ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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死亡の館、赤い壁〈松茸牛すき〉

 

 翌日、車で向かっているのは容疑者の1人、直木司郎の自宅である。

 

 一晩謎を放置されたコナン君は車内で大層ご立腹で、俺の足をドスドスと蹴るなどしている。

 ごめんて。

 でも牛肉の魔力に人は抗えないのだ。

 勿論だが旧支配者も場合によっては抗えない。大事なことだ。旨みよ永遠なれ。

 あっまた蹴った!ごめん!ごめんて!!

 

 足の甲を踏みつけられながら聞くところによると、直木司郎というのは昔希望の館に住んでいた人らしい。

 ミュージシャンだが、売れていないようで金に困っていることが報告されている。

 

「どうして直木司郎さんの所だけに行くんだ?他に容疑者はまだ3人いるんだろ?」

「それは勿論、彼が証拠を握っている可能性が高いからですよ」

 

 ふっと笑って答えてくれたのは諸伏兄だ。

 上原刑事によると、所轄では自走式爆弾と揶揄されており、あまりの恐ろしさに最近では所轄でもそっと行動を黙認されているのだという。

 過去何があったか気になるところだが、怖いので聞くのはやめておいた。

 

 ともかく。

 今は直木司郎の件だ。

 証拠を握っている可能性が高い、と言っていたがそれが何故なのかさっぱりわからない。

 

 首を傾げていても、諸伏兄は笑みを深めるばかりで何も言ってくれない。

 

 あげく「あの赤い壁の仕掛けを一目で見抜いた貴方ならば、すぐにお分かりになると思いますよ」などととんでもないこと言い出す始末。

 

 ぶふぅ、とコナン君が無言で吹き出し、俺は羞恥にコナン君の肩にやわい拳を放った。

 コナン君が静かに草を生やし続けている。

 なんやワレ、表出んかいコラ。

 

 俺は急いで諸伏兄の誤解を訂正することにした。

 

「待って、多分大いなる誤解を受けてる。あれは俺の無邪気な感想がクリティカルに真相と一致しただけで、俺は一ミリも真相には気づいてないから」

「僕びっくりしたよ。急に黄衣さん本気出したと思った」

「うるせー。どうせ俺は頭良くない勢ですぅ」

 

 むくれて俺が顔を背けると、諸伏兄がわずかに目を見張って聞き返してきた。

 

「本気、というと?」

「そんないいもんじゃないから!術で無理やり知能上げるとかそんなん!」

「ほう…術で…」

 

 実際は知能を下げているのだが、細かいことはいいだろう。

 バックミラー越しにこちらを興味深げに観察する視線に、俺はしおしおの顔をするより他なかった。

 完全に恥の上塗りである。

 もうほっといて……。

 

 にも関わらず「それにしても…」と何やら俺について考え込んでいるので、俺も羞恥に向き合わざるを得ない。

 地獄かな?

 

「あの、俺のこと諸伏さんからどう聞いているんですか?」

「景光からは、容姿端麗でTV出演経験も多く、科学の力を優に上回る利便性を持つ技術の使い手、と」

「誇大広告は法律で厳しく禁じられています!!!」

 

 思わず叫ぶと、助手席から振り返った諸伏さんがダブルピースをしていた。

 おのれ!!謀ったな!!!

 

「だが実際、公安は貴方を囲い込もうと動いている」

「……まぁ、俺にしか対応できない事象があるのは事実ですし。でも本来便利な技じゃないんですよ?俺はコストを踏み倒しているだけというか、前提が違うというか」

「なるほど。特異なのは技術ではなく貴方だと」

「帰らせて下さい、お願いします」

 

 俺がそう言うと、諸伏兄が「まぁそう言わずに。後部座席の足元を確認して下さい」と言った。

 乗る時から気になっては居たが、足元に大きな白い袋があったんだよな。

 

 がさりと確認すると、表には「プレミアムギフト山の玉手箱」とシックな字体で書かれている。

 裏返すと、「厳選松茸の詰め合わせ(最低保証量500g・長野県産)と記載あり。

 

 俺は深く納得して意見を翻した。

 

 まあ、ね。俺は優秀だからね。何でも言っちゃうよ、何でも。

 

 コナン君が「買収されすぎ…安すぎ…チョロすぎ…」と俺を叱責する。

 バッカお前、国内産松茸がこんなにとか目ん玉飛び出るほど高いぞ!!

 ……ほむ。松茸牛すきか。最高かな?

 

 

 

 

 

 

 というわけで、羽よりも軽くなった俺の口がベラベラと喋る中、直木司郎の家へと到着。

 

 車を降り、聞きたいことが概ね聞けて満足そうな諸伏兄と共に彼のマンションを訪ねた。

 へへっ、何でも聞いてくだせぇ旦那!

