獪岳の刃 〜鬼を斬るか腹を切るか〜   作:ボブ・ニンジャ

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第31話(ここまでのあらすじ付き)

 

 

(これまでのあらすじ)

ある日、獪岳は上弦の弍・童磨にデスエンカウント。

味方を見捨てて逃げる戦犯行為を働いてしまう。

しかし月柱・時透アンジェリカにいいところを見せ、彼女の部下となることで生きながらえた。

 

2人が刀鍛冶の里を訪れると、なんと獪岳の弟弟子・善逸もそこにいた。

獪岳と善逸は喧嘩の末に和解。

最強の傀儡人形・縁壱百式との試合へ兄弟で臨み、これに勝利する。

 

しかしその翌日の夜、鬼の大軍勢が里を襲撃した。

その頭目は上弦の肆・半天狗と、新上弦の伍・赤狐。

赤狐の正体はかつて獪岳が見捨てた隊士・滝沢だった。

 

里の外れにある稲荷神社にて、アンジェリカ&縁壱百式vs赤狐&可楽の戦いが勃発する。

獪岳は恋柱・黒沼フランソワらの助けを得て、里に跋扈する無数の鬼たちを蹴散らして突破。

善逸と合流し、稲荷神社へ辿り着く。

 

状況は鬼殺隊有利となるかに思われたが、赤狐が最終奥義"旭日天衣"を解放。

刀を溶かすほどの超高熱を全身に纏って無敵モードとなる。

獪岳、善逸、アンジェリカ、縁壱百式の4人は空前絶後のクソゲーに直面していた。

 

 

 ◆

 

 

「グルグルグル」

 

赤狐は嘲笑うかのように喉を鳴らし、白熱する手を鬼殺隊士たちの方へかざす。

 

「血鬼術……"忌炉煌々(きろこうこう)"……!」

 

次の瞬間、5本の指の先から、圧縮された白熱炎が放出された。

5筋のレーザービームが石畳や瓦礫の山を豆腐のように両断しながら迫る。

鬼殺隊士たちは必死の回避運動で死と死の狭間を掻い潜った。

 

「カカカッ!そらそらどうした、避けているだけでは勝てぬぞ!」

 

可楽が横合いからカマイタチを連射してくる。

百式がそのうち3分の1を撃ち落とす。

アンジェリカは──もはや、味方を庇う余力がなかった。

 

「ゼエッ、ハアッ、ハアッ……!」

 

アンジェリカは息も絶え絶えになりながら、半壊した日輪刀を必死に振るう。

どうにかこうにか、自分の方へ飛んでくるカマイタチを撃ち落とす。

獪岳と善逸はもはや彼女のサポートを受けられず、カマイタチ弾幕に自力で対応することを迫られた。

 

──攻撃に転じることができない。

そうしている間にも赤狐が次なるレーザー光線を、可楽は次なる破壊竜巻を発射してくる。

鬼たちのスタミナはまったく底が見えない。

ジリ貧だ。

 

『獪岳。この状況の打開策を2つ考えた』

 

百式がレーザーを掻い潜りながら口を開いた。

 

「打開策だぁ!?打開っていうからには──」

 

獪岳は赤狐を見た。

その全身で燃え上がる、白熱色の炎。

日輪刀さえ一瞬で溶かす超高温の輝き。

 

「──あのクソッタレの無敵の鎧を、どうにかできる策ってことだろうな!?」

『当然だ。堅実な"甲案"と、実現の見込みがほとんど無い"乙案"がある』

「甲案言えよ、早く!わかりきってんだろ!」

 

獪岳は自ら矢面に立ち、可楽のカマイタチを撃ち落としながら叫ぶ。

 

『私が奴に接近して雪の呼吸で冷気を放出すれば、超高温を一時的に中和できる。そこで、貴様ら3人で私を援護して奴のところへ送り込むという策だ』

「よし、やるぞ!」

『待て。話は最後まで──ぬおっ』

 

百式は赤狐のレーザーを間一髪で避けた。

急制動で負荷がかかり、焼け焦げた右半身のあちこちの関節が火花を散らす。

 

『あいにく私ももはや本調子ではない。仮に温度を中和できても、剣術勝負で負ける可能性が高い。この案は確実に実行可能という点では堅実だが、その後に出る結果はあまり期待できないのだ』

