デスノートさえなければ強くてニューゲームなのに! 作:世界三大探偵って実は同一人物ってマジ?
イギリスの朝はとにかく寒い。
キルシュ・ワイミーが両手をセントラルヒーターに翳し、その悴んだ手を暖めていた時、自身のノートパソコンにメールが届いたことに気づき僅かに気を引き締める。
このノートパソコンはLとの連絡用に普段から持ち運んでいるもの、その厳重なセキュリティから使われているアドレスを知る者は少なく、特定のパソコンからの通信しか受け付けない。
すなわち、このメールは自身が経営する児童養護施設か、あるいはL本人からのものに限られる。そしてLは基本的に直接連絡を好む。
忙しいワイミーには珍しく(まだ)自室にいたこともあり、ワイミーは眠気覚ましにカップにたっぷりとコーヒーを注いでからパソコンを開き、送られてきた文面を確認した。
だが、長文を読もうと老眼鏡を引き寄せながら開いた文面は随分とあっさりしたものでワイミーを拍子抜けさせた。
送られてきたメールの差出人はLを意識しているのかたった一文字の”N”。
送信元のアドレスは乱数で恐らく”飛ばし”だろう。本文はなく、件名にスパム判定されてもおかしくないほどシンプルなURL1行がそのまま書かれているのみだった。
https://syosetu.org/novel/385024/4.html
念のためにリンク先にウイルスチェックを施したのち、リンクをクリックするが、ワイミーは表示された文面を読んで首を傾げた。
(一見すると普通の小説に思えるが……うーん、やっぱり普通の小説ではないですか?)
内容としては現代を舞台にした思考実験的な要素を含んだファンタジーといったところだろうか。正直、斜め読みした限りでは”N”の目を引くところはないように思える。
強いて指摘するならば、作者名が『三大探偵同一人物説』に言及するなど本文に対して浮いているのだけは気になるが、それについては時たまインターネットの匿名掲示板などで定期的に流布されている新規性のない陰謀論の類である。
まあその陰謀論が実際のところ正解であるわけだが。”デスノート”という設定や葛藤しつつも正義感のある”夜神月”というキャラクターには創作物として素晴らしい魅力を感じるが、
小説としてみると非常に目につくところが多い。やけに日時にこだわっている点や、なぜか登場人物の視点が切り替わるたびにいちいちそれを強調している点。
無意味に空白が多かったりと小説というか作文作法としても目が滑るところが数多く存在する。この小説のどこをNは気にしているのか、ワイミーには見当がつかなかった。
しかし、ワイミーは自分より
(その気になればLに直接送りつけることができるでしょうに……、私を通すのは律儀というかなんというか)
ワイミーは内容など一切いじらず、”L”にメールを転送した。
そして5分後、ワイミーが朝刊を読みながらコーヒーを半分ほど飲み終わった頃、Lから音声通信の入電を受け、これに応答した。
「おはようございますワタリ。送られてきたもの、読みました」
「すみませんねL。忙しいところ」
「いえ暇でしたから」
相変わらず血圧が低そうな声をしているな、と益体もないことも考えてワイミーは思わず笑みが溢れる。
「ワタリ?」
「ああいえ、相変わらず今起きたようですなぁと思って」
「はい」
今日、ワイミーが使用しているパソコンからLのことを確認することはできないが、Lからは付属のカメラを通してワイミーの様子が確認できる。
しかし、見るまでもなく、その声の上ずり方からワイミーはLの顔がありありと想像できた。
「で、そのご様子ではニアのメールはお眼鏡に適ったようですが、どうですか?」
「結論から言います。
「は、はあ」
この小説に何か暗号が隠されているとかでなく?思ってもみない返答にワイミーは思わず気の抜けた返事をしてしまう。
