ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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闇に消えた麒麟の角〈彼にとって初めての〉

 本日は山寺に来ているなり。

 

 なんでも、怪盗キッドが新しく発見された琥珀のビッグジュエル「麒麟の角」を狙っているらしく。

 鈴木次郎吉氏の主導のもと、少年探偵団が警備活動に呼ばれたのだ。

 

 鈴木次郎吉氏より送られたお揃いのパーカーを渡されてご満悦の子供達を引率し、到着したのは歴史ある古い山寺だ。

 日売TVのバンから降りて、皆と一緒に雨を避けて山寺へ入る。

 

 今日はあいにくの荒れ模様だ。

 雨粒をはらんだ風がびゅうびゅうと吹き付け、あっという間に濡れ鼠になってしまう。

 

 幸い、パーカーは水を弾く材質のようで、服についた水滴を払えば、着替えは必要なさそうだ。

 

 同じく雨に嫌そうな顔をしたコナン君が、ふと俺を見上げて声をかけてくる。

 

「ねえ、どうして今回は黄衣さんがついて来たの?僕らだけの予定だったのに」

「あー、怖がらないで聞いて欲しいんだけど」

 

 そう言い置くだけで、コナン君の顔色がサッと青ざめた。

 

 最近のコナン君、とみに怖がりだからな。

 この地球上でコナン君が怖がらなければならない事態になったとしたら、その頃には人間なんて絶滅してるのに。

 ままならぬものだ。

 

 ともかく、冷静に事実のみを告げた。

 

「実はこの山寺、三水吉右衛門が手がけたやつでね」

「帰る!!!!」

 

 コナン君が絶叫した。

 その声を聞きつけた子供達が「えぇ!?急にどうしたんですかコナン君!」「腹いてーのか?」「雷さん怖い?」と心配そうに駆け寄ってくる。

 可愛い子たちだ。

 「あ、いや、その。何でもねーよ!」とコナン君が狼狽えている。

 

 そして俺の服の裾を引っ張って、部屋の端へと引きずっていく。

 

「俺はともかく、元太たちに危険は無えだろうな?」

「大丈夫、これに限っては怖い仕掛けじゃないから。子供達なら安全だよ」

「黄衣さんの大丈夫は信用できない」

「えぇ…?」

 

 いつのまにか信頼が地の底にまで落ちている。

 確かに俺の判定は少しガバかったかもしれないが…少しだけだ。

 仕組みは完璧に理解できてるし、問題ないはずである。多分。

 

 おお、脳内の降谷零氏の幻影が「これだけ言ってもまだ危機感が足りないのか!!」と荒ぶっておられる。

 何故。俺は悪くないはずなのに。

 

 ともかく、俺はそろそろ外に出なければならない。

 中にいる次郎吉氏にぺこりと一礼して、持って来たレインコートを羽織った。

 

 コナン君がきょとんとした顔をしている。

 

「じゃあ、俺は外にいるよ。コナン君たちはキッド対策を頼んだ」

「え、黄衣さん中で警備に加わらないの?」

「うむ。ワシが中には入れない約束で招いたからの。大人はキッドが化けて信用ならん」

 

 次郎吉氏が補足説明してくれる。

 

 たしかに怪盗キッドの変装の腕があれば、俺に化けることなんて一瞬で事足りるだろう。

 まあ、俺自体を拘束したり気絶させたりはできないから、俺のいない隙を狙うことにはなるだろうが。

 

 すごく心細そうなコナン君が服の裾をぎゅっと握りしめてくる。

 なんだか小さい子を虐めたような気持ちになって申し訳なさが加速する。

 

 しゃがんで視線を合わせ、優しく頭を撫ぜる。

 

 俺に子供扱いされたことを察したコナン君が般若の形相になり、「元はと言えば出発前にそのことを黙っていた黄衣さんが悪い…」と呪詛を撒き散らし始めた。

 皆何故そのように荒ぶるのか。

 

 とまあ、そんなふうに戯れつつ外へと出る。

 ごうごうと雨が吹きつけ、レインコートを着ていても寒さがひどい。

 

 もう少し上着を着てくるべきだったか。

 そのように考えていると、俺の後を追うように麒麟の角のあるお堂から中森警部が出てくる。

 

 俺をじろり、と睨め付け、「奴も念のためキッドでないか確認する」と部下に言って一人でこちらへむかってくる。

 

 中森警部はわざわざ扉を閉め、難しい顔をして俺にずいと迫った。

 

「で、なに?」

「いや君が俺に話しかけて来たんだろうに、何はないだろ」

 

 中森警部こと怪盗キッドである。

 数値を見て分かっていたが、見れば見るほど脳がバグりそうな完璧な変装だ。

 

