一部の生徒に激重感情を抱かれる偽物たちのブルーアーカイブ 作:ヒッキーn世
ちょっと次の回に苦戦して
理由に関しては大体スランプのせいです
前回からだいぶ空きましたが、今回は本編の関係者全員集合の小話集的な回として事前準備的な話になるかと思います
そしてその後は遂に正面衝突といった感じになるかと
まあ書き溜めはないので不定期投稿にはなりますが
最後にこんな作品のことを待ってくださっていた皆さんへ一言
大変お待たせいたしました
お詫びと言ってはなんですが過去最高文字数(16000字オーバー)を喰らいやがれください
お姫様は城を出る
「……今更といえば今更だが、トリニティの重鎮ともあろう者が危険なことをしてもいいのかい?」
「私は元から没落お嬢様だから大丈夫だよ☆」
「自慢げに言う事ではないのだが……私も大丈夫と断言はできないが、多少の無茶くらい押し通してみせるさ」
「一時期業務を放棄して引きこもっていた人物が言うと説得力があるね」
「……それも私の真似事かい?」
「皮肉の一つくらい口にしてもいいだろう?」
「セイアちゃんみたいになっちゃったセイカちゃんは見たくないなあ……」
「そうかい?とはいえこれは一種のルーチンワークになってしまっているしね……そう簡単には変えられないかもしれないな」
「もうずっとあっちの話し方をしてればいいのに。その方が可愛いよ?」
「そ、それは……///」
扉の向こうから楽しげに談笑している皆さんの声が聞こえてきます。彼女と話す時はいつも満面の笑みを浮かべているミカさんはもちろん、セイアさんもいつもより機嫌がいいように感じます。
二人の関係をこのように笑い合えるまで回復させてくれた人物こそが彼女、セイカさんです。エデン条約とアリウスを巡る騒動に巻き込まれた……正確に言えば私たちが巻き込んでしまった彼女には返しきれないほどのご恩があります。今私がこの場に来ているのもそれを返すべくセイカさんの目的に協力するため、なのですが……
(どう切り出せば良いのでしょうか……)
私とセイカさんの関係性は恋人としてお付き合いをしているミカさんや容姿が酷似している都合上大事な話をしたことがあるというセイアさんと違い、特に語ることがないほどに希薄なものです。友達の友達、というのが一番近い表現になるのでしょうか。
話した回数も数えるほどしかない私が突然現れても驚かせてしまうだけなのではないか。立場の違いが悪い方向に働いてしまうのではないか。そんなネガティブな考えが頭をよぎります。
そんな時、セイアさんが扉の隙間からちらりと視線を向けてくるのが見えました。それと同時にそれに込められた意味も。
……ええ、そうです。私がすべきことはセイカさんに協力の意を伝えること。ならばここでただ立っているだけでは意味がありません。
「君たちは隙あらばイチャイチャしようとしないでくれるかい?無糖の紅茶が飲みたくなってしまうよ」
「それでしたら今ここにご用意いたしましょうか?」
「流石にそこまでしてもらうわけには……ってナギサ!?」
ふふっ、驚く表情はセイアさんと少し違っていますね。やはり要因は性格の差でしょうか。そもそもセイアさんはこんな風に表情を崩すことは滅多にありませんしね。
「……いつからそこに?」
「ついさっきからです。セイカさんにお話がありまして」
「何か用事かい?例えば二人を連れ出す許可とか」
「いえ。また別のお話です。……セイカさん。私もあなた方をお手伝いさせてはいただけないでしょうか」
思っていたよりも、すんなり言葉が出てきました。直前のセイアさんとの冗談交じりのやり取りのおかげでしょうか。
「……いいのかい?今から向かおうとしている私たちが言うのもなんだが、命の保証はないのだよ?」
「それでも構いません。私はもう、大切な友人が危ない時に一人だけ安全圏にいるのは嫌ですから」
セイカさんたちの力になりたいのもそうですが、これもまた偽らざる私の本音です。セイアさんが暗殺されかけた時も、ミカさんが暴走してしまい精神的に危なかった時も、私は安全な場所で守られてばかりでした。それが彼女たちなりの配慮であり、思いやりであることはわかっています。それでも私は願わくば肩を並べて問題に取り組みたかった。同じ目線で共にありたかったのです。
だからもう、ただお城で据わっているだけのお姫様はやめてしまいましょう。これからの私が目指すのは、大事な人たちのために一歩前へ踏み出せるような人物なのですから。
「……そうか。なら私から言うことは一つだ。君も手を貸してくれ、ナギサ」
「ええ。ティーパーティー現ホストとして、そしてただの一生徒である桐藤ナギサとして、あなた方にお力をお貸ししましょう。よろしくお願いしますね、セイカさん」
「ああ、よろしく頼む」
これは私がより良い私であるために踏み出す一歩。大切な友人のためならば、私は騎士にだってなってみせましょう。
変わるあなたと変わらない私
ユメノちゃんからの頼みを受けてトリニティに行くことになった私と後輩のみんなは、案内された客室で待機していた。
「ホシノちゃん、来てくれてありがとね」
「いや〜、ユメノちゃんの頼みだからね。おじさん的にはみんなにはあんまり危ないことはさせたくなかったんだけど、『私たちも行く』って言って聞かなくてさ〜」
「ふふっ、みんな先輩思いのいい子たちだね」
どちらかといえば放っておくとまた一人で暴走するのではないか、と思われている節がある気がするのだが、わざわざ伝えるべきことでもないだろう。自分の前科にもあまり触れたくはないし。
「……ねえホシノちゃん」
「どうしたの?」
「あの子たちのことは大事?」
「そりゃあもちろん。可愛い可愛い後輩だからね」
先輩からもらったものと同じだけのものをあげられているとは思えないけど、それでもみんなのことは大切な仲間だと思っている。もう誰も失いたくないとも。
「そうだよね。そんなホシノちゃんにお願いがあるんだ」
