獪岳の刃 〜鬼を斬るか腹を切るか〜   作:ボブ・ニンジャ

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第27話

 

 

「くそっ……!」

 

善逸は何十回目かの突撃に失敗し、慌てて民家の陰へ退避した。

刀鍛冶の里を貫く大通り──

その右側にある建物の屋根の上に、男の鬼が1体。

 

「ハハハァ!何度やっても無駄なことだ、蒲公英(たんぽぽ)頭の鬼狩りめ!」

 

鈍色の着物を着た無個性な鬼だ。

弾切れになった両手の拳銃を捨て、今、新たに吐き出した銃に持ち替えた。

無限の胃袋を持つ鬼、呑山!

 

「きぃぃーっ!また吊り損ねた!呪われろ!呪われろ!」

 

さらに左側の建物の屋根の上に、女の鬼が1体。

柘榴色の着物を着て、ワンレングスの黒髪を振り乱す。

忌まわしき異能の鬼、括媛(くくりひめ)

 

「っ!」

 

善逸は頭上から風切り音を聞き、とっさに身をかわした。

直後、さっきまで立っていた場所を破壊音波が直撃。

地面が砕けた。

 

「歓喜の宴はまだ始まったばかりだぞ、鬼狩り!」

 

頭上の空に、両腕を鳥の翼へ変じさせた鬼が1体飛行している。

両目の瞳には「上弦」「肆」の文字。

半天狗の分身のうち1体、空喜!

 

「黙るな!止まるな!安穏とした生から、刹那的で刺激的な喜びの中へ身を投げろ!カァーッ!」

 

また口を開き、破壊音波を撃ち出した。

善逸は回避せざるを得ない。

建物の陰から、見通しのいい路上へ追い出される。

 

「妬むわ!嫉むわ!あなたの全て、全部台無しになりなさい!」

 

括媛が手に持った日本人形を掲げ、血鬼術を発動した。

頭上の何もない場所から、ヒュルルと音を立てて首吊り縄が降りてきた。

善逸の首に巻きつこうとする。

 

「"霹靂一閃!"」

 

善逸は間一髪、居合斬りを繰り出して首吊り縄を斬り払う。

 

「私はこんなに恵まれなくて、苦しんでいるのよ!許されない!不公平よ!」

 

括媛は何やらわめきながら、さらに念じる。

ヒュルル!ヒュルル!ヒュルル!

善逸を狙って連続で首吊り縄が降ってくる!

 

「俺はイライラしてんだよ!鬱憤を晴らさせてくれやァ!」

 

さらに、右側から呑山が両手の銃をぶっ放す。

善逸の周囲で首吊り縄がない場所を、銃弾が薙ぎ払う。

 

「"霹靂一閃・三連"!」

 

善逸は三連続で技を繰り出し、高速移動で強引に回避した。

そして反撃に転じようとしたが、

 

「俺の美声を拝聴し、歓喜に酔いしれろ!カァーッ!」

 

旋回してきた空喜が再び破壊音波で爆撃をかける。

善逸は回避に徹さざるを得ない。

そうしている間にも、新たな首吊り縄と銃弾が襲い来る。

反撃に転じる隙が無い。

 

善逸もまた、フランソワが放った鴉から事情を聞いていた。

獪岳に合流しようと神社を目指したが、その途中にこの3体の鬼が待ち構えていたのだ。

ずいぶん長い間戦っているが、向こうの弾幕に歯が立たない状況が続いている。

 

善逸の足にずきりと痛みが走る。

まだ"神速"や"火雷神"は使っていないが、さっきから十字砲火を回避するために霹靂一閃の連発を強いられている。

足への負担は重い。

 

「オェェーッ!これならどうだ!」

 

さらには、呑山が必殺兵器マキシム機関銃を取り出し──

その頭部が、ポンと空中へ吹き飛んだ。

頸を斬られたのだ。

 

「え」

 

呑山の生首は空中で目を瞬いた。

自分の首なし死体が屋根瓦の上に倒れ込むのが見える。

その横で、刀を振り抜いた姿勢の剣士が1人。

 

「──"遠雷"」

 

獪岳だ。

 

「ぴぐぅ!?何よあいつ!?」

「愚か者、構えろ!蒲公英頭が来るぞ!」

 

括媛が怯え、空喜がそれを叱咤した。

善逸がロケットスタートを切り、括媛めがけ駆け出している。

 

「絶対死んでよォッ!血鬼術、"死屍肉林(ししにくりん)"!」

「終幕に歓喜しろ!血鬼術、"狂鳴連弾殺(きょうめいれんだんさつ)"!」

 

2体の鬼は同時に大技を放った。

無数の首吊り縄と破壊音波の砲弾が、善逸をめがけて飛んだ。

 

(((突破できはしない!この弾幕密度!)))

