生体宇宙艦『プロトコル』は進化する 作:いくら
ブースターを吹かした私は追われる船と追う船の間に割り込む。
「なんじゃこいつ!?」
敵は1km弱の中型船が三隻。
エネルギーシールドの出力も、ビームライフルの砲門数も、性能は確実に相手が上。
長期戦になれば不利はこちら。火力が集中しても私は負ける。
短期決戦かつ敵の攪乱。
だが相手は一方的とは言え戦闘中の戦艦だ。
エネルギーシールドはすでに展開されている。
いつもの方法を使うにはそのシールドを突破する必要がある。
だから私は全五門の
基本的にエネルギーシールドは円、もしくは面として展開される。この相手に関しても全方位を守る球体型のエネルギーシールドを使っている。
しかしその形状は防御力を分散させている。
このタイプのエネルギーシールドは点への攻撃には弱く、私でも火力を集中させることで突破可能。
パリ……
穴が空いた。
僅かなサイズではあるが
エネルギーシールド内部に侵入した私はエネルギーシールドを前面に展開する。
相対位置固定。形状を三角錐にして頭の先を尖らせる。
準備は整った。
ナイフとフォークはこの手に、目の前には皿の上に乗せられた美味そうな鉄の塊がある。
――食い荒らそう。
「こ、こいつ……機体内に侵入してきやがった……」
「お、おい! 大丈夫かバル!」
「ヤバイ、助けてくれガラ! ダル!」
これが『恐怖』という感情か。
私も死に瀕したならば、こうして狼狽するのだろうか?
人間、私の思考能力は君たちに非常に近いと言わざるを得ない。
教えてくれ。君たちは何のために死を拒絶するのだ?
――5pの金属を獲得。
結局、他の二隻からの攻撃はなかった。
この一隻ごと私に攻撃する方が効率的だったはずだ。
実際、それをされれば私は自己修復機能を使わざるをえなかった。
だが、人間たちはそうしなかった。
他者の利益を尊重する……『慮る』という心。
なるほど、人とはそういう生き物なのだな。
ならば、やはり私は人とは違うのだろう。
私はただ、自分の腹を満たしたいだけなのだから……
一機、破壊完了。
散らばった金属を腹部から展開したアームパーツで回収し、情報化して保存していく。
私の貯蔵金属がどんどん増えていく。
腹が満たされていく。
「テメェ、よくもバルを!
ミサイル。ビームライフルよりも弾速は遅いが追尾性能がある。
ただ遅いと言っても私の全力疾走よりも速い。
それに数も多く、三十発近い数が一斉に放たれた。
だが――ビームライフル発射――私が持つ五つの砲門を六度も稼働させればその全ては撃ち落とすことができる。
「は!? 全部、撃ち落としやがった……」
「追尾性能もエイム補正もねぇ光線でどうやって……?」
私は人間とは違う。
人間は脳で思考し、腕や指を動かし、その腕で戦艦のハンドルを握って操縦する。
人工知能を噛ませることで操縦を簡略化しているとは思うが、それでも主な指示は人間が出しているはずだ。
しかし私は思考で操縦できる。
君たちの操縦方法には遅延が多すぎる。
――新たに『加速』『ミサイル』のスキルを獲得。
加速か、面白い。
今獲得した5p、そして余っていた5pの全てを加速へ投入。
加速スキルをレベル10へ。
ブースターの出力上限と冷却速度を向上させる。
――ブースター性能が条件値をクリア。新たに『クイックブースト』のスキルを所得。
ほう、これはブースターを極めて短い時間のみ吹かすことによって短距離の加速を可能とする使い方のようだ。
それにこのスキルを得たことによって後部の他に左右と前からもブースターを噴射できる。
前後左右、そして上下に至るまで、ブースターの角度を調整することで全方位への移動が可能だ。
「ちくしょう! レーザーだ、撃ちまくれ!」
「おう!」
発射口確認。
エネルギー充填速度把握。
タイミングは完璧に計算できる。
クイックブースト。
光線が放たれた瞬間、私の身体はブレる。
「当たっ!」
残念だが、それは残像だ。
喜びに気を取られ、一瞬操作の停止した隙を突く。
私は一気に加速し、二機目を狙った。
「うわぁ!」
ビームライフルを一点集中させてシールドに穴を空け、内部へ侵入する。
そんな悲鳴がオープン通信にに乗って聞こえてくる。
戦艦のコントロールルームはその先頭に造られていることが多い。
強化ガラスの外で行われる戦闘を肉眼で見るためだ。
しかし、強化されているとはいえ所詮はガラス。
掘削型のエネルギーシールドを頭部に纏った私の激突に耐えられるわけもない。
敵戦艦のコントロールルームへ私は頭を突っ込ませた。
まるでそれは人間の求愛行動のように。
中型宇宙船とは言え、AIで簡略化すれば一人でも操作できる。
通信で聞こえてきた声は、どの艦も一人分のものだったから予想はしていたが、乗組員は一人しかいなかった。
上方向に尖った金髪をし、顔の多く、耳や鼻や口に何故が穴を空けて金属の輪を通しているような、そんな男だった。
しかし、私が強化ガラスを突き破ったことで男は無重力の彼方へ吹き飛んでいった。
二機目の無力化完了。
私は自分を二機目の機体から引き抜き、三期目を向き直る。
「なんなんだよコレ! どうなってんだよ!?」
通信を切ることなどすでに頭から抜けているのだろう。
そんな絶叫を上げながら、三機目は私に尻を向け遠ざかっていく。
逃げようというのか。いや、この状況なら合理的判断だ。
しかし君は一つ計算し忘れている。
確かに接敵時点の私の速度は中型戦艦より遅い。
しかし、『加速lv10』の機能を得た私の速度はすでに君を超えている。
この速度は二機目に突撃した時点で見せている。
その状態で逃げ切れるという判断を下すのは浅はかと言わざるを得ない。
ブースターを最大速度で吹かして接近しながら、ビームライフルを一点集中させてエネルギーシールドに穴を空け――
我が機体は、彗星ごとく、三機目の宇宙海賊船を貫いた。