「なにかな〜?おじさんにできることならなんでも聞いちゃうよ〜?」
今の「小鳥遊ホシノ」として少しおふざけを入れつつ、でも真剣に次の言葉を待つ。彼女の頼みならばなるべく叶えてあげたいから。
「今回の作戦はすっごく危ないってセイカちゃんが言ってたんだ。だからもしものことがあったら、ホシノちゃんにはみんなを守ってあげてほしいの」
彼女らしからぬお気楽さの消えた表情で放たれたお願いに、私の脳裏には即座に最悪の未来がよぎった。
「……ユメ先輩、まさか
彼女が一人静かに倒れ伏して死んでいく。そんな場面が頭に浮かんでしまう。しかし問い詰められた彼女はきょとんとした顔でこう言った。
「え?そんなこと言ったっけ?」
嘘や誤魔化しが苦手な彼女のことだ、本当にそんなつもりで言ったのではないのだろう。
「……今のって『私のことはいいから』って意味じゃないんですか?」
ではその真意はなんだったのか。それを問いたださなければならない。
「違うよ?だって私は頑丈だからいいけどみんなはそうじゃないでしょ?だからホシノちゃんに守ってほしいなーって」
「そう、ですか」
思ったよりも軽い理由に拍子抜けしてしまった。確かに彼女の言うことも間違ってはいない。彼女は昔から騙されやすかっただけで傷つきやすいというわけではなかったし、ならばそんな自分よりも他者を気に掛けること優先するのはなんらおかしいことではない。
「そもそも私は前世も前々世も死のうとして死んじゃったわけじゃないよ!?今も昔も生きる気マンマンだし!……だから心配しなくていいよ、ホシノちゃん。いっぱいがんばって、みんな一緒に笑顔で帰ろうよ!」
どうやら私が黙り込んでしまったのを見て怒っているのだと勘違いしたらしい彼女は、慌ててそう付け足した。笑顔で手を差し伸べる彼女の姿は昔の先輩のそれとそっくりで、思わずこんな言葉が漏れた。
「そういうところですよほんと……」
「ん?何か言った?」
「いえ。ユメせんぱ、じゃなくてユメノさんはいつも楽観的だなと思っただけです」
「そうかなあ?あ、でも今回のはただの願望じゃないよ」
「何か根拠があるんですか?」
「うん!だってセイカちゃんがいるからね!」
「……それが理由ですか?」
「もちろん!だってセイカちゃんはみんな笑顔のハッピーエンドが好きだからね!今回もそうなるよ!」
「まあ実績もあるのであながち間違いとも言えませんけど……信頼してるんですね」
「信頼もしてるけど、目標にしてるのもあるかな。ねえホシノちゃん、昔色々言われたことあったでしょ?」
「何をですか?」
「奇跡なんて起きないとか、言葉だけじゃどうにもならないとか……」
「……言いましたね、そんなことも」
確かに言った。そしてそう言い放った後先輩は……
苦い記憶を振り払って、私は考える。奇跡は起きないというのなら、今この時間は何なのだろうと。死者の記憶を持った者と再開することを、奇跡と呼ばずになんと喚ぶのだろうと。
「それに関しては、私が間違ってましたね」
「え?そんなことないと思うけど」
「……え?」
奇跡はあるからどうにかなる、みたいな話をしたいんじゃないのかと思っていたのだが、読みが外れたらしい。では彼女は何を言いたいのだろうか。
「確かに私はその時にはよくわかってなかったけど、今は少しはわかるんだ。そう簡単に奇跡は起きないし、話し合いだけでできることには限界がある。だから私も自分を変えようと思ったの。ぶつかり合ったり理解されなかったりしても、最後にはみんなで笑い合える未来を作れるような……セイカちゃんみたいな人にね!どうどう?見直した?」
「……いいん、じゃないですか?前よりは成長してると思いますよ」
「だよね!よーし、これからもがんばろー!」
一人で盛り上がって拳を天に突き上げている彼女に呆れたような素振りを返しながら、その裏で密かに反省の念を抱く。
(やっぱりユメ先輩とユメノさんは違うんですね。前よりも成長していて、前を向いてる。……変われてないのは私だけ、か)
「暗い顔してどうしたの?ホシノちゃん」
「……いえ。私も頑張ろうと思っていただけです」
「そう?じゃあ一緒にがんばろうね」
「はい。一緒に、ですね」
あの時はすれ違い分かたれた道を、もう一度あなたと共に歩むことが叶うというのならば、今度は肩を並べて同じ歩幅で進みたい。あの時から色々と変わってしまっていても、きっとこの思いは変わらないままだから。そんな思いを抱きながら、私は自然な笑みを浮かばていた……らしい。
「ん、ホシノ先輩がいい顔してる」
「ほんとですね〜☆普段は見ない顔です」
「ホシノ先輩ってあんな喋り方するんだ……」
「二人だけの関係というものなんでしょうか」
「うへぇ!?いつから見てたの!?」
「途中からみんな見てたよ?」
挙げ句それをみんなに見られてしまっては、先輩の威厳も何もなくなっちゃうなぁ……せめてみんなの前ではこんな姿は見せたくなかったんだけど。
「そうだよ〜!私とホシノちゃんは仲良しなんだ!」
「そ、そうだね……」
でもあなたが笑ってくれるだけで全てを許せてしまうところは、あの時からきっと変わらないんだろうな。
情けは人の為ならず
「ヒフミ、電話が鳴ってないか?」
「え?……あ、アヤちゃんからですね」
私たちが補習授業部らしく(?)ほんとうの意味での補習に励んでいる最中、私のスマホにアヤちゃんからの着信がありました。
「珍しいわね、アヤからかけてくるなんて」
「うふふ♡ナニか大事な
「わかりませんけど……出てみますね」
コハルちゃんの言う通り、彼女の方から電話がかかってくるのは珍しいことですアヤちゃんはあまり積極的に関わってくるような子ではありませんから。
通話画面に表示されたアヤちゃんの顔付きは、いつにもまして真剣そうなものでした。
『ヒフミ、今大丈夫?』
「はい、大丈夫ですよ」
『そっちに補習授業部のみんなっている?』
「はい、いますけど……」
『ならちょうどいいかな。……ねえみんな、ちょっといい?』
