デスノートさえなければ強くてニューゲームなのに!   作:世界三大探偵って実は同一人物ってマジ?

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誤解

 

 

 

 

 

 

『ーーーー朝のニュースです。去年、世界最高齢の人間としてギネスブックに認定されたことで世界的に知られている『パワフルおばあちゃん』。それが昨日、前人未到の124歳の誕生日を先日迎え記録を自ら塗り替えたことを自身がパーソナリティを務めるラジオ番組で今日発表しーーーー』

 

 「随分運のいい話で羨ましいことで」

 「あ?今のラジオか?」

 

 相手の事務所に伺って出されたコーヒーに手をつけるか悩んでいた時、耳に飛び込んできたニュースに思わず反応してしまい、俺の斜め前に立っている大男とする気のない会話が始まってしまう。

 

 「ええ、ええそうです。俺なんかねぇ昨日通りすがったオッサンに『君は明日死ぬ。今日の夜は自分の好きなものを食べるといい』なんて言われちゃってトサカにきましてね」

 「へえ、裏に名高い『ハプニング・アサシン(居合わせる暗殺者)』にそんなこと言うなんて見る目がねえな、で? どうしたんだソイツ」

 「一緒に中華食いましたよ、チェーンのテイクアウトのやつ」

 「いや……もっとチョイスがあるだろ」

 「人生で一番食った外食でね、変におっさんの言うことに振り回されても癪でしょう」

 「貧乏なもんだな、殺し屋ってのも」

 「何でも屋です、あとハプニングアサシンってやつマジで恥ずかしいから呼ばないでください、あれ絶対嫌がらせでつけられてるでしょ」

 「俺も嫌がらせで呼んだからな」

 

 オタクらは景気が良さそうで、とは口に出さなかった。俺の向かいに座っているガキは詮索というのを嫌いそうな雰囲気だったからだ。

 それに、相手の背景なんかよりもずっと気になることがある。俺がここに来てから目の前のガキが、板チョコをもう4つは開けているのだ。こいつ何者?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミハエルが思うに、Lの手腕は鮮やかだった。

 地元の新聞記事を全社分かき集めさせ、その中から月が数年に及ぶ膨大なお悔やみ欄(Obituary)から地域も死因もバラバラな死者から特定の法則、全員が特定の地域の土地に対する相続権を持っていた裕福な人間であったことを発見。

 現地に調査員を派遣した結果、ある町の一区画を偽名のコンサルタントが『お金に困った』相続権者から買い叩き工場を建設していたことを補足。

 この対外的に『自動車工場』とされている場所に運び込まれている材料が明らかに戦略兵器に係るものであったことから、さらに原料の運び込み元を注意深く追跡。

 背景に潜むある組織の存在を浮き彫りにさせた。

 

 「この計画、当初はヒットマンや自前の人員を用いた綱渡りのような計画だったようですが、去年から突如として証拠がすべて消えました。これは通常の人間であればまず不可能な芸当でしょう」

 「まさに()業というわけか」

 「うまいですね夜神局長」

 「そ、そういうつもりでは」

 「またまた〜」

 「こ、コラ松田!」

 「しかし、この規模の武装組織がデスノートまで持っているとなると我々だけの力では事態を収拾できませんね」

 「ええ、このレベルの事件、我々でも現地の治安維持組織の力を借りざるを得ないでしょう」

 「しかしデスノートのことをどこまで話して……」

 「いくらPキラ事件があったといえど未だ世間にはデスノートの存在は……」

 

 自身を挟んで議論を始めた夜神親子を無視し、Lは「どこへいくL」「トイレです」部屋を出る。

 

 (証拠が消えたにも関わらず我々がこの組織に辿り着けたのはこの組織が『殺しすぎ』ているからだ……おそらく死神から嘘のルール……『13日ルール』のようなものを教えられている。正式な手続きを踏むのは巧遅というもの)

 

 この頃、すでにLは自身のやり方を通すための夜神親子のあしらい方を学習していた。というよりもLのやり方自体が『デスノート対策本部』と道を異にするという言い方が正確であり、常に自身のための仕込みを怠らないようになったというのが正確だろう。Lは唯一監視カメラのないトイレの特定の位置に入ると、すでに現地入りしている自身の後輩が自身に仕掛けていた盗聴器を粉々に砕き、個室に入るとトイレに流した。

 

 

 

 

 俺の目の前で金髪のひねたガキが板チョコレートを延々と齧りながら金と資料を乱雑に広げる。

 

