事務所に帰ると、中で服部君が茶をしばいていた。
「おっ、帰ってきたんか黄衣サン!邪魔しとるで!」
『工藤!せやかて工藤!』
「!?!?!?」
服部君はゆるい画風の服部君(?)と対面に座りながら、元気よくこちらに手を振った。
コナン君が俺を責めるように睨んで「服部が増えてるんだけど」と言い募った。
ちなみに、諸伏さんと降谷さん、ほか新入り三名は警視庁に直行したためこの場にはいない。
帰宅したのは俺とコナン君だけだ。
「せや!なんやこの俺っぽいナマモノは!愉快な奴やけど、流石におかしいでこんなん!」
「いや服部もなんでドッペルゲンガーと仲良くなってんだよ」
「せやかて…なぁ?」
『せやせや』
服部君(偽)が頷いて服部君に同意した。
完全に馴染んでいる。
コナン君にガチ睨みされたので、俺は慌てて弁明した。
「いやこれはその、俺が心の中で飼ってた服部君をうっかり逃しちゃって。その辺に置いておいたんだけど、シリアスが続いて暇だったんだと思う!」
「ちょっと言ってる意味がよくわからない」
「ええと、ほら、その、心の中におばちゃんとか理解ある彼君とか飼っておくと辛い時も頑張れるって見たからさ!そういう感じ!」
俺が言い募ると、コナン君は頭痛を堪えるように呻いた。
「なんでそれが実体化してるの…???」とのこと。
仕方ないだろ実体化しちゃったもんは。
ひとまず服部君(偽)は回収する。
手を翳して、内側に取り込むような感じだ。
『ほな!』
「おー。正直めっちゃ意味わからんけど楽しませてもらったわ。おおきに」
しゅぽっと服部君(偽)が手に収まる。
これで無事心の服部君が戻ってきて一安心だ。
「で、服部。オメーは何しに東京まで来たんだよ」
「おお、せや。人探しにな。和葉も来てんのやけど、ホテル寄ってくるさかい少し遅れる言うとったわ」
探しているのは国末照明。
実家が和葉ちゃんのお隣さんで、帝丹大学の大学生らしい。
どうも和葉ちゃんが頼まれて手作りお守りを渡した際、間違えて自分のお守りを渡してしまったのだとか。
微笑ましいことだ。
「こないなしょーもないお守り、効果あるんかいな」と服部君が半目で取り出したお守りをくるくる回している。
桜の布地、中には……鎖のかけらが入っているようだ。
ほう。ほうほう。
「ちょっと見せてくれるか?」
「ん?かまへんけど」
渡されたお守りを検分する。
どうやら、非常に簡易な原始魔術として成立しているようだ。
核は中に入っている鎖のかけらだろう。
袋に入れて所有することで、厄除けの効果が期待できるはずだ。
クトゥルフ神話TRPG的に言うなら、ヤバい時にダイスを一回だけ振り直せる権利を得る、というべきか。
「へえ、いいお守りじゃないか。大切にしたほうがいいぞ」
「?なんやけったいな効果でもあるんか?」
「少なくとも、弱いながら厄除けとしては機能してる。いい彼女じゃないか」
「かか彼女ちゃうわボケ!!」
照れ隠ししちゃって、実に微笑ましい高校生の恋である。
おお、おじさんにもかつてはそんな時期が……無かったね……。
俺は少しだけ涙を呑んで耐えた。
旧支配者には強くあらねばならぬ時もある。
そういうことだ。
くれぐれも言うが、震えて涙目の婚姻着姿の女性が、村人たちに引きずられて俺の滞在する洞窟に放り込まれるのは恋でも愛でもないことを注記しておく。
輿入れに参りましたじゃないんだよ。
困るよ、ホントに。
ハイパーボリアが成立する頃には周知徹底して無くなったけど。
しかもこうして捧げられた時点で集落では死んだものとして扱われるため、元居た村に帰すとそのまま村八分になり確実に幸せには暮らせなくなる。
だが俺の所で預かってとなると生活環境が整ってなくて極めて不便を強いることになってしまう。
だから神の使いとして遠く離れた別の村で世話をしてもらえるよう手配したのだが。
近隣の村から「なぜあの村にだけ神使がいて、我が村にはないのか」と不満が噴出。
そうこうしているうちに送り込まれる次の嫁。
俺はほとんど禿げそうだった。
そんなことは今はどうでもいい。
解決すべきはお守りの件だ。
「じゃあパパッとやっちゃいますかね」
「頼むで黄衣サン。手間かけてすまんな」
「いいよいいよ。ではまず現在地から」
