デスノートさえなければ強くてニューゲームなのに!   作:世界三大探偵って実は同一人物ってマジ?

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取引

 

 

⑥この文章を見つけたあなたにはあるパズルを解いてもらいます。

 

 

Side:夜神月(2003年12月3日)

 

 

⑦ある数字の集団から、特定の方程式を導き出して欲しいのです。

 

「目の取引だ、死神」

 

 目の前で恐ろしい風体の”死神”リュークを相手に臆せず、寿命半分を差し出すという、文字通り半分自殺といって差し支えない取引を持ち出した男は5日前、初対面の月にその名前を五七川明十(こなかわあきと)()()()()

 月はこの5日間、五七川の正体について考え、その真意を探ったが未だにその印象すら掴みきれていないというのが正直な感想だった。名前だって、本人が繰り返し自慢するように全国高校模試の成績優秀者の2位(1位は僕)のもので、目の前のこいつが五七川本人かは不明だ。

 いや、デスノートのルールを加味すれば間違いなく借り物だと月は確信さえしている。それを本人に指摘できないのは、五七川が勉強以外に興味がないのかスポーツとか自由研究のような、表彰の際に新聞とかネットに顔写真が残るタイプの功績を残していないため。

 そしてデスノートの所有者であり、すでに音原田という()()が奴に存在するために他ならない。

 月には、”死神のノート”を最早偽物だと疑っていないがゆえに、男のここまでの行動全てが理解不能であった。

 

(いや、それは出会った時からだが……)

 

 

⑧その数字は、人間の寿命を表しています。

 

 

 11月28日の夜、月はコンビニの駐車場で女性に絡んでいる男たちのリーダー格が『シブイマルタクオ』と名乗ったのを偶然確認したタイミングでコンビニに入店。

 雑誌コーナーで漫画を読むふりをして、この”死神のノート”が本物かどうか確かめるため、死因を指定したうえで漢字を3パターンに分けて記入。

 さて、どうなる!と40秒間じっとり待ったが、シブイマルタクオたちは延々と女性に悪質なナンパを繰り返すだけ。

 シブイマルタクオが道路に飛び出て車に轢かれるとか、逆に道路からトラックがシブイマルタクオに向かって突っ込んでくるということもない。

 拍子抜けだな、と月が白けていると、助けを求め視線を彷徨わせる女性と目があってしまい、思わず目を逸らしてしまって舌打ちをした。

 

(相手は3人か……何とか女性をコンビニの中に引っ張り込めればいけるか?)

 

 次第によっては何発か殴られることを覚悟しないといけないか?と雑誌からノートを片付けバッグにしまおうとした瞬間、

 

「立ち読みで競馬予想してる船橋のおっちゃんか?」

「何っ!?」

 

 背後からノートが掴まれ、何者かに引き抜かれてしまう。月は一瞬だけ焦ったがすぐに”不機嫌さが相手に読み取れる程度に混ざった笑顔”を作って振り返ろうとした。

 このノートが偽物だと分かった以上、もはやそこら辺のゴミ捨て場に捨てていっても構わないが、こんな悪戯で痛くない腹を探られるのも受験を控えた今、実に困る。

 

(後ろの不審者には無難に対応し、返却されたのち自宅で焼却処分がベスト!)

「すみません、そのノートは僕の私物で」

「このノートは俺が()()()()()偽物だ」

「(……!)いや、何を言っているのかさっぱり」

「『渋井丸卓男』たちならもう解散するだろう、ここにくる前に警察を呼んでおいたからな」

 

 声からすると僕と同年代の男か?月はガラス越しにその顔を確認しようとするが、その顔はマスクとフードで隠されており、不鮮明な窓ガラスの映り込みではとても確認できるものではなかった。

 

『タクさんあのランプお巡りじゃないっすか!?』

『やべっずらかるぞオメエら!』

 

 男の宣言通り、窓の外では通りかかった警察に慌てたシブイマルたちがさっきまで執拗に詰めていた女性のことなんか全くほっぽってとんずらこいていた。しかし、真っ先に逃げようと前を見ずに走り出したのが不味かった。

 

『タク!危ね……!』

「なっ!」

 

 本能的な嫌悪感を煽る金属のひしゃげる音を置き去りに、シブイマルはバイクとともに4トントラックのタイヤと車体の間に巻き込まれた。 

 

「ま、まさか」

 

 お前が、と今度こそ振り向くが、

 