「いいぞ」
「いいけど……」
「大丈夫です」
『わかった。ふぅ……みんな、私に……
一人称をいつもあの人たちと一緒にいる時のものに変えて、アヤちゃんはそう頼み込んできました。明らかに普通ではありません。何かあったのでしょうか。他のみんなもアヤちゃんの変化には気付いたようで、驚きながらも彼女に続きを促しました。
『細かいことは省くけど、どうしても助けたい子たちがいるの。でも俺たちだけじゃ多分無理だから、みんなにも手伝ってもらいたい』
「それなら全然いいけど……『でも』……?」
『そのための作戦は正直言って命の危険がある。だから無理やりにとは言わない。みんなで考えて決めて』
誰かを助けるための頼み事にいち早く反応したコハルちゃんの言葉を遮って、アヤちゃんはそう言いました。命の危険があると聞くと、どうしてもエデン条約に関わるあの一連の事件を思い出さずにはいられません。そう思うと、今のアヤちゃんの表情にはどこかあの時のアズサちゃんと似たものが見える気がします。
ならば何と言われようとも、私の答えは決まっています。
『……一旦切るからまた後で連ら「行きます」……え?』
「お友達が助けてほしいと言っているなら、手を貸すのが『普通』ですから」
それ以前に大切な友達が助けてほしいと言っているのに手を貸さないのは、人としてどうかとも思いますしね。
『いや一応こっちも真剣に聞いてるんだけど……』
「私もヒフミに同意だ。例え命の危険があったとしても、それは友達を助けない理由にはならない。それにアヤたちには私がセイアの暗殺を偽造したことで起きた事件での借りもある。助けない理由がないな」
「それなら私だってそうよ!困ってる人を放っておく理由なんてないんだから!それにその……友達の頼みなんだし」
「せっかく
アズサちゃんは彼女への借りを、コハルちゃんは自分自身の正義心を、ハナコちゃんは彼女が正直に私たちを頼ってきてくれたことを理由に、アヤちゃんの頼みを引き受ける旨を伝えました。
『そういうわけじゃ……ああもう!悩んでたのが馬鹿みたいじゃん!』
「もっと自由になってみてもいいんですよ?私たちに包み隠さず見せてください♡」
『ならもうこの際だから言うけどさ!俺はこんなやつに仲良くしてくれたみんなに感謝してるの!だから正直死んでほしくないわけでさ!もうちょっと躊躇いとか覚えてくれない!?』
本当に今日のアヤちゃんは何も誤魔化す気がないようで、私たちに対する思いを包み隠さず明かしてくれました。でも、私たちにとって、それは逆に心配に繋がる理由になってしまいます。彼女は本当に
「躊躇いなんて、お友達を助けることとペロロ様の前では関係ないことです!」
『……これ素で言ってる?』
「ヒフミはいつもこうだぞ」
「まあヒフミならそう言うわよね」
「これで”わからせ”られちゃいましたか?」
『あー……うん。いや助かるには助かるんだけど……なんでこう俺の回りって極端な善人が多いんだか……』
極端な善人、ですか?私は普通の学生ですし、どちらかといえば……
「……正直アヤも大概よね?」
「私が見かけた時は大体いつも人助けをしているな」
そうですよね。アヤちゃんの方が私なんかよりみんなの頼りになる「良い人」をしていると思います。
「少なくとも普通の『良い人』の枠は超えていると思いますよ?」
「やっぱり客観的に自分を顧みるのは難しいのかもしれませんね。これに関してはヒフミちゃんたちも、ですけど」
『俺のは違うと思うんだけどなぁ……』
ともかくいつも良い人をしてくれているアヤちゃんのためにも、私たちは彼女を助けに行くことを決めたのでした。
アウトローな依頼が一件
便利屋68の(最近手に入った)オフィスに、古めかしい黒電話の音が響く。慣れた手付きで受話器を手に取った私は、いつものように電話口にこう名乗ったわ。
「はい、便利屋68です。何か依頼かしら?」
『……セクシー』
この符丁は……
「……フォックス。……久しぶりね、フェイカー」
『ああ、そうだね。さて、早速で悪いが君たちに依頼をしたい。内容は人命救助とそれに付随する戦闘だ。ただ今回は依頼料は後で払わせてもらおう。お互い無事に帰って来られたら、だがね』
矢継ぎ早に告げられたその依頼内容から、私は今回の任務の過酷さを理解した。なるほど、五体満足で帰ってこられるかが怪しいレベルの高難度の任務というわけね。
「……今回の依頼は中々ハードみたいね」
『ああ。だからこそこの依頼を受けるかは任意だ。君たちの方で話し合って決めてくれ』
確かに私は我が社の社員たちの命を預かる身。まずはみんなに確認を取らないと……
「ん?どうしたの?アルちゃん」
「迷惑電話でもきたの?」
「なっ、なら私が全部爆破してきましょうか?」
……いえ、こんなことを聞くのは侮辱に当たるわね。なぜなら私の、いえ私たちの答えは始めから決まっているもの。
「考えるまでもないわね。その依頼、受けさせてもらうわ」
『……いいのかい?』
「人の命がかかってるのに、我が身可愛さに戦わないのはアウトローじゃないもの。それに私たちを誰だと思ってるの?私たちはどんな依頼も遂行してみせる孤高の便利屋。だからあなたはただ命令すればいいのよ、依頼人さん?」
『それは……いや、わかった。では改めて便利屋68、君たちに依頼だ。私たちに手を貸してくれ』
「ええ、承知したわ。その依頼、便利屋68の名にかけて必ずやり遂げてあげる」
決まったわね。これぞ最高にアウトローって感じだわ。流石はフェイカー。本当にいい仕事をしてくれるわ。
そんな風に悦に浸っている私の耳に、驚愕するような情報が入ってきた。
『では早速で悪いがトリニティに来てくれたまえ。ティーパーティーには話を通してあるから安心してほしい』
「……え?」
ティーパーティーって確かトリニティの生徒会のことよね?私たちゲヘナの生徒なんだけど!?というかあなたもそうだったはずよね!?どうなってるのよー!?
