デスノートさえなければ強くてニューゲームなのに!   作:世界三大探偵って実は同一人物ってマジ?

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推知

 

 五七川が教会で死んでからすぐ、リュークは『ゲーム』を成立させるために死神界で勧誘に勤しんでいた。

 

「ってわけで人間界で人間にデスノート渡して遊ぶんだけどお前らもやんねーか」

「いやリューク人間界で何してきたんだよ」

「実は俺もよく分かってねー」

「ええ……」

 

 デリダブリーが呆れ顔でツッコミを入れる。人間界にデスノートを落として(もちろんわざとに決まっているが)一週間もしないうちにデスノートを使った『ゲーム』をするとかなんとか。

 相変わらずデリダブリーに博打で負けているグックが気を紛らわせるために話に加わってくる。

 

「まあ面白そうだけども、色々めんどくさそーじゃねーか?色々準備するんじゃ俺は御免だね。つーかそれ死神大王は大丈夫なのかよ」

「ああ、それでなんだがジャスティン知らねーか」

「ジャスティン?ああ……」

 

 グックが得心したようにポンと手を打つ。アラモニア=ジャスティン=ビヨンドルメーソン、死神界のルールに最も詳しい(オス)

 死神大王にこの話を持っていく前に『そもそも話を持っていって怒られないかどうか』をリュークは確認する心算であった。

 それなら、とデリダブリーが鎌の先を人間界でいう東に向けて回す。

 

「ジャスティンならあっちで見たぜ」

「いつ?」

「3日前から1週間くらい前」

「それあっちに居るって言わねーだろ」

 

 まあいいや。探すか、と言ってつるんでいる死神たちから離れたリュークだったが、どこまでも変わらない景色の死神界に流石にうんざりする。

 たった1泊2日しか人間界にいなかったというのに、まるで高速道路から降りた自動車が一般道の速さ(トロさ)についていけないように、心の速度のギアが死神界に合わない。

 雑用どころか自分の用事すらも苦痛に感じてくる。こっちに居たところで何も面白くねえ。

 飛べるところを敢えて歩き、砂埃で靴を汚しながら不毛の大地をあてもなく歩き回っていると、やっとのことでお目当ての人物を見つけ、さすがのリュークも顔が綻ぶ。

 大手を振って走り出したリュークをジャスティンはビビりながら迎える。

 

「おーい、アラモニア=ジャスティン=ビヨンドルメーソン!」

「テンション高っ」

 

 死神って息が切れるもんなのか……、などとくだらない話もそこそこに、ジャスティンがリュークの話を一通り聞いたあと、手の甲を顎に当てて少し考え込んだ後、リュークを両手で指さして言う。

 

「それ、そいつに担がれてるだろ」

「担ぐ?」

 

 リュークがわっしょい、と神輿を担ぐジェスチャーをする。

 いいか?と、ジャスティンが宝石まみれの右手で階段を作るジェスチャーをしながら話し始めるのをリュークは目でおった。宝石がきらりとリュークの目の中で光る。

 

「お前がなんとなく想像してる『ゲーム』の流れっていうのはだ、最初のステップとして死神がデスノートを人間界に落とすか渡すかするだろ?」

「ああ」

「で、そのデスノートを手に入れた人間は、まあソイツ(五七川)みたいな例外を除いて人を殺すだろ?」

「普通はそうだな」

「で、そういう人間たちを月とかっていう奴が捕まえるか殺すかするんだろ?」

「その繰り返しが変に適当するより面白いって話だからな」

「で、月って野郎はまず捕まえた奴からどうやってデスノートを使ったか聞き出すだろ?」

「まあ俺もネタバレは聞きたいからな、どっちかというと俺にはそっちがメインっぽいし」

 

 ぶっちゃけ解説されねえと月の言うこと全然わかんねーこと多いし、と頬を鋭い指先で描きながら照れるリューク。 

 どっちかというとお前は敢えて自分で考える気がねえだけだろ、とジャスティンは思ったが特に口に出さない。

 

「で、人間がノートを持ったらどういう行動に出るのか学習するよな?」

「まあ人間界としてはただ迷惑なだけだしな……」

 

 ここまで当然とばかりうんうん頷いていたリュークが、ジャスティンの口ぶりとニヤつき笑いに妙な違和感を覚えて首を傾げる。 

 

「ん?」

「で、当然対策するよな?」

「んん?」

「これを繰り返す」

「ん、んん?」

 