そして、──その後じわじわと襲ってきた悪寒に、そこから逃れるために思わずコーヒーを啜った。飲みやすく調整された温かさが今はなんとも頼りない。
どんなに奇妙なことであろうと、Lの言うことをワイミーは信じることができる。それゆえに、不都合な現実、今までの常識が崩れ去る音をワイミーは脳のどこかで冷静に受け止めていた。
「そ、そんなこと……では我々は、ああいやLはともかく私は今この瞬間でも殺される可能性がある?」
「いえ、実話というのにもちょっと語弊がありますね……」
こちらに聞かせる気があるのかないのか、小声でボソボソと喋りながら画面の向こうでLがマウスをクリックする音が響く。するとパソコンの表示が切り替わり、先ほどワイミーも読んだ小説のページが表示された。
ワイミーはLに続きを促した。
「と、いうと?」
「まず登場人物の心情なんかは作者の想像でしょう。次に、小説としての見栄えを優先して誇張してる表現も多いです」
「なるほど。では骨子はともかく、文章そのものは正確でない可能性があると」
「というかなんでこの人は
「Lのダメ出しとはなんとも贅沢なことですな」
「いえ全く冗談ではないです」
パソコンの画面の中のマウスがLの動きに恐らく連動して動き、空白部分を選択し、検索窓に入れる。すると、
「わ、wammy's house!?」
「ええ。小説上には現れませんが検索クローラーに拾われるように透明文字で仕込んでありました。しかも念を入れて一文字ずつ分解して専用のクローラーを構築するような
L、早口で小説の”内容”について言及したあと、さらに一行下をマウスで指差し続ける。
「その癖、そのすぐ下に一般の検索クローラーで引っ掛かるように文章を追加するという迷走。思いついたことをできる限り詰め込みましたと言わんばかりです。誤字脱字もすごく多い」
「ははあ。しかし、これだけならばワイミーズハウスの子供達のささやかな悪戯という可能性もありますが」
「ええ仰るとおり。ほかにも警察関係者の内部告発の線も最初はありました。ですが、この作者は不自然なほどに”L”に詳しい」
ワイミーはLの意見にうなずいた。ワイミーズハウスの子供たちがLと話しているのは画面越しの1回だけ。自力で調査する才能を持つある2人を除いて、彼らにLのことを知る方法は絶無である。
「私の立ち振る舞いや偏食について直接言及しているというのもそうですが、特に私が気になったのは死神のルールの記述部分です」
「それは何故です?」
「この作中の少年、夜神月にはルールを全て教えておきながら、作中には抜粋版を載せているという部分。そして、透明文字でばら撒いたといっているデスノートの切れ端はあくまでページに過ぎず、必然ルールは載っていない。これでは」
「これでは確かめたかったら自分でこの青年に会いに来い、と言っているようなもの、ですかな?」
そうです。と言ったきりLは黙った。画面の向こうからはケーキや飴を咀嚼する音だけが聞こえ、ワイミーもコーヒーの残りを啜る。
「確かに、これは”L”を知っているといって過言ではないようですな。ふむ……もしかしてL」
「はい?」
「この月くんという少年に頼るくらいだったら先に自分に教えて欲しかったとか思ってます?」
「……」
御年25歳。実際に親代わりとは言え、ワイミーの好々爺然とした親ムーブに素直にうなずきにくいLであった。
それに、実際今考えているのはそういうことではない。Lは自身の発言を脳内で何度も顧みながら、この文章から読み取れるいくつかの『懸念』について考えていた。それは
(それは、この男の行動の矛盾)
Lは先ほどまで読んでいた小説に準え、問題点を番号順を整理して脳内に並べた。
①デスノートのことをここまで知り、その脅威を確信していたならば、事前にもっと周到な用意をしておけるはず。直前まで放置していた理由はなんだ?