「えっ車、ええ……!?」

(お前にとっても予想外なのかよ)

 

 普通に口元に手を当ててびっくりしている同年代くらいの男が立っていた。男はびっくりしすぎてどっと汗がでたのだろう、フードを脱いで服の胸元で仰ぎながらハンカチで顔を拭いている。

 あれ生きてんのかな、とかデスノート関係ないんかい、などと言いながら目の前の光景のグロさに引いている男は、正直に言ってこのようなイタズラ(デスノート)を仕掛けようなんて思いつきそうな見た目には見えない。

 野球少年のような短髪長身に、もう11月も終わりだというのに日焼けしている肌はどこか冬の東京において場違いな印象を与えている。

 

 あまりのことが目の前で起き、どこか浮ついた空気が周囲に流れているなかで、男は手に持った()()()()()()()()()レジ袋を月の眼前に掲げてみせながら言った。

 

「ちょっと話せる?夜神月くん」

 

 俺の名前は五七川明十、よろしく、と男は言いながらコンビニの自動ドアを潜った。

 

 

⑨以下に、私が確認した人間の属性と寿命をできる限り記述しますので、計算に役立ててください。

  

 

 この男に自宅を特定されたくない、と思った月は自然と逆方向に足を向け、家から遠ざかるようにして夜道を男二人で歩いた。

 適当な街灯の下で男が立ち止まり、それに合わせて月から話を切り出した。道路脇に固まる二人の横を救急車がサイレンを鳴らしてすれ違う。

 

「そのノートを使って僕を脅そうってわけか?」

「え!?そ、それはどういう」

 

 月としては、このささやかなスキャンダルをもとに金銭等を要求されることを最も危惧していた。今はセンター試験1ヶ月前。

 このような小石につまづいて調子を落とすわけにはいかないという気持ちが月の気持ちを焦らせている。

 その焦りが、『他人の死を願った証拠をもとに月から金銭をせしめようという悪質なイタズラ』というストーリーを月の中に作り出していた。

 

(この男、僕の名前を知っているうえ、今日この時間に塾が終わった後にコンビニによるという習慣があるところまで知っている)

 

 個人をここまで調べるというのはどういうことか。月に馴染み深いのは父”夜神総一郎”同様の犯罪捜査だが、当然その逆もあり得るということだ。

 

「確かに、こんなノートに名前を書いて死ぬように()()なんて全く褒められた行為じゃない。悪ふざけにしても度が過ぎているだろう。だが、それだけだ。このノートに書いてあるのは死因と名前だけ。気に食わない人間の名前を書いてストレスを解消しようとする、なんてモノや他人に当たるよりずっと平和的だと思わないか?音原田については今日やっていた速報のメモだしな」

「いや、別に月くんを脅そうとかそういう意図でノートを渡したわけじゃないんだが……」

  

 

 よくそんなすぐ言い訳が出てくるな、と感心している五七川にイラっとしながらも月は脳裏で推理を高速で駆け巡らせるが、いまいち情報不足で筋の通った考えが出てこない。

 

(じゃあ何のためにこんな手の込んだことをする?)

 

「まず、デスノートは実在する」

 

 そういって五七川がレジ袋から取り出したのは月が持っていたのと同じ黒いノート。しかしその表紙は『DEATH NOTE(英語)』。HOWTOUSE(使い方)に関しても英語で1ページでシンプルに記述されていた。

 月はイタズラの程度としては同レベルじゃないのか?と怪しんだ。まあ、さすがに鉛筆の手書きと比べれば字体は凝ってるが。いずれにせよ、イタズラの域を超えていない。ただ一つ、

 

(音原田の死ぬまでの動きだけがあまりにも不可解だ。例え音原田本人と結託していたとしても合理的な理由がない。ましてはあの内容……)

 

「これが”本当の”ノートで、月くんが持ってるのは俺が作った渾身の複製なんだな」

「複製……この出来で?」

「わかりやすいだろ?色々と」

 

 だとすると、複製側の雑さについては急造ということで納得できるが、翻って疑問が一つ出てくる。

 

(あのデスノートがあの場所に落ちてくることをこの男は知っていたということだが、そんなことが可能なのか?予知能力でもないと説明がつかないぞ)

 

 月が沈思黙考しているのを別のことと勘違いしたのか、五七川がかじかんだ手を擦っていくらか摩擦を取り戻したあと、本物のノートを開いてみせる。

 

「一応、このノートが本物である証拠になるように音原田の死因はいじってあるんだがどう?」

 

 

 

 

 

音原田九郎 11月28日18時23分40秒

立てこもった私設保育園で警察から逃げ場がないことに絶望して自分の腹を掻き切って自殺

 

 

 

 

「腹?確かに偽物のノートとは内容が異なるが……そもそもテレビでは自殺の方法は公開されていないはずだが」

(これは鎌かけか?しかし何の目的がある?)