 ジャスティンが両掌を水平に前に出し、交互に上に重ねていくことで、積み木を一段ずつ積み上げるようなステップアップのジェスチャーをする。

 リュークもここまで説明されると嫌でも意味がわかる。

 

「するとだな……どんどん『人間がデスノートを使って殺人する』難易度が上がっていって」

「んん!?」

 

 ガシャーン!と積んだ積み木のパントマイムを崩すジャスティン。

 

「最後には人間界でデスノートを使ってできることはなくなるって寸法よ」

「ガーン!」

 

 と、擬音を口で言うほどショックを受けたリュークが右手を下顎に引っ掛けながら驚いていたが、「ん?」と疑問符を浮かべる。

 

「いや、言われて難易度が上がっていくのは納得したけどよ、そもそもデスノートによる殺人を防ぐことって人間には無理だろ?」

「当たり前だろ、仮にも『神』の力だしな」

「だよな……」

 

 考え込むリュークが考えているのは『デスノートを人間界から原理的に排除することは可能なのか』という視点だろうが、そういうことではない。

 

「違う違う、そういうことじゃねーよ」

「いや、考えたんだけどよ。どう考えてもデスノートで『適当に顔と名前を知った人間を数人適当に事故死させる』ってやられたら見つけようがどうにもーー」

「見てて面白いか?それ」

 

「…………あ!」

「創意工夫ができなきゃ苦しめて殺すとかカスみてーな方法しか残らねーってワケ」

 

 両手で頭を抱えながらやられた!と『担がれた』ことを理解したリュークだが、頭の中では冷静に自分を推察していた。

 

(まあやるけどな)

 

 五七川が月の家に泊まった日、ゴルフゲームをほぼオールでやっていたが、どんなに新鮮な娯楽でも単なる繰り返しでは飽きがくる。

 ゲームの難易度が上がっていくと言うことは、ラストに向かっていくごとに人間は知恵を絞り、より複雑で苦痛に歪んだ『デスノートの使い方』を思いつくということだ。

 

(サスペンスドラマは犯人が追い詰められてからが見どころだぜ)

 

 早速『共犯者』探しでも、と思ったリュークの脳裏に五七川のことが脳裏に過ぎる。ぶっちゃけ月も結構偏ったやつだったが、それでも五七川ほどでもない。

 

「ククッ、俺の性格までお見通しか?本当に何者だったんだアイツ、名前も変なやつだったし」

「ま、大丈夫なんじゃねーか?言うだけならタダだぜ」

 

 ジャスティンは言い出しっぺなんだから責任持てよ、と椅子から虫のような足を生やすとどこかへ行ってしまう。

 

(……)

 

 と思ったらくるりとリュークのところに戻ってきて、リュークが困惑する。

 

「『名前が変なやつ』ってどんな感じだった?」

「ああ、名前が2つあって重なってんだよ。たまーに人間って最初っから死神の目だったりするしそういうやつの一種だと思ってたんだが」

「ふーん、俺もそれは初めて聞いたが……なあ、その五七川のことをできる限り教えてもらってもいいか?」

「えー」

「りんごやるから」

「うほっ」

 

 ジャスティンから投げ渡された砂みたいな食感のリンゴをジャリジャリと噛み砕くと、しょうがねえな、とリュークが人間界で起きたことを話しだす。

 その全てを聞き終えたジャスティンは、『ソイツも運が無い男だな』と呟き、

 

「死神大王に『ゲーム』の件話しておいてやるよ」

「マジ!?」

 

 死神には珍しく他人の用事を引き受けるジャスティンに目を剥くリューク。

 

「その代わり、もしその詐欺師にまた会ったら『そういうのは自分でやんな』って言っといてくれよ」

「いやもう死んでるから会えねーよ」

「5年に1度ノート持ってこいって言ってたんだろ?持ってってやれよ、多分5年だとおせーと思うが」

 

 全然話についていけないリュークをおいて、じゃあなとジャスティンは手を振って帰ってしまう。

 ぽつん、と残されたリュークの耳にはジャスティンが振り向きざまに言った言葉が不可解に響いていた。

 

「ま、死神を手玉に取れるような人間でも死神大王を出し抜こうってのは傲慢だってことだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャスティンは死神大王のところへ向かう道中、考え事をした。

 

(リュークの話が本当なら、五七川という男にはデスノートを使用してしまう者に必ずある油断がない。『書けば死ぬ』を確信し、その上で使用に踏み切っているという事実は重い)

 

 デスノートを人間が使用してしまう最大の理由は、デスノートに名前を書くと死んでしまうという事実が冗談としか思えないからだ。

 この人間から見た騙し討ち(死神はいまいちここを理解していない)としか思えない悪辣な構造を理解して名前を書くということ。これは死神はともかく人間にとって遥かに重い理由を持つ。

 単なる他者の生命を慈しむといった()()()()理由によって成せるものだろうか?

