獪岳の刃 〜鬼を斬るか腹を切るか〜   作:ボブ・ニンジャ

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第10話

 

 

……翌日、昼。

 

「Really unfortunately……」

 

アンジェリカはかぶりを振った。

金髪碧眼の彼女が浴衣を着ているのは少し異様ななりだ。

 

「というわけで残念ながら、カイガクはヨリイチ・ヒャクシキに負けたらしいのことです」

「あ、あの……時透さん」

 

善逸がおずおずと切り出す。

 

「なんでその話を俺にするんです?」

「そうだよ」

 

獪岳が口を挟む。

額に湿布を貼り、憮然とした表情だ。

3人は、刀鍛冶の里の中……

ある屋敷の座敷に集まっていた。

 

「俺が何に負けようと、そのカスには関係ねえだろ」

「関係ありますです。──ゼンイツ、カイガク。新しい刀できるまで1週間と少しかかることですね貴方たち?」

「はい」

「ああ」

「So that, I'll give you a mission for the week.」

「え?何て?」

「こいつまた呑んでるな」

 

善逸が困惑し、獪岳が呆れる。

アンジェリカは咳払いしてから、あらためて言った。

 

「貴方たちに任務を与えるです。1週間後、2人でヨリイチ・ヒャクシキと試合して勝つしてください」

「ええっ!?」

「何ぃ!?」

 

善逸は後ずさり、獪岳は思わず腰を浮かした。

 

「無理です無理です!全部の呼吸の全部の技を使える傀儡人形を倒すなんて!」

「全部違います、Basic five breathing。基本の5個だけ聞きました」

「なんで試合なんてしなきゃいけねえんだよ!」

 

獪岳は食ってかかった。

 

「呼吸術を使う相手との試合なんて鬼と戦ううえでどう役に立つってんだ!?」

「呼吸術使う鬼もいるます」

「どういう経歴なんだよそいつは!?」

「だいたい貴方、私に教えられる始めてから1年経ちます」

 

アンジェリカは酒臭い溜め息を吐いて見返す。

 

「私柱です。柱に1年教えられる、自分が柱になっても普通の時間です。人形なんかに負ける本当がっかりです私」

「な……何だと、テメッ……それは……」

 

獪岳は何か言い逃れしようとしたが、思いつかなかった。

ぐうの音も出ないとはこのことだった。

あるいは、1年以上前ならもっと見苦しく反論したかもしれない。

しかし彼も暗黒島以降の経験で少しは精神的に成長しつつあったのだ。

 

(((し……仕方ねえ。1週間適当に鍛錬して適当に戦うか。前回より善戦できりゃ言い訳は立つ)))

「あとカイガク、貴方試合に勝てなかったらハラキリです」

「何ぃ!?」

 

死の宣告は突然だった。

獪岳は肝を潰して立ち上がる。

 

「冗談じゃねえ!鬼に負けたってならともかく、なんでそんな練習試合で負けたからって死ななきゃなんねえんだよ!」

「ここで勝てないようならこれから先良くなるないです。1年前のこと責任取って死ぬ方がいいですね貴方」

 

アンジェリカは薄情に言う。

そして善逸を見て、

 

「あ、ゼンイツ。貴方は負けてもハラキリしなくていいです」

「あっ、はい」

「でも一生懸命やるください、これ貴方にとって連携のtrainingです。柱の命令です」

「はあ……」

 

善逸は内心胸を撫で下ろした。

しかし横で獪岳がわなわなと震えており、喜べない。

 

「1週間、2人でたくさん鍛錬するいいです。わかりましたか」

 

アンジェリカは立ち上がり、

 

「あ、でも里に今もう1人柱いることです。鍛錬の前に挨拶してくるいいですね」

 

それだけ言い残して、座敷を去った。

 

 

 ◆

 

 

「あのクソアマ、信じられねえ」

 

獪岳は憮然とした顔で言った。

 

「前から薄情なやつだとは思ってたが、まさかここまでとは……」

「ぐへへぇ〜!もうダメだぁ!」

 

善逸は泣きながら彼についてくる。

2人は昼の日差しの下、里を横切る大通りを歩いていた。

 

「俺も獪岳も最強無敵の傀儡人形にボコボコにされる!そして獪岳は切腹になるんだぁ!」

「テメエ、何で俺まで負ける前提なんだ!」

「だって1回負けたんだろ!?」

「油断しただけだ!ほざきやがって、殺すぞカスが!」

「いてててて!やめてくれえ!」

 

その騒動の最中、2人の刀鍛冶が近くを通り過ぎる。

 

「恋柱様の刀はいつ仕上がるんだ?」

「2週間かかるそうだ。あれは特殊だからな」

 

彼らの話し声に、獪岳は注意を引かれた。

恋柱……

この里にいるという、もう1人の柱。

 