 「俺の雇い主はいわゆる正義の味方ってやつでね」

 「はあ」

 「笑えるよな」

 

 と悪人面のそいつが笑って(目が全然笑ってねえ、恐えよ)投げてよこした資料に目をとおした俺は目が眩んだ。金にじゃないぞ。

 こいつの雇い主とやらは相当の権力を持ってる。

 資料に目を通せば、革命組織についてのアジビラをばら撒いて革命の機運をわざと高めた上で、そいつらを表向き押さえつける役をやってる民兵の指導者だけをスマートに()()

 終いにはフェイクの暴動まで起こし、人も物も足りない状態で無理やり革命を起こさせようとする派閥と機を待たんとする派閥に分裂したこいつらは今や内部崩壊を起こしていた、と書いてある。

 

 「これ()を使わなくても勝手に解決するだろ、わざわざ殺し屋雇ってまでこの女一人を殺す必要があるか?」

 

 俺はほとんどにバツを付けられた組織の主要人物たちの似顔絵を手の甲で叩きながらいうと、ガキが新しいチョコレートの銀紙を割きながら言った。

 

 「ああ、そいつは最悪殺さなくてもいい。そいつが持ってるノートだけ消せ」

 「ノート?ノートパソコンすか?」

 「いや、スーパーにも置いてある方だ」

 「パソコンもあるだろ、いや意味はわかるけどよ」

 

 意味は分かるが、意味が分からねえ。つまりこの女は機密情報をノートに書いて持ち歩いているバカってことでいいのか?

 

 「ノートについてこれ以上聞いたらこの話はなしだ。そこの金も置いていってもらう」

 「本当にそんなこと言ったら脳みそも置いていってもらうことになっちゃうんじゃないのォ?」

 「どうせ明日には国のお偉いさんが喋ってる情報に意味なんかあるかよ」

 「あ、明日?……そりゃ随分、ああいや受けますってやらせてくださいよ」

 

 目の前に積まれた金を引き戻そうとしたガキよりも先に金を抱え込んで俺は返事をした。

 俺の仕事は、自分の手足をお互いに食い合ってるアリの巣に潜り込んで、殺し合ってるソイツらのなかで唯一守られてる女王蟻を潰すこと。

 いつもやっている仕事より随分派手だが、そういうのもスパイ映画みたいで悪くないね。

 

 「受けるのかよ」

 「へえ、いけませんでした?」

 「だってよ今日死ぬんだろ?」

 

 大男がニヤニヤと俺をからかうのに、俺は肩をすくめて答えた。

 

 「死ぬ時くらい良いことしたいでしょ」

 「へへっ違いねえ」

 

 俺たちのやりとりにガキが意味不明といった顔をしてチョコレートの銀紙をゴミ箱に向かって投げ捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「とはいえ、即日で放り込まれるのもなあ」

 

 今日死ぬんだったら今日働け、と真顔で装備一式を渡された俺は、偽造の履歴書を持って組織の幹部(繰り上がりに繰り上がりを繰り返した運の良いやつ)がいるマンションの一室へ向かった。

 するとエントランスにいた護衛、スーツだけ立派なほとんど鉄砲玉みたいな少年にナイフを突きつけられて思わず、

 

 「えっここで?」

 「何言ってんだお前?」

 

 両手を上げて恭順を示すと、俺は少年に頭にナイフの刃先を突きつけられながら外階段を登り、昔就活でやったみたいに扉を3回ノックしてから入室すると、履歴書を一瞥もせずに『じゃあこいつを殺してくれ』と顔と居場所だけ渡されてサヨナラ。

 二つ返事で承諾して部屋から出ていったあと、俺と入れ替わりでさっきあった大男が硝煙の匂いを漂わせながら部屋に入っていった。

 一階にすでに少年はおらず、なぜか階段の隙間に落ちていたナイフを拾って入口で待機していた大男の部下に渡してやる。

 

 「はいこれ落とし物、これさっきエントランスにいた少年が持ってたナイフだから」

 「え……やべっばれたら兄貴に怒られる!しかも名前入りかよ」

 「多分上司からのプレゼントなんだろ、せっかくだから一緒に棺桶に入れてやれよ」

 

 大汗をかいているそいつの運転で目的の場所へとドライブ(神に誓っていうがこいつは免許を持ってない。持ってるなら神は死んだ)しながら、俺はそいつと雑談をした。

 細身のソイツは随分おしゃべりな野郎で、どこそこの殺しで同業者に鉢合わせてやばかったとか、金持ちの家に強盗に入ったら家主がパーティで全員トリップしてたから目の前で金品を盗んだ話とかを面白おかしく話してくれたので、俺はこいつ来月には死んでそうだなと思った。当然本人には言わないが。