「くふふっ、またアルちゃんが面白い顔してる」
「も、もしかしてまた私が何かやってしまったんでしょうか……?」
「大丈夫。多分見栄張ったら思ったより大事になってビビってるだけだろうから」
ま、まあ問題ないわ。どんな困難が待っていようと、私たち便利屋68が加齢にアウトローに解決してみせるんだから!
妖と友達と頼み事
「……は?今なんて?」
『アヤメに俺たちのことを助けてほしいって言ったけど』
聞き間違いじゃないのか。百鬼夜行某所にて、いつも通りうざったらしい友人から電話がかかってきたと思ったら不意にそう言われた私は、複雑な感情を抱えていた。
まず前提として、今までアヤがこんな風に真剣に頼みごとをしてくることはなかった。くだらないことはともかくとして、ではあるが。私にとってそういうところが居心地の良さとこちらを見透かしてくるなんとも言えなさを感じさせる要因であり、決して言葉にはしないが悪くは思っていない部分でもあった。そんなアヤがある種の暗黙の了解を破ってまでしてきた頼みに、私は詳細を尋ねることにした。
「何があったの?」
『またセイカがやらかしてさ……いや今回のは別に全部あいつのせいってわけじゃないけど』
やっぱりか。
そう声に出さずに呟く。自分と同じく抱え込む質のアヤが周りを巻き込む理由には、高確率で彼女の友達が関わっていることくらい想定内だ。
「わざわざ私に声をかけるってことは、お礼ぐらいはしてくれるんだよね?」
『それはもちろん。極論もう関わるなって頼みでも何でも聞くよ』
「……そう」
反吐が出る、というのはこういう感情のことを指すのだろうか。わかっている。これが軽口混じりとはいえ彼女が本気だということを表すためのセリフであることも、それだけの覚悟を決めた上で自分に連絡をくれたこともわかってはいるのだ。それでも、
「なんで私に頼ってくれないの?」
『え?え?俺今頼んでるよね?』
「そういうことじゃない!あんたのことだからどうせ私が来ようが来るまいが行く気なんでしょ!?そのまま死んでもいいって思ってるんでしょ!?」
『いやちょっまっアヤメさん?』
「友達のためだかなんだか知らないけど、そうやって軽率に命を捨てようとするところがほんと嫌い!」
抑えきれない感情が溢れる。
アヤが友達の頼みで戦いに赴こうとしているのも、そこで命をかけようとしているのも、そこまでする程その友達のことを大事にしているのも、何もかもが気に食わないと。そして何よりも……
「……私じゃあんたを止められないって諦めてる自分のことも嫌いになってくる」
『アヤメ……』
荒んだ自分のことを誰よりも気にかけてくれた私を引き止める術がない私自身のことが、一番嫌になった。
「……なに?文句でもあるの?」
『いや……思ったより好かれてたっぽいのがわかって嬉しくなってるとこだけど』
「はぁ!?」
コイツ今なんて言った!?私が今にも死にに行きそうな友達に本音で話してあげてるっていうのに、何嬉しくなってんだ!
