ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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 シンイチ君を家に案内して、俺はようやっと一息ついた。

 

 物の少ないこざっぱりしたワンルームマンションだ。

 金がないから家具をいくつも買う余裕がないともいう。

 

 ひとまず奥から出してきた救急セットで、手足の擦り傷の治療を行う。

 消毒液をかければシンイチ君は肩を跳ねさせて身をすくめた。

 痛そうで俺もついつい顔を顰めてしまう。

 

 俺は怪我したところで一瞬痛い以外の実害はないからな。

 この救急セットもインテリア以外の意味ないし。

 

 しかし、人間はそうではない。

 

 怪我をすれば数日は痛みが持続するだろう。

 怪我の度合いによっては数ヶ月、痛みと不便さとに苛まれるはずだ。

 

 やっぱり魔術で治してやろうか、と僅かに逡巡したあたりで、シンイチ君が口を開いた。

 

「俺を匿ってくれてありがとうございます。改めて、俺は工藤新一といいます。蘭は俺の幼馴染です」

「へぇ…彼氏じゃなかったのか。それは悪いことをしたな」

「いえ、それについては、その」

「ははは。深く聞くつもりはないさ。俺は黄衣ハスタ。しがない露天商だよ」

「………黄衣さんって言うんですね」

 

 恥ずかしそうに咳払いして、シンイチ君──あらため工藤君は無理やり話題を逸らした。

 おおっと、これは甘酸っぺぇ香りがするぞ?

 いや、こういうことに口出しするのは可哀想だし、ここは見なかったことにするべきだろう。

 

 大人しく次の言葉を待てば、工藤君は赤い頬を隠すように渋い顔をして視線を逸らした。

 

「……ええと。俺をこんな姿にした奴らは、おそらく組織立って動いています」

「とんでもないのに目をつけられてないか?一体何やったんだよ」

「あー、ちょっと奴らの取引現場を覗いてたら見つかってしまって。黒づくめで銀の長髪が特徴的な男に、テキーラと呼ばれていた関西弁の男。何か知りませんか?」

 

 知っているはずがないだろうけど念のため、と言う口調で工藤君は俺を見上げた。

 銀の長髪に黒づくめ。

 もはや心当たりしかない状況に、俺はついつい重く深いため息が出そうになった。

 

 あのマフィアほんと手広くやってんな。

 などと思っていると、はっと何かに気付いたような工藤君が心配そうに顔を歪めた。

 

「すみません。こんなこと黄衣さんには何も関係がないのに……それに、俺が生きているのが奴らにバレたら、巻き込んでしまうかもしれない」

「いや、巻き込むも何も、俺なんか現在進行形でその黒づくめの奴らに追いかけ回されてるよ」

「え?…………いやいやいや、なんで???」

 

 一瞬虚をつかれた顔をした後、しばらくのち工藤君は完全なる宇宙猫となった。

 いや仕方ないでしょホントのことなんだし。

 奴らはどこにでも出現しては犯行現場を見せつけてくる設置型の罠だ。

 

「銀髪の黒づくめが殺人してる現場に居合わせちゃって。俺も必死で逃げ隠れしてるところだよ。……もしかして別の銀髪じゃないよな?」

「銃持った長い銀髪の黒づくめがそんな沢山いる訳なくないですか???」

「それもそっか」

 

 工藤君はくしゃくしゃの梅干しみたいな様子で納得できなさそうに視線を右往左往させた。

 

「しかし、意外と抜けてるマフィアだよな。あんな光景見られた上にこの短期間に二人も取り逃して。上層部とかに怒られたりしないのかな」

「そうですね…俺も多分死体が見つからないことはすぐに気がつくでしょうし、処分が下ってもおかしくなさそうですね」

 

 ふーむ、と相談しつつ俄かに湧き上がる「銀髪の男、すでに責任取って指とか詰めてる論」。

 そうはならんやろ、みたいな表情で諸伏チベットスナギツネそうろうの渋面を作った。 

 

 まぁなんにせよ俺たちの共通の敵は明らかになった。

 工藤君も思考の整理がついたようだし、ひとまず家族とかに事情を説明しに戻るべきだろう。

 

 「一応家族に生存報告ぐらいはして来なよ」と促せば、地味に屈辱的な顔をしながら工藤君は頷いたようだった。

 「こんな情けないこと聞かせたらロスに連れてかれる…」とぼそぼそ呟いている。

 いいじゃないか。

 心配してくれる家族がいるって言うのは得難いことだぞ。

 俺の父上と母上なんてアレだからな。見るだけでSAN値チェックだぞ?

 

 それにここ、子供用の服も何も無いし。

 

 一旦戻ることを決めて、工藤君は小さな体でぺこりと頭を下げた。

 

「俺のこと、信じてくれてありがとうございました。黄衣さんがいてくれて凄い心強かったです」

「そりゃよかった。まぁ俺も大人だし、未成年があんな悲壮な顔してたら保護してもバチは当たらないだろ」

「え、黄衣さん成人してたんですか?」

「おうよ。25歳。ほら、免許証」

 

 と魔術で偽造した免許証を見せれば、「俺より一つ二つ上ぐらいだと思ってました」と工藤君がひとりごちた。

 うーむ、ガワを若く作りすぎたらしい。反省反省。

 でも今更弄れないし、このままでいくしかないだろう。

 幸い若作りの範疇のようだし、次にゴルゴロスのボディ・ワープを使う時に生かせばいい。

 

 工藤君が俺の渡した紅茶を飲み干して、少しだけ躊躇った後意を決したようにこちらを見た。

 

「一度生存報告をしたら、こっちに戻ってもいいですか?」

「へ?いいけどなんで?」

「いえ、せっかくだし黄衣さんには探偵役になってもらいたくて」

 

 探偵………?

