焼き尽くされる世界   作:流れ人

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辛口でお送りします。


瓦解(見えてきたもの)

「⋯大丈夫かよ?」

 

「⋯⋯⋯大丈夫なわけねぇだろうがよぉ」

 

此処は寂れた店。

大陸の中心であり、歪ながらもアカネイア大陸全土の中心ともいえ他アカネイアが王都パレス近くの町。

 

 

本来ならば人も賑わい、傭兵やら行商人やらが数多く見えたアカネイアの繁栄の象徴ともいえた場所。

しかし、今となっては見る影もない。

 

更に先の解放軍蜂起の際に見られた活況は何処にもなく、多くの者がいつ訪れるとも分からないドルーアの影に怯える事となった。

 

 

 

そんな中、解放軍に物資や武器を提供した商人の多くは身を持ち崩し、中には奴隷にまで落ちた者すら居るという話すら聞こえてくる。

アギードと共に寂れた店で飲んでいる商人もまた当て込んでいた筈の解放軍が崩壊した事で、その財産の殆どを失っていた。

 

 

「だから、全賭けはすんなって言ったろう?」

 

「だけどよぉ、あの時は勝てなくても此処までになるとは思わねぇだろうが」

 

 

アギードが唯一、先の解放軍の時に忠告したのがこの人物だった。彼とは腐れ縁とも言える間柄であり、お互いに情報交換などをしながら活動している。

商人間において容易く信用はともかくとして、信頼はすべきでないとの話があるが、お互い例外的な間柄となっていた。

 

 

 

 

「⋯そもそも、アンナの奴だって顔見せんかったじゃねぇか。

アイツがこの手の話を黙って見ている口かよ?」

 

「確かになぁ。

どうするかねぇ」

 

酒を口にしながら、今後の事を考える。

アギードとて、かなりの痛手を受けているのだ。他の連中よりはマシであっても、先の事を考えるならば元手はあるに越した事はない。

 

 

「お前はどうするんだよ、アギード」

 

「さてなぁ。⋯暫くアカネイアから離れるとするかねぇ

ニーナ王女が戻るとしても、それで「はい、終わり」になんざならんだろうし。

ま、かと言って他所で商売やるには少しばかり今回の戦争は長すぎるわな」

 

アギードは顔を顰めながら、酒をあおる。

 

 

 

戦争とは常に社会にとって宜しくない事を齎す。

人は死に、秩序は乱れ、荒廃した人心は容易く悲劇を生み、その負の螺旋がいつまでも続く。

 

喜ぶのは大義とやらを振り翳す上の人間だけであり、多くの民はいつとも知れぬ平穏の為に必死に足掻き続けねばならないのだ。

 

 

 

 

既に大陸各地で食糧事情の悪化の兆候が見られている。

数年にわたる、しかも大陸全土を飲み込みつつある戦火は多くの者達から日常を奪い去った。

 

アカネイアは確かに騎士団や王族が壊滅した様なものではあるが、実際には民の生活にまで影響が及んでいない。

⋯様に思っている者もそれなりにいる。

 

 

が、そうではないとアギードを始めとした一部の商人は確信していた。

作物を育てる農家、獣を狩る猟師など。

言わば生活の根底となる食料を生産、或いは確保する者達。

 

 

それらの生活や生命が脅かされつつあるのだ。

 

 

今回の場合、アカネイア貴族や騎士の縁者。亡国となったアリティアやそのアリティア攻略の際に甚大な犠牲を出す事となったグラ。

 

それらに住まう民が身を持ち崩し、一部は野盗へとなったとも噂に聞いている。

加えて、悪名高いデビルマウンテンのサムシアンやガルダの海賊。

サムシアンやガルダの海賊は凶悪無比ではあったが、それ故に彼等の縄張りでは他の山賊や海賊は下手な動きが取れなかったのも確かだった。

しかし、マルス王子率いるアリティア軍はこれらを撃破。今もなおアカネイア再興の為に兵を動かしているのだろう。

 

 

 

が、このご時世賊に身を落とす者は増えつつある。

戦により荒らされた地で、今一度農業をしようとしても月単位どころか、年単位の時を必要とする事もあるだろう。

 

農民もまた自分達の取り分と外へ売りに出す分はしっかりと分けている。

ものを育て、売りながら自分達が困窮しては本末転倒なのだから。

 

今回の戦火は多く流民を出す事となり、生きる為に奪う事を選ばねばならなくなった者もいるだろう。

事実、アカネイア領内ではあるが、アギードやその友人も憔悴しきった者や自らを奴隷として売り込もうとする者も少なからず目にしている。

勿論、下手に手を差し伸べる事は出来なかった。

 

何せ、一度でもその様な事をしたと知られれば次から次へと自分達に縋ろうとする者は必ず出て来るのだから。

 