『だって会いに行っても大体ツンツンしてるし仏頂面だし、精々『嫌いだけどまあ好きなやつ』くらいの立ち位置にいるものだと思ってたからさ。いやーそれがここまで好感度を稼げてたとはね』
「う、うるさい!というか話逸らすな!」
『ああそういえばさっきの話だけどさ、別に俺は死ぬ気はな「それは嘘」反応早くない?』
「これでも色々経験してるの。相手が黄泉に近いかどうかの判別くらいできる。死ぬ気はなくても命をかける気はあるでしょ」
『……まあね』
やっぱりか。こいつは私とは違うと思っていたのだけれど。
「なんでそこまでするの?別にあんたは私と違って仮面が外せなくなったわけでもないでしょ?」
『いいや。俺もアヤメと同じで人助けばっかりしてたらいつの間にかそうしないと生きられなくなってた馬鹿な人間だよ。変われたように見えてるのはきっと、セイカたちのお陰』
「……それがあんたが戦う理由ってこと?」
『そんなところかな。恩返しってわけじゃないけどね。あいつ何もしなかったらそれこそ勝手に死にに行きそうだし』
まあそれには同意する。直接会ったのは先の件の一回だけだが、あの子はあの子で放っておいたら死にに行くような人種だということくらい理解した。なにせ一人で潜在的脅威といっても過言ではない私に話しかけに来るくらいだ。
「私はあの子と正直ほとんど面識はないけど、あんた以上にお人好しなのはなんとなくわかるしね。……わかった。私も行ってあげる」
『いいの?』
「勘違いしないで。後できっちり報酬は請求するし、そのためにあんたを生かして帰さなきゃいけないだけだから」
『つまり「あんたのためじゃないんだから!勘違いしないでよね!」って言ってくるツンデレムーブってことでいい?』
「やっぱり一回息の根止めてあげる。今どこにいるの?」
『トリニティにいるから後で座標送るね。それと臨死体験は一回経験すれば十分だから遠慮しとく。じゃあまた』
ちっ、切られたか。……さて、じゃあこっちはもう一つの問題を片付けるか。
「……それで、そっちはいつまで隠れてるつもり?」
誰もいないはずの物陰に声をかける。するとそこから音もなく一人の少女が現れた。
「ご、ごめん。ただ邪魔しちゃ駄目かなって思って」
「ずっと気配感じてて集中できなかったんだけど……というかなんでここにいるの?ナグサ」
そこにいたのは私に執着し、私たちで撃退した女、御稜ナグサだった。
「なんとなくアヤメがこっちの方にいる気がして……流石に冗談だよ?」
「冗談に聞こえないんだけど」
慌てて嘘だと言う姿に全くの説得力がない。あいつの話じゃ私(に似たアヤ)の気配を追って百鬼夜行からミレニアムまで行ったらしいし。
「本当にただ巡回警備をしてただけだから。それよりアヤメ、アヤさんたちのところに行くんだよね?」
「全部聞いてたわけ?そういうところだよ本当」
「それはごめん……お詫びにじゃないけど、私も行っていいかな」
その提案に一瞬躊躇う。こいつを連れて行っていいものか。目覚めてからは一応マトモっぽくはなったみたいだし、実際今も私に何かしてきているわけでもない。ならアヤに会わせても問題はないか。こんなんでも強いことは強いし、戦力の足しくらいにはなるだろう。
「……まあいいんじゃない?人手は多い方が良さそうだったし」
「ならよかった。……こんな私でも、少しは役に立てるかな」
「さあね。前みたいにならなければいいんじゃない?とりあえず百花繚乱に連絡は入れといたら?」
「あ、それもしておかないとだね。教えてくれてありがとう、アヤメ」
「……別にそういう意味で言ったんじゃないから」
こいつに親切なんて、絶対にしてやるもんか。精々使い潰してやる。……ナグサならそれでもいいって言いそうだけど。やっぱり連れて行くのやめようかな。
「お母様」誕生秘話
「アイン……ソフ……オウル……我は、我は……」
「魘されているね。まあ無理もないが」
「私たちのせい、ですよね……」
「確実に傷跡えぐりましたからね……」
「もうちょっと考えて話せばよかったかな……」
「過ぎたことはしょうがないさ。切り替えていこう」
アヤたちが準備のために去っていき、部屋にはベッドで眠るマルクトとそれを暗い雰囲気を漂わせながらを眺める偽アイン・ソフ・オウル、そして三人をなだめる私だけが残されていた。
「切り替えるって言ったって……ねえ?」
「あなたもそう簡単に考え方は変えられないと言っていたじゃありませんか」
「そ、そうですよ……」
「君たちさっき謎にキレて生き延びようとしていなかったかい?まあ私が言いたいのはあくまで気分転換さ。君たちに名前を着けようと思ってね」
「名前……ですか?」
「君たちは現状偽物のアイン・ソフ・オウルという呼び名しか持っていないだろう?それでは不便だと思ってね。時間もあることだし、今ここで今世における名を考えてみようじゃないか」
そう私が提案すると、特にやるべきこともなかった三人は頭を悩ませ始めた。
「うーん……そうは言ってもなぁ」
「名前被りの生徒さんがいたらと思うと……」
「それは確かにありますね。もういっそ尖った名前にでもしましょうか」
「遠慮するのは構わないが、そこまでいくと考えすぎだと思うよ。もう少し我が儘になってみてもいいはずさ」
「さっきまで死ぬ気だった相手に中々に難しいことを言いますね」
「だからこそ、だとも。名前は将来ずっと向き合っていくものだ。それを考えるということは未来に目を向ける行為に等しい……というのは過言かもしれないけれど、リハビリにはちょうどいいはずさ」
「そういうものですかね……?」
そういうものだと私は思うけどね。少なくともその名を使う今後に目を向けるのは、悪くない思考のはずさ。
「そういえばセイカは何か案ないの?そこまで言うんだから、それはもうすっごく希望に満ち溢れたのがあるんでしょ?」
「それはそれは。ぜひ聞いてみたいですねえ?」
からかうように問いかける偽ソフとそれに便乗する偽オウル。それはもしかしたらある種の現実逃避に近いものだったのかもしれない。未来に希望を持てない、誰かを踏み台にしてまで未来を得たくない、そんな思いが今もなお根底にあるのだから。
だからこそ自分たちが生きていることが想像できない未来から目を逸らし、瞬間瞬間を誤魔化して生きる。わからなくはない考え方だ。ではせめてそんな君達が少しは前向きになれるような案を出してみようじゃないか。
「そうだな……オリジナルを文字ったものにはなるが、アイム・ソウ・オウンなんてどうだい?」
「わりとまんまですね。何か意味が?」
「こじつけに近いものだが、『
