ハスターなオリ主と米花町   作:ラムセス_

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ホームズの黙示録〈大英博物館〉

 

 ファーストクラスにてまったりするなり。

 

 俺は広くゆったりした座席に身体をうずめながら、にこにこと笑顔を作った。

 「よく二人で休み取れたな、降谷さん達」と通路を挟んでお隣の降谷さんに声をかける。

 諸伏さんはそのさらに隣だ。

 

 ひょい、と顔を出して諸伏さんが返事をする。

 

『俺は担当がひと段落してたから、幸い取りやすかったし。問題はゼロだな』

「風見に押し付けてきた。補佐に松田をつけたからよっぽど大丈夫だろう」

 

 降谷さんが興味なさそうに返事をする。

 

 でも松田さんって腕6本じゃなかったっけ、と少し不安になるなど。

 風見さんは大丈夫なのだろうか。

 

 降谷さんも、そんなに忙しいなら無理してくる事はなかったのに、と思っていたら。

 それを察した降谷さんが目を細めてこちらを見た。

 

「君と同格の存在の一部が地球上にある、というだけで最重要警戒対象だろう。それも何も知らない羽虫の手で管理されていると来た」

 

 危険すぎる、と言い捨てる。

 諸伏さんもコナン君も、同意するように大きく頷いた。

 コレ俺がおかしいんかな……。

 

 この雰囲気だとこれ以上反論しても俺の不利だ。

 若干のわたわたとしつつ話を横にずらす。

 

「ともかく、ファーストクラスでゆったりできてよかったな。まさかダイアナさん、降谷さんの分まで用意してくれるなんて」

「イギリス王家に連なる人間だからな。旧支配者の件がなくとも、挨拶して顔を繋ぐのは悪い事じゃないな」

「えっ!?」

 

 王家、つまりロイヤルファミリーというやつか!

 ちょっとワクワクに目を輝かせてしまう。

 それに気付いたコナン君にじとっと見られてしまう。

 

「古代王国で神様やってたんだから王様なんて珍しくもなんともないんじゃないの」

「いやそれは別腹というか。自分の車に愛がないわけじゃないけど、ショーウィンドウに並ぶ車には興味がある的なね」

 

 ハイパーボリアは王政だ。

 政治は王と議員の手によって行われ、神である俺はそこに同席して常に見守る、という体裁だ。

 だから王様は珍しくないが、うむ。

 やはり別腹だなそれは。

 

 ハイパーボリアの王も議員も、長い年月と共に次第に形骸化して、俺の決定を伺う場みたいになっちゃったけど。

 ちなみに、神官は俗世から離れて俺に奉仕する、みたいな立場をとる。

 司法は公平性担保のため完璧に俺の受け持ち。

 立法は学者の集いがあったから、俺がそこに定期的に顔を出してた。

 

 うーん。いやこれ実質俺が王の独裁だな?

 

 碌でもない事は忘れよう。

 映画でも見て時間を潰そうと、ポチポチと画面を操作する。

 

 隣のコナン君も同じく映画を見ているようだ。

 降谷さんはPCを操作し、仕事をしている臭い。

 諸伏さんはアイマスクをして早くも爆睡の構え。疲れていたらしい。

 

 コナン君がぼんやりと、半ば独り言の雰囲気で口を開く。

 

「いずれ蘭とロンドンへ旅行するつもりなんだ。だから今回ロンドンを下見しておければいいなと思って」

「へー。海外デートか。凄いな。いや、新婚旅行か?」

 

 最近の子は進んでるなぁ、とほっこりする。

 コナン君は顔を真っ赤に染めた。

 

「それは、迷ってる。新婚旅行も行きたいけど、俺は早く蘭と二人で旅行したいし」

「青春だねぇ。ならできるだけいっぱい良い場所を見つけとかないとな」

「……うん」

 

 降谷さんがパタンとPCを閉じてこちらを見た。

 ニコニコホワホワと幸せそうに俺を見て顔を蕩けさせる。

 もうこの段階で様子のおかしいニャル野郎で間違いない。

 

「羽虫って、デートとか言う交尾の前段階を踏むらしいですね」

「降谷さん仕事してたじゃんか。邪魔してやるなよな」

「コナン君、デートプランってどうやって練るんです?おすすめの場所とかあります?」

 

 突然降りてきたニャル野郎は全然俺の話を聞かず、コナン君に話を振った。

 デートって誰とや。俺は嫌やぞ。

 