 

空喜は確信した。

敵が前に進もうとする限り、絶対にどれかの攻撃に当たる。

攻撃に当たれば足が止まる。

こちらが陣形を組み直す猶予が生まれる。

案の定、蒲公英頭の鬼狩りは今まさに、破壊音波のうちの1発へ自ら突っ込んで──

 

「ああああああ!!」

 

善逸は根性で耐えた。

体のあちこちで血を弾けさせ、耳から血を噴き出しながらも……

決して、足を止めない!

 

「雷の呼吸、壱ノ型──"霹靂一閃"!」

「いやあああああ!!」

 

善逸自身の血に塗れた一撃が、括媛の頸をはねた。

善逸はまだ足を止めない。

さらにどこかへ踏み込もうとしている。

 

「こいつ……!」

「テメーッこれでも喰らえや!」

「ぐわあっ!?」

 

空喜は善逸に対して何か対応しようとした。

しかし獪岳がリボルバー拳銃の3連射を撃ち込み、怯ませて阻止する。

 

「──"二連"!」

「ぐわあああーっ!?」

 

直後、善逸がジャンプしながら放った斬撃が命中した。

空喜の生首が吹き飛び──

その耳が小さな翼に変化して、羽ばたいた。

 

「バカめ!俺たちは頸を斬られても死なんのだ」

 

空喜の生首は笑いながら言う。

 

「貴様ら稲荷神社へ行くつもりだろうが、そうはさせんぞ。また会おう!」

 

そして小さな翼で羽ばたき、稲荷神社の方へ飛んでいった。

 

「畜生!雑用にこき使われて、終いにはこれかよ!納得いかねえ!」

「どうしてみんな私ばかり虐めるの!?嫌い!何もかも嫌いよ!あああー!」

 

呑山と括媛の生首は、騒ぎ立てながら、チリとなって消えていった。

この場の戦いはひとまず終わったのだ。

血まみれの善逸が着地する。

獪岳は刀を収め、そちらへ駆け寄った。

 

「おい善逸!お前大丈夫かよ?」

「えっ、ごめん。何て?」

「だ・い・じょ・う・ぶ・か?」

 

獪岳は善逸が耳からも血を流しているのを見て、口を大げさに動かして話しかける。

 

「大丈夫だ、なんてことない。──あっ、ちょっとずつ音が戻ってきた」

「ならいいが……」

「獪岳も怪我してるじゃないか!肩と……脇腹もか?」

「薬キメてるから大丈夫だ」

「大丈夫じゃないだろそれ……」

「そんなことより、これだ」

 

獪岳は腰に差していた刀を差し出した。

善逸は一瞬呆けたような顔をしたが、すぐに悟った。

 

「俺の刀か!?うわーっ、ありがとう!」

「礼なら須藤に言え」

 

善逸は新たな愛刀を抜き、その柄の質感や刃のきらめきに目を輝かせる。

それを見ながら、獪岳は渋い顔をして考えていた。

人並外れた聴力を持ち、今までそれありきで戦ってきたであろう善逸に対して、耳へのダメージ。

危険の予感がする。

……しかし今夜は、それを理由に善逸を休ませられるほど人手に余裕がない。

 

獪岳が見回すと、近くに大量の銃が散乱している。

呑山が使い捨てたものだ。

いくつか拾ってみるが、どれもこれも弾が切れている。

 

「なんだ?兄貴。銃が欲しいのか?」

「飛び道具は手元に欲しい。……あれが居るからな」

 

獪岳は遠くの瓦礫の陰を指差した。

炎狐が1匹、刀鍛冶の死体を食べている。

 

「上弦の伍の眷属だ。殺すと爆発する。……霹靂一閃なら斬りつけながら逃げられるか?」

「あれはたくさんいるのか?」

「うじゃうじゃいる」

「厳しいな。倒せはするだろうけど、いちいち居合を使ってたら俺の脚が保たないと思う」

「だろうな。飛び道具で倒すか、さもなければ無視しろ」

「ああ。たぶん、上弦の伍を倒せば消えるだろうし」

「……倒す、か」

「あっゴメン、軽々しく」

「いや、いい。お前は正しい」

 

獪岳は一丁だけ弾が残っている銃を見つけた。

奇しくも、それは彼にとって因縁の品だった。

 

「俺が滝沢を倒す」

 

モーゼルC96を懐にしまう。

やけに重く感じられるのは、この銃にまつわる過去の苦い記憶がそうさせるのか。

 

(((あの時、俺は弱くて迂闊だった。そのせいで人が死んだ。そしてアンジェリカが俺を救った)))

 

獪岳と善逸は走り出した。

散発的に現れる雑魚鬼や炎狐を返り討ちにしながら、稲荷神社へ進む。

 

