焼き尽くされる世界 作:流れ人
マルス王子率いるアリティア軍はレフカンディでの激戦を制し、今またディール要塞を陥落せしめた。
ディールの地でマルス王子はマケドニアの王女ミネルバとその配下の騎士パオラとカチュア。更にディール要塞に囚われていたミネルバの妹でマケドニアの王女でもあるマリアを救い出す。
それは一枚岩と思われていたドルーア同盟国マケドニアを崩すに足るものでもあり、ニーナ王女を支えんとするオレルアンの騎士ハーディンにとって喜ばしいものとも言えた。
が、そうと考えるのを早計と見る者もまたアリティア軍にいたのである。
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「⋯良いのかしら。話によるとオレルアンで降ったマチスやレナもマケドニアの人間と聞くけど」
アカネイアへと向かうマルス王子率いるアリティア軍。
その中にその人物の姿があった。
行商人アンナ。
彼女はオレルアン解放後にマルス王子と接触、今はアリティア軍の一員として戦い。それと各地の商人達と交渉しているのがアンナだった。
マルス王子は確かにニーナ王女の信頼を得て、アカネイア再興の為に戦っている。
が、商人とはそれだけで動く訳でもない。
アカネイアにおける解放軍の様に、協力したにも関わらずあっさりと消滅したのでは困る。
王族や貴族、騎士に独特の価値観がある様に商人にもそれはあるのだから。
彼女としても、アリティア軍の勝利とニーナ王女によるアカネイア再興は望むべきものではあろう。
しかし、今マルス王子率いるアリティア軍にもニーナ王女の側にさえもアカネイアの有力者は勿論、騎士すらいない。
現在ニーナ王女を旗印としているマルス王子のアリティア軍はドルーアやその同盟国であるマケドニア、グルニアと直接剣を交えている。
それは、先にアカネイアで起きた解放軍とて承知しているだろう。解放軍自体は壊滅したと聞くが、今も積極的に動かずともアカネイアを取り戻せばニーナ王女に従う者も出て来る。
どこまでいってもマルス王子はアリティアの王族であり、現在のところ唯一無二の存在なのだ。
加えてタリスのシーダ王女との関係があるとなれば、ニーナ王女の王配としてアカネイアに関わるのは無理。
アカネイアはニーナ王女を中心として再建しなければならない。言うまでもなく、ニーナ王女だけで成し得る話ではなく、多くの者達の協力があって漸く出来るだろう。
そこで問題となるのが、
マケドニアという国家自体が反ドルーア、アカネイアに味方するのであればアカネイア側も受け入れよう。
が、あくまでも個人が恭順したに過ぎないのだ。しかも、マケドニア王家の一員と、
「⋯どう考えても訳ありよね」
アンナは頭を抱えてぼやく。
アンナより早くにアリティア軍に協力しているシスターレナ。そしてそのレナが兄と言うマチス。
マチスはマケドニアの騎士であり、その妹レナはシスターなのだ。
シスターとは村娘が容易になれる
教会が才ある貴族子女や王女などに癒しの杖の使い方を教え、認められる。
ノウハウはあったとしても、余程の事でもない限り教会を介せずシスターとなるのは問題を残す事に繋がる。
つまり、マチスとレナもまたマケドニアの有力者の縁者。⋯しかも髪の色を考えるに王家と薄いながらも縁のある可能性すら考えられた。
マケドニアを分断する。という意味でならばミネルバ王女達を受け入れるのはアンナにも理解出来る。
が、仮にこのままアカネイアを再興し、アリティアを解放し、ドルーアを倒せたとしてもマケドニアの扱いで揉めるのは目に見えている事ではないだろうか?
無論、今戦力不足である事は否めない。
しかし、アンナの期待されている各地での商人との取り引き。とりわけパレス付近でのそれに悪影響を及ぼしかねないのも、また事実。
特にアカネイアを再興するとなれば、武器や防具に薬や食糧に至るまで相当な量のものになる。
アカネイアが
(マルス王子が悪い人物でないのは分かるんだけど、ね)
それはマルス王子に直接会わねば分からぬ事。
マケドニアはアカネイアの体制に対して反逆した様なもの。それが今一度アリティア軍に加わり、そして今度は祖国に槍を向ける。
となれば、どう見られたものかあまり想像したくもないのが本音。
マケドニアを取り潰せばアカネイアの溜飲は下がるだろうが、旧マケドニアの民の反発は避けられず、マケドニアを残したとしてもミシェイル王の生命は奪わねば収まることはない。
そうなれば、君主であり兄であるミシェイル王を裏切ったミネルバ王女への反発は激しいものとなるだろう。勿論、彼女の騎士への悪感情はとどまるところを知らない事にも。
しかし、
(終わらない、でしょうね)
戦争とはそういうものなのだろう。アンナは憂鬱な気持ちになる。
つい数年前のドルーア帝国によるアカネイア侵攻。それまで長い事大陸は良くも悪くも平和を享受してきた。
腐れ縁でもあるアギードは何故か勇者アンリの時代の事に詳しく、ひとたび戦争が起きれば面倒な事になるのではないか?と酒に酔っている時、口にしていた。
当時は笑い話にしか思わなかったが、こうしていざ戦乱の真っ只中にいると彼の口癖を嫌でも思い出してしまう。
「戦争をおっ始めるのは簡単だが、それを終わらせるのは至難の業。
それこそ敵を根絶やしにでもしなけりゃ終わらんとなると地獄になるんだがねぇ」
今回のは規模が規模だ。
この大乱の影響を全く受けてない者は大陸の中にいるだろうか?