 

 そして、別に何の変哲もない通りに着いたら「ここだ、飲みに行きたいから今日中に帰ってこいよ」と車を下され、日本製の軽バンはドアも閉めずに発進してしまった。

 

 「いや指示……まあ何でも良いけどよお」

 「お前がメロが雇った殺し屋か?」

 「いや何でも屋です」

 

 突然声をかけられ、こっそりと銃を服の中で相手に向けながらゆっくりと振り向くと、そこには如何にも正義ですって感じの顔のイケメンが立っていた。

 だが、そんな奴が人のことを殺し屋呼ばわりするはずがない。俺は相手の話を聞きながら頭の中でもらった資料と相手の顔を照合する。

 

 「別に何でも良い。ターゲットは1km先の」

 「1キロォ!?」

 「…レストランで幹部と落ち合う予定のようだ。さっさと行くぞ」

 

 まあ車くらい監視してるか。

 

 「まあ行きますけどね、一応伺いますが名前は?」

 「アンダーソンだ、よろしく」

 「はいよろしくアンダーソンさん」

 

 

 

 

 

 いくら男二人とはいえクソ重い装備を抱えて1kmもの距離を歩くのは無言じゃやってられない。

 

 「実際、メロと繋がったのは最近なんだがな」

 「蛇の道は蛇って奴ですかい」

 

 アンダーソンさんは、例のアジビラで革命の主導者()()()()男であり、ようはほとんど最初から組織にはネズミが入り込んでいたと言う訳だ。

 俺からすると『上司の上司の部下が上司に部下として貸し出されている』という超ややこしい立ち位置にいるらしく、特技は何ヶ国語も同時に操れるってエリートらしい。つまりそれ以上の身の上を聞くべき奴じゃあない。

 

 「もうそろそろ顔を隠せ」

 「へい」

 

 アンダーソンはエリートらしい理性的な男で、結構話があった。あったというより相手が合わせてくれたというのが正しいのだろうが。

 そして何より異様に誠実な男であった。こんな仕事をしている奴とはとても思えない。

 

 敵さんの持っているノート、これが何と顔を知っている奴の名前を書くと死ぬ魔法のノートだってことまで教えてくれた。

 死刑って宣告されておかしくなっちゃったのかな?と思っていたが、なんと相手の組織の幹部は大体このノートのせいで死んでいるのだと大真面目に言うので驚いた。

 じゃあそれはそれで機密事項だろと思ったが、そこについて考えると今すぐ逃げ出さねばならない羽目になる。それ以上考えることはしないことにした。

 

 「私はこのノートに憑いている死神、ああ比喩じゃなくてマジで化け物が憑いているんだが、そいつからルールを聞き出しているところを疑われてな」

 「ここらが潮時って訳ですか」

 「ああ、実際私の上司からも撤退指示がでた。十分な成果だったんだろう、ノートで死なないルールも聞いたんだが、何でも124歳以上の人間と12分以下の寿命の人間は死なないらしい」

 「それ今の地球上に1人しかいないんじゃないのぉ?」

 「逆にいるのか?」

 

 

 雑談もそこそこ「着いたぞ」と二階建ての高級レストラン、の向かいのビルに俺たちは入り込むと持ち込んだスナイパーライフルをアンダーソンさんが手早く組み立て、窓の下に事前に開けておいた穴から銃身をわずかに出して位置を微調整、狙いをつける。

 窓の下に取り付けた窓枠にしか見えないカメラ越しにターゲットの様子を伺うと、確かにレストランの一番奥には顔写真通りの美人さんがドレス姿で座っている。

 

 「飯食うまで待ってやるわけにはいかないか?」

 「ない。今殺す」

 

 そう言ってアンダーソンさんがライフルのスコープをずっとのぞいているが、何故か撃たない。

 

 「チッ、死神が邪魔だな。おい何でも屋スコープ変われ」

 「し、死神?……ああいや代わりますともはい」

 

 あんまり銃の腕は良くないんだが、と内心で思いながらも、俺は片目をつぶってレンズの向こうを見る。

 女との間には別に何も障害物がなく、不可思議に思いながらも銃の引き金を引こうとした瞬間、

 

 「なんだ、死神がこっちをみて、いやこれは気付かれた!仕方ない突入しろ!」

 

