焼き尽くされる世界   作:流れ人

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入院したので初投稿です。


剥離(すれ違う者達)

ニーナにとって、アカネイア貴族とは信用ならない者の集まりであった。

 

苦しい時手を差し伸べたのはグルニアの騎士であり、オレルアン公など。

マルス王子達がパレスを解放した後、彼等は自分の元に集ってきたが、ニーナの心にさざ波ひとつ立つ事はなかった。

 

 

今更、何を

 

そう思わず口から出てしまいそうになった程である。

 

 

寧ろパレスに囚われたままの騎士やボア司祭の方が彼女からすれば信用出来る様に見えていた始末。

 

が、彼女の思いとは裏腹にパレスに捕らえられていたミディア、トムス、ミシェラン。そしてボア司祭に対する貴族達や騎士達の評価は驚く程低い。それがまた彼女にとって理解し難く、不愉快なものであった。

 

 

とは言え、ドルーアを倒さない限りこの大陸に平和は訪れないのは彼女とて身に沁みて理解している。

その為、貴族から上奏された『アカネイア騎士団再建の為の徴収』は必要であるとして、彼女も是とした。

 

また、ミディアもボアもそれに異を唱える事はなく、速やかにそれは行なわれる事となる。

 

 

 

⋯それが何を齎すのか理解する事なく。

 

 

 

___

 

 

 

 

「はぁ!?何よ、それ」

 

「⋯⋯お前が知らんのかい」

 

旧知の間柄であるアギードと漸く再会できたアンナだったが、彼の口から出た言葉に思わず語気を荒げる。

 

 

物資の不足による協力の拒否。

それがアギードの口から出たアカネイアの商人達の応えだったのだから。

 

「先だっての解放軍の件で元々物資不足だったのが更に悪化。更にこの戦乱の中で強かにやっていた商人の多くは解放軍に全賭けした結果、身を持ち崩した。

⋯そいつ等は曲がりなりにも、物流の一端を担っていたのだけどよ。⋯残った俺を含めた連中も少なからず物資や資金を提供したから、その穴埋めに忙しくしてる。

残念な事だが、マルス王子やニーナ王女に出せるだけの食糧や武器を買い込む事は出来てない状況だ」

 

「⋯⋯やっぱり足りてない、のよね?」

 

アギードの言葉にアンナも表情を曇らせる。

薄々分かっていた事だ。比較的戦乱の影響の少なかったガルダですら猟師をやっていたカシムの家族の生活が苦しかったのだから。

 

そして、マルス王子は戦火の真っ只中へと進撃し、アカネイアを取り戻した。

数年もの間、治安維持も経済活動も儘ならなくなってしまったアカネイア(荒廃した地)

 

 

彼女は朧気ながらに理解していた。

山賊や盗賊とて考えなしではない。彼等なりの理屈があって行動している。

 

事実、オレルアン以降アリティア軍に加わった彼女は何度も見た。戦場で村を襲おうとする者や、宝を持ち去ろうとした者の存在を。

 

 

彼等は自分達よりも強いものに襲い掛かる事は余程の事情でもない限り避ける。

デビルマウンテンで悪名高いサムシアンとマルス王子達が交戦したのも、状況もあっただろうがサムシアンの縄張りに入った事も大きな理由だと考えている。

 

 

村には自衛の為の戦力などあろう筈もなく、賊が襲い掛かればそれで村としての機能は失われる事が多い。

それが繰り返されればヒトは失われ、生産能力自体も減少する。

マルス王子の最終的目標はアリティア解放とドルーア討伐なのだろうが、王子に資金や物資を出している村の者からすれば、極端な話、それはどうでも良いのだ

 

 

民の多くは平穏な日々こそ希求するものであり、山賊や害獣被害などが無ければ国がどうなったとしても生きて行ける。

その為、多くの村などでは資金や物資を差し出す事で起きうるトラブルを避けようとするのだ。

言葉を飾らずに言えば、厄介払いの為の対価と言ってもさして間違いではない。

 

 

であるが故に、時に呪いの装備(デビルアクス)を差し出したりもする。

使えないとしても、決して無料(ただ)で取り引きされるものではないし、売る手段がないとも思えない。

 

 

 

___

 

 

 

「ニーナ王女がどうだ、マルス王子がどうだ。

そんな事(・・・・)を気にする事の出来る連中の殆どには分からんさ。

今まさに足元が崩れ落ちているってのに、ドルーア討伐?