「ああああ!だったら今の話全部無駄じゃねえか!ふざけんなよお前!」

『このまま削られ続けるよりは見込みがあるだろう』

「乙案は……!乙案何ですかあなた、ヒャクシキ!?」

 

アンジェリカが口を挟んだ。

 

『奴を水中へ落とす』

 

百式は隻眼で見やった。

前方で、全身を白熱燃焼させながらレーザーをばら撒き続ける赤狐。

その体を。

 

『今のやつの体がどういう物質なのかは知らん。しかしああやって動き回れているからには、体組織があるはずだ。そして──あらゆる物質は、急激な温度変化に弱い』

「……」

 

獪岳の脳裏に、数日前に何気なく覗き見た刀鍛冶の様子がフラッシュバックした。

炉で白熱するまで熱した玉鋼を、水中へ突っ込む。

ジュウと音を立てて水蒸気が上がる──そんな光景。

 

『奴を水中へ落とせば、温度変化で全身の体組織がメチャクチャに破壊される。再生に莫大な体力を消費するはずだ。──奴は、あの鎧を維持できなくなるはず』

「水に落とす……!水どこですか、貴方!?」

『実現の見込みが無いというのは、その点だ』

 

百式の隣で、手水場の残骸が可楽の竜巻を受けて爆散。

完全に跡形も残さず破壊された。

 

『この稲荷神社の周辺に奴を水没させられるような水場は存在しない。奴を水場まで運ぶことも不可能だ。掴んで運ぼうにもその手が溶け──』

「なあ、皆」

 

善逸が妙なタイミングで口を挟んだ。

 

「もしかして今、何か喋ってるか?」

『……我妻善逸、貴様』

 

百式は訝しみ、善逸を見た。

耳から出血した跡。

手当された形跡もない。

 

(((まさかこいつ、聴力が)))

 

──"聞け"

 

獪岳が言った。

声を発したのではなく、自分が味方全員の視界に入ったタイミングを見計らって、指文字で喋ったのだ。

 

──"奴を水の中へ叩き落とす方法を思いついた"

 

獪岳はそのまま立て続けに指文字を繰り出し、全員に指示を出した。

あちこちに不安点のある、危ういシナリオ。

しかし、理屈は通っている。

理屈の上では可能だ。

この八方塞がりの状況で、その事実がどれほど貴重だったことだろう。

 

──"Do it. やりましょう"

──"ああ、やろう"

──"いいだろう"

 

アンジェリカが、善逸が、百式が応えた。

 

「カカッ、何をコソコソとやっておる?まとめて吹き飛ばしてやろう!"竜巣風獄"!」

 

可楽がそこへ術を撃ち込もうと、団扇を振った。

術は出なかった。

 

「……何?」

 

可楽は目を瞬いた。

何が起きた?

──ガス欠である。

哀絶は半天狗を守るため、食事を中断して死体の山から離れざるを得なかった。

供給が断たれた状態で、積怒と可楽と空喜の3体はストックされたエネルギーを浪費し続けた。

来るべき瞬間がついに来た。

それがそのまま、獪岳たちの逆襲のチャンスとなった。

 

まず飛び出したのは善逸だった。

可楽の方へ走り、霹靂一閃の構え。

赤狐は右手指から繰り出すレーザーをそちらへ向けた。

5本の死線が善逸の前進ルートすべてを封鎖する。

善逸は突撃を中断せざるを得ない。

 

しかし、少し遅れて飛び出したアンジェリカは、レーザー網の脇を抜けた。

可楽は雑魚鬼の生き残りを捕まえ、食べ始めたところだ。

エネルギーを補給するにはまだ時間がかかる。

赤狐は左手指のレーザーをアンジェリカの方へ向けようとした。

 

『ウオアアアアアアアア』

 

縁壱百式が叫んだ。

背中から圧縮空気を噴射し、赤狐へタックルをかける。

赤狐は対応が遅れた。

「タックルされたところで、炎の鎧で溶かして殺せる。飛んで火に入る夏の虫そのものだ」──

その判断が誤りだった。

百式はすぐには溶けなかった。

全身に雪の呼吸の冷気を纏っていたからだ。

百式は赤狐に組み付き、レーザー照射を妨害した。

 

