言葉を遮った。

 

 その様子を見た諸伏さんが、呆れたように肩をすくめる。

 

『なんというか、本当にお人よしだよな。面倒ごとをこれ以上増やす気か?』

 

 それはもっともな話だ。

 ただでさえ俺は黒服どもに追われていて、身分も確かではなく、その日暮らしだ。

 

 けど。

 

「損する性分なのは分かってる。でもいいだろ、せめて心は人らしくあれ、さ」

 

 そのように、俺は小さくひとりごちたのだった。

 





・超巨大魔術システム「彼方より来たりて饗宴に列するもの(Feaster from Afar)」
 別名、環惑星魔術機構「ハスターの瞳」。
 地球を取り巻くように存在する巨大な魔術式にして、旧支配者ハスターの化身そのもの。
 常に地球を監視しており、無許可で地球へと侵入した神話生物に神罰を与える役割を持つ。
 また、人類の保護や人類史の記録等の多彩な機能がある。
 一部機能は人類にもアクセス権が開放されており、これを用いて魔術師は大規模魔術を儀式もなしに行使可能となっている。
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