愛しているからこそ、私は―――― 作:スティル……好きだ
だからこそ、この内から聞こえる声にもきっと意味があるのだと私は信じる。
息が止まるようだった。
いや、実際止まっていたと思う。
まさか、もう現れるはずのないあの怪物が出てくるとは思わなかった。
──思いたくなかったと言われればその通りである。
血は繋がらずとも、彼女は私の大事な娘なのだから。
ただ、こうも現れてしまった以上もう隠し通す事はもうできない。
だから、ちゃんと隠さず話すと私は決めた。
「……ジューダ。放課後で話がある、ルーラーシップ。お前もだ、いいな?」
私が彼女にそう言うと、あまり状況を呑み込めていないのか困惑した表情だった。
無理もない、いきなり超一線級の速さで身体を動かされた様なモノに等しい事をさせられたのだから身体も思考も纏まらないのは仕方のない事とも言えよう。
「は、はい……分かり、ました」
ジューダは半分生返事で了承した。
「まぁそーなるよねぇ……はーい」
対してルーラーシップは当事者であるのが分かっていたから心底面億劫だと感じているのが顔に出ている。
全く……本気を出せばあんなにも強いというのにどうして手を抜こうとするのかが分からん。
さて、とりあえずこの後は……嗚呼、そうだった。
この案件を上に相談しないといけないのだった────
他の生徒らのケアをしなくてはいけない事や、今後の事であのたづなさんに説明しなくてはいけない事を思い出して内心頭を抱えるアドマイヤグルーヴであった。
私がレース中に意識を失って、気が付いたらルーちゃんに膝枕されたりとハチャメチャな事になった模擬レースだったけど、幸い私が走ったレースが最後の組だったおかげで大きく影響が出ることはなかったみたい。
ただ……
「大丈夫かな……またおかしくなったりしないよね……?」
「まぁまぁ……トレセン学園なら日常茶飯事だろうし、気にしない方が楽だよー?」
「そういう問題かな……」
「いやほら、全身が発光するトレーナーとか、鉄球圧縮できるトレーナーとかいるんだし、急に性格変わるのは可愛いもんよ?」
どうやらあの取引に乗ってしまった直後にあの謎の声の正体が何かしでかしてくれたみたいで、周りから目線が刺さる。
どうしてこんな事にと現実逃避するように私はルーちゃんの膝枕を堪能することにした、あー柔らかくてもちもちだぁ……
「もうすこし、もちもちしてていーい? ルーちゃん」
「……少しだけだからな」
その後、流石に恥ずかしくなったルーラーシップに止められたジューダであった。
時間が経って放課後。
お義母さんに呼び出された私とルーちゃんは指定された場所に向かったのだけれど……
「ねぇ、ルーちゃん。ここってさ……」
「うん……生徒会室、だね。尋問でもされちゃうのかな……?」
そう、お義母さんが指定したのはなんと生徒会室。
普通に職員室とか保健室とかあったと思うのは私だけなのかなと二人で入り口前で訝しんでいると、背後から肩を叩かれて咄嗟に振り返った。
「やぁ。こんなところでどうしたんだい? 生徒会に何か用事かい?」
そう言ったのは今代の生徒会長であり、シンボリルドルフ以来の無敗でクラシック三冠を成し遂げた行ける伝説にして英雄『ディープインパクト』だった。
「せ、せせ生徒会長!? ああと私たちはおかあさ、アドマイヤグルーヴ教官から放課後にここで待つようにと言われまして……」
「そうそう。何となく理由は分かるけどあんまりに覚悟決めた目で言われたから仕方なくな」
私たちが生徒会長にそう言うと、何やら納得した表情で「────そういうことか」と一言呟いた。
「オーケー。事情は理解したよ、ジューダ君、ルーラーシップ君。教官が来るまで立ちっぱなしというのは疲れるだろうし、入りたまえ。せっかくだからお茶でも飲みながら待つと良い」
生徒会長は明るい表情で手招きして私たちを中へ案内した。
生徒会室に入ると内装はなかなか豪華なソファーや、執務机などが設置している。
私とルーちゃんは緊張は抜けないもののゆっくりソファーに腰かけて待つことにした。
「そんな固くならなくて良いよ、温かい紅茶を飲んでリラックスしてね~」
生徒会長は流れるようにカップに紅茶を注ぎ、私たちの前に差し出してくれた。
なんというか、すごく様になっててカッコいいなぁと思ったのはここだけの話である。
目の前に出されたカップを手に取り口元に持っていき傾ける。
「……美味しい!」
「そうなのか? じゃあ、私も……ウマッ!?」
私の横でルーちゃんがめちゃうめぇ! とびっくりしながらグビグビ紅茶をのんでいます。
そんなはしたない飲み方しなくて紅茶は逃げませんよ?