 キッドは俺の言葉に嫌そうに顔を顰めた。

 

「こっちは紅子から耳にタコが出来るぐらいアンタのこと聞いてんだわ。無理してここに来た理由ぐらい聞いとかねぇと安心できねぇよ」

 

 どうやら、俺が無理やり今回の次郎吉氏VS怪盗キッドの現場に入って来たのを知っていたらしい。

 

 今回は子供しか入れないという次郎吉氏の決意は固く、園子ちゃんすら家で待ってろと出禁にしたぐらいだからな。

 俺がここにいるのはコナン君たちの保護者役としてというより、次郎吉氏宛に警察庁からのお願いがあったから、というのが正確だろう。

 

 キッドもそれがわかっているなら話は早い。

 俺は一つ頷いて、用意してあったアーティファクトをキッドに手渡した。

 

「ならいいか。一応、麒麟の角を盗むつもりならコレを渡しておこうと思って」

「……んだこれ?」

 

 見た目はハンカチ程度の大きさの白い布だ。

 絹で作られていて、独特な織模様が美しい。

 

 実は表裏にびっしりと魔術陣が刻まれているのだが、キッドにはわからないだろう。

 

「鍵を使わずに盗んだら、必ず麒麟の角のあった場所にコレをかけろ」

「……かけなかったら?」

「君と、君と同い年かつ半径15km以内に住む人間が、明晩0時に脳損傷で死ぬ」

「ッ!」

 

 脳損傷というか、脳から麒麟の角が生えて死ぬと言うか。

 流石にキッドも危機感を覚えたのか、顔が真っ青になった。

 

 とはいえ、これは怪異としては非常にシンプルかつシステマチックだ。

 鍵を使わず盗む、という稀有な条件を満たさなければ発動しないので管理は非常に楽。

 その上盗む、という部分が鍵になっていて本来の持ち主なら鍵を使わず麒麟の角を取り出しても発動しない。

 

 実に安全設計である。

 キッドが眦を強く俺を睨む。

 

「俺がその布をかけた後、他人の手によって取り払われたら?」

「それは大丈夫。君が布をかけたという事実さえあればいい」

「もし、布がずれたりして十分にかからなかったら?」

「……ふむ。死ぬことは変わりないが、損傷の程度が軽くなるかな。小泉さんぐらい腕のいい魔術師なら、運が良ければ呪詛を弾けるかもしれないけど」

「なるほど」

 

 逆に言えばそれ以外は死ぬということだ。

 生唾を飲んで、キッドは拳を握りしめたらしかった。

 

 盗み出すその一瞬に、布を慎重にかけることがかなりの負担になるのは明らかだ。

 それでも俺がこの布型のアーティファクトを彼に渡すのは、理由がある。

 

 つまり、俺は怪盗キッドを脅迫しているのだ。

 正しい知識もなく怪異に関わるものを盗むなら、それ相応の結末が待っているぞと。

 

 実際、伝染性の怪異が盗まれた場合とんでもない被害になる可能性も否定しきれない。

 今後も彼には正しい知識と認識のもと活動してもらいたいと思っている。

 だから、これは助力の形をした脅迫だ。

 今俺が申し出をしていなかったら、お前は死を撒く災害と化していたぞ、とね。

 

 キッドはしばらくの沈黙の後、静かに目を伏せた。

 

「分かった。俺も、命は惜しい。だが確認させてくれ。パンドラじゃねぇんだよな?」

「普通の琥珀だよ。害はない」

「そうか」

 

 それだけ言って、キッドは中森警部の姿のままゆっくりとお堂の影へと消えていった。

 戻らなかったところを見るに、今回のヤマは諦めたようだ。

 

 俺も命は惜しい、と言っていたが、命が惜しくて怪盗なんてできやしないだろう。

 多分あれは、彼の大切なものの命が危険に晒されるからだ。

 自分の命なら幾らでもベットできても、大切なものの命がかかればそんな真似はできない。

 

 彼の愛情が垣間見えた気がして、俺は少し笑ったのだった。

 

 ともあれ、これで任務完了だ。

 スマホを取り出して、今回の依頼主に電話をかける。

 電話はすぐに繋がった。

 

「よ、降谷さん。麒麟の角の件、大量死事案が起こる前に対処できたよ」

『ご苦労だった。キッドはどうした?』

「逃げた。小泉さんもいるし、追いはしなかったけど」

『いい。奴は放っておいて構わない』

 

 少し不機嫌そうに声が揺れている。

 やはり相変わらず忙しいらしい。

 ニャルの化身がこんなに勤勉だなんて、正直驚くべき光景だとは思うが。

 

 はあ、とため息をついて降谷さんが鼻を鳴らした。

 