「恋っていうからには、恋の呼吸を使うのか?一体どんなやつなんだ、そんなファンシーな技を使うのは」

「炭治郎が言ってたけど、キレイな人だってよ」

「タンジロー?」

「俺の友達だ」

「友達?……お前に友達……?」

「なんだよその顔!?できるよ俺にだって友達くらい!」

 

善逸は必死に弁明していたが、やがて何か思いついたようだった。

 

「待てよ、キレイな人だと?どんな美女なんだ?──早く行こうぜ!」

「ア!?おい待……」

 

そして、獪岳が呼び止めるより速く、先に走っていく。

おそろしく足が速い。

……あれが、霹靂一閃を使いこなすに足る脚力なのか。

獪岳は忌々しげに舌打ちしてから、急いでそれについていった。

 

 

 ◆

 

 

……里内、屋外訓練場。

昨晩獪岳と縁壱百式が戦った場所には、今は別の人物がいた。

 

「恋の呼吸、壱ノ型──初恋のわななき!」

 

少女が駆け抜けると、巻藁は真っ二つに切断された。

髪と同じ桜色の刃が空間を踊る。

 

「弐ノ型──懊悩巡る恋!」

 

第二撃が別の巻藁を粉々に切り刻む。

彼女の刀はリボンのように長く、しなやかだった。

 

「か、可愛い……!」

 

善逸はそれを遠目に見て、目を輝かせた。

 

「おい獪岳、見ろよあれを!きっとあのカワイコちゃんが恋柱だぜ、だってあんなにカワイコちゃんだもん!」

「乳房が……」

 

獪岳は弟弟子の言葉に答えない。

獪岳の視線は、少女の服の大きく開いた胸元……

艶やかな乳房に釘付けだった。

 

「乳房が零れ出そうだ」

「なんだよ獪岳このヤロー!露骨なところに目をつけるじゃねーかよこのヤロー!」

 

善逸が調子に乗って小突いてくる。

しかし獪岳は怒らなかった。

少女が跳ね回るたびに弾力を発揮する乳房に夢中だったからだ。

 

(((──あれ?こいつ、刀持ってるな)))

 

獪岳の頭の隅で、わずかな疑問が生じる。

 

(((恋柱の刀は新造だか修理だかに2週間かかるって話だったんじゃ……?)))

「あのー!ちょっとすみませーん!」

 

善逸が軽やかな足取りで進み出る。

桜髪の少女はそれを見て、表情を明るくした。

 

「あれ?貴方はたしか……我妻善逸くん!」

「えーっ俺のこと知ってるんですかぁ!?」

「知ってるよ!十二鬼月と戦ってすごい頑張ったんだよねぇ!」

「そうです頑張ったんです俺ー!足折れたりしたけど!」

「あっ、申し遅れちゃった。私、甘露寺蜜璃です!」

 

少女はそう名乗り、ぺこりと頭を下げた。

善逸は腰を低くして、

 

「あのー、甘露寺さん。もしよかったら、俺たちに1週間だけ稽古をつけてくれませんか?」

「稽古?」

「俺たち、1週間で強くならないといけなくて……そこで恋柱の甘露寺さんにお力添えいただければと……」

「え?私、恋柱じゃないよ?」

「え?」

 

善逸はキョトンとした。

そして獪岳を振り返った。

 

「え?」

「いや俺を見るなよ。恋柱ってお前が言い出したんだろ」

「あっ師範ー!」

 

甘露寺が獪岳の背後に手を振る。

獪岳は何気なく振り返り……目を見開いた。

明らかに普通でない人物がそこにいた。

 

「あら?何よアータたち。アタシたちに何か用?」

 

長身で、手足は丸太のように太く、胸板は大岩のように分厚い。

その人物は明らかに男性だった。

しかし髪はやたらと長く艶々として、肌は白く……目元には夜空と星屑を描いて……

端的に言って、化粧した大男だった。

というかムキムキのオカマだった。

 

「師範!この善逸くんと獪岳くんが、1週間ほど稽古をつけて欲しいらしいです。切腹の危機らしくて」

「ンマー大変!それじゃあ一肌ヌギヌギするとしようかしらン」

 

その人物と甘露寺が話すのを尻目に、獪岳と善逸は囁きかわす。

 

「おい、まさかこいつが……」

「そんなはずないって。炭治郎はたしかに『恋柱はキレイな人』って」

「アータたち、喜びなさい!アタシが直々に教えてあげるわ」

 

オカマがズシズシと足音を鳴らして近づいてくる。

 

「この恋柱、フランソワ黒沼が……熱烈な恋の作法を、手取り足取り、みっちりとね!」

「「ウワーッ!?」」

 