②この男はLの正体を看破しており、ワイミーズハウスとのつながりまで把握している頭脳の持ち主。であるならば、このようなリスクが高く幼稚な連絡方法を取る理由がわからない。私のことをここまで知っているならばデスノートを回収した後
③本文でもわざわざ言及していたが、デスノートがどうとか以前にどうやっても知り得ない情報をこの男は知りすぎている。死神がノートを落とす場所や時間はもはや超能力者でもない限り把握することは不可能に思える。なにかカラクリはあるのか?
そして、いくつかの状況証拠をもとに、Lは推理を急速にすすめ、ある一つの”結末”を見出した。
(予言とみまごう知識を隠していない事実。自分の個人情報をばら撒く投げやりな連絡方法。犯罪者を裁くという利用方法を考える精神性。その上で世界の保護に動ける高潔さ。反して、1人を殺害しせしめておきながら自分を殺人鬼と自嘲するアンビバレントな主張──)
「ワタリ、まずは至急、ばら撒かれたページの確保をお願いします。多少強引でも構いません。また、夜神月への接触もなるべく早くお願いします。できる限り反感を持たれないように優しくやってください」
「心得ました。この五七川という男についても接触しますか?」
「いえ、そっちは後回しで良いです」
「そうですか?こっちこそ本命であるように思えますが」
「私の推理が正しければ、きっと彼はもうこの世にはいないか、あるいはこれからいなくなります」
(3人寄れば文殊の知恵、の3人のうち2人は私と夜神月で間違いないだろうが……)
画面の向こうで驚きの声をあげるワイミーを無視し、夜神月
いくら都会でも、土曜日の朝の住宅街なら通行人もまばらだ。12月の空気はたとえ東京であろうと澄んでいているんだな、と素朴な感想を俺は抱いた。
俺の赤い視界のなかですれ違う、人生を頭のうえに載せた通行人たちは、みな一様に俺の後ろを浮いているリュークの方をみてとんでもなく驚いた顔をしているのがなんだかおかしい。
「リューク、月は俺の名前を書くと思うか?」
「はあ?」
リュークが俺の問いかけに何言ってんだこいつ、と首を傾げた。その手には俺が浮いた宿代で買ってやったゲームボーイアドバンスSPが握られていた。
『遠いところからいらしてくれた月の友達』という設定が思いのほか月の母親を感激させてしまった結果、ありがたいことに夕飯からお風呂までいただいてしまった俺は、夜神家で楽しい一夜を過ごしてしまった。
客人を泊めるための部屋ってなんだよ金持ちか?金持ちだったわ……と『DEATH NOTE』に想いを馳せながら布団に入った次の日、休日なんだからと引き留める夜神家一家(良い人たちすぎる)に断りを入れてその場を辞する。
もう誰を気にするでもない。俺は周囲の目に構わずリュークに続ける。
「音原田ははっきり言って人間のクズだった。6人殺してる。でも、俺だって人間を1人殺してる殺人鬼だぜ」
「ああ〜、昨日ライトが言ってたなあ、なんつったっけ?ト、ト〜」
「トロッコ問題か?全然違う話だぞそれ。つまりだな、俺は顔を見ていれば遠隔で人を殺せるノートを持っていて、月の家族の顔を全員見たわけだ」
「でもお前ノートは月んところに置いてきたんだろ、俺お前を送ったら戻るつもりだし」
「SP借りパクか?……こういう場合、月が俺の立場だったら念の為ノートを数ページ隠し持っておくと思うぜ」
俺はコートの裏地から折り畳んでしまっておいたデスノートのページを何枚かリュークに見せびらかす。なぜか鶴の形のそれを1枚やるよ、とリュークに渡した。
「ああ!だから見送ってたライトの顔があんなに怖かったのか、ナットク〜」
「リュークに言われるんだったら相当だろうな」