「ああ、まだ警察から発表される前にしか意味がないから証明のチャンスが今しかないんだ」

「!?」

「む、まだ知ってないのか、まあ塾に通ってるし当たり前か……」

 

 月は今度こそはっきりと動揺した。つまりこの男は月の父が警察関係者であることまで把握しているということだ。

 いや、言葉の微妙なニュアンスを汲み取って考えれば、最悪の場合、月が父のパソコンをハッキングして閲覧できるようにしていることまで分かっているんじゃないのか?

 

「……なにが望みだ?」

「んん!?いやだから脅しとかでなく……というかさっき自分で言っていた通りこのノートを俺が持っているからって何の脅しにもならんだろう。まさかノートに自分の名前を書いたってわけじゃないでしょ(笑)?……だよね?」

(書いてるわけないだろ!)

 

 まあ、確かに今の月くんは拾ったノートがデスノートだと信じてムカつくやつの名前を書いた痛いやつではあるんだが……、と半笑いで煽ってくる五七川に月は頭を抱えたくなった。

 全国模試1位のプライドを以てポーカーフェイスこそ維持したが、冬の寒空の中にいるにもかかわらず汗が頬から顎に伝っているのを感じる。 

 そもそも、今までの思考が全て瑣末なことに思えるほど大きな問題がある。この男の言う通り本物のデスノートが男の手の中にあるというのなら。

 

(じゃあ音原田の名前を書いたお前は殺人犯ってことになるだろう!)

 

 口から短い間隔で白い息が漏れ、月は緊張で息があがっているのを自覚した。にわかに目の前の男の存在が恐ろしい。

 月は家族のことを思い、覚悟を決めた。隙を見てノートを奪い、何としてでも焼却してみせる!

 

(まずは精神的動揺を誘わなければ……)

 

「こんなことで僕を脅したところで父に圧力をかけようとしたって無駄だ!──大体、このノートが本物だとしたらあなたは通り魔の立てこもりが相手とはいえ殺人鬼になってしまうでしょう?」

「そうだ、俺は殺人犯だ」

「!」

「そして夜神月くん、俺が君を”そう”しなかったというところに是非敬意を表して1つ、お願いを聞いてほしい」

 

 

 殺人犯の言うことだと?月は五七川を罵倒しようとして、やめた。

 窓ガラスに映る男の顔は、まるで海で溺れ、必死に掴めるものを探す子供のようで──。

 

 

 

 

 

「おいおい、良いのか?」

 

 死神のざらついた声が耳に届き、月の意識が現実に戻ってくる。死神はちょっと慌てながら五七川に死神の目について説明しているところだった。

 

「あっ、もしも自分の寿命を知りたくて死神の目が欲しいってことなら無駄だぜ。本人の寿命は人間界への配慮としてだな」

「ああまあ、それは大丈夫なんだが……」

 

 五七川は死神の顔前に右の手のひらを出し、ちょっと待ったと意思表示をし、咳払いを一つして場を仕切り直す。

 

「すまん、まず名前を聞いてなかった。俺は五七川明十。アピールポイントは日本の高校生で2番目に頭がいいことです!」

「ククッ!ホントかよ」

(やはり、偽名か!?)

 

 死神が五七川の頭上を見ながら笑うのを見て月はかねてからの疑念を深める。

 死神の『相手の名前が分かる』という特性はニセノートにもしっかり書いてあった原則だ。

 死神には五七川の(真の)名前が見えるはず。月は死神の反応を具に観察したが、死神はもとより人間の顔とも作りが違う。いわんや精神性だって異なる以上、死神の心中を察することは不可能に近かった。

 そしてそれは五七川も同じだ。推定だが殺人犯の男だ。月は、ただの優秀なだけの高校生である自分が五七川の心中を推し図ることは土台無理だと感じていた。

  

(いや、あるいは僕のように……)

 

 月は五七川のことを見ていたら五七川と目があってしまい、五七川がニヤリと笑う。

 

「で、こっちは夜神月、日本の高校生で1番頭がいい」

「ふーん、頭いいんだな、お前ら」

「おい五七川!」

 

 こいつ普通に本名言いやがった!