出来るとは思えんのだがな」

 

「でも、しないといつまでも終わらないでしょう?」

 

アギードの言葉にアンナは怪訝な表情のまま応じる。

 

「仮にドルーア討伐を優先するなら、民の生活や生命は犠牲となる。⋯勿論根本的な原因の除かないといけない。そう考えるのは間違ってはいないだろうが、如何せん順番がな」

 

 

アギードが思うに、ニーナ王女やマルス王子達が広く大衆の支持を得るには現在の様にドルーアやその同盟国軍を倒すだけでは難しい。

ドルーアはある意味、力即ち単純な武力或いは暴力によりアカネイアを中心とした体制を打倒した。

であるならば、如何にニーナ王女やマルス王子らがすべき事は荒廃した旧アカネイアや旧アリティアなどを再建し、その実績を以て広く民の支持を集める事ではないだろうか?

 

少なくとも、ドルーアの同盟国であるグルニアは根強いドルーアへの不信があるだろうし、マケドニアとてやり方次第では矛を納める事も出来ないのではないか?

 

 

何せ、現在マルス王子率いるアリティア軍は破竹の勢いでドルーアや同盟国の軍勢を打ち破ってはいる。

が、アギードの知る限りアカネイア国内においてニーナ王女やマルス王子らに対する民の期待は然程高くない。

 

寧ろ、マルス王子はいざ知らず、ニーナ王女については

 

 

「今更なんだよ」

 

と諦観と押し隠した憎悪と嫌悪の感情が見え隠れしていた。

 

 

彼が訪れるのは食糧の調達の関係上、農村になる。故に今のアカネイアに治安などというものは無いに等しい事を身に沁みて理解していました。ものの売買、しかも直接命に関わる食糧の買い付けともなれば、村人達との関係を悪化させる訳にはいかない。

その結果、彼等の本音を聞く或いは感じる事を避けられなかったのである。

 

 

 

 

だからこそ、彼等の悲嘆と心の奥にしまわれている隠しきれない負の感情。その根深さを理解せねばならなかった。

 

 

「⋯なぁ、アンナよぉ。お前が王子に意見出来るなら言った方が良い。

失われた信用を取り戻すのは容易じゃねぇ。⋯今回の戦争を終わらせられたとしても、よほど上手くやらねぇなら『次』があれば、王子もアリティアも再建不可能になるやも知れねぇ」

 

「⋯そこまで、なの?」

 

普段斜に構えているアギードの真剣な表情と言葉にアンナも漸く事態の深刻さを理解し、思わず息をのんだ。

 

 

「なまじマルス王子の母親や姉君がアリティアに残ったからな。幾ら強引にタリスへ逃されたとしても、その周囲を守る騎士まで連れて行ったとなりゃあ、な」

 

 

___

 

 

人間とは理不尽な思考をするものだ。

己がされた事は過大に、されどした事は過小に受け取る。

 

 

だからこそ、数年もの間アリティア(守るべき国)を見捨て、あろう事かアリティアの解放よりもアカネイア(他国)の再興を優先したマルス王子とその騎士(逃げ出した者)達。

一度でも許し難いのに、二度もあれば

 

 

アリティアの民はマルス達を許さない

 

 

そうなる可能性は決して少なくないのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時代という激流に抗うもの。

明日を生きる為に外道に落ちるもの。

明日を守る為に感情を押し殺すもの。

 

 

全て

 

全てが絡み合い、捻じれ、喰らい合う。

 

 

 

 

行き着く果てに何が待つのか?

 

 




本作においてはかなり独特な(ひねくれた)解釈や設定などが多々含まれます。
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