「ふふっ、気に入っていただけて何よりだよ。それはそうと、待ち人が来たみたいだね」
生徒会長はそう言いながら生徒会室の扉を開けるとお義母さんことアドマイヤグルーヴ教官が来ていた。
恐らく仕事を最速で片付けたのか額には汗が垂れていた。
「待たせたな、ジューダ、そしてルーラーシップ。ディープもありがとう」
「いえいえ、これくらいお手のものですよ、先輩」
へえーお義母さんって生徒会長の先輩だったんだ……と感慨に耽っているとお義母さんは表情を引き締めて話し出した。
「さて。前置きはそれぐらいにして……今回君たちを呼んだのは他でもない
それを聞いて、傍にいたルーちゃんの顔が強張ったのを感じた。
「……! だろうなぁとは思ったぜ。んで何があってジューちゃんは
何時になく真剣な眼でルーちゃんはお義母さんを鋭い眼つきで問いただしてた。
ホントに何があったのあの後……
「……そうだな、ルーラーシップ。君はアレと対峙していたがアレにいったい何を感じた?」
「……私から見て、アレは怪物なんて生易しいもんじゃないと肌で、直感で骨身の髄にまで感じたよ。アレ自身は自らの事を
気味が悪いし、どう考えても普段のジューダが出せる速さを凌駕していたともルーちゃんは語る。
「なるほどな……どこから話したものか。先ず、君が対峙した化け物の様な何かについてだが……端的に言えば私が現役時代にトリプルティアラを勝ち取ったあるウマ娘が抱えていた怪物だ」
その言葉を聞いた時、何時も脳裏に響いていた声が今までで一番はっきり聞こえた。
過去へと戻り、その運命を捻ジ曲げロ
その言葉がこのタイミングで、それが聞こえるのは今日の出来事と何か関連していることは間違いないんだろうけど……
「そして、その怪物がどういう事かジューダ。お前の身体を一時的に乗っ取ってしまったという訳だ。あの時何か感じたり声を聴いたりしなかったか?」
お義母さんは酷く心配した声で私にそう言った。
とは言っても何か感じたりなんて────
────あ。
その刹那、私の脳裏にあの意識を失う瞬間の記憶がスパークするように蘇った。
「──スティル……イン、ラブ」
無意識のうちに放った言葉。
しかし、お義母さんはその単語を聞いて僅かに顔を引きつるような、まさかといった表情をしていた。
「そうだ思い出した……! 私、あの時レースをしている時に誰かの声が聞こえて、それで気が付いたら意識を失ってて。でも……知らないはずのその声が何処か懐かしいと感じました」
その時のお義母さんは信じられないといった表情を見せた後、何故か優しそうな顔をしていた。
「……教官?」
「──ああ、大丈夫だぞ、ジューダ。そうか……今から言う事はかなりショックな事になるから覚悟して聞いてほしい。ジューダ、あの時君を乗っ取った怪物の名は『内なる紅』と言うらしい。どういったモノについてかは、さっきルーラーシップが言っていた事と軒並み一致しているからこれは省かせてもらう」
お義母さんはとても苦しそうに、でも言わなくてはいけないと覚悟していると目でも伝わってくる貌で続けた。
「そして、次は……お前の母についてだ」
────え?
私のホントのお母さん?
なんでこんな時に? と私は頭では理解できななかったが直感めいた本能がその次の句を予想できてしまった。
「お前の母の名は、スティルインラブ。現役時代、私の目の前で史上二人目のトリプルティアラを成し遂げたウマ娘。……そして、ある日、当時まだ赤ちゃんだったお前を彼女は私に託し、亡くなった」
「────」
「まじか……」
私が絶句している横でルーちゃんも思わず言葉が漏れていた。
まさか私があのトリプルティアラのウマ娘の娘だとは夢にも思わなかった。でも、この話の流れ的に厄介ごともセットなんだろうな……
「……恐らく、今回起きたのはジューダの中に眠っていた内なる紅が目を覚ましてしまったのが原因だ。ずっと隠していて、本当に済まなかった……」
お義母さんは静かに、静かに私とルーちゃんに深々と頭を下げた。
私は静かにスッと立ち、お義母さんの傍に近づく。
「……そうだったんだね。お義母さん、ホントのお母さんとライバルだったんだね……」
私の言葉にビクビクと震えているお義母さんをそっと抱きしめて言った。
「ありがとう、私を愛してくれて、育ててくれて」
わたしは静かに涙を流すお義母さんを抱きしめた。
またまた気が付いたら伸びていて仰天している投稿主です。
今回もご視聴ありがとうございます。
通りすがる傭兵さん、高評価ありがとうございます!!
そしてハーメルンにもスティルインラブのssが増えてきて大変うれしく思います。
スティルインラブは、いいぞ。