やや得意気になって名前の由来を語っていると、自身に向けられる毛色の違った視線に気が付いた。それは泣き出す寸前の赤子のような、愛すべき親に向けるような、そんな視線だった。
「な、何か変なことを言ってしまったかい?それなら謝るが……」
「ち、違うんです……ただ、ただ……お母さんみたいだなって思ってしまって……うう……」
「お、『お母さん』?」
思わぬ単語の出現に、私は思わず首を傾げることになった。
「ああ、なるほど……この感情は本来母親に向けるべきもの、ですか……セイカお母様?」
「いやちょっと待ってくれ!?これはどういう状態なんだい!?」
「ねえママ、だっことかなでなでとかしてくれない?」
「君までかい!?というか私は君たちの母親では……」
ないのだよ。そう言い切ろうとしたセイカは三人の表情を見て口を噤んだ。なぜならその目には、どうしようもない程の期待と渇望の色が浮かんでいたのだから。ああ、なるほど。これが彼女たちの自己肯定感の低さの元凶か。ならば私にもその憂いを除いてあげるくらいならばできるだろうか。
「……ではもう少しこっちに来てくれ」
「え?……いいの?」
「君たちの母親代わりくらいならできるさ。だから今くらい私に思う存分甘えたまえ。そのくらいしても罰は当たらないだろうしね」
私はそう口にして、慈愛に満ちた瞳で全てを受け入れる姿勢を取ることにした。なおこの数分後、
「うぅ……あれ?確か我は……ん?」
「お母さん……お母さん……♡」
「ママは私たちとずっと一緒にいてくれるよね?だってママはこれからもママだもんね?そうじゃないなら……」
「私はお母様がいればいいですから……だから私と”イイコト”しませんか……?」
「ナゼコンナコトニ……」
「???」
アイムに頬ずりをされ、ソウにハイライトの消えた目で迫られ、身に着けた衣服を着崩したオウンに襲われかけているセイカを起き抜けに目撃したマルクトは、背後に宇宙を背負うことになることを、まだ私は知らない。
少女たちは
私たちにとって両親とは、幼い自分を傷つけようとする生き物であり、自分に一切の干渉をしようとしてこない人物であり、物心ついた時には既にそばにはいない存在だった。
それを悲しいことだとは思わなかった。そう思うだけの知識がなかっただけかもしれない。だって胸に穴の空いたような感覚がずっとあったから。
だからこそ、だろうか。心の何処かでいつも死にたいと思っていた。
生きているだけで迷惑のかかる害獣。
誰にも見向きもされない透明人間。
根本から間違った社会不適合者。
こんな自分に生きる価値なんてないという声が、何度も頭の中で響いた。
そんな人間が長生きできるはずもなく、私たちは早々に無様な最期を迎え……違う世界で目覚めた。
転生。前世で気を紛らわせるために読んでいた小説のテンプレに自分たちが当てはまる日が来るなんて、思っても見なかったことだった。
……それが幸運なことだとは全く思わなかったが。
だってそうでしょ?死にたがりが人生を延長されて嬉しがると思う?転生したという事実を認識した時には転生とは本来罰である、なんてネットで見た豆知識を実感したくらいだ。
だからこのままだと自分たちが死ぬとわかった時、始めに浮かんだのは安堵だった。
誰にも迷惑をかけることなく今度こそ逝けるのなら、それが最善だと思っていた。
それなのに。
私たちに死んでほしくないと叫ぶ人がいた。私たちのために命をかけるとまで言ってくれる人がいた。心の奥底に私たちと同じようなものを抱えながらも誰かのためにと行動できる人がいた。
そして何よりも、
「アイム・ソウ・オウンなんてどうだい?」
私たちに愛をくれた人がいた。
名前とは生まれて最初に親から与えられる贈り物だという。どんな風に生きてほしいかという願いを込めた唯一無二のギフトをくれた彼女は、そういう意味で言えば間違いなく母親も同然だった。
あえて言い換えるなら「セイカは私たちの母になってくれるかもしれなかった少女だ」といったところだろうか。
生涯与えられることのなかった無償の愛。耐性なんて欠片もないそれを溢れんばかりに受け取ってしまった私たちの魂は、きっともうこの時点でおかしくなってしまったのだろう。
だってたったあれだけのやり取りをしただけなのに、彼女のことが好きで好きでたまらない。それは確信があるからだ。彼女は絶対に私たちを見捨てない。私たちが沈んでしまっても、必ず底までついてきてくれる。そう信じられる。だから……
「「「ずぅっと一緒ですよ/だよ?」」」
あなたとなら生きていられる。あなたがいれば希望が持てる。あなたと同じ時間を過ごしたい。
これは願いであり、欲望であり、エゴそのものでしかないものだ。でもそれを肯定してくれたのは、他の誰でもないあなただから。もうこの望みは隠さない。必ずあなたの隣にいられるように、どんな困難も乗り越えるから。もう絶対に、何があっても……離さないから。
失った少女が見た
我が目覚めると、そこにはセイカと彼女に密着しているアインたち……ではない者たちの姿がありました。先程まではこうも距離が近くはなかったと記憶しているのですが……我の思い違いでしょうか。
「これはどういう状況なのでしょうか……?」
「私が聞きたいくらいだよ……いや本当に少しでいいから離れてくれないかい!?」
「い、いやです……」
「断固拒否させてもらいます」
「私もそのお願いは聞けないかな」
「なんでさ!?」
先程と比べ明らかに距離が縮まっている三人と一人に対して我は疑問を投げかけましたが、彼女たちはそれをスルーしてセイカにひっついていました。まるで決して逃がしはしないと物語るような雰囲気で。その光景を目の当たりにした我はますます困惑を強める羽目になりました。
「我が眠っている間に本当に何があったのですか?」
「私が知りたいくらいだよ。というか君たちマルクトに何か言っておくことはないのかい?先程の言葉の撤回とか」
そういえば、彼女たちの顔色は先程彼女たち自身の死を軽んじていた時と違い、随分と良いものに……我が持ち合わせていないものなので断言は出来ませんが、未来への希望に満ち足りているようなものに変わっていました。本当に我が気絶している間に何があったのでしょうか。
「そうでしたね。お姉様……いえ、
我を「お姉様」ではなく「マルクト」と、我の妹たちの幻影を振り払うようにしてそう呼称したオウルに似た者は、重々しい雰囲気でこう言いました。
「……はい。なんでしょうか」
「私たちはあなたの妹ではありません。なぜならば……私たちはお母様の娘なのですから!」
「……?」
