もう太陽が沈みかけた深い森の中を、異様な恰好をした男が一人黙々と歩を進めていた。
男は左手に杖の様な物を突き、こげ茶色のぼろ布を器用に体に纏っていた。それだけなら乞食の様な者かとあまり気にすることも無いだろうが、この男は右の腰辺りに爪の様な形の金属製の刃物を持ち、手首と足首に枷をつけていて、さらに全身に包帯を巻いていた。
しかもその包帯には大量の、それこそ気持ち悪くなるほどの呪言がびっしりと、隙間無く書かれていた。
そして、もう完全に太陽が見えなくなった頃に、ふと、思いついたかのように男は呟こうとして、
「……」
失敗した。
どうやらこの男は上手く話す事が出来ない様である。掠れた空気の音しか聞こえない。他にも色々な障害を持っている様で、よく見れば右の眼も包帯に依って隠されている。
男は何度かゴホンゴホンとわざとらしい咳払いを後、首を傾げて口を開き、声を出す練習をし始めた。何度か繰り返し満足したのか大きく頷き、再び呟いた。
「……陽が暮れるまでには森を出たかったんだが、無理だったようだ」
別に思いつきで言おうとした言葉を無理に言い直さなくても良いのだが、この男は変な所で頑固な様である。
そうしていると男は急に歩く方向を変え、其方に歩き始めた。
歩き始めて大分時間が経つと、小さな川が見えて来た。男は川に近づき、どこから取り出したのか紐のついた、人ひとりがまるまる入れそうな桶を取り出し、それを川に投げ入れた。
男は桶に水が入り切ったのを確認すると、紐を引き、桶を手元まで持ってきた。
ふぅ……と息を吐くと、突然座り込み、杖を傍らに置き、男は身に纏っていたぼろ布を脱ぎ、包帯を取り始めた。どうやら体を洗う様であるが、夜に、しかも森の中でそんな事をすれば、獣等に襲われて命を落とすのは容易に想像のつく事である。
しかし、男はそんな事関係無いとでも言う様に、手慣れた様子で包帯を取っていく。よほど自身の力に自信があるのか、それともそれらの存在に襲われない確信があるのか、はたまたただの阿呆か…。
そうして少しばかり時間が経ち、男は何かに襲われる訳でも無く包帯を外し終わった。
包帯を取った男の容姿は中々のものである、黒髪黒目の整った顔立ちに、バランスのとれた細身の体、これだけなら何故包帯をつけているのか困惑するのであろうが、男の体には大量の傷がついていた。火傷や切り傷、抉られた様な後もついていて、右の瞳も完全に白濁している。さらに傷だらけの体には、傷を隠すように上から重ねられた真っ黒な刺青もあり、しかもそれが術式の様な形をとっているので、完全に容姿によるプラス印象を破壊している。
そそくさと男が桶に入り体を洗っていると、いきなり男の後ろの空間が裂けた。男は後ろを一瞥すると、軽く喉の調子を確かめる様に咳払いをし口を開いた。
「紫か……、何か用か?」
「いえ、少し心配になって見に来ただけよ?、
「……そうかい」
どうやらこの男の名前は畏徒と言うらしく、紫は畏徒を心配してきた様である。事実、紫は畏徒の体を見てどこか不安そうにしている。
「調子は如何?」
「概ね良好」
「ふむ、重体ね、家に来て休みなさい」
「……お前は俺の心配をし過ぎだ。大丈夫だと言っているのに」
「あなたの言う大丈夫は大丈夫とは言わないわ」
「むぅ」
言い負かされた様である。このままこの話をし続けても勝ち目が無いと思ったのか、畏徒は話の内容を変え様とするようで。
「……服を着ていいか?あまりこの体は見せたいものでは無いんだ」
「ええ、構わないわ、少し離れてるわね」
着替える事にしたらしく、脱ぐ時と同じ様に失敗する事無く包帯を巻いていった。
数分が経ち。
「もう……良い、ぞ……」
「相変わらず包帯を巻くのは速いわね」
少し会話するのに間が空いたので声を出しずらそうにして、紫に声をかける。それと同時に咳払いをする。
「それで、……本来の要件はなんだ?」
「あら酷い、これでも結構心配しているのよ?」
「そうかい、それはありがたいな」
「……まあいいわ、知らせる事があるのは事実だから」
「知らせる事とは?」
「焦らないの、実はね……」
紫が語った内容は、幻想郷に作り挙げた新たなルール、スペルカードルールを広めるために異変と言う事件の様なものを起こし、それを新たなルールを用いて解決するという事。そのため異変を起こす役割を、霧の湖の岬に住んでいる吸血鬼に頼んだので、すぐ異変が起こる訳でも無いがあまり霧の湖に近づかないで欲しいという事。
畏徒はそれを承諾するが、その話を聞き一つの疑問が湧く。
「しかし、何故吸血鬼を使うんだ?プライドが高く使いづらいだろうに」
「ああ、それはね?幻想郷には基本的に西洋の概念が薄いから、吸血鬼が吸血鬼として存在するのが難しいのよ」
「……なるほど、だから異変を使い吸血鬼の名を広めるのか」
「ええ、そのために鴉天狗とも契約したしね」
「新聞か……。それじゃあもう移動する、知らせてくれてありがとう、助かった」
「ふふふ、この位なら幾らでもするわ。もう一度言うけど、あなたなら能力を使えば切り抜けれるだろうけど、湖に近づかないように、それじゃあね」
紫はそう言って、空間の裂け目へと手を振りながら入って行った。
畏徒は空間が閉じるのを確認すると、川沿いに
初めまして、inaです。
これからよろしくお願いします。
え?主人公の名前がDQNネーム?気にしないでください。
※感想で指摘があったので文に間隔をあけました。
変な所があれば、教えてくださるとうれしいです。