さすがのアンジェリカでも、上弦2体を相手にして1人で勝つことはできまい。

彼女が無力化されれば、あの場の上弦2体が暇になって他の戦場へ加勢することになり……

フランソワや甘露寺、炭治郎も戦力差に押し潰され、鬼殺隊は全滅だ。

そうなるまでにあとどれほどの時間が残されているか。

状況は緊迫し、切迫している。

 

(((大勢の仲間が俺を鍛え、助け、ここまで送り出してくれた。俺はもう間違えない。──今度は俺がアンジェリカを救う)))

 

獪岳は胸の内で決意する。

その精神は暗黒島の時よりもはるかに強く、固く成長していた。

 

 

 ◆

 

 

「石段だ!」

 

善逸が言った。

獪岳も、正面に山の斜面を這い上っていく長い石段があるのを見てとった。

石段の果てを見上げてみれば、木々のあわいに赤い鳥居が覗いている。

あそこが稲荷神社だ。

 

どおん……。

その境内で今、爆炎が立ち上った。

戦闘が続いている。

アンジェリカはまだ戦っているのだ。

獪岳は奮い立った。

 

「よおし!一気に境内へカチコミを──」

「待て兄貴!何か来る!」

 

善逸が異音を聞き取り、警告した。

2人は足を止め、身構える。

 

ズシン。

獪岳の耳にも、腹の底に響くような低い音が聞こえてきた。

ズシン。ズシン。ズシン。

音は徐々に大きく、地震のような地面の揺れまで伴うようになる。

それは足音だ。

 

やがて足音の主が姿を現した。

石や土くれ、瓦礫を寄せ集めた巨体を持つ、牛頭の鬼だ。

巨体というのは半端なものではない。

20m以上はある。

それが今、石段の入口を背にして立ちはだかった。

 

「デカすぎんだろ……」

 

善逸は思わず呟く。

 

「どうだ、参ったか!こいつは牛頭羅というのだ」

 

空喜が飛んできた。

すでに体を再生して五体満足となっており、勝ち誇ったように笑う。

 

「今回の攻撃にあたって召集した鬼どもの中では最強の一角。デカさだけでいえば全ての鬼の中で一番だ!」

「でも十二鬼月じゃねえんだろ。なら雑魚じゃねえか」

 

獪岳はばっさり切り捨てた。

 

「バモオオオー」

 

牛頭羅が牛のような唸り声を上げた。

声も相応に大きく、空気をびりびりと震わせる。

手を差し伸べると、周囲の廃墟や地面から瓦礫や土砂がその手のひらへと吸い上げられ、成形、圧縮される。

やがて長柄の大斧が完成した。

 

「果たして雑魚かどうか、見てみるがいい。やれ、牛頭羅!」

「バモオオオー!」

 

牛頭羅は大斧で薙ぎ払う。

周囲の廃墟を粉砕しながら、刃が獪岳と善逸に迫る。

動きは遅いが攻撃範囲がおそろしく広い。

 

「"水流飛沫"!」

「"霹靂一閃"!」

 

獪岳と善逸は各々高速移動技を発動して回避した。

大斧は周囲にあるもの全てを破壊し、大地震の後じみた瓦礫の海に変えていく。

もし当たれば人間など1発で挽肉になるだろう。

 

「よし、反撃を……反撃……」

 

善逸は牛頭羅の巨躯を見上げ、目を白黒させた。

 

「なあ兄貴、どこを斬ればいいと思う!?」

「そりゃ頸だろ!」

「頸めっちゃ高いところにあるし樹齢200年の大木みたいな太さなんだけど!?」

「ヒャハハーッ!死を喜び、血の舞踏を踊れ!」

 

空喜が上空から破壊音波を打ち込んでくる。

2人がそれを回避した頃には、牛頭羅が斧の第2撃を繰り出す。

また十字砲火で足止めされている形だ。

善逸は叫ぶ。

 

「兄貴!ここは俺が引き受ける、兄貴はどうにか突破して稲荷神社へ──」

「ダメだ!お前は俺と一緒に来い!」

 

獪岳は叫び返した。

 

「黒沼も手鍋も竈門も同じことを言った。俺はそれに甘えた。だが、俺はお前と一緒でこそ全力だ。──お前は俺の、壱ノ型なんだ!」

「……!」

 

善逸は息を呑んだ。

自分が兄を頼もしく思っているように、兄も自分を頼りにしてくれている。

喜びが手足に力をみなぎらせる。

 

「2人で突破するぞ、善逸!まずあのデカブツの足を折る!」

「わかった、兄貴!」

 

獪岳と善逸は2人ともすでに全身傷だらけだ。

それでも果敢に、牛頭羅へ突撃を仕掛ける。

稲荷神社へ辿り着くための、最後の戦い……

最後の前哨戦の火蓋が切って落とされた。

 

 

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