 

 

結果として、最早後がなくなった者は獣となる以外に道は残されていない。

 

他者から奪い、貪る

 

 

そして、一度でもそうなるとマトモな精神を持つ者ほど奈落へと堕ちてゆく。

結果、食料があり且つ比較的奪いやすいところ、つまり農村などに牙を向ける。

一度でもその様な事があれば、農村側だって警戒するし、今までよりも備蓄を増やそうとするだろう。

 

 

それにより、全てが悪い方向へと向かうのだ。

マルス王子が旗揚げをしたタリスやニーナ王女らと合流したオレルアン。これらは少なからず自衛の為の戦力を有しているからこそ、この様な問題は表面化するまい。

 

 

 

が、これからもそうとは限らないだろう。

マルス王子たちアリティア軍は祖国アリティアの解放を。アカネイア側としては一刻も早く元凶たるドルーアの討伐を。

 

恐らくはそれぞれ願うだろう。ニーナ王女が未だに引きこもっているアカネイア貴族達をまとめ上げられれば、或いはどうにかなるだろう。⋯そうはならないだろうが。

 

 

 

更に付け加えるならば、仮にアカネイアを再興したとしても、その後にアリティアを解放するとなればアリティアの民の中からも不満は起きる。

聞けばマルス王子はグラ、ドルーア軍来襲に際してタリスへと逃がされたと言うではないか。

 

アリティアが解放されて暫くは問題にならないかも知れないが、その後の統治次第ではその辺りが問題視される事もあり得る。

 

 

 

確かにマルス王子らはドルーアに与しているマケドニア、グルニア軍を各地で撃退してはいるだろう。

然し、マルス王子らアリティア軍とその協力者達には戦力的な余裕はないと言って良い。

 

仮にこれから出来たとしても、だ。アカネイアを再興した時点で、ほぼ間違いなく『ニーナ王女(自分達)を護る為』などと名目を付けてアカネイアの防衛に回すだろう。

 

 

さて、マルス王子はニーナ王女を旗印としてアカネイア再興。そしてドルーア討伐という大義を掲げる訳だが、元ドルーア同盟国やドルーアの占領した地域。これを解放(再占領)せねばならなくなる訳だが、それが終わっても彼等の戦いは続く。

⋯さて、そうなった場合一部で発生する空白地帯(守護すべき者の居なくなった場所)。そこにも民は居るのだが、

 

 

いったい誰が彼等の生命と生活を守るのだろうか?

 

得てして民衆というものは自らを庇護してくれる者を欲する傾向にある。まぁ、税を納めて労役や地域によっては兵役まで課せられているのだから仕方ない部分はあろう。

だからこそ、それが果たされなかったアカネイアやアリティアの一部ではニーナ王女やマルス王子の生存の報を受けて怒りや憎悪に顔を歪める者も出て来る訳だが。

 

 

 

___

 

 

国王を始めとした国を動かす者と、それに従う騎士。そして民。

これら全てが同じ考えになる事は稀と言ってもいい。

それこそ、アンリの時代なればアカネイアやアリティアも反ドルーアで民も国も同じ向きを向いたのかも知れないが。今となっては不可能と思えてならない。

 

上にいる者の多くは下を見ないし、見ようともしない。

余裕があれば、或いはのし上がろうとする気概も生まれよう。しかしながら、それが出来る(許される)のはごく一部の者達。

 

 

民というのはほぼ土地に縛られ、親族にも縛られる。

アギードの様に成り上がろうとする商人とて、ある程度の下地。つまりは教育を受けるだけの家の太さ(・・・・)があるのも事実。

 

 

マケドニアのミシェイル王の様に国を滅ぼさない為、冷徹とも言える手段を取れる人物は大陸中を見てもいると言えぬ。

 

グラのジオル王も非情の手段を用いてグラを守ったと言えなくはないが、その守った筈の民からすら嫌悪される様ではどうにもなるまい。

グルニアはグルニアで温度差が激しく、ドルーアに与しておきながら未だに一部の者達は不満の声をあげているらしい。

 

 

 

騎士は言う

 

国の為、誇りの為に戦う。

 

 

 

が、商人は嗤う。

誇りとやらで商売など出来ぬ、と。

 

 

農民や猟師は首を捻ろう。

それ(誇りとやら)で飯を食えぬ、と。

 

 

商人は物資(もの)を売り買いして生活の糧とする。

農民や猟師は作物や獲物を育て、或いは狩り生活の糧となる。

 

では、騎士や貴族とは誰が為に何をして糧を得るのか?

 

 

 

 

 

平和なればこそ、誰もが直視しなかった問題(現実)

それと向き合う時は迫っていた。

 

 

 




原作キャラは次回くらいから本格的に出す予定です。
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