「ま、それくらいの備えは当然か。仲間っつっても昨日今日の仲だし。でも今日の今日でじゃあ始末しようってなるもんかよ」
それはその通り。今の状況は、例えるなら西部劇でお互いに向かい合って銃の早撃ち勝負をしているようなものだ。先に抜いた方が悪役だが、先に撃たれてやられる間抜けにもなってはいけない。
「俺なら先に書くね、死因はまあなんでもいいだろう。どうせ証拠なんか出てきやしない」
「じゃあお前死ぬのか?」
リュークのいっそ素直な疑問に俺は笑った。俺は左手で指鉄砲を作り、ガンマンの真似をしてリュークにカッコつけて狙いを定める。
周りの通行人から足元にお金が投げられる。
「あっパフォーマンスじゃないです」
よく考えたら周囲の人間からすると宙に浮いたゲーム機に向かってパントマイムしてる人だな。恥かいたわ。
気を取り直してリュークに言う。
「『夜神月はデスノートの力が本物だと知っていた場合、ノートの力を使っただろうか?』」
「うーん、そりゃ……、使ったんじゃないか?だってニセノートに名前を書いちゃってただろ」
「ファイナルアンサー?」
「テレフォンで」
「死神界って電波届いてんの?詳し過ぎない?……まあいいや。俺の答えは『しない』だ」
俺は左手の指鉄砲を解放してひらひらと振って見せる。いい線いってたと思ってたらしく納得行かなそうなリューク。
「俺は、デスノートの最大の問題点を『実感の薄さ』だと思ってる」
「はあ?ノートに人間の名前を書いたら死ぬ、ってのは当然のことだろ」
「それはリュークが死神だからだよ。死神にはない錯覚が人間には備わっているんだよリューク」
「錯覚?」
「人間は、物理法則に反した現象のことを普通は信じることはできないし、そういう超常現象を信じるときは逆にそこを疑えなくなる。ノートで人を殺すって言うのはマジで実感が薄いんだ。1人殺したくらいじゃ絶対に信じられない。心がどんなに自分の行いに悲鳴を上げていたって、知性が論理的な推論の結果、いまのは偶然です、と結論づけるだろう。そしてそのアンバランスな浮ついた心で失敗を祈りながら『裏をとろう』なんて無茶苦茶を考えたらもう終わり。『殺す』ことよりも『確認』を優先した殺しは殺した相手のことを見て行われない。見ているのは『自分が殺してしまったのか』という恐れの
「ずいぶん饒舌だな、クク、経験者は語るってやつか」
「……っ。……いや、俺の場合はまた違うんだが……。そして、ライトはその一線を越えたと思わせられ、破綻を実感し、破綻すると
羨ましいね。はあ、と吐いたため息が、
いつの間にか俺の目の前にきたリュークにかかり、顔をそのまま抜けていった。
「でもよ、そうするとつまんねえじゃねえか。お前俺をなんか騙そうとしてるんじゃねえか?」
「いや。それは違うし、リューク……ゲーム大丈夫か?」
「えっああっ!?」
驚愕の表情でSPを見つめておよよ、と泣くリューク。あと縦棒が一本くれば4列消せたのにくっそー、と無邪気に落ち込む姿には先ほどまでの迫力はどこにも残っていなかった。というか上達はやっ。
「そこんとこ説明してやるよ。それに……、俺から言いたいこともあるしな」
「?」
リュークは教会の壁に顔だけ突っ込んで室内を見回して五七川に言った。
「なんか誰もいねえみたいだが」
「それは……随分と都合がいいな」
「そうか?」
普通逆じゃないか? とリュークがぼやく言葉を五七川は無視し、「失礼しまーす」と扉の向こうから一声かけてから入室する。なんで人間ってこういうとき声が高くなるんだ?とリュークは思った。
教会はリュークが確認した通り、会堂の扉に鍵がかかっていないにも関わらず無人であった。司祭が少しばかりの用事で出掛けているのか?ともかく、人間なら、こういうとき『神のお導き』とでもいうのだろうか。リュークは死神らしく幸運に感謝しておくことにする。