 いまいち話がつかめず首を傾げると、工藤君はやや後ろめたそうに話を続ける。

 

「俺たちには同じく黒づくめの奴らを追う動機がある。でも、このまま黙って受け身というのも非合理的だし、なにより俺の性に合わない」

「ふむ」

「だから、俺たちが探偵として積極的に奴らの尻尾を掴みにいくんですよ」

 

 勇ましいくちぶりだが、どうも彼は無理して自分を鼓舞していることがわかった。

 殺されかけたのが結構ショックだった……違うな。

 自分が自分だと気付いてもらえなかった、話を聞いてもらえなかったのが彼の心の深い傷になっているのだろう。

 

 また自分だと信じてもらえなかったらどうしよう、という不安が滲んでいる。

 だからこそ俺に味方でいて欲しい、俺を用いて周囲に工藤新一のいうことを信じて欲しいと。

 そう願っているのだ。

 

 それなら、俺に否やはない。

 

 わざとらしく軽口を叩いて、彼の罪悪感を晴らそうと笑って見せる。

 

「いやー、俺みたいな誰とも知れない人間が探偵を名乗るだけで警察は動いてくれるか?」

「そんなこと言ったら俺だってただの高校生でしたけど、警部も耳を貸してくれましたよ」

「それ絶対何か特殊な背景があっただろ」

 

 家族に警察関係者のお偉いさんがいるとかさぁ。

 俺がジト目で工藤君を見れば、工藤君は思い当たる節があったのかわざとらしく目線を逸らした。

 やっぱそうなんかい。

 

「まあまあ。結局こういうのは実績がものを言いますから」

「俺に実績積ませようとしないでくれないか!?」

「大丈夫、推理は俺がしますから黄衣さんはスピーカーさえやってもらえれば大丈夫ですよ!」

「不安すぎる……!」

 

 言うて俺のINT(頭の良さ)は11ぐらいだからな。

 11あたりだと、一般人としてもやや下の方だ。

 17ともなると恐ろしいほどの切れ者で、18はシャーロック・ホームズとかその辺になる

 見た感じ工藤君は17あたりだろう。

 あの金髪の探偵さんは16から17ぐらいか。

 

「じゃ、行って来ます。知り合いに生きてること伝えて俺んちから子供服取ってきたらすぐ戻りますんで」

「了解、気をつけて。もういい時間だし、補導されないよう注意しなよ」

 

 そう言って工藤君を見送ると、工藤君はその小さな体で勢いよくかけて行ったのだった。

 

 

 …………。

 

 

『で、どうすんだ?』

「まぁ工藤君に付き合って探偵やるのは決定事項だが、実績がなぁ」

 

 ふわふわと腕を組む諸伏さんに問いかけられ、俺はうーんと唸った。

 

『正気か?お前はただでさえ命を狙われてるんだぞ。表舞台になんか立ったらあっという間に死ぬぞ』

「それについては魔術は万能ってことで」

『本当だろうな…?』

「というか、あんなに必死な子を放ってはおけないだろ」

 

 俺も今まで銃で撃たれたり追いかけ回されたりと怖い思いこそしたが、旧支配者にとってその程度実害にはなり得ないからな。

 家に不意にでっかい蜘蛛が出たのと似たような脅威度だし。

 

 しかし、まだ若い男子高校生が事件に巻き込まれたともなれば、動かないのは大人として不誠実だ。

 

『………悪い奴に騙されないようにな』

「それはかなり注意しようと思う。俺割と騙されがちだし」

 

 だめだこいつ俺が見張ってないと…!とデカデカと書かれたような顔を諸伏さんはしている。

 俺に嘘で擦り寄ろうとした人類、割と多いんだよな。

 話が通じる旧支配者だとわかるとすぐこれだよ。

 

 神として動いている時は嘘チェッカー魔術を起動しっぱなしにしているから大事には至らなかったとはいえ、一時期人間不信になりかけた。

 

 しかし、実際彼に協力して探偵業をするとはいえ、どう動くべきか。

 

 俺の旧支配者としてのスペックを用いれば、不可能なことは基本的に存在しない。

 所属員全員の現在地を割り出して触手でペシャンコにするでも、時間軸を書き換えて「初めからそんな組織は存在しなかった」ことにするでも、どうとでも調理が可能だ。

 

 だが、あまり俺が過剰に動くのは彼のためにもならないし、人類のためにもならない。

 

 ここは人類の世界であり人類が生きるための場所。

 頼まれてもいないのに旧支配者が出張るのはよくないし、旧神のおっさんどももいい顔しないだろう。

 

 うんうんと悩む俺に、心配そうに諸伏さんが顔を覗き込んだ。

 

 俺は悩みに悩んで、一つの決断を下す。

 

「ひとまず俺の信者を当たってみることにするよ。できるだけ身分は伏せたままで」

『信者?』

「探偵というか、社会人の第一歩はまず信用だからな。バックには組織がいた方がいいだろう」

 

 この地球で最大のカルト組織、黄色の印の兄弟団。

 その手先はあらゆるところに潜伏している。

 

『どういうことだ?』

「どうも日本の警察組織にも信者が混じっているっぽいから、お告げで協力するように伝えてみる」

 

 そんなわけで。

 警察庁警備局、公安のお偉いさんをやってる信者に、ちょっとばかり協力を依頼してみよう!と決めたのであった。

 

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