 女がテーブルを腕でひっくり返して周りの護衛が全員こっちに銃をぶっ放してきた!窓ガラスが室内にばらまかれ俺は壁際に張り付いて芋虫みたいに逃げ出す。

 それと同時、アンダーソンさんが服の襟に向かって小声で叫ぶと、道路で今まで普通に歩いていた通行人がマスクを付けて全員レストランに向かって雪崩れ込んでいくのがカメラ越しに一瞬見え、すぐカメラもオシャカになった。

 

 「うおお恐え!下に歩いてた奴ら全員殺し屋かよ!」

 

 「俺たちも行くぞ!」「マジ!?」と言いながらも従順に付いていく俺って律儀な何でも屋。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レストランはもう一生営業できねえって感じの破壊のされ方をしていた。そこらじゅうに散乱するコップとか皿とかの破片を踏まないように入店すると、すでに二階から聞こえる射撃音などは散発的に鳴るのみで、だからといってさっきの殺し屋たちが旗色悪しとみるや仕事を捨てて飯の相談でもしながら出てくると言うわけでもない。

 

 逃げるのも無理なほど旗色が悪いようだった。

 

 「チッ、忠告も聞かずマスクをとった奴がいるな」

 「ね、念の為これも着けとこ」 

 

 足元に落ちている目出し帽を睨みながらアンダーソンさんが言う。まあ俺も息苦しいしノートのことを教えられなかったらぶっちゃけ外してたかも。

 階段を登り、吹き飛んでいる扉を盾にしつつ部屋に転がり込むと、バーカウンターの裏に潜り込んでいる同業者(殺し屋)に状況を伺う。

 

 「状況は?」

 「4:6で負けってトコっす」

 

 言った側から反撃していた一人が頭を撃ち抜かれて死んだ。

 

 「3:7になったな」

 「ただ、ジョーカーは拾ったっス、これなんかやばいやつでしょ」

 「でかした!」

 

 同業者が渡した『ノート』にアンダーソンさんが思わず喜びの声を上げる。

 ノートを渡した男は俺と同じやりがい重視なタイプなのか呑気にピースサインなんか作って笑ってやがる。

 ていうかマジでノートなのかよ。

 

 「死神、寿命の半分をやる!目の取引だ!」

 

 アンダーソンさんが急にカウンターから顔をだしながら大声を上げると、カウンターの向こうでこう着状態だったはずの組織の野郎どもが急に特攻を仕掛けてきた。

 それを俺と他の奴らで凌ぐが、完全に命を捨てている奴らの特攻に同じだけの消耗を強いられる。

 

 「くそっ死神って奴までマジでいるのかよ!」

 

 俺が肩を貫かれて反射的に肩を見た視界の端で、アンダーソンさんに褒められて嬉しそうにしていた男の首から銃弾が抜けるのが見えた。

 だが、単にプロというだけでは説明できないような執念に満ちた集中力で男が銃を2発撃ち、ぴったり敵を全員始末したあと、俺の視界から消えていく。 

 

 「獲った!」

 

 アンダーソンさんがノートに名前を書き上げようとした瞬間、そのままバーカウンターごと蜂の巣になって即死した。

 

 「虎の子の一発を使わせやがって」

 

 驚愕する俺をおいて、ターゲットの女が非常階段から逃げ出す。

 俺はアンダーソンさんが持っていた無線を取ろうとノートをどかすと、

 

 『やあこれが見たかったんだよなあ、渾身のカラクリ『効力のない』本物のノートだ!無理やり危ない橋を渡って2冊持ち込んだ甲斐があったぜ』

 

 意地で声は出さなかったが、体は完全に硬直した。そんな俺に『死神』が気づくと、そいつは掛けていたゴーグルを額に押し上げながら俺を見て、

 

 『おお久々!』

 

 と片手をあげて言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無線で軽バンを呼び出すことに成功し、ターゲットの女が運転席に乗り込んだ明らかに防弾使用の高級車を追いかける。当然全箇所信号無視だ。

 しかし、軽バンを呼ぶのが限界でもあった。全国各地で一斉に抵抗が始まったらしく、増援が望めないと大男から連絡が届いたきり無線が切れてしまう。

 まあ、今の俺が気にしているのはそんなことではなかったが。

 

 「じゃあ何だ?俺はこのノートを昔使ってたけど捨てたから記憶がねえってことぉ!?」

 「おう、捕まった時に『捨てる』って俺に言ったからな」

 「はあ〜、今までの疑問が氷解したって感じだなぁ」

 「あの…空中に向けて話すの怖いからやめてくれます?」

 