お母様……母親?我のデータベースには存在しない概念です。我らには不要なものでしたし。生みの親という意味ではデカグラマトンがそうであったと言えるのかもしれませんが、どうやらただ単に自身を生み出したものを指してこう呼んでいるわけではなさそうです。
「そうそう。私たちとママはずっと一緒の仲良し親子なんだ」
「??」
「な、なので私たちはあなたの妹ではありませんし、もう自ら死に行くような真似もしませんから……!」
「??? ……いえ、それ自体は結構なことなのですが……セイカ、一ついいですか?」
「……なんだい、マルクト」
「母親というものは、こうも簡単になれるものなのですか?」
我の気絶していた時間は長くとも数十分程です。母親とはそのような短い時間の中でもなれるものなのでしょうか。
「時間はあんまり関係ないからね」
「私たちにとって、もう既にお母さんはお母さんなんです」
「これはいわば運命なのですよ。私たちを愛を与えてくれる存在がいた。それすなわちその者こそがお母様であるという証明なのですから」
「……だそうだよ」
「……なるほど。あなたたちにとって、彼女は情愛を向け、愛情を与えてくれる者なのですね」
我が妹たちを愛し、妹たちもまた我を愛してくれていたように、彼女たちと愛し合う関係性にある者、すなわちセイカを母親と呼称しているということなのですね。ならば理解できます。家族間の愛情というものがどれだけ暖かく、尊いものであるかはよく知っていますから。
「わかりました。ならば大事にしてくださいね。母親を、家族という存在を」
「はい……!」
「もちろん!」
「絶対に離しはしませんよ」
「なんでここで通じ合えるんだ……?何かしらのシナジーでもあったのか?というか私が母なのは確定した事実なのか?もう何がなんやらだ……」
では、私が今ここでやるべきことは一つだけですね。我が救いきれなかった妹たちの代わり、というのはまた違いますが、彼女たちを妹たちのような目に遭わせない。それが今我のやるべきことです。
「我の妹ではない誰か。どうか名前を聞かせてくれませんか?」
「あ、アイムです」
「ソウだよ」
「オウンと言います」
「そうですか……では、アイム、ソウ、オウン。我にあなたたちのことを守らせてください。我の妹たちの似姿が、家族のそばで笑っている。せめてその光景だけは守らせてください」
頭を下げて礼儀を示し、彼女たちに語りかけます。そんな我の願いは簡単に承諾されました。
「いいですよ。私たちにとってもあなたが協力してくれるのはありがたいですから」
「それに、『せめて』なんて言わせないよ?」
「あ、あなたの妹さんたちも、きっと救ってみせますから……お母さんが!」
「……え?待ってくれ、今ここで唐突に話のバトンを渡さないでくれ!」
我の妹が、救われる?ただ我を解放するために死んだだけでは飽き足らず、その肉体すらも利用され辱めを受けている彼女たちを救える?
「……本当に?本当にアインたちを救えるのですか!?」
「ここでシリアスにするのは無理が……んんっ、ああ。きっと、いや必ず救ってみせるさ。私のむす、娘……?たちも、君の妹たちのこともね」
「……何故そこまでしてくれるのですか?あなたにとって、今の我の妹たちは唾棄すべき敵であるはずです」
「……確かにそうかもしれないね」
「ならば何故?あなたは何故そこまで全てを救おうとするのですか?」
我の問いを聞いた彼女は少し考えこむようにした後、静かに口を開きました。
「……魔王を倒せば世界が救うと聞いて、その魔王すらも友として救うことを選んだ少女たちがいた」
「……?」
「操られた君の妹を倒せば幾人かの尊い命が救われる、そんな『暗くて憂鬱な話』を嫌った少女たちがいた。それが世界の真理だと、本質だとしてもそんなものは認めないと言い、ハッピーエンドを掴み取ろうともがいた少女たちがいた」
「それは……」
「私は彼女たちのように気高く在りたいだけさ。だって私も……」
セイカは聖母の如き、とでも表現するのが正しいと思えるような微笑みを湛えてこう言いました。
「ハッピーエンドの物語が好きだからね。それも完全無欠といえるような、全員で笑えるような、ね。これが理由さ。君も、アイムたちも、本物のアインたちもミンナ救ってみせたい。だからこそ私はそのために全力を尽くすだけさ。友を、あるいは友の友を頼ってでも見たいのさ。ハッピーエンドで終わる物語のエンドロールをね」
そこまで言い切ると、彼女は顔を赤くしてこう付け足しました。
「……まあこうは言ったが、結局そんなもの私一人でどうにかなるようなものではないし、みんながみんなこんな思いを抱えて戦うわけでもない。だからこれはただの私の願望で、密かに夢想している未来の話さ」
「それは……」
「だからまあ期待はしすぎないでくれたまえよ?私は絶対の確信を持って理想を語れる程強い人間ではないのでね」
あの先生とは違ってね。
我と同じく己を信じ切っていない目で彼女はそう自身を卑下すると、今度は等身大の”ヒト”らしく笑いました。自信はなくとも覚悟はある。そんな顔で。
「……では、我もその夢を見させてもらいましょうか」
その顔を見た我は、こう言わすにはいられませんでした。
「え?」
「あなたが望んだ理想を、私も見てみたくなった。それだけのことです。そのために我はあなたに協力しましょう、セイカ」
未来に希望を持つ、とはこういったことなのでしょう。苦難の中でこそ光を追い求める。それを当たり前のように行う彼女の姿は、我にはひどく眩しく見えました。
「あいつまーた人をたらしこんでるよ」
「ふふっ、やっぱりセイカちゃんはすごいなあ」
総力戦開始の合図
セイア……というかティーパーティー所有のジェット機兼戦闘機とかいう意味のわからないものの機内で、私は今回の戦いのために集まってくれたみんなの顔を見渡していた。
アビドス廃校対策委員会
便利屋68
補習授業部
ティーパーティー
アヤメとナグサの百鬼夜行組
謎に娘になったアイムたちと、彼女たちに寄り添うマルクト
そして忘れてはならないアヤとユメノ
中々の人数だ。本編でもこの規模の人数が一箇所に集まったことはないんじゃないか?そう思わせる程の人数の少女たちが、この命をかけた作戦に協力の意を示してくれた。それに応えるため、そして何よりも皆を救うために全力を尽くすのは当然のことなのだが……
「……これ、私がやらなきゃ駄目なやつかい?」
「今回の中心はどう考えてもセイカでしょ」
「せっかくみんなで集まったんだし、おー!ってやろうよ!」
そう、私はこの錚々たるメンツの前に立たされて音頭を取らされそうになっていた。
いやなんでだ!?せめて君がやってくれよオリジナル!駄目か?そうだよなチクショウ!
