獪岳の刃 〜鬼を斬るか腹を切るか〜   作:ボブ・ニンジャ

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以降、最終章となります。


下 上弦襲来編
第21話(ここまでのあらすじ付き)


 

 

(ここまでのあらすじ)

獪岳は童磨に遭遇し、味方隊士を見捨てて逃走する失態を犯してしまった。

あやうく処刑されるところだったが、その後の任務での働きを月柱・時透アンジェリカが高く評価。

彼女の部下となることで生きながらえた。

 

その後、獪岳は刀鍛冶の里において弟弟子の善逸と再会。

彼と大喧嘩の末に和解した。

2人はともに鍛錬し、獪岳が水の呼吸を習得したことも一因となって、自動戦闘傀儡人形・縁壱百式との試合に勝利する。

周囲の人々から祝福される獪岳と善逸。

 

しかし縁壱百式は今回の敗戦の咎により解体される運命を知ると、何やら不穏な企てを始めた。

さらには上弦の鬼2体と雑魚鬼100体からなる鬼の軍勢が刀鍛冶の里へ接近。

襲撃は明日の夜に迫っていたのである。

 

 

 ◆

 

 

気づくと、獪岳は見知らぬ場所にいた。

どこかの山の中だ。

木々が生い茂り、濃密な霧が立ち込めており、視界が悪い。

2〜3m先も見通せないほどである。

 

「何だってんだ、ここは……ゲホッ!」

 

獪岳は茂みをかき分けて進みながら、咳き込んだ。

息が苦しい。

吸っても吸っても楽にならず、空気ではない何か別のガスの中で溺れているような感覚。

酸素が薄いのだ。

 

(((俺はたしか、縁壱百式との試合に勝って……その晩に炭治郎と会って、"守り狐"をもらってすぐに寝たはず……)))

 

夢遊病のように、刀鍛冶の里から周囲の野山へ迷い出たか。

しかしそれにしては、きっちり隊服に着替えているのが不自然だ。

奇妙な状況である。

 

不意に、何かにつまずいた。

茂みの陰に縄がピンと張ってある。

 

「は?何だこりゃ、危ねえな──うおっ!?」

 

獪岳は慌てて飛び退いた。

近くの木の陰から、縄で吊られた丸太が振り子のように突っ込んできたからだ。

 

獪岳はハッとした。

飛び退いた拍子に、また別の縄に足が触れてしまっている。

回避した先を狙って設置されていたのだ。

 

とたんに、新たな丸太が飛来する。

それも今回は2つ同時。

広い範囲を薙ぎ払うような軌道だ。

 

(((こりゃ罠か?とんでもねえ山だ、ここは!)))

 

獪岳はとっさに雷の呼吸を使い、身体能力をブーストして回避しようとした。

息を吸い込み──吸い込もうとして──

 

「ガハッ、ゲホッ!?」

 

咳き込み、よろめいた。

酸素が薄いからだ。

──次の瞬間、丸太が獪岳の横面にめり込んだ。

 

「ぐはあっ!」

 

獪岳は吹き飛ばされた。

一瞬の気絶……耳鳴り。

どうにか起き上がると、周囲は草木が刈られた広場だった。

真っ二つに割られた大岩が鎮座しているのが目につく。

 

「──弱いな」

 

背後から声。

振り返ると、宍色(ししいろ)の髪の少年がそこに立っていた。

木彫りの狐の面を被っている。

 

「お前は外ではそれなりの鬼狩りなのだろう。しかしこの山では女よりも無力だ」

「ああ……?なんだテメエ、このガキ。いきなりご挨拶じゃねえか」

 

獪岳は肩をそびやかせて応じ……

そして、訝しんだ。

少年が付けている狐面が、滝沢のそれに似ていることに気づいたからだ。

 

「俺の名は錆兎(さびと)。滝沢鯉竜の兄だ」

「は……?お前どう見てもあいつより歳下じゃねえか。それに、あいつに身内がいたなんて話は」

「仔細はどうでもいい。──獪岳、俺と勝負しろ」

 

錆兎はどこからともなく木刀を取り出し、突きつける。

獪岳は、自分の足元にも木刀が転がっているのに気づいた。

 

「……何で俺がお前と勝負しなきゃならねえ」

「怖いのか?歳でも体格でも勝っている相手と試合をするのが。男らしくもないな」

「テメエ、言わせておけば!」

 

獪岳は頭に血を上らせた。

足元の木刀を蹴り上げ、空中で掴み取る。

 

「弱いだの男らしくないだの、好き勝手ほざきやがって。その面ぶち割ってやる」

「やってみろ」

 

……やがて、2人の試合は始まった。

互いに木刀を構え、一定の間合いを維持しつつすり足で動き回る。

隙を伺う。

 

(((こいつ、滝沢の身内ということは……奴と同様、水の呼吸が使えるに違いねえ)))

 

獪岳は考える。

……この空気の薄い環境では、雷の呼吸はうまく機能しないようだ。

しかしおそらく水の呼吸は機能するのだろう。

だからこそ錆兎はそれを笠に着て、強気に挑んできた。

 

(((だがあいにく、今や俺も水の呼吸が使える。あとは体格差で押し潰せるぜ!)))