「ああ、あったな。本物を見るのは初めてだが……、ああいうのって一部屋じゃないんだな」
五七川は室内を見渡すと、部屋の隅に置かれた”箱”を見て顔をほころばせた。箱は重厚な印象を持たれるように黒く塗られ、教会の白壁とのコントラストも手伝って重苦しい印象をリュークにも与えた。それが2室つづきで並んでいる。
ウチの一番近所にあった教会はバプテスト教会だったからなあ、などと言いながらまるで光に集う蛾のように吸い寄せられていく五七川。
あんがいまいってるみてえだな、とリュークは他人事のように思った。
「告解室?あんなんに用があるのか?ククッ司祭もいないのに人殺しの懺悔ってわけだ」
「そうだ、で聞くのはリューク。お前だ。」
「マジ?」
「なに、ごっこ遊びみたいなものだぜ。ちょっとくらい付き合ってくれよリューク。なんで片田舎のガキがお前よりデスノートのことに詳しかったのかしっかり教えてやるよ」
リュークの返事を待たず五七川はさっさと告解室の扉を片方開いて中の削り出しの椅子に座ってしまうので、しょうがねえなとリュークは律儀にもうひとつの扉から告解室に入り──、天井から頭が突き出る。
「入らねえな」
「……もういっこの方でいいから入ってくれ、気持ち大きめに喋るから」
「おいリューク、もし司祭さまが帰ってきたら打ち切るから教えてくれよ」
「……あいよ、ま、扉からシサイサマが
「そうか?」
ちょっと不安げな五七川をよそに、リュークは手を叩きたい気持ちになった。これが人間のいう思し召し、ってやつか!?
(こりゃあ面白え!)
リュークは自分だけに聞こえるように声を立ててほくそ笑むと『静かにしろ、喋るな』とジェスチャーをする。
そうするリュークの目の前には、告解室の中で二度寝をしていた司祭が折り鶴を握らされていた。
リューク。まず一つ確認させてくれ。
てっきり俺の顔を見て笑ってたのは全国模試の五七川と苗字が同じなだけの別人だって即気づいたからだと思ってたんだが……。月?とっくにバレてるんじゃねーか?普通に一覧表みるだけだから確認とるだろうし朝口数が少なかったのも多分そういうことだろ。
ま、いろいろばら撒いたやつは俺の名前にしてあるから皆なんとでもするんじゃない?ああこっちの話。
その名前じゃオスかメスかわかんないって?アハハ、そんなんどっちでもいいだろ。重要なのは俺に前世の記憶ってやつがあるってことだ。まあ人知を超えた力が俺の状況をどうやって処理してんのかとかは気になるがぶっちゃけもうどうでもいいしな。
まあ前世の記憶があるからデスノートについて知ってるし、リュークが何をしようとしてるのかもカクカクシカジカお見通しってとこだけ納得してくればいい。前世については別に話すつもりはないぜ興味もないだろ。カクカクシカジカのところを話せって?ハハ。
要点は夜神月がデスノートを使ったら世界はどうなっていくのか、という知識があったというところだけだから。
で、キリスト教会でいうことじゃないんだが、俺って転生したわけ。ただ前世の記憶を持った状態で生まれるっていうのは俺の場合大したアドバンテージじゃなかった。前世の勉強の貯金なんか社会人数年やってりゃどっかいっちまうしな。チビの勉強教えるのなんか連立方程式でギブアップだったぜ。
何かの途中だった気もするが、やり残したと思うほど熱を入れてたじゃない。思い残しとしてはギャンブルやってればなんか色々勝ち組になれて楽だった気がするぐらいだ。ギャンブルって転生すると財テクになるって学んだぜ。
じゃあ良かったことはあるのかって?そりゃあある。俺はずっとリタイア後は海の見える一軒家で夏はサーフィンして過ごしたかったんだが、俺はどこに生まれたと思う?宮古島だぜ?そんな融通の利かせ方あるって物心ついた瞬間思ったね。