該当のお守りの現在地を探すと、帝丹大学の学生寮が浮かび上がった。
どうやらここで二人で住んでいるようだ
もう少し詳しく見ると、どうやら同じ学科の友人の部屋を間借りしていることがわかった。
テニスの練習中左手首を骨折して、やむなくそうしているらしい。
「ふぅん。ほな和葉が来たら行くとするか」
「ならその間ゆっくりしててくれ。おれはちょっとキッチンにいるから」
「ん、なんやつくるんか?」
「漬物の材料を捌くつもり。危険だから入らないでね」
「危険……?」と服部君が訝しげな顔をする。
コナン君が素早く立ち上がり、「僕味見しないから!僕味見しないから!」と壁打ちし始めた。
美味しいのに。
キッチンに立ったら、まず逃走防止用の結界を張ります。
次に食材を取り出します。
食材が慌てて逃げ出そうとするので、飛行能力と手足を落とします。
笠部分から神核と余計なモツを抜き取って傍に退けます。
残った部分をよく水洗いしてから、残った部位を縦に細長くスライスします。
魔術で熱した800度程のフライパンでサッと火を通したら、あとは漬けるだけ。
ここまでの工程に含まれる魔術的位置付けにより、人体に害のある成分は全て排出され、旨みも増します。
あとは市販の素に漬け込み、4日程漬け込めば完成です。
残った核とモツは有害なので空間ごと閉じて処分しておきましょう。
今回は時流操作で4日経過させました。
出来上がりはこちらになります。
「できたよー。おつまみ。どうぞー」
「僕食べないって言ったけど!!!」
一口大にした漬物を小皿に取り分けて机に出す。
激憤したコナン君が暴れまくった。
落ち着いてくれ。
服部君が首を傾げてまじまじと覗き込んだ。
「なんやこれ?野沢菜みたいやけど」
「友達に渡そうと思って作った漬物だよ。人体に害はないし、味も悪くないと思う」
「人体に害はないっちゅー謳い文句がまず危機感を煽るんやけど。何を漬けたんやこれ」
「クラゲの化け物」
「俺ら何を食わされそうになってるん?」
服部君の冷静なツッコミの嵐に大阪の切れ味を感じざるを得ない。
「まあええわ。いただきます」と言って、服部君は添えてあった爪楊枝でパクりと漬物を口に運んだ。
「服部ーーーーッ!!!」と悲痛な叫びをあげるコナン君。
失礼だぞ君。
もごもご頬張って飲み込む服部君に、俺は恐る恐る質問した。
「どう?お味のほどは…?」
「フツーのぬか漬けやな。コリコリしとってきくらげみたいな食感やけど。ほどよく漬かっててええんとちゃう?」
「よし!」
やはり俺の味覚は間違ってなかった!
というか市販のぬか漬けの素使ってるんだから失敗しようもない!
「コナン君も食べる?おいしいよ?」
「僕は食べない」
「そこをなんとか」
「僕は食べない」
決意は固いようだ。
古いRPGの村人みたいになってしまったので、俺はブスくれながらそれを口に運ぶ。
さっき出す前に俺も味見したのだが、やはり付け合わせにぴったりだとおもうんだがなぁ。
あの巨体だから食べ応えもバッチリだし。
「思うんやけど、黄衣サンが言うてる友人ってのはあのケーキの人か?」
「おう」
「せやったらコレは舌に合わんのとちゃう?根本的な感性が180度違っとらんとあないなケーキにならんやろ」
「……なるほど。一理ある。もう作っちゃった分は仕方ないから渡すとして、次からは少し検討しようか」
「せやな。ああ、それか『自分はこういう料理が好きや!』言うて渡せばええんとちゃうか。趣味の違いに気付いてくれるかもしれへんし」
「…君、さては出来る男だな?」
「んなこと今更気付いたんか」と服部君はニヤニヤしている。
おお、服部大明神。
いつも心の中のあなたに助けられています。なむなむ。
もう一度コナン君に「ねぇ味見だけでも」と話しかけたら、「食べない」と食い気味に言われたのだった。
・お守り
原始魔術による厄除けの効果あり。
鎖の欠片の辿ってきた経緯とお守り袋の形状などが奇跡的に噛み合って発動している。
無事取り返せた。
その後、翌日起きるはずの傷害事件もキャンセルとなった模様。
・服部君
非常に出来る男。
旧支配者ハスターに崇められている。
心の中の服部君とは打ち解けて適当に事務所で盛り上がってた。