 ノートを触れさせて事故られたら困るので、運転手の言うことは無視。

 死神、STって名前のそいつは昔俺にノートを渡したことがあるらしく、その時のことを詳しく教えてもらうことができた。

 確かに、俺は今まで明らかに殺しのターゲットが向こうから『偶然』死ににくるシチュエーションに恵まれてきた。

 たまたま持っていたコップの破片に首の方から飛んできたり、たまたま相手が暖炉に顔を突っ込んでスイッチを入れたり、実際俺が逮捕された時も罪状は『過剰防衛』。

 ただ、取り調べがほとんど拷問と言っても過言ではない過酷さだったことから余計なことを言わないようにノートを捨てて記憶を消去したということだったらしい。

 ノートの記憶は6回まで取り戻せるが、俺が今持っているノートは当時のものでないから記憶は戻らない。ちょっと期待していただけに残念だ。

 

 「あの時は面白かったぜ?お前は念の為ノートのページはいちいち焼いて捨ててたからな、家探ししてた警察がただのノートと勘違いして、釈放予定のお前への嫌がらせで財布ごと燃やしちまうんだからな」

 「普通にめちゃ困ったんだよなあ」

 「へへ、まあ死ぬ前にまた会えてよかったぜ」

 「それ俺の頭の上見ながら言うのやめてくれる?」

 

 ははは、と笑おうとして顔を顰める。応急処置をしたものの、明らかにゆっくりと肺に血がたまっているのが感覚としてわかる。肋骨を避けて4発。すべて体内に銃弾が残ってしまった。

 マスクをしていると呼吸ができなくて死にそうだし、そうでなくてもさっきの乱戦で顔を見られなかった自信はない。

 ちょうど時間は昼。命はあと12時間なんて言われたがその前に絶対に死ぬと確信できる致命傷。

 ちょっとした走馬灯が脳内を駆け巡っているが、その中のいくつかを組み合わせると、俺が今すべきことが浮かんでくる。

 

 (12、24、48、96、192、384、768分……いけるか?)

 

 「全部骨で止まらねえってのは神に見放されてるな、しかもそれで手に持ってるのが意味のないノートなんだから運がないっつーか」

 「いや、()には()放されてないね」

 「へえ?」

 「死()。目の取引だ」

 「おいおい、だからそのノートは効力が」

 「でもデスノートだろ?なら契約はできるはずだぜ」

 「いや、そーいうことじゃなくてな」

 

 意外にも俺の体を心配してくる死神。実は仲良かったのか?俺たち。

 

 「あーあ、契約してくれたらこのあと超面白えもんが見れるんだがなあ」

 「ホントかよ……」

 

 適当にごねると交換が成立し、死神の目を手にいれる。

 

 「よしよし、見てろよST。面白えもんってこういうことよ」

 

 ノートを車の天井に放り投げながら俺は宣言した。

 

 「ノートの所有権を捨てる」

 

 

 

 最終的に女の車がたどり着いたのは何の変哲もない一軒家であったが、相手も負傷しているのでこっちのスニーキングに気づかない。

 庭から地下に続く階段を降りていく音が途切れたのを集中して確認してそっと俺も階段を降りる。

 

 ほとんど整備されていない掘りっぱなしのトンネルを抜けると、そこにはでけえ空洞と、でけえミサイルがあった。

 

 (おいおい、これってスパイ映画だったりするぅ?)

 

 はあ〜、スケールが急におかしくなったなあと思考を放棄すると、その空洞の向こう側で、女がちょうどノートに何かを書き込み終わったらしい。

 いつの間にか着いてきていたSTがターゲットの女のところへ飛んでいって女が書いていたノートを覗き込んで感心するような声を上げる。

 

 「おお、さっきのレストランで生きてた奴らの名前もちゃんと書いてあるじゃねえか」

 「これでさっきの生き残りも全員殺した…これでアタシを追ってる奴はもういない……!しかしもう時間がないのも瞭然……もはやアタシ一人でも革命を始めるしかない!」

 「やっぱ名前は見られてたか」

 