 

(そして、死ぬ直前の不可解な指示……人間、死が迫った時は自身でも意識していなかった本音が出るものだ)

 

 ま、俺が知ったことじゃねーか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リュークが死神界で勧誘活動を何日もやっているころ。東京都内のある高級ホテルにおいて、2人の男が1台のノートパソコンを挟んで向かい合っていた。

 2003年は概して暖冬であったが、それでも外は寒い。

 

(そもそもセンター試験直前にこんなところにいるというのは一般的な学生としてはあり得ない行いなんだが……全く)

 

 

『ノートの件である方が話したいことがあると貴方様に』

 

 ワタリ、と名乗る男が午前中自宅にまで迎えにきて、その老紳士に促されるままに黒塗りのリムジンに乗せられてある高級ホテルの一室に入室した月は、あからさまに高級そうな椅子に座って開口一番パソコンに向かって文句を言った。

 

「ここまでほとんど説明なしで連れてきておいて当の本人は顔も出さないというのは流石に失礼じゃないか?」

『おっしゃる通りですが、私はデスノートを曲がりなりにも所有している人間の前に顔を出す勇気はありませんね』

「!……それは結果的にワタリさんにすごい悪いことをしていることにならないか?」

『……そうですね、すいませんワタリ』

「いいえ」

 

(デスノートを知っている!?……デスノートは人間界に複数存在するのか?)

 

 月は、元々五七川と同水準の警戒をこの男にしていたが、それをさらに1段階引き上げる。

 もしもこの男たちがデスノートと財力を併せ持っているなら現世で実現できないことはないと言っていい。

 

『まず、自己紹介をさせてください。私はL。まあ、探偵のようなことをしていますが……、夜神月さんにはあるものを見てもらいます。ワタリ』

「はい」

 

(当然だが名前も知っているか……)

 

 柄にもなく緊張を表に出し喉を鳴らした月に、ワタリが三十数枚の紙の束を渡す。1枚目にデカデカと書かれている文字に目を通すと、

 

 

 

 

 

 『デスノートさえなければ強くてニューゲームなのに!』

                          

        作:世界三大探偵って実は同一人物ってマジ?

 

 

「ふざけてるのか?」

『中身はもっとふざけてますよ』

 

 月はうんざりしながらも内容を1枚、2枚とめくってすぐ背筋に悪寒が走り、ついで恐怖した。文章の中にはノートを拾った経緯が事細かに書いてあり、すわストーカーかと身構えた。

 しかし、その心理描写に至るまで、あまりにも精緻に一致していることが月を混乱させる。

 

(な、なんだこれは。まるで警察のプロファイリングでもされたかのような……)

 

「僕を監視していたのか!?」

『それは自意識過剰ですよ、全国模試1位だからって』

「ふざけるな!」

『その文章は5日前、都内のネットカフェからインターネット上の小説サイトにアップロードされたものです』

 

 あんまりな発言にさしもの月も思考が真っ白になる。

 

 ネット?……インターネット!?

 

「ネッ、イッ、イン、ネット!?ネットに!?普通に僕の名前が載ってるように見えるが!?」

「自分を主人公にした現代ダークファンタジーを他人に勝手に投稿されるとは……」

『ワタリ笑わせないでください』

 

 ワタリからは、元々この小説が外部に漏れにくいようなマイナーな小説サイトに投稿されていたことや、すでにこちらの手で削除し、サーバーの履歴をサーバーごと物理的に廃棄したことなど説明を受けたが、月も高校3年生。

 自分を主人公にした小説がネットに流されていたと言う事実から再起するにはもうしばらく必要そうであった。

 ちなみにLは世界三大探偵の正体であり、大発明家に見出された不世出の天才であり、すでにいくつもの難事件を解決している。どう設定を盛った主人公でも格不足である。

 

「嘘だ……これは罠だ……」

『なんというか面白いですね彼、顔がいいと言うだけじゃなく表情にコクがあるというか……』

 

 まあ冗談はここまでにして、と画面の向こうから爪を噛む音を聴かせながらLが話を続ける。

 ここまでも僕にとっては完全にシリアスな話だったんだが、という言葉をなんとか飲み込んで月は黙った。

 