『三水吉右衛門の仕掛けの方はどうだった?』

「報告書の通り、だな。盗人がやってくるって分かってて作った感満載だけど」

『わざと盗ませて、大量死を引き起こそうとした、と?』

「おう。ニャルラトホテプにしては大人しめの仕掛けだな」

『……本体め』

 

 少しだけ唸って、降谷さんは苦虫を噛み潰したような声を出した。

 

 いつのまにか、降谷さんはニャルのことを「本体」と呼ぶようになった。

 関係性を口にするなら適切な単語だが、うむ。

 とりあえず今度ニャルに会ったらポコっと一発殴っておくとしよう。

 

 俺が「ということで、じゃあな」と切ろうとしたら、「待ってくれ」と降谷さんに止められた。

 まだ何か用事があるらしい。

 

「ん、どうした?」

『……最近、ヒロの元気がないんだ』

「労災?」

『それもある、かもしれない』

「あるんだ…。あんまし諸伏さんを働かせすぎてやるなよ。魂だって疲労するんだから」

『わかった。すまないな。ああそれと、漬物は本体に渡しておいた。美味しかったと喜んでいたよ』

「あざっす!」

『ついでに、漬物の残りがあったら少し分けてくれないか?松田が気に入ったらしくてな。魂も回復するし、一石二鳥だと思って』

「ん?降谷さん魂も見えるようになったんだ」

 

 そう問うと、不思議そうな声色で降谷さんが返事した。

 

『?俺たちのようなものは、普通魂ぐらい見えるだろう?』

「ま、そだね」

 

 訝しげな降谷さんに適当な相槌を打って、俺は考え込んだ。

 

「元気のない諸伏さんなんだけど、なんか変なこと言ってなかったか?」

『あー……過去の記憶はあるのか、とか言って昔話をよく振ってくる。女医がなんだとか』

「降谷さんにその記憶はある?」

『大体はあるが、いくつかは覚えがなかった。だが、ガワが子供の頃の話だし、そこまで記憶しておく必要もないだろう?』

「ガワて。あ、そうか。降谷さん、俺が降谷さんって呼んでるのも違和感?」

『まあ。だがよく考えれば、僕は基本降谷零として活動してるし、僕自身君を黄衣君と呼んでいる。人類が知らない名称を普通に呼ぶのも変か』

 

 ふむ、ふむ、ふむ。

 

「ま、呼び名なんて自由だし、降谷さんの好きに呼んでくれ。それと漬物も、残りまだたくさんあるから都合の良い時に取りに来てくれ」

『助かる。また何かあったら連絡をくれ』

 

 電話を切って、スマホをポケットにしまう。

 

 暗い空に雨が強い。

 ざあざあと吹きつけて、どうしても顔までびしょ濡れになってしまう。

 

 諸伏さんが元気のない理由は見当がついていたが、これはどうするべきか。

 

 お堂の中が「警部が帰ってこない!」と騒ぎになるまで。

 俺は外でひっそりと、外で雨に打たれながら空を見上げていた。

 

 

 翌日、次郎吉氏は新聞の一面を飾った。

 とんでもなく不機嫌そうな顔で、次郎吉氏はカメラを睨め付けているようだった。

 





・S334-11L「盗みの代償」
旧危険度1。
新危険度
 管理難度:容易
 氾濫時脅威度:6(大量死の危険性あり)
ニャルの作品。未来視により、キッドを狙い撃ちにして来た感のある罠。
ようやく公安の新フォーマットでの運用が開始されたようだ。
公安の調査員は指示に従って所定の形式に沿って報告を求められる。
黄衣「既視感しかない」
降谷「何がだ」
黄衣「これは……SCP…財団……?」

・次郎吉氏
急にキッドが今回は諦めますみたいなメッセージカード残して消えて不完全燃焼の極み。
警察庁の動きもおかしいし、絶対何か裏がある!
せっかくキッドを下して新聞の一面を飾ったのになんもおもろない。
謎の究明とキッドへの再戦を誓う。

・愛に疎い神
ニャルラトホテプはまだ愛も恋も解していない。
だから化身もまた、幼い思慕を解さない。
女医って何の話だ?宮野エレーナ?ああ、そんなの居たな。
友情はバリ解すから警察学校組はがっちり覚えてる。

・諸伏さん
ゼロに「俺のことはニャルとかクロとかでいいぞ?」って言われてバリ鬱。
さらに「女医……?何の話だ?」って言われて鬱鬱鬱ー鬱・鬱ー鬱鬱。
このままでは穏やかな心を持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の幽霊になってしまう。
そう危機感を抱き、ひとまず物理で強くなろうとボクシングを始めた。
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