善逸と獪岳は思わず叫んだ。

 

 

 ◆

 

 

レコードプレーヤーが陽気な音楽を奏でる。

道場に響き渡る。

 

「はい、アン・ドゥ・トロワ!アン・ドゥ・トロワ!」

 

フランソワはごつい手を叩いて拍子を取る。

 

「「アン・ドゥ・トロワ!アン・ドゥ・トロワ!」」

 

獪岳と善逸は踊っていた。

揃いのレオタードを着て、手足を露わにしている。

飛び跳ねてリボンをくるくると振り回す。

 

「「アン・ドゥ・トロワ!アン・ドゥ──ウワーッ!」」

 

しかしすぐに2人はぶつかり、もつれ合って倒れた。

フランソワは頬を膨らませ、

 

「コラ、獪ちゃん!アータ、下手にリズムを崩しちゃダメって何度言ったらわかるの?」

「クソーッ!もうやってられるか!」

 

獪岳は憤然としてリボンを投げ捨てた。

 

「こんな修行が何の役に立つ?素振りの1回でもした方がマシだ!」

「アラ、そうでもないわよ?」

 

一瞬の後、フランソワはもう獪岳の背後にいた。

獪岳の体にねちっこく手を這わせる。

 

「中々いい体してるじゃない、アータ」

「触んな、気色悪い!」

 

振り払ったが、空振りに終わる。

フランソワが消えた。

 

「もう、そんなに邪険にしちゃイヤよ。何も色気を出して触ったわけじゃないわ」

 

上からフランソワの声。

見上げると、フランソワは天井の梁に足を引っかけ、上下逆さにぶら下がっていた。

 

「アータの体、すでにある程度仕上がっているわ。技の精度も悪くない。アンちゃんのところで1年も修行したんだからトーのゼンね」

「だったらなんで俺は勝てねえ?なんで俺は傀儡人形ごときに負けた?」

「アータね。できるだけ速く、できるだけ強く動くのがいつでも一番いいと思ってるでしょ?」

「は?そんなの当たり前だろ。あえて遅く弱く動く理由なんて無え」

「それが思い違いなのよン」

 

フランソワは人差し指をゆっくりと左右に振った。

 

「人も鬼も、つねに相手の動きを予想しながら戦うものよ。遅いものはこれからも遅いだろう、速いものはこれからも速いだろうと。それを──狂わせる」

 

次の瞬間、フランソワはまた消えた。

しかし獪岳は、今度はわずかにその動きを目で捉えていた。

向き直った先で、フランソワは微笑している。

 

「これが緩急よ。自分の動くリズムを制御するの。──さあ獪ちゃん、リボンを拾いなさい」

「獪岳、やろう」

 

善逸が身を起こして言う。

 

「時間がない。この里で1週間で強くなろうと思ったら、この人に教えを請うしかないよ」

「……知ったふうな口聞きやがって」

 

獪岳は不満に表情を歪めながら、渋々リボンを拾った。

フランソワがレコードの針を戻し、もう一度音楽を流す。

 

「「アン・ドゥ・トロワ!アン・ドゥ・トロワ!」」

 

獪岳と善逸は踊る。

飛び跳ねてリボンをくるくると振り回す。

 

「「アン・ドゥ・トロワ!アン・ドゥ──ウワーッ!」」

 

しかしすぐに2人はぶつかり、もつれ合って倒れた。

フランソワはかぶりを振った。

 

「やれやれ、この分じゃ先は長そうね……」

「2人とも頑張れー!モグモグ」

 

甘露寺が横から声援を送る。

……饅頭を頬張りながら。

手元には大量の饅頭が山積みになっていた。

 

「蜜璃ちゃん、アータどうしたのその……お饅頭は?」

「里の人にもらいました!ジゴクガマ?ってもので蒸したらしくて。モグモグ」

「まだおやつの時間じゃないでしょ?」

「えっ……でも、蒸したてで……」

「漆ノ型の練習はどうしたの!」

「ひぃっ!すみません、やります!」

 

甘露寺は慌てて立ち上がり、自分の刀を取った。

口元に食べかすをつけたまま、新たな技の練習を始める。

道場の床を蹴って跳び、体を捻って──

 

「きゃあーっ!?」

 

そして派手に転倒した。

 

「何よアータ、この1年間ほとんど進歩してないじゃない!」

 

フランソワは呆れ果てた。

 

「アタシでもその漆ノ型を習得するのに5年かかったのよ。モタモタしてるとおばあちゃんになっちゃうわよ!」

「す、すみません!」

「「ウワーッ!」」

 

背後では、獪岳と善逸もまた転倒している。

フランソワはため息をついた。

 

「手のかかる子が3人に増えちゃった……安請け合いしちゃったかしらね……」

 

 

【続く】

 

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