 コナン君はタジタジしながらも返事をした。

 

「い、一般的には動物園や水族館、展望台なんかの眺めが楽しめる場所が選ばれるかな」

「ほうほう」

「僕はその、水族館とかには、蘭と行ったことあるけど。薄暗いから、その、人目を気にせず手を繋いだり、できるし」

「手を繋ぐ?何かの隠語です?」

 

 羞恥で真っ赤になりながらも声を絞り出すコナン君はもはや茹ダコのようだ。

 こんなニャル野郎相手に律儀過ぎる。

 

「だん、じょの体の接触は、普通、恋人以外とはしないから。人目のある場所で手を繋ぐと、揶揄われる」

「ははぁ。なるほど。交尾する関係だと周りに隠しながら営みを進めるわけですか。大変参考になりました」

 

 コナン君の手の中にポンとエナドリの瓶のようなものを出現させ、ニャル野郎は美しく微笑んだ。

 珍しく、人間に向けるにしては悪意を含まない笑顔である。

 

「良い子へのご褒美です。初めはどう捻り潰してやろうかと思っていましたが、どうも既につがいがいる様子。まあ、ほんのわずかな間だけのことですし、見逃しましょう」

「話の流れがあまりにも不穏なんだが、俺にも教えてくれる?」

「貴方は何も心配する事はありませんよ、我が親愛なる友よ。デートプランは僕の方できっちり練りますから、貴方はただ待っていてくださいね」

「本当に冗談じゃなく不穏なの凄いな。俺夜逃げした方が良いやつか?」

 

 コナン君に渡されたものを「瞳」で調査すれば、どうやら媚薬に相当するものであることが理解できた。

 そっちは早くくっつけ、という凄まじい強さのメッセージを感じる。

 

 この場合のニャルの相手は俺になるんだが、本気でナシの極地すぎて顔が無い。

 

 今すぐにニャルがボンキュッボンの美女に変身して、ここのところの乙女仕草を常備すればギリ………脈ナシだわ。

 

 俺はニャルに頭を下げた。

 

「ごめんなさい。タイプじゃないんです」

「じゃ、デートの予定はまた今度送りますね」

「聞いて。お断りします」

「楽しみになってきましたね。いっぱい手を繋いで…慈しみあいましょうね」

「聞いてってば」

 

 そうしてニャルが退去していった。

 コナン君はできる限り他人のふりをして映画を見ることに徹している。

 この裏切り者!!!

 

 降谷さんがもう一度PCを開いてから、こちらに頭を下げた。

 

「後生だ。本体の好意を受け取ってくれ」

「いやですけど???今まで奴がどんだけ暴れたか知らないからそんなこと言えるんだよ!」

「でもこのままだと俺が女……頼む!俺からも本体が人類基準の美女として振る舞うように進言する!」

「なんで降谷さんが必死なの」

 

 わからんが、誰も彼もが追い詰められていることだけは確かだった。

 

 

 

 とまあ、そんな交々がありつつ。

 ロンドンに到着して俺たちが真っ先に向かったのは、大英博物館だ。

 世界で最初の公立博物館にして、大英帝国時代の数々の歴史的品が保管されている。

 

 その中の一つにあるのが「生きている肉塊」と称されるイゴーロナクの腕の一部である。

 博物館地下に厳重に保管され、博物館を中核とする魔術師団体により管理されている。

 

 話を聞いた諸伏さんがふむ、と館内をゆったり歩きながら口を開いた。

 

『とすると、俺たちは見られないのか?』

「いや。俺が君永課長から『黄色の印』を借りてきているから問題ない」

 

 じゃらり、と細い鎖のついた黄色の印を降谷さんが懐から取り出す。

 手のひらほどのサイズで、そこにはハテナマークの歪んだような印が描かれている。

 その下には目が三つ、並べて描かれている。

 

 エイボン魔術君3位階を示す印だ。

 魔術師として、それは現在を生きるものとして実質最高位階を示している。

 1位はエイボンその人のみ。

 2位は歴史に名を記す魔術の開発者、発見者に与えられる称号だからだ。

 

「なるほど。それを見せればここの魔術師も入れるぐらいはしてくれるわけだ」

「ああ。僕は魔術は使えないが、君がいるならコレを掲げてもボロは出ないだろう」

 

 そう言っているうちに最奥の、少し陰気な雰囲気の漂う地下階段近くの小さな窓口にたどり着いた。

 スーツ姿の痩せ細って皺だらけの男性がのっそりとこちらを見る。

 