 揉み手の俺も後に続く。

 

 諸伏さんが「兄さん、あんまり黄衣で遊ばないでやってくれないか」と苦言を呈していた。

 

 

 

 さて。

 聞き取りに応じた直木司郎は実に挙動不審だった。

 

 現場のドアノブに直木司郎の指紋がついていた、とカマをかけただけなのに、そりゃもう誰でもわかる動揺状態。

 赤いラッカー塗料の缶に指紋がついているかも、なんて事まで言い出すのだから、よっぽど思い当たることがあるのだろう。

 

 でも、真犯人はコナン君が言うところ翠川って人のはずだし。

 意味がわからん。

 

 諸伏兄は懐から写真を一枚取り出した。

 

 やや不鮮明だが、直木司郎と翠川が2人で何かを受け渡している写真だ。

 よく見れば、それが札束であることがわかった。

 

 あ、これ今朝俺が魔術で探索を依頼されたやつだ。

 諸伏兄が悠然と微笑む。

 

「貴方の足取りを追っていて、偶然パチンコ屋前の監視カメラが捉えたものでして。何故このような場所でコソコソ金銭の受け渡しをしていたんですか?」

「そ、そりゃあその、あれだ、俺が金に困ってたから、翠川の奴が恵んでくれたんだよ」

「そうですか。ところで、貴方は近頃イタリアのレッツェに行くと付近に漏らしていたようですね」

「いや、いや……あ、俺そろそろバンド仲間と会う事なってたんだ!悪い悪い、じゃあそろそろ、」

 

 話を終わらせようとする直木司郎に、諸伏高明が静かに言葉を落とす。

 

「家宅捜索で見つかるより、今のうちに渡した方が罪は軽いですよ」

「!!!」

「それに、貴方も死にたくはないでしょう。そんな遺言めいた事を残すなんて、自身の危機を貴方自身わかっていたはずだ」

「………」

 

 しばらく押し黙ったあと、直木司郎は大人しく白状した。

 

 ようは、真犯人を分かってて金をせびり取ってた、と言う話らしい。

 殺人犯相手にそれをやって殺される奴多すぎないか?

 諸伏兄は証拠の写真データを受け取り、応援の警官を呼んだようだ。

 

 直木司郎が警察車両に乗せられ、連行されていく。

 まあ、ゆすりも犯罪だし仕方ないわな。

 

 俺たちがそろそろ帰ろうか、となったあたりでもう一台の車が到着する。

 大和警部と結衣刑事だ。

 

 大和警部が車を降りて、諸伏兄にガンをつける。

 いや別に彼に敵意は何もないのだろうが、顔面の威圧感がすごくてそう見えるだけだ。

 

「おい高明、テメェの方は上手くいったか」

「ええ。写真データは手に入れました。身柄も確保済み」

「じゃ、行くとすっか。あー、黄衣サマサマだなこりゃ。名探偵ってのも頷ける」

 

 「こんな力がありゃ、謎でもなんでもねぇもんな」と大和警部はガシガシと頭をかいた。

 

 コナン君はその言葉に大層むくれてたらしい。

 「僕は使ってないもん」とブツブツ文句を言っている。

 すまんな、俺が優秀すぎるせいで。

 むぎゅ!とコナン君にしたたかに足を踏まれて俺は悶絶した。

 なんでや工藤。

 

 

 

 次に向かったのは翠川尚樹の自宅である。

 

 翠川尚樹は俳優で、時代劇などによく出演しているらしい。

 まあ、プロフィールにさほど意味はない。

 犯人宅にお邪魔します、と言うだけの話だし。

 

 突如ぞろぞろと大挙して訪れた俺らに、「あなた方は…?」と翠川尚樹は困惑した顔を見せた。

 警察手帳を見せても反応は変わらない。

 ただ困惑して、表向き協力的に受け答えするだけだ。

 

 さすがは俳優さん、ということだろう。

 

 しばらく表面をなぞるような会話が続き、その中でふと翠川尚樹が俺を見た。

 

「先ほどから気になっていたのですが、もしや貴方は黄衣ハスタさんじゃありませんか?『探偵は窓より見下ろす』の」

「……すみません。どこかでお会いしましたか?」

 

 急に話しかけられ、俺は少しばかり動揺した。

 知り合いの犯人とかどんな概念だ?

 

 「探偵は窓より見下ろす」は先週から始まった新ドラマだ。

 俺が探偵役で出演している。

 とても演技なんてできないと抵抗したのだが、お世話になっているディレクターさんの紹介だったので断りきれなかった。

 

 最初はオーディションだけと言われた。

 そして試しにと仕方なく演技したら、そのままストレートに出演が決まった。

 ちょっとだけって話だったのに全12話だった。

 絶許。

 

 まあ、理由はわかる。

 

 俺は本気で演技なんてやった事なかったから、魔術に頼ることにしたのだ。

 幸いこのドラマには原作小説があったから、それを参考にした。

 日本全土に魔術の網を展開。

 全国の読者の抱くイメージと、監督のイメージ、その他出演者のイメージを魔術で抽出して、その通りに体を動かす。

 

 ハイパーボリアの時代の応用だ。

 当時もこうやって「理想の神」を演じていたから……そう考えれば俺の俳優歴は長いと言える……?