「この小説は、なんとか私に内容が届くようにさまざまな符牒が隠されています。そこには、デスノートが存在する証拠として、『ノートのページ』を都内の役所に落とし物としてばら撒いた旨が隠されていました」

 

 ワタリがジップ付きのビニール袋に入ったデスノートのページの束を見せ、月に確認をとる。

 

「確かにデスノートのページにそっくりだが、あれはページが増えるからな、証明はできないぞ。まさか試すわけにもいかないし」

(おっと)

 

 実のところ、Lはすでに『実験』を終えているのだが、これは地雷になりそうだと感じ、この部分を避けて話を続ける。

 別に実害もない。Lの口からはスムーズに言い訳が滑り出す。

 

『まあ、例の音原田の事件で十分証拠は揃っていると感じていますし、だからこそ私の手の者に全て回収させました。そのノートが入っていた封筒には『五七川明十』と名前が書かれていました』

「だろうな。だが……『明十』?あいつは確か」

『ええ、月くんに近づくために全国模試第2位の名前を名乗っただけですね。苗字が同じなのは単に偶然なだけで』

「当然僕もそこは気づいたがそこを突いて逃げられても困るから黙っていたが……実際に苗字も同じだったのか?」

『まあ名前はいいじゃないですか。もっと重要な部分の裏を取りましょう。月くんにはこの小説の描写が実際に現実と同じだったのか確認して欲しいのです』

 

 月はゲンナリとした気持ちになった。おそらく自分がニセノートに名前を書いたこととかが書かれているのだろう。自分の恥部を客観的に確認させられるのは苦痛だ。

 数秒ほど心のなかでせめぎ合いをしていた月も、合理的必要性から観念した。しばらく、1枚、2枚と印刷したてのピンと張ったプリントをめくっている音だけが室内に響いていたが、文章が佳境に迫った時に月の手が止まった。

 

「うん……うん?」

『どうかされましたか?』

「これ、内容が全然違うぞ?」

『ああ、日付でしょうか?文章としてはともかく日付は確かに』

「いや、()()()()()()()()()()()()()

『なんですって?』

 

 ノートパソコンの電波の繋がりの向こうで、数枚の紙が擦れる音が聞こえ、

 

『具体的にどこですか』

「まず五七川の話し方がかなり違う。なんというか……もっとテンションが高かった。ちょうど2日くらい寝てない大学生みたいな感じだった。実際本人からも『つーか俺2日くらい寝てないわー』ってウザい絡みを受けたしそうなんだろう」

『まあ……それは自分を客観視できない人間ならあり得そうなことですが』

「それはともかく、特に僕の家に来てからはかなり違う。基本的にオールでゴルフゲームをやりながらアイツはリュークと僕に喋り倒してた。流石に夜の2時くらいに電池が切れたみたいに眠ってたが、客間に運んだあと布団の中でずっとうなされていたらしい」

 

 それを語る月の顔つきはわずかに悲痛に寄っている。まだ聞き出してはいないが、Lが月に確認するまでもなくここで語られた次の日に五七川が自殺しているのは間違いない。

 もちろん月も明らかにそのシグナルを受け取ってはいたのだろうが、流石に敵かどうかが確定していない状況でうまい対応ができなかったのだろう。

 その時の後悔が顔に落ちた影の暗さからありありと感じ取れ、Lは月の性格についてのプロファイリングをわずかに修正した。

  

 

「最後に、朝ごはんは数口食べてたが『習慣がない』とか言って母さんに謝っていた。家を出て行ってからは知らない。リュークも死んだことくらいしか話さなかったからな」

 

『……。………。…………。』

「どうした?」

 

 Lが黙りこくり、呼吸音と何か金属製のものがガラスと擦れるような音が響く。その期間がかなり長期間に及んだので月がしびれを切らして声をかける。

 Lは、事実を確かめるようにゆっくりと話を始めた。

 

『夜神さん。あなたも知ってのとおり、五七川さんはあまりにも多くのことを知りすぎています』

「ああ、そうだな。まず、あの場所に死神がデスノートを落としたこと、それを僕が使用し殺人すること」

『認めるんですか?』

 

 Lは意外に感じた。正直、事前に調べた限り夜神月は高すぎる正義感と自身の才に見合ったプライドを併せ持つ危うい性格で青春時代を迎えてしまっている。

 仮にも自分が殺人を起こし得たと事実を認めはしても、それを表に出すということはしないと思っていたからだ。

 

「……ああ。実際、僕は音原田の名前を書こうとしたし、シブイマルタクオの名前を書いたんだ。最初にノートをすり替えられなかったら僕は今頃どうなってたのか分からない」

 

