愛しているからこそ、私は―――― 作:スティル……好きだ
けれど、あの子から流れてきた情報で最愛の彼はもう。
この世に居ないと知ってしまった。
なら、何度でも……その紅い紅い糸を手繰り寄せるだけ。
そう決めた。
私はお義母さんが泣き止むのを待ってから、それから多くの事を聞いた。
私の母親であるスティルインラブがどういう人物であったか。そしてその彼女が一時期、姿を消したこと。
急に呼びつけて私を託し、数か月後に病気で亡くなったこと。
どうやら私の本当の父親は想像できていたけど、当時スティルインラブを担当していたトレーナーだったそうだ。
スティルインラブは彼と相思相愛だった、狂おしいほどに。
自らが破滅に向かうと分かったうえで、彼女たちは愛し合った。
だから私が生まれた。
だが、トレーナー、ひいては人間である彼にはその最愛の彼女からの寵愛が身体を蝕んでいき、その咎を受け入れ、命が尽きたと。
嗚呼、なんて甘く甘美で────罪深い。
二人は二人なりに納得して、その末路を選んだんだと思う。
「……なるほどな」
その話を横で聞いていたルーちゃんは心底腹立たしいと眉間に皺を寄せていた。
「確かにトレーナーと相思相愛ってのはいいものさ。わたしだって憧れるしそういう人に出会いたいさ。────でもさ。破滅までしてするのは歪んだ呪いと何も変わんねぇよ、あまつさえ娘にまで後始末させてるなら尚の事だ」
ルーちゃんは私を見つめながら、憤りを隠せずに言う。そんなのは間違っているとその新緑の瞳が語る。
私は物心ついた時からお義母さんがおかあさんだったから気にしてなかったけど、真っ当に母親がいるとそういう反応になるんだな~と呑気に考えていた。
すると、瞼を赤く腫らしたお義母さんが言う。
「……それで、お前はどう思った? ジューダ。ここまでを踏まえて何か感じたりしたか? 感想でもいいし、感覚でもいい」
お義母さんはなんとも抽象的な回答を求めてきたが正直あまり言葉にするのは苦手なんだけどなぁ。
「うーん……そうだなぁ……強いて言うなら……もっと欲張ってもよかったんじゃないかなって。せっかく愛し合ったなら、もっと永く生きたいと欲張ればいいのにって」
「もっと欲張る……ははっ、────確かに、彼女らはもっと一緒に長生きして幸せになりたいぐらいは、願ってもバチは当たらんだろうな……」
私のそんな回答にお義母さんは呆れながら笑ってくれた。
よかった、笑ってくれて。
チクリ、と僅かに感じる本当の母親への寂しさは胸にしまい、私も笑った。
────随分と楽観的なのね? ワタシの娘?
「────え」
声が、聞こえる。
あの時と同じ、けれども名を知ったからこそ明瞭に、より鮮明にその声が聞こえる。
「……どうした? そんなおっかなびっくりな声を出し──!?」
ルーちゃんが不思議そうに顔を覗き込んだ瞬間、私の身体が、自らの意志ではない意志で動いた。
それはつまり、身体の支配権がまた乗っ取られているという事。
「あら────また会ったわね? さっきぶりかしら。ルーラーシップさん、だったかしら。ウフフッ♪」
普段のジューダとは明らかに違うトーン、話し方にルーラーシップらは本能で理解した。
今話しているのはジューダではなく、蘇った内なる紅であると。
「お前は──! とっととジューダを開放しろ。さもなくば……」
ルーラーシップが詰め寄ると、紅は彼女を嘲った。
「あら怖い怖い。そんな殺気だった目をされては恐ろしいわよ? ……そして、久しぶり──というべきかしら? アドマイヤグルーヴ。まさか貴女が誰かを教える仕事についているとは想像が付かなかったけど」
内なる紅はかつての記憶とは容姿が変わっているそのウマ娘に久しぶりと軽い気持ちで呼びかけた。
ちょっと!身体を返して!!
(待ちなさい、ちょっと話したい事があるから。それまで我慢して頂戴?じゃないと喰らうワヨ?)
……わかった。
コイツ……本当にアイツの、スティルの別人格が本当に蘇ったとでも言うのか? だが……あの頃と比べて何か様子が変だ。
訝しんだ私は少々危ない賭けに出ることにした。
「……私の娘に何をした? 回答次第では──」
怪物の胸倉を掴み、分かりやすく耳を絞り言うと、怪物は面食らった後に深く溜息をついた。
「……分かったわよ、説明するから離れて頂戴? 暑苦しいわ」
「私の娘にちょっかいかけたんだから暑苦しくもなろう?」
「そういうところ、貴女の師匠に似てきたんじゃない? ……それで、どうして私がこうして喋れているのかを知りたいのよね?」
渋々と言った表情でアドマイヤグルーヴはワタシを胸倉を掴んでいた手を離した。
……母は強し、というべきかしら。
「……まずワタシがなぜこうして娘のジューダの身体にいるかについてだけれど、端的に言えば私はあの子が亡くなったと同時に眠りについたはずだった。ただ、気が付いたらこの子の深層意識で再び目を覚ましたってワケよ。」
沈黙が辺りを支配していた時、それまで静観していた生徒会長、ディープインパクトが口を開いた。
「君があのスティルインラブの別人格かい?私はディープインパクト。以後お見知りおきを。……一つ聞きたいんだけど。君はもし、彼女にもし再び会えたらどうしたい?」
英雄が問うと怪物は思案し、こう答えた。
「当然、もうあんな末路にはさせないわ。――――だって、最愛の彼と会えなくなるのはワタシは嫌だし、彼女たちの終わりはワタシは認めない。じゃないと最後の一滴まで啜れないもの……♪」
そう語る彼女は赤く、紅く輝く瞳を涙で濡らしていた。
気が付いたらまたまた評価を頂いてとても狂気乱舞している投稿主です。
あまりにも刺さりまくった結果、遂にスティルインラブを星五に完凸しました。
スティル……好きだ……
十津川鳥さん、高評価ありがとうございます!!!
スティルインラブはいいぞ。
幸せをくれる。