 

獪岳は踏み込んだ。

息を吸い込み、体に酸素を巡らせる。

──やはり水の呼吸は使える!

 

「肆ノ型、打ち潮!」

 

獪岳は会心の笑みとともに木刀を振るい、荒波のごとく苛烈な連続攻撃を繰り出す。

鯖兎は冷静だった。

滑るように動き、折り重なる荒波のわずかな隙間にするりと入り込む。

 

「参ノ型、流流舞」

 

そして最小限の剣捌きで獪岳の攻撃をことごとく受け流し、逸らして、無力化した。

獪岳は驚愕に目を見開いた。

錆兎はその懐にまで踏み込み、突き技を繰り出す。

 

「漆ノ型、雫波紋突き」

「ぐがっ!?」

 

木刀の切先が喉を襲った。

獪岳はよろめき、膝をついて、しばらくの間喉の激痛と咳に苦しむことになった。

 

「言っておくが、実戦経験でも俺はお前に劣っている。それが何故こんな結果になるか」

 

錆兎はそのさまを見下ろし、冷然と言う。

 

「お前の水の呼吸が、急ごしらえもいいところ、上っ面を撫でただけの出来損ないだからだ」

「ゲホッゲホッ!な、何だとォ……!」

「今からお前を鍛えてやる。水の呼吸を基礎から叩き直せ」

「指図すんじゃねえ……!なんだって俺がそんなことを」

「嫌でもやってもらう。お前の意思は考慮しない」

 

その狐面の奥で、強い意志を感じさせる瞳がぎらりと輝いた。

 

「真の水の呼吸の使い手になれなければ、この狭霧山(さぎりやま)から(うつつ)の世界へは帰さん!」

 

 

 ◆

 

 

「おーい、獪岳。まだ寝てるのか?」

 

善逸はフスマ越しに声をかけた。

しかし、やはり返答はない。

 

「What's happen? 何の面倒ごとですか」

「あっ、時透さん」

 

通りかかったのは時透アンジェリカだった。

今日もどこかへ出かけて鍛錬していたが、昼食のために里の中心街へ戻ってきたらしい。

 

「獪岳のやつ、まだ寝てるみたいなんですよ。もう昼なのに」

「Oh, 死にましたか?」

「死……いや、唸り声とか衣擦れの音は聞こえるんです」

「Hmm. どうしましたかね彼」

 

アンジェリカはそう言いながら、無遠慮にフスマを開けて獪岳の自室へ入った。

善逸は少し面食らいながらそれに続いた。

 

「ウウーッ……水面斬り……水面斬り……」

 

獪岳は悪魔にうなされていた。

眉間に皺を寄せ、何か小さな金属製の仏像のようなものを握りしめて、布団の中で身悶えしているのだ。

しきりにうわ言を呟いている。

 

「I see. これ、里来るときと同じことですね」

 

アンジェリカは指を鳴らし、

 

「ゼンイツ、心配ないです。そのうちちゃんと起きます彼」

「え……?本当ですか」

「前もちゃんと起きたのことです。さあ、lunchtimeしますですよ!」

 

そう言って、上機嫌に食堂の方へ歩いて行った。

 

(((そんな頻繁にうなされてるのか……。何か昔のことでトラウマがあるのかな)))

 

善逸は慮りつつ、乱れた掛布団を直してやった。

獪岳のうわごとは続く。

 

「ウーン……水面斬り……水面斬り……水車!水車!」

(((あっ、弐ノ型になった)))

 

……もしや、夢の中で水の呼吸の鍛錬をしているのかもしれない。

全ての型を鍛え上げたら目を覚ますのだろうか。

 

 

 ◆

 

 

「じゃあ次、行きますよ!」

 

炭治郎は大声で言い、手にした硬球を舶来品のピッチングマシンへ入れた。

シュコーン!

高速回転するローラー機構が、硬球を時速150kmで射出する。

 

「えーいっ!」

 

甘露寺は新体操用のリボンをひらめかせた。

硬球を空中で巻き取り、その軌道を変えて、まったく別の方向にいるフランソワ黒沼の方へ投げ放つ。

 

「ストライク!いいわよ、蜜璃ちゃん!」

 

フランソワはキャッチャーミットで硬球を捕捉しつつ言う。

さらに、空き手でストライクゾーンの上下左右を指さして、

 

「次は4球、ここにちょうだい!」

「どんどん行きますよ!」

 

炭治郎は硬球を次々にピッチングマシンへ入れる。

シュコーン!シュコーン!シュコーン!シュコーン!