 もしかしたら罪悪感に押しつぶされて犯罪者を片っ端から消して回ったかもしれないな、と自分を自嘲して笑う姿がカメラに映る。

 自身のあり得た姿としての五七川の末路を直視し、夜神月の青春時代は終わりを迎えていた。

 

「続きいいか?」

『どうぞ』

「そもそも音原田があそこに立て篭もることを知っていたこともあり得ない。他にも細かいところはあるがこの三つについて話したいんだろう」

『お見込みの通り。特に私が話したいのは音原田の件です。当初、私は五七川を未来人の類だと考えていました』

 

 非科学的ですが、それぐらいしか状況を証明する結果がありませんでしたから、と言ったLにすかさず月が回答する。

 

「しかしそれは五七川の行動と矛盾するじゃないか」

『ええ。矛盾というのもちょっと憚れるレベルですが、もし立てこもった音原田を殺してでも止めると言う意思があるなら、もっと上手いタイミングがありますね』

「新宿の通り魔をしていた時」

『そうです。もし五七川さんが未来人であるというなら、はっきり言ってこの6人殺傷と言う多大な犠牲を見逃す合理的説明ができないんです。本人の性格を加味するなら尚更だ』

「そこに来て小説の内容の矛盾が重なると」

『ええ。日付が正しくて内容が違うと言うことは、あの小説は月くんに出会う前、それどころかデスノートが落ちてくるよりも前に投稿されたということです』

 

 ペーパーノイズの大きさから、正直、調査が間に合ってなくてですねとLが手元の資料をしきりにめくりながら言っているのがわかる。

 

『だからもしかしたら日付の方がミスで、ノートの落ちた日付がもっと前だったというのが可能性として捨てきれなかったんです』

「だが、単なる未来人というならノートが云々ということ以上に報道されているわけでもない僕個人の行動をトレースできるのは不自然だ」

『なので、次に想定したのは視点として逆。五七川さんが『何度も同じ時間を繰り返している人間』いわゆるタイムルーパーで、夜神さんを助けることを目的としている可能性です』

「そもそもアイツと僕は知り合いじゃないぞ」

『そうでしょう。これもはっきりいって限りなく薄い線です』

「理由はさっきと同じだな。五七川が僕個人に着目する理由はない。僕がデスノートを使ったなら他人にバレるミスを犯すはずがない」

『そうまで言い切っていいかは一旦置いておきますが』

「おい」

 

 それに、タイムルーパーではない根拠はもう一つある。Lは内心でのみ言葉にした。もしも、繰り返し五七川が音原田を殺すことを行なっているのなら、ここまでの拒否反応を起こすというのは考えにくい。

 これは今まで様々な犯罪者を見てきたLの『探偵の勘』であった。

 

  

『すると彼は何者なのか?』

 

 月は、Lの問いかけを受けて口を手で覆うようにして集中する。

 

「デスノートを偶然死神が落とすことを知っていて、僕個人の行動について未来に渡って一言一句内心まで覚えているほど詳しく」

『あとLという一般に知られていない知識をそのパーソナルな部分まで知っていることも追加してください』

「それを全部満たすには……まさか……いや……」

『どんな荒唐無稽な意見でも構いません、言ってみてください』

 

 月は躊躇いつつも言葉を一文字ずつ、困惑しながら宣う。

 

「もし、もしもだ。僕がデスノートを使用して世界中の犯罪者を粛清し、世界から犯罪を無くそうとした場合、L。お前は僕を追うと思うか?」

『追うでしょうね、間違いなく。しかし、そうやって我々が未来においてやりあいをしたとして、私が勝利したのち』

「僕が勝ったらだ」

『……まあいいでしょう。知恵比べをしたとして、その結果を世間に発表しないと思います。また、捜査員の誰かが彼に転生した、となったという線も私の来歴を知っている時点でありえません。もし五七川がワタリでもない限りですが。続きを』

「おそらく、客観的にみて面白いよな。」

『……どういうことです?いやまさか……そんなことがありえるのか』

「あの時、死神はノートを落とした理由をただ『退屈だから』って言ったんだ。それに、会ってもいない時点で僕の内心を一言一句当てるにはこの可能性しかない」

 

 月が、自分の手元の”小説”を握りしめ、紙に皺を付ける。

 

 

「五七川は、夜神月を主人公とした創作物が出版された世界の人間だ」

 

 

 画面の向こうで、Lが息を呑んだ。

 

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