 

「どうせ名前くらい見えてるよ、”死神の”目なんだから」

「それはそうだが、念の為ということを知らないのか」

「それでリューク、お前の名前は?」

「俺はリューク。で? 取引するんでいいんだな? まあデスノートに名前を書く前に取引した奴もいたらしいが今俺の名前言った?」

「お前さっき家に入ってきた時にサラッと言ってたぞ」

「そうか?」

 

(そんなわけないだろリューク)

 

 死神っていうのはみんなこんな間抜けなのか? と”リューク”に呆れる一方で、月は五七川のことは最早最大限に警戒しなければならない対象となったことを強く意識した。

 この男、デスノートにいくら何でも詳しすぎる──。

 月は考えた。デスノートについてはもしかしたら黒魔術の本(考えるだけで頭の痛くなる前提だが今だけは実在を認めることにする)とかそういうものに色々情報があるのかもしれないが、死神個人の名前まで知っているというのは流石におかしい。

 通常の手段で知れる範囲を逸脱しているし、それを即行で試すのはもっとおかしい。騙されたり、隠されたりと言った事態はなく、ルールが知っていることで全てだと確信している人間でなければその動きはできないはずだ。

 件の五七川は手に入れた”死神の目”を試そうとベランダに出て、遠くの電柱の文字を読んではスゲー、などと無邪気に喜んでいる。本当に寿命を半分支払った自覚があるのかこいつは? 頭のネジが何本か外れているのか、驚異的なまでにバカなのか……。

 

鈴木誠   7324331  男 50代? 

鈴木直樹  21112639 男 学生

加藤あゆみ 24551781 女 学生

吉山田鉄二 18911    男 40代? 肥満

伊藤文子  47       女 80代以上 死亡欄要確認

渡辺弘子  92222    女 60代 足に引きずりあり

佐々木七海 37898758 女 10代以下 妹? 同日死亡? 

佐々木翼  37898758 男 10代以下 兄? 同日死亡? 

山田浩   55       男 40代? 

 

 ひととおり死神式レーシック手術を楽しんで戻ってきた五七川はこちらをチラッと見た後リュークと話し始めた。

 

夜神月 23312639 男 18歳 Lと同じくらい頭がいいから協力して計算しといて

 

「な、なあリューク。これ俺あとあと老後にめちゃくちゃな遠視になって困らないか?」

「そこまで生きてねーだろ半分寿命払ったんだから」

「はいルール違反」

「あっ! ……今のはセーフだろ?」

「ルール的には個人的に教えるのがダメそうだから一般論だから平気でしょ、死神大王寛容だし」

「よかった〜」

 

 死神大王って誰だよ。月はほっ、と胸を撫で下ろす死神を見てかなり呆れた。そして、その様子から察するに、ニセノートに書かれていたルールがすべて真だとしてよさそうだ。

 すると、この”真”ノートに書かれたHOWTOUSE(使い方)はかなり概略版というか、まさにノートを人に『使わせる』ための加筆であったとよく分かる。

 

(おそらくこのリュークがノートの所有者に使わせるための加筆……、文字通りの取扱説明書ということだが、今のやりとり……当のリュークがこの概要程度のことしか知らない可能性が極めて高い……!)

 

 五七川は死神よりもデスノート、それ以上に死神のルールに詳しいのか? 

 

「なあこの家ゲームあるか?」

 

 むしろこの死神の方が例外的にルールに詳しくなさすぎるだけかもしれないな。

 

 

(とにかく、死神も知らないルールを五七川は知っていることになる……)

 

 やはりコイツは危険だ。月が改めて五七川への警戒を新たにしたところで、何も発言しないのも怪しく思われるだろうと純粋な確認を五七川にぶつけることにした。

 

「で、他人の名前は見えるのか?」

「お? おお〜、23312639だって」

「もしかして今僕の寿命言ったか?」

「そうだ一応手鏡ある? 一応確認したいことがあるんだけど」

「おい五七川?今の僕の寿命なのか?」

 

 月は人生で一番焦った。一瞬走馬灯が流れかけた気がした(死因は憤死)が、こいつは僕より成績が悪いと自分を宥めて深呼吸をし、何とか落ち着いた。

 即座に『23312639』を頭の中で何十個かの適当な計算式に当てはめてみたものの、寿命らしき数字には変換できない。おそらく進数とか根本的な法則が違うのだろう。

 月は安心したような、残念なような心地になりながら五七川に手鏡を渡してやる。

 すると五七川は鏡をチラリと見て、すぐに月に返却、ちぇっ。と舌打ちした。

 