と真剣に考える程のものとなりつつある。
強いて言えばタリス王国くらいだろうが、それもドルーアが本腰を入れれば容易に覆る程度の安全しかないだろう。
「
アンナはそう呟くと、取り敢えず自分のすべき事をしなければ。そう思い直す。
(アギードも居れば良いんだけどね)
腐れ縁で偏屈な人物ではあるが、こと自分を守る事に関してと状況を見る能力は信用に足る。
弁も立つし、妥協する事も出来る。
アンナの足取りは決して軽くなかった。
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マルス達がパレスに最も近い街を訪れた時、その余りの空気に慄然とした。
「⋯これがアカネイア随一の街、なのか」
誰かがそう思わず零してしまう程に、活気どころか廃村と言われても可笑しくない静寂が支配していた。
まぁ無理もない話ではある。
何せ解放軍がこの街にて物資を調達し、パレス奪還を目論んでいたのは紛れもない事実。
加えて、数人ほどだが解放軍の残兵もこの街に逃げ込み、その上アリティア軍が補給するとなれば此処以外考え難い。
故に街の住民は
更に解放軍の蜂起による問題が未だに尾を引いていた。⋯⋯物資の不足、である。
アカネイアが事実上滅んで数年。
経済活動も治安の悪化から低調となり、『金はあれども、買う物が不足している』という状態が旧アリティアやアカネイアを始めとしたドルーアとその同盟国において蔓延している。
1年ならば、何とかなった。
が、賊の増加などもあり生産業は例年通りの結果を出せるはずもない。そんな中での解放軍の決起は、アカネイア貴族や騎士のみならず商人達にとっても己の人生を左右しかねない大博打。
それが失敗した以上、流通を担うべき行商人や身代の小さな商人の多くは経済活動が出来なくなってしまった。
結果、アカネイアの中心とも言えるこの街も寂れてしまい、住民も余裕あろう筈もない。
マルス王子達はいざ知らず、ニーナ王女やそれに従おうと集まりつつあるアカネイア騎士や貴族など
故に住民達は情報こそ提供すれども、直接的な支援は誰も行わず、武器屋も武器の在庫がないとの事から、店自体を閉めていたのである。
それはある意味仕方のない事であり、変な客が来てゴネられでもしたら面倒にしかならないだろう。
⋯その結果、街の住民は非協力的に見えたとしても。
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マルス王子等の奮戦により、アカネイア王国の象徴にして中心たるパレスは解放された。
パレスに駐留していたドルーア軍も撃退出来た事により、アカネイア各地に散っていたアカネイア貴族やそれに連なる騎士も挙ってニーナ王女の元へ馳せ参じる。
アカネイア王国の再興、ともなれば必要なものは幾らでも存在した。
貴族達としては、マルス王子がパレス奪還の際に宝箱から入手下宝物。その全てをアカネイアへ引き渡して欲しかったが、
しかし、騎士団は早急に再建せねばならない。
そこで、ニーナ王女に対して彼等は上奏する事となる。
民からの徴収を
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前述した通り、アカネイアの民の多くは余裕のない生活を強いられていた。
何せものの不足は大陸全土に拡がりつつあったのだから。
となれば、民の多くは必死になって明日を生きる為に節約をし、捨てたくない大切なものすら手放す事になる。
その様な状況において、アカネイア再建の為の徴税の話が舞い込む事となる。
マルスやハーディンとしても良くない状況になりつつあるのは理解していた。が、軍を動かすとなれば糧食は必須であり、武器や道具の充実は大前提となる。
オレルアン公弟であるハーディンは即座に兄であるオレルアン公へ支援を要請したが、内心それが通るとは思っていなかった。
マルス王子率いるアリティア軍は現在のところ、確固たる根拠地を持たない流浪の軍。
それ故にアンナが窓口となって、各地の商人達との取引をせねばならない。
パレス付近での戦闘やパレス奪還における戦闘でかなり武器を消耗しており、その補給もせねばならなかった。
それにマルスにとっては、寧ろこれからのアリティア解放こそが真の願い。
アンナが当てにしていた商人達との連絡も取れず、補給に問題をきたしているマルスだ。アカネイアにおける徴収に異議を唱えようとも、それがなければ目下動く事も叶わない。
その為、それを止める事が出来なかったのだ。
戦火は全てを焼き尽くす。
それでも彼等は突き進むのだろうか?
マルス達に出来る限りスポットライトを当てない様に頑張る次第(臍曲がり)
その代わりアンナには苦労してもらいましょう。