 

「えーいっ!ふんっ!はあっ!やあっ!」

 

数珠繋ぎになって射出される硬球を、甘露寺は次々に反射・偏向してみせた。

それぞれがフランソワのストライクゾーンの上下左右をめがけて飛ぶ。

 

「あーら、ダメよ!最後の1球がちょっとズレたわよン!」

 

フランソワは目まぐるしいスピードでキャッチャーミットを動かし、そのすべてをキャッチした。

そして甘露寺を見やり、

 

「蜜璃ちゃん、ボールを見て対応するんじゃダメよ?それじゃいつか必ず後手に回るわ」

「えーっと、じゃあどうすれば」

「炭ちゃんを見るの。炭ちゃんの視線の動きや手元の動き、筋肉の緊張、息遣いを観察なさい。攻撃に転じる前に必ず予兆があるわ」

 

その指導を、炭治郎は傍で興味深く聞いていた。

……恋の呼吸、漆ノ型「相思相愛」。

敵の攻撃を反射し、狙った場所に撃ち返す技らしい。

相当に難易度が高いらしく、現状この技を扱えるのはフランソワ黒沼ただ一人だという。

 

「予兆を完全に捉えて十分に闘気を乗せた刀でジャストミートすれば、鬼の異能で作り出された実体のない攻撃でも弾き返せるわ!頑張りなさい!」

「はい!頑張ります!」

 

シュコーン!シュコーン!シュコーン!

鍛錬は続く。

 

「そういえば炭ちゃん、アータ自分の刀はどうなったの?」

 

その最中、フランソワが炭治郎に話しかけた。

 

「たしか、いい刀が手に入ったから担当の刀鍛冶さんに調整してもらってるって話だったかしら」

「はい!その作業がちょうどさっき終わったところで」

 

炭治郎は自分の腰の刀を見下ろした。

小鉄博士から受け取った"始まりの剣士"の日輪刀をもとに、各種の拵えを炭治郎に合う形に調整したものだ。

鍔は今は亡き炎柱・煉獄のものを受け継いでいる。

 

「次の任務ももらったので、明日の朝には里を出る予定です。禰豆子と一緒に」

「あら、じゃあ明日の朝で私たちお別れねン」

「黒沼さんたちはまだこの里に?」

「ええ。私の日輪刀、修理にあと何日かかかっちゃうのよね。蜜璃ちゃんにも付き合ってもらうわ」

「なるほ――ぐわっ!」

 

炭治郎の頭に硬球が直撃した。

 

「うわあ!炭治郎くんごめん、すっぽ抜けて変な方向に!」

 

甘露寺が慌てて謝罪する。

……3人のいる屋外鍛錬場は、少しずつ薄暗くなりつつあった。

空を覆う分厚い雲の向こうで太陽が沈みつつあるのだ。

 

 

 ◆

 

 

「もうこんな時間か」

 

小鉄博士は周囲が薄暗いことにふと気づき、石油ランプに火を入れた。

雑然とした仕事場が照らし出される。

博士は製図机へ戻り、書きなぐった設計図を前に唸った。

 

なんとか縁壱百式を解体せずに済む方法を考えたが、行き詰まっている。

百式はすでに数十回の機能追加を経験しており、そのたび機体の内部に新たな機構を組み込んできた。

それももう限界だ。

百式をこれ以上改良するには、機体内部のスペースも稼働エネルギーも絶対的に足りない。

 

百式を改良することができないならば、やはり新しい傀儡人形を作るほかない。

さもなければ、これまで多大な時間と労力と資金を投じて推進してきた自動戦闘傀儡人形プロジェクトが暗礁に乗り上げてしまう。

しかし作るには資材が足りず、追加購入する資金ももはや無い。

やはり百式を解体して、その資材を利用するしかないのか……

 

『小鉄博士。お話が』

 

部屋の外から声がかかった。

縁壱百式の声だ。

小鉄博士は一瞬どきりとしたが、咳払いして応じる。

 

「百式か。入れ」

『失礼します』

 

抜き身の日輪刀をぶら下げた百式が入ってきた。

 

 

【続く】

 




◆大正わくわく鬼図鑑③:奈楽
名前の読みは「ならく」。
稀血の子供を拉致し、それを知った鬼殺隊の追跡から逃れるため海軍基地でも騒動を起こした。
人間だった頃は裕福な家庭の令嬢だったが、近所の子供や小動物を騙して間接的に殺す悪癖があり、発覚して以降は何年も座敷牢に閉じ込められていた。
自分の分身や武具を作り出す血鬼術「宵闇一座」で戦う。
柱にはワンパンされてしまう程度の鬼。
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