 俺はミサイルの影から、残った人生の12分の1をたっぷりと使って相手のノートに狙いを定め、引き金を引く。

 発射音と同時、俺と女の目線がぶつかる。さすがは死神の目。女の目が銃弾を綺麗に追っているが……デスノート(人殺し)に慣れすぎたな。

 女は最低限の動きで銃弾を避けながら俺の名前を書こうとノートを構えた。それは恐らくこの内ゲバの嵐のなかで反復的に繰り返してきた動きなのだろう。

 銃同士は銃を破壊されると終わりだが、ノートは最悪穴が開こうが使える。一旦物陰に入ればカバーに入られるより名前を書く方が早いだろうしな。

 だがこの一発限りは違う。女の手前に着弾した鉛玉から圧縮された炎が黄色いスモークとともに膨れ上がり、ノートをちらりと舐めた。

 

 「なっ炎がっ」

 

 そのまま僅少の数弾が同様に着弾、一発がノートに直撃。デスノートを女の手の筋肉繊維ごとこの世から滅却する。

 煙の流れに乗って青白く光った灰がゆらりと飛び散り、俺の鼻先まできて塵と消えた。

 

 「う、おおっ勿体ねえ!ノートって今すごい高いんだが?」

 「そりゃ『地獄の沙汰()金次第』ってことかい、ひでえ話だぜ」

 「何それ」

 「日本の諺。意味は知らねえ」

 「ア゛ーッ!ア゛ーッ!ぐっう、ギイぃぃ」

 

 ノート所有者制圧用30口径拳銃用焼夷弾。随分回りくどい玉だと思う。

 急激な温度差によるゴーグルの曇りを指で拭っているSTに脳みそのない話をしながら女に近づく。

 

「しかし…人生最後に撃つ銃がこんな締まらねえ弾とはな」

「じゃあ撃てば?」

「無駄玉は撃たない主義なんだ」

「金があったら?」

「それでもお断りだな。全額経費なら改宗してやってもいいが」

「もう死神に宗旨替えしたんじゃねえの?」

「確かに」

 

 殆ど吹き飛んだと言ってもいい左手の苦痛から女がなんとか立ち直ろうとする横で、俺は悠々とデスノートに文字を書き、女に開いて見せる。

 

 Rouse Rosa.

 She launched a missile carrying a nuclear warhead and was burned to death by flames from the propulsion system.

 

 STが言うには、ノートに名前を書かれた人間以外に多数を巻き込むような事故死はノートでは実現できず、心臓麻痺になる。が……。

 

 「舐めプかよ」

 「依頼はノートの焼却までだからな」

 「バカがっ!そんなくだらない小細工にもはや意味があるかあっ!」

 

 女が背後の操作盤に取りつき、一昔前の特撮映画でよく見たごちゃごちゃとしたボタン群を慎重にいくつか押し、最後にガラスに覆われたボタンの上に右拳を乗せる。

 俺は銃を乱雑に捨てたが、女はそれに気づく様子もなく、ぶつぶつとうわ言を言っている。

 

「アタシは押せる、押せるんだ、押せる人間なんだよ、ここで押せないんだったらなんのための人生だったんだ。押せ、押せよ、押せ押せ押せ押せ!ぐっ……うう〜っ!」

 

 終いには泣き出しながら自分の手のひらにぐちゃぐちゃの左手でペンを突き刺してでも押そうとしていた。

 

 「何で……」

 

 結局、女は泣き崩れるように操作盤に倒れ込むと、そのまま動かなくなった。

 

 「本当に12分しか寿命がない人間って現実に存在できるんだなあ」

 

 うんうん、と感心しているSTが、ローザと名前のある女を見ながらしみじみと言った。

 

 「ま、人間じゃあノートには勝てなかったみてえだな」

 「いや、この女は救えないカスだったが……少なくともノートには勝ったな」

 

 STが何の話だ?と俺の方を振り向くが、俺もそろそろ時間だろう。

 俺は女の遺体に近づきながらそいつの瞼を閉じてやって、操作室の適当な椅子に座る。

 

 『なあ、ST。ノートに他人を大きく巻き込む実現できない事故死を書いたら心臓麻痺になることと、自分の意思で押さねえのは全然別の話だよな?』

 「…あ、そーいうこと」

 「そーいうこと。あの女は俺みたいにノートをなくしても殺し屋続けてたクズとはやっぱり違うってことだな。しかし俺もこ……チ……」

 

 暗転。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ーーーーー夜のニュースです。反政府組織『革命のバラ』に強奪されていた弾道ミサイルが昨日発見され、無事確保されたと発表があり、日本政府としてはーーーー』

 「あ、これSTが言ってた奴だな」

 「これもノート絡みか……。もうそろそろ、私もできる限りのことをしなきゃダメだな」

 

 

 テレビを消す。

 

 

 




木曜日の更新はありません。次回で本編完結します。
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