「あー……んんっ」
備え付けのマイクに向けて咳払いをする。今さらどうこうするのは無理だろう。ならば腹をくくろうじゃないか。
「まずは今日この場に集まってくれた君たちに、最大限の感謝の意を示そうと思う。本当にありがとう。今回の作戦は想像以上に過酷なものになる。それで得られる報酬は人数人の命だけ。別途する命の個数に比べたら割に合わないリターンかもしれない。だが、私は見たい。ここにいる者だけではない。本当の意味で全員が揃い、皆で笑い合えるハッピーエンドを。だから頼む。どうか私たちに、力を貸してくれないか?」
私の頼みに応える声が、あちこちから上がった。
「……ありがとう。ならば私が言うべきことは一つだけだ。この戦い、必ずや生きて目的を果たそうではないか!行くぞ、みんな!」
狭い機内に鬨の声が響き渡る。さあ、ここからが始まりだ。待っていろ、最低な用途で蘇させられし偽物たち、そしてその裏で暗躍する無名の司祭共。お前らの思い通りになどさせてやるものか。ボクたちは必ずお前らを打ち倒し、みんなで笑い合える青春の日々を取り戻してみせる。
――たとえ、どんな手を使ったとしても。
お姫様は城を出る
ティーパーティーの中で仲間外れ感があったナギサのお話です
彼女だけセイカとの単独での絡みがなかったので、その辺りを意識して書きました
後裏話ですが、ここだけ書いてくたばった(比喩)ので書いた時に考えていたことをよく覚えていません
変わるあなたと変わらない私
苦戦しまくったホシノの話です
思考がめんどくさい(唐突な悪口)せいでめちゃくちゃ書きづらかったです
正直これでちゃんと表現できてるのか怪しいですが、今のホシノの心境とついでにユメノ→セイカの感情を表してみました
情けは人の為ならず
補習授業部の話です
今回の中で一番書きやすかった気がします
内容としては補習授業部とアヤの関係性についてですね
どこか一線を引いていたアヤが踏み込む話でもあります
ある意味クリスマス短編の伏線回収といえる……のかも?
アウトローな依頼が一件
みんな大好き便利屋の話です
あまりにもアルちゃんがアウトローになりすぎた結果速攻で話がまとまったので特に解説はありません
妖と友達と頼み事
アヤメとおまけにナグサの話です
アヤメが抱えていた感情はどんなものだったのか、そんなお話です
結論:高度なツンデレ
「お母様」誕生秘話
偽アイン・ソフ・オウル改めアイム・ソウ・オウンの話です
作中の英文意訳は作者のガバガバイングリッシュです
いい感じの名前を考えた結果、
何か違っていても雰囲気で誤魔化されてください
少女たちは
アイム・ソウ・オウン視点の話にしてタイトル回収の話です
激重感情持ちを増やしたいな、せやセイカに脳を焼かせよう!
そんな感じのお話です
このくらい強引な展開じゃないと救済できなさそうだったともいう
失った少女が見た
マルクト視点でのセイカについての話です
先生という強すぎる極光ではなく、等身大で不安定な灯火の方が優しく寄り添える……みたいな感じのお話です
作者の中でも特にふわふわした感じで書かれた話なので上手く言語化ができません(おい)
総力戦開始の合図
ここまで書きたかったというかここが書きたかった的な話です
ここまで一話に収められると思ってた作者がいるってマジ?文字数エグいことになってんだけど
話の内容としてはここまでがプロローグだよって感じの話です
ここから本格的に作戦が始まっていきます
……作者が続きをちゃんと書けば、ですが
今回はいつもと違い各キャラの一人称視点で書いたせいで苦戦しました
だからといって失踪の言い訳にしていいとは思っていませんが
この作品を楽しんでくれていた皆さんには本当に申し訳ありませんでした
原作ではもうメインストーリー二章も始まりましたし、どうにかデカグラマトン編は終わらせたいところです
ここからの構想も穴だらけでプロットもクソもない状態ですが、どうにか続きを書いてこのデカグラマトン編を完結させられればいいなと思っています
ここからはユメノ編みたいに急に展開が加速するかもしれないし、逆に間延びする可能性だってあります
最悪また数カ月の間が更新間隔が空くかもしれません
それでもこの作品が好きだ!という神みたいな読者様は感想を送って作者を応援しよう!(プ○キュア並間)
……次回は早めに出したいなぁ