 

「あるいはとも思ったんだが、やっぱり見えないか」

「クク、まあ見えねえだろうな。”配慮”なんて言い回しのルールなんだ、自然に発生した法則とは区別して周到に用意してるんだろう」

「うーん。人知を越えた力なだけはある」

「仮にも”神”の力だしな」

(……?言い回しが妙だな)

 

 月はわずかな違和感を今の会話に感じたが、それ以上に気になることがあり一旦検証を後回しにした。死神に対す五七川のスタンスだ。

 リュークが五七川と『死神ルール談義』に興じる様子は、単に世間話をしにふらっと友達の家に寄っただけのような気やすさを感じさせる。

 腕なんて組んで顔に似合わず動作が異様に人間臭い。だが、その親しみやすさある死神が、名前を書けば人を殺せるノートを下界にわざわざ落としているのだ。

 それに対しあそこまで自然体で接することができるだろうか?

 

「死神」

「うん?」  

「お前はノートを拾わせて、何をさせたいんだ?」

「そりゃあ……」

 

 死神が口を開こうとしたのに被せて五七川が朗らかに笑いながら言う。

 

「どうせ”退屈だから”とかそんなもんだろ?」

「っ!」

 

 月は一瞬、自分に言われたのかと思って緊張してしまう(もちろん顔には一切出さないが)。

 死神は、五七川に対して「よく分かるな」とか言いながら死神界がいかに不毛でつまらない土地かを説明していたが、その身勝手な言い分について月は本来人間として発揮すべき正当な怒りというものを吐き出せなかった。

 ちら、と月の目線がニセノートに動いたのを五七川が目ざとく見つけていやらしく笑う。

 

「だから、人間界に落として人間がどうやってデスノートを使うのか観察して退屈しのぎをしようと思ってたんだが、お前らじゃあノート、使わねえだろうしな」

「そうでもないぜ、少なくとも俺は一人殺しちまってるし」

「あっそうか」

「それに見てくれよリューク!」

「やめろ五七川!」

 

 月はなりふり構わず五七川からノートを奪おうとしたが時すでに遅し。リュークが長身を生かし天井ちかくまでノートを持っていってしまう。

 

「それ俺が作ったウソのノートなんだけどよ」

「どれどれ、拝見……ウホッ!」

「やめろ!」

 

 リュークがノートを開いて見せると、それをみてリュークは小笑い。月はなんとも情けない気持ちになった。

 

 

 

 

 

音原田九郎 11月28日18時23分40秒

立てこもった施設保育園で警察から逃げ場がないことに絶望して自分の喉を掻き切って自殺

渋井丸拓男 事故死

渋伊丸拓男 事故死

渋井丸拓夫 事故死

渋伊丸拓夫 事故死

渋井丸拓雄 事故死

渋伊丸拓雄 事故死

渋井丸卓男 事故死

 

 

 

 

 

「なんだよ、ちゃっかり書いてるんじゃねーか、名前」

「ぐうっ!!」

「そんな『くっ殺せ』みたいな顔してるけど殺そうとした側ですよね?」

 

 殺人犯に弱みを握られたと言っても過言ではないほど落ち度。月は五七川に対して焦るとともに自己嫌悪に陥り椅子に座って頭を抱える。

 

 

「すまん悪かった。頼み事ってのはそのノートのことなんだが」

 

 五七川は月の肩に手をおいて、軽く謝ったあと、リュークに向き直って質問する。その顔は意外にも真剣だ。

 

「一応確認なんだが、リューク!もしそのノートを俺が所有権の破棄をしたらどうなる?」

「もちろんお前以外のやつに渡す。お前のデスノートの記憶は消したうえでな」

「だよなあ……」

 

 はは、と五七川は力なく笑った。その声に滲み出る”悲しみ”を月は感じ取り、その意味を察す。驚愕を顔に貼り付けながら五七川を見れば、やはり彼はどこか泣きそうな顔をしていた。

 

「僕に殺人の手伝いをしろというのか!」

「ああ」

 

 五七川は投げやりに笑って言った。

 

「それも、とびきり面白い殺人の仕方を考えてもらう」

 

鈴木誠   632937   女 20代 名前では判別不能だが容姿は明らかに女性

安藤サク  1639     女 70代?