 降谷さんから「黄色の印」を受け取って、男性に見せた。

 

「こういうものだが、『生きている肉塊』の調査がしたい」

「……!!」

 

 男はわずかに目を見張って、俺と印とを交互に見た。

 そしてグッと唾を飲んで、眉間に深い皺を刻む。

 

「……確認させてもらっても?」

「どうぞ」

 

 「黄色の印」を渡すと、男は奥から片眼鏡を取り出してきた。

 どうやら刻まれた魔術式を可視化するものらしい。

 男はまだ魔術式を直で読み取るほど魔術を習熟してはいないようだ。

 

「……本物、ですな。『生きている肉塊』を調査する目的は?」

「復活可能性、再顕現の可能性を探る予定だ」

「わかりました。では、こちらへ」

 

 男に案内され、地下へと続く階段を降りていく。

 少しカビ臭く、気味の悪い空気が下から吹きつけてくるような感覚。

 

 迷路ようなそこを進んでいくと、ある一部屋にたどり着いた。

 そこだけ別室になっていて、鍵がかけられている。

 

 どうやら、この個室そのものが魔術的な封印の意味を持つように作成されているらしい。

 

 男が鍵を開けて、部屋の明かりをつける。

 

「これが、『生きている肉塊』です。長く複雑な術式が施されており、現在までその読解には至っておりません」

 

 諸伏さんが思わずと言ったように一歩後退した。

 コナン君も、言葉もなくそれを見ているようだ。

 

 大きな肉塊だ。

 一軒家ほどもあるそれが、蠢き、時折震えながらそこに鎮座している。

 表面にはかつて俺が刻んだ多重封印術式がそのまま残っていて、それがこの肉塊の動きを阻害しているようだった。

 

 降谷さんが肉を見分しながら声をかけてくる。

 

「どうだ、黄衣君」

「第一封印、古エイボン式術式層約1万2000。第二封印、古エイボン式術式層約3万。異常なし。その上から外部封印として原始呪術が128回外付けされてる。そちらもオーケー」

「つまり?」

「外から力を加えられない限り、この封印は安泰ってことさ」

 

 コナン君が「外から力を…?」と少し険しい顔をして言えば、受付の男が少しだけ顔を綻ばせた。

 

「博物館収容当時、この『生きている肉塊』を調査した高名な魔術師も同じことをおっしゃっていました。『切り分けたり、火をつけたり、絶対に外から力を加えるな』と」

「だから、ここで厳重に保管しているのか」

「ええ。この部屋ならば、例え外で戦争が起こっていようと傷つけられる事はありませんから」

 

 男は俺を見て、くしゃくしゃな笑い顔を見せた。

 

「それにしても、流石はかの黄色の印の兄弟団が誇る、エイボン等級魔術師様ですな。この凄まじい術式を一瞬で解読するなど」

「あー、まあ。今後の管理のため、せっかくだし術構成を書いておこうか?」

「それはそれは!ぜひとも!」

 

 その場で羊皮紙と術式構成をざらりと魔術で印刷し、男へと手渡す。

 もちろん全て英語表記だ。

 

 そのまま、地下室から出て男と別れる。

 もう用は無いし、コナン君のデート下見もまだたくさん残っているからな。

 

 一息ついた降谷さんが、苦虫を噛み潰したような顔をしてため息をついた。

 

「やはり公安も魔術師の育成が急務だな。ああして怪異を回収、保管できれば管理の手間がかなり削減される」

『なるほど。エージェントを派遣して封印し、回収。管理番号ごとに保管しておくわけだ』

 

 それはただのSCP財団なんよ、と思いつつこのネタは言っても誰にも理解されない悲しさよ。

 

 

 それでは、仕事はおしまい。

 この後は思う存分、夜まで観光の始まりである。

 





・エイボン魔術君
黄色の印の兄弟団が発行する、世に最も認知される魔術師位階。
14位まであり、10位の条件は「古エイボン式(ハイパーボリア式)魔術を使える事」。
6位以上は人間業ではない。
3位が事実上の人類の到達点。
黄色の印に目の数で記され、偽造防止のため魔術式が刻まれている。

・ニャル
水族館か。なるほど。作るか!
あっなんか化身が叫んでる。普通に米花水族館に行け?美女に化けろ?はぁ?そんな羽虫以下の微生物見ても何も面白くない…うーん。
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