左手レーザーの軌道はいくらかヌルくなった。

それでも、すっかり消耗し切ったアンジェリカにとっては困難な障害である。

彼女はすでに、自分の身を守るだけで精一杯というコンディションであり──

しかし。

自分の身を守ることを考えなければ、まだ一仕事できる。

 

レーザーが走り、アンジェリカの左腕を肘のところで切断する。

彼女はそれと引き換えに、突撃のスピードを維持することに成功した。

可楽が雑魚鬼を呑み込み、再び羽団扇を構えようとする。

間に合わない。

月の輝きが、速い。

 

「Moon Breathing First Form: Dark Moon – Evening Palace!」

「ぐわあっ!?」

 

アンジェリカの意地の一撃が、可楽の右腕を切断した。

団扇を持つ右腕は、壊れた竹蜻蛉のようにくるくると回転しながら宙を舞う。

待ち構えていた獪岳が、それをキャッチした。

 

「貴様──!」

 

可楽が目を剥く。

獪岳は挑発的に笑った。

 

「ありがとよ。そのうろたえ方で、確信を通り越して安心したぜ。──この団扇、俺でも使えるんだろ?」

「貴様ァァ!」

「テメエはさっきからずっと、邪魔なんだッ!どこへなりと行けやァァァ!」

 

新たな腕と団扇を再生しようとした可楽に向けて、獪岳は羽団扇を振った。

血鬼術、山嵐。

団扇から猛烈な突風が生じて、可楽の体を掬い上げ、吹き飛ばす。

 

「ああ、なんたる……!これまた楽し……」

 

可楽は、恍惚としながら──

今夜の戦闘になんの関係もない、はるか遠くのまったく見当違いな場所へ吹き飛んでいった。

獪岳はそれを見届け、赤狐の方へ向き直る。

赤狐は逃げようとしたが、百式がその体にしがみついて離さなかった。

 

「グルルゥ……!カイガク……!」

 

赤狐は顔を上げる。

獪岳と目が合う。

獪岳は挑発的に笑い──

 

「ぶっ飛べや、滝沢ァァァ!!」

 

羽団扇を、振った。

かつて自分がこの稲荷神社から河原へ吹き飛ばされた時と同じ角度で、同じ方向へ。

できて当然だ。

可楽がガス欠に陥ってから今まで、ずっと立ち位置の調整に専念していたのだから。

 

再び突風が生じる。

赤狐と百式は風に巻かれ、足が地面から浮いた。

吹き飛ぶ。

 

「カイガクゥゥゥ!ガアアアア!」

 

赤狐の白熱の輝きと怒りの咆哮が、みるみるうちに遠ざかっていく。

河原の方へ。

大きな水場である川の近くへ。

……雑魚鬼は全滅し、上弦2体が山嵐で放逐され、この稲荷神社に敵はいなくなった。

 

「アンジェリカ。死ぬなよ」

「誰に……言ってるますか、カイガク……」

 

獪岳はアンジェリカに可楽の羽団扇を差し出す。

アンジェリカは左腕を失い、死力も使い尽くして、立っているのもやっとという有様だった。

それでも、震える手で、羽団扇を受け取る。

 

「アンジェリカさん、死なないでくださいね」

「同じことを……two times……」

「あ、俺何か変なこと言いましたか?すみません、聞こえなくて」

「……アハ」

 

耳の聞こえない善逸に、アンジェリカは笑いかけた。

善逸は不安の入り混じった顔で、笑い返した。

 

「カイガク。後は、お願いします」

「任せとけよ。またお前に褒められるために、帰ってくる」

 

短い会話の後、アンジェリカは羽団扇を振り、獪岳と善逸を吹き飛ばした。

あの河原へ。

赤狐を確実に水中へ叩き落とし、トドメを刺すために。

 

アンジェリカは2人を見送ると、その場にへたり込んだ。

切断された左腕の傷はレーザーで焼かれており、出血はない。

しかし他にも怪我は多く、おびただしい血が流れている。

 

アンジェリカは自分で応急処置をしようとした。

意識が遠のく。

結局、そのまま倒れ込んで気絶した。

 

 

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