加藤あゆみ 13464181 女 10代 前述の女性とは別人

渋伊丸拓子 1        女 20代 健康所見なし

茨木速球  38937462 男 10代以下 病院着 

 

「いや〜これでも結構考えたんだけど、名前はともかく顔の方がな……」

 

 そう言って五七川はもはやただの安いノートだとバレたニセノートに殴り書きでメモを書いていく。

 

1 名前の手に入れ方

 ・地方公務員の”信者”を増やして住基ネットにアクセスする(2003年8月に全面稼働済み)。

 ・ハローページや法務局でとることのできる登記(有料)などから土地の人間にアクセスする。

 

「名前は余裕なんだよな名前は。自分のキャリアを歪めれば全日本国民のデータを手に入れることも難しくない」

 

 でもなあ、顔がなあ、と言ってその下にさらにメモを書き足す。

 

 

2 顔写真の手に入れ方

 ・サーバーなどの処理専門会社を今のうちに設立。公の入札に採算度外視で参加し続け、卒業アルバムなどの印刷を手がける会社のサーバー処理を委託しそのまま横領する(不正確)。

 ・クラウドストレージの会社を今のうちに設立。安価にばら撒いたうえで違法な写真の削除を建前に写真をクローニングする(不正確)。

 ・本人の顔写真をアップロードすることが前提の交流サイトを立ち上げ、参加者に自分から顔写真をアップロードさせるように仕向ける(有力)。

 ・卒業アルバムは地方100年記念誌などをオークションサイトに売るように誘導(微妙)。

 

Fから始まるサービスとMから始まる交流サービスが2004年2月ごろ設立されるはずです。もしこれが当たっていたら、その意味に免じて意味のとおらない部分も飲み込んで信じていただけませんか。

 

 確かに、思考実験として月もデスノートはどのように使うか、は正直考えた。月の場合は思考の前提が”犯罪者”を対象に絞っていたので簡単に顔写真を特定することはできたが、誰でもとなるとルールの絶妙な制限が効いてくる。

 実際、目の前に書かれた内容についても現実的にはすべてリソースの問題が立ちはだかっている。唯一、交流サイトの案はコストやリソースの面で優位に立っているみたいだが。

 

「ちなみに月くんは模試の成績優秀者だったから学区までは余裕で、テニスの全国大会で優勝してたときの地方新聞の記事で顔写真余裕でした」

「くそっだろうな」

 

 苗字も珍しすぎてお父様との繋がりも一発だし。

 

「自宅は!?」

「普通に裕福そうな家を表札で見つけたけど、適当にそこら辺の人に聞いても教えてくれるだろうね」

 

 やっぱ出る杭って怖いわ〜、と冗談っぽく言ったあと、すぐに顔を引き締めて五七川は言う。

 

「話が逸れたな。つまり俺が月くんにやって欲しいことはこうだ」

 

 五七川はリュークを指差していう。

 

「リュークはデスノートを使った退屈凌ぎがしたい」

 

 五七川は自分自身を指差しながらいう。

 

「俺はデスノートが他人を平気で殺すようなカスの手に渡るのをできるだけ遅らせたい」

 

 そして、五七川は最後に()を指差していう。

 

「月くんは……まあ俺に黒歴史を言いふらされないってことで」

「おい」

()()寄れば文殊の知恵っていうだろ?」

 

 死神って人じゃないだろ。

 

「って僕が言いたいのはそんな安っぽいことじゃない!」

「殺人の片棒を担がせようとしてるのは分かってる!」

 

 文句のひとつでも言ってやろうと思った瞬間、五七川は月に向かって深く、深く頭を下げた。

 

「お、おい……」

「頼む……何とか……探してくれ……」

 

 五七川の顔からカーペットに落ちた水滴が何だったのか、月からは見ることができなかった。

 もちろん、口角を残酷に歪める死神の顔も……。

 

最重要:私が死ぬ前にデスノートの切り離したページを私の名前をメモとして添付したうえでダミーの個人情報書類と一緒に東京のいくつかの役所に落とし物として届けています。拾得物条例が定められていない役所では拾得物は捨てることを避け、倉庫に死蔵されます。

必ず私の身分を偽造し、信頼のおける人物に回収させてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この三人という言葉……これは私か?」

 

 モニターの前に膝を抱えながら姿勢悪く座った男は、飴を派手に割りながら言った。

 その落ち窪んだ目には、その出立に似合わない、インターネットの小説が映っている。

 

 

 

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