……アロハはハワイだろ。いや沖縄もまあそうだけどそんだけじゃねーから。
実際、身内だからって絶対生徒に頼まないような雑用をやらされまくったから周りの言う通りなんだよな。
ああすまん。あー……。重要なのは11月26日の朝だけだ。全員分の全国統一模試の結果が解答解説とかの分厚い封筒に入って送られてきてたんだよな。それをクラスごとに分けとけって
その後すぐ俺は使わねー頭を必死に絞った。夜神月が『名前を書くだけで人を殺せるノート』で初めて人を殺してしまったのは全国模試の結果が返ってきたあとだったはずだ。じゃあもう手遅れじゃん。
そう思ってから、今日が11月28日じゃないことに気づいちまったんだよな。鳥肌が立ったぜマジで。多分、全国の生徒に一斉に結果を渡すために僻地ほど早めに届けているんだろう。いや、でもリュークがノートを落とすまで2日しかねーじゃん。船だってもう今日はねーよと思って。
思ってから、10月に宮古島から飛行機が飛び始めたことに気づいて、でも俺じゃあ俺より頭がいいやつのことを説得できねえと思って、そしたらさ、おととしさ、テレビの向こうで、アメリカで一番高いビルが崩れ落ちるの思い出して、気づいた時には東京についてた。
来てから思い出したけど東京って寒いしよお。金だって適当に家に寄ってひっつかんできたからあんまねえし。それでネカフェに泊まって、ニセノート作って、必死に月のかよってる高校探して、デスノート拾って。ああもうこれで万事解決。俺は世界の救世主って天国行きは決まったねって有頂天だったよ。天国なんかこの世界にねーけど。で、そしたらさ、電気屋のテレビが速報流してて。だから……。
「クハハッ!だから音原田を殺したって!?」
「もし音原田を殺さなかったら園児たちと保母さんが死んでた!……かも
死神に殺しの懺悔なんて、
告解室を抜けて、司祭のなりふり構わぬ制止も聞かずに男の顔を見に行ったリュークは、今まで生きてきたなかで会心の笑いを経験した。
昨日、五七川が「おトイレいっといれ」とか冗談を言いながら席を立った時に月がリュークにこっそりと伝えた言葉が再生される──。
『リューク。お前は明日、ギリギリまで五七川を監視しろ。デスノートを使う人間に必要なのは強い精神力と信念。そのどちらも欠ければ──。』
男の手元にぐしゃぐしゃに開かれたノートにはただ『五七川明十』とだけ書いてあった。五七川が絶叫する。
「リューク!お前は月とLと協力して3人でノートの使い方について知恵を絞れ!月たちの側から、これから勝手に作られるだろう”
告解室の扉を破壊するほどの剛力で開き、室内に勢いよく出てきた五七川は、まるで演劇の登場人物のような身振りでリュークに訴えていたが、
「きっと楽しい!それで、もしゲームがずっと続いたら5年ごとにお前が最初にノートを落とした場所にもう一度ノー……ッカ!?」
突然胸を抑え、その場で膝から崩れ落ちる。想像を絶する痛みにステンドグラスから降りる光の柱の中をのたうちまわりながら、それでもリュークのいる影に向かって這いずり、その足元まで行くとリュークの目を強く見つめ。
「おい司祭さんよ。こいつのこと、うまくやっといてくれ」
そのまま事切れた。
リュークは司祭が慌てて五七川だったものに駆け寄るのを無視し、羽を広げ教会を出ていった。
そして、太陽の下でどこまでも聞こえるような大笑いを一通り済ませ、月の家に向かいながら考えた。
(ククッ。人殺しが死神に人殺しをさせないようにしろって?ククククッ。なんて複雑なヤローだ。あばよ救世主。おまえの寿命分くらいはその”ルール”でせいぜい遊んでやるよ。あーあ、)
人間って、面白ーーーーっ!