 

 ともかく、あとは体を動かすだけ。

 元々俺の体は触手の先っぽを人型にして、パペット人形のように動かしているだけだから、魔術で読み取ったイメージを反映するのは楽な仕事だ。

 

 ホクホク顔で翠川尚樹がこちらへ向き直る。

 

「いえいえ。貴方が出演されたドラマを最近見まして!俳優経験はこれまで無かったと言う話をネットで見ましたが、とんでもない!こんな風に視聴者を飲み込む役者が素人など…!」

「は、はぁ」

「ああ失礼。興奮してしまいまして。私も長年この業界に勤めていますが、時折このような逸材が現れることは知っております。いやはや、素晴らしい」

 

 うーん、と俺は愛想笑いをするしかなかった。

 ちょっと困ったぞ、これ。

 多分話題を逸らすためと空気感の調整のためなのだろうが、彼の言っていることが彼の本心でもあるのは間違いない。

 

 ひたすら俺が困っていると、大和警部が割り込んだ。

 「テメェはまだるっこしいんだよ、高明」と吐き捨てる。

 

「一緒に署まで来てもらおうか」

「え、ええ、何がですか?」

「直木司郎はもう吐いたぜ」

「!!!」

 

 翠川尚樹が硬直した。

 

「な、何のことだか…金に困ってわけのわからない事を言い立てているだけで…」

「動画データも出ているが。それと、当日のテメェの足取りも、付近の監視カメラを全部洗って特定できた。おい、あの日テメェは館に行ってないんじゃなかったのか?」

「ッ、」

「これ以上、何かいるか?」

 

 冷たい、人を追い詰める視線が犯人を射抜いたようだった。

 

 監視カメラを地道に洗うのは、本来非常に長い時間と努力を要する。

 今朝俺は、大和警部に魔術で拾った翠川尚樹の映る監視カメラ映像を全て時系列順に提示したのだ。

 その後、大和警部は一件一件回って監視カメラ本体を調査し、裏どりしたのだろう。

 

 項垂れたまま、翠川尚樹は「青ちゃん…」と呟いた。

 三年前死んだ女性の名前だ。

 あとは探偵が関与する領分ではない。

 

 

 そうして、事件は呆気ない幕切れとなったのであった。

 





・松茸牛すき
 帰ってからみんなで豪勢に楽しんだ。うまうま。

・ジンニキ
 ついにキャンペーン後半戦開幕。
 這う這うの体で漁村から帰還した。
 奴らが北岸の地下洞窟に隠していた大きな黒曜石の秘密は解いた。
 奴らは何百年も前から秘密裏に、危険な化け物を解き放とうとしていたのだ。
 儀式はもうすぐ成る。
 防がねば、人類社会は紙屑のように蹂躙され組織もまた海の藻屑となる。
 対策が必要だ。

 その前に、問い詰めねばならない男がいる。

 倉庫街に呼び出して、奴の到着を待つ。
 拳銃は持ったが、それで対抗できる相手ではない。
 万が一のため、倉庫に爆薬は仕掛けておいた。
 物理攻撃が効くといいのだが。
「急にどうしたんです、ジン。新しい任務ですか?」
 来た。
 金髪褐色の姿はただの人間にしか見えない。
 だが、ジンはよく知っている。
 「ルルイエ」の名がどれほど秘されているか、ミスカトニック大学の研究者が幾人も行方不明になり、古い古い文献でも伏せられ。
 漁村でようやっと彼らの口伝を命からがら盗み聞いて。
 重い代償を支払いようやく知った、その単語の重さを。
 単なる探り屋が知っていていいものではないのだ。
 バーボンに拳銃を向けて威嚇する。
 それ以上近付かれたら厄介だ。
 口を開く。口内が乾く。緊張している。
「テメェは……人間か?」
 3億年前にあったとされる古代王国の石碑にのみ刻まれる悪神がある。
 それは黒、もしくは褐色肌の美男美女の姿で現れ、人を惑わすという。
 きょとんとしたバーボンは、しばらくのち三日月の裂けたような邪悪な嘲笑を浮かべた。

「さあ。貴方はどう思います?」


・バーボン
 意外とジンがしぶとくてゲンナリ。
 公安の仕事が忙しくてイライラしてたから羽虫の苦悶の声を楽しみにしてたのに。
 ふーん別に貴方の大冒険に興味は……インスマスで復活の儀式の兆しあり!?!?
 はわわわ羽虫にしては上手に働くじゃないですかよくやった!
 黄衣君に連絡しないと!!
 ………定期的にある奴だから無視してOK?
 問題なし?
